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フィリアの話
022.フィリアの婚約破棄-02ダンの独り言
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ダンは思った。
何故だ?何でこうなった。
大体、フィリアはあんな傷痕のある顔で普通に結婚など出来ると本気で思っているのか?
そりゃあ、あの傷を髪で隠しているぶんには、美しいし可愛いとは…思うが…。
僕は、キズ一つなくシミひとつない美しく可愛いフィリアが好きだった。
黒く真っ直ぐな髪はサラサラで瞳は黒曜石のように美しい。
肌はまるで陶器のようにすべらかで、その上、所作までもが美しく上品だった。
伯爵令嬢どころか皇族の姫君だといっても通用するだろう。
まだ子供の彼女だが、彼女の美しさは『ジャニカの黒曜石』だとか『皇国の天使』だなどと噂されていたほどである。
そんな彼女が好きだったのだ。
幼馴染というだけでも自慢で憧れだった。
婚約予定の兄が羨ましくて羨ましくて仕方がなかった。
兄にフィリアが好きな事を告げた。
そして兄よりも自分との方がフィリアも気軽に話せるとも…。
兄はフィリアがいつも兄に遠慮がちな事を気にしているようだったから、そこをついてみた。
我ながらいいつっこみどころだと考えたのだ。
ダメもとで言ってみただけだったが兄は言ったのだ。
「フィリアも…フィリアが望むなら…いい…よ」
何と!フィリアとの婚約を代わってくれると兄は言ったのだ。
言った傍から兄リハルトは後悔するような顔をしたが、そんな事は知ったこっちゃない。
言質はとった!
「兄上!約束ですよ!では、婚約式の前に必ずその事をフィリアに伝えて下さいよ!そしてフィリアが了承したなら婚約式は僕が兄上と代わって受けますからね!」とたたみこんだ。
「あ、ああ…」と、兄は何だか頼りない返事をしたが一度言葉にしたのだ。
生真面目な兄は約束を違えたりはしないだろうと思った。
だが、真面目で嘘の嫌いな筈の兄が何故か、中々フィリアに婚約を僕との交代する話を言いださずとうとう婚約式の直前になった。
婚約式の前日、僕は兄に詰め寄り言った。
「兄上は僕をだましたのですか?婚約を代わってくれると言ったはずです!いつフィリアに言うのですか!婚約式はもう明日なのですよ!それに兄上となんてフィリアはいつも全然、楽しそうにもしてないし僕と婚約した方が断然いい筈です!」
兄は、何か苦し気な表情で僕をみて、小さなため息をついて言った。
「っ!…わかった。明日…婚約式の前に…話そう」
一体何だっていうのだ。
兄上から言いだした事なのに何故か歯切れが悪い。
今さらフィリアの事が惜しくなったとか?
あり得ると僕は内心、喜んだ。
今さら遅いよ。
フィリアは僕のだ!
綺麗で可愛い自慢の伯爵令嬢。
兄上がフィリアに話しさえすれば、婚約者はこの僕になる筈だ!フィリアだって同い年の僕の方が話しやすい筈だ。
実際、兄上と話している時はいつも緊張しているように見えたし…。
それに両親たちはフィリアの相手が兄でも僕でも別に構いはしないだろう。
互いの家の繋がりが守れて僕達が納得するのなら何の文句もない筈だ。
そう、むしろ祝福してくれる筈なのだ。
ようやく僕にもよい運がめぐってきたと思った。
そう、その時はまだ、そう思っていたのだ!
そして、婚約式直前、僕は二人が話しているのを陰から見ていた。
婚約式の行われる教会の裏手の森から教会内の裏手の敷地内が隠れながらにもよく見渡せたのだ。
魔物の森とか言われていたが、早々、魔物など出たりはしないだろうとタカをくくっていた。
森の木陰から二人の様子を窺っていたその時だった。
あの魔物に襲われたのは!
本当に運が悪かった。
あの時、フィリアが助けに来なくても良かったのにと今も思う。
全くもって余計な事をしてくれた。
大人に任せておけばよかったのだ!
勝手に助けにきて勝手に怪我をして…せっかくの綺麗な顔が台無しになった。
あんなフィリアが欲しかった訳じゃない。
綺麗で可愛くて傷ひとつない自慢のフィリアが欲しかったのだ!
話が違う!
僕は、こんな事なら婚約者の交代になど名乗りを上げなければ良かったと後悔したものだ。
何で僕ばっかりが貧乏くじを引かされるのだ。
兄のリハルトは、実に良いタイミングで婚約を逃れたものだと兄を羨ましくも思う。
本当に腹立たしい。
兄からしたら弟やフィリアが望んだからだと言い逃れできるだろう!
魔物に襲われたのだったのだって兄のせいだとも言えるのじゃないだろうか?
兄がフィリアにもっと早くに婚約者の交代を申し出てさえいれば良かったのだ!
そうすれば、あんな風に魔物の森から二人を窺い、魔物に襲われることもなかったのだ。
そう!悪いのはぐずぐずしていた兄上だ!
そして、お節介にも勝手に助けに入ってきたフィリアなのだ!
僕はちょっと二人を窺っていただけなのに!
それなのに、僕は皆に責められて責任をとる形で仕方なくフィリアと婚約してやったのに
あげくに、フィリアの方から婚約破棄だって?
何だって言うんだ。
腹立たしい!
だが、冷静に考えると、もうハズレとわかっていた婚約を続けなくて良くなったのだ。
あのジルとか言うあのチビが代わりにハズレを引いてくれるらしい。
「馬鹿な奴だ!はははははは!」
はっ!そうだ、フィリアを引き受けてくれるというのだから、あのジルとやらの姉のリミィは僕が引き受けてやってもいいかな?
身分こそ子爵令嬢とフィリアには及ばないが、あの美しさは傷が出来るまえのフィリアにも引けをとらない容姿だしな!
うん、いい事を思いついたな。
せっかくだからそうしよう。
***
愚かで『馬鹿ぼっちゃま』のダン・ホーミットは、そんな事を考えていた。
後に、死ぬほど後悔することになるが、それは学園についてからの話だった。
何故だ?何でこうなった。
大体、フィリアはあんな傷痕のある顔で普通に結婚など出来ると本気で思っているのか?
そりゃあ、あの傷を髪で隠しているぶんには、美しいし可愛いとは…思うが…。
僕は、キズ一つなくシミひとつない美しく可愛いフィリアが好きだった。
黒く真っ直ぐな髪はサラサラで瞳は黒曜石のように美しい。
肌はまるで陶器のようにすべらかで、その上、所作までもが美しく上品だった。
伯爵令嬢どころか皇族の姫君だといっても通用するだろう。
まだ子供の彼女だが、彼女の美しさは『ジャニカの黒曜石』だとか『皇国の天使』だなどと噂されていたほどである。
そんな彼女が好きだったのだ。
幼馴染というだけでも自慢で憧れだった。
婚約予定の兄が羨ましくて羨ましくて仕方がなかった。
兄にフィリアが好きな事を告げた。
そして兄よりも自分との方がフィリアも気軽に話せるとも…。
兄はフィリアがいつも兄に遠慮がちな事を気にしているようだったから、そこをついてみた。
我ながらいいつっこみどころだと考えたのだ。
ダメもとで言ってみただけだったが兄は言ったのだ。
「フィリアも…フィリアが望むなら…いい…よ」
何と!フィリアとの婚約を代わってくれると兄は言ったのだ。
言った傍から兄リハルトは後悔するような顔をしたが、そんな事は知ったこっちゃない。
言質はとった!
「兄上!約束ですよ!では、婚約式の前に必ずその事をフィリアに伝えて下さいよ!そしてフィリアが了承したなら婚約式は僕が兄上と代わって受けますからね!」とたたみこんだ。
「あ、ああ…」と、兄は何だか頼りない返事をしたが一度言葉にしたのだ。
生真面目な兄は約束を違えたりはしないだろうと思った。
だが、真面目で嘘の嫌いな筈の兄が何故か、中々フィリアに婚約を僕との交代する話を言いださずとうとう婚約式の直前になった。
婚約式の前日、僕は兄に詰め寄り言った。
「兄上は僕をだましたのですか?婚約を代わってくれると言ったはずです!いつフィリアに言うのですか!婚約式はもう明日なのですよ!それに兄上となんてフィリアはいつも全然、楽しそうにもしてないし僕と婚約した方が断然いい筈です!」
兄は、何か苦し気な表情で僕をみて、小さなため息をついて言った。
「っ!…わかった。明日…婚約式の前に…話そう」
一体何だっていうのだ。
兄上から言いだした事なのに何故か歯切れが悪い。
今さらフィリアの事が惜しくなったとか?
あり得ると僕は内心、喜んだ。
今さら遅いよ。
フィリアは僕のだ!
綺麗で可愛い自慢の伯爵令嬢。
兄上がフィリアに話しさえすれば、婚約者はこの僕になる筈だ!フィリアだって同い年の僕の方が話しやすい筈だ。
実際、兄上と話している時はいつも緊張しているように見えたし…。
それに両親たちはフィリアの相手が兄でも僕でも別に構いはしないだろう。
互いの家の繋がりが守れて僕達が納得するのなら何の文句もない筈だ。
そう、むしろ祝福してくれる筈なのだ。
ようやく僕にもよい運がめぐってきたと思った。
そう、その時はまだ、そう思っていたのだ!
そして、婚約式直前、僕は二人が話しているのを陰から見ていた。
婚約式の行われる教会の裏手の森から教会内の裏手の敷地内が隠れながらにもよく見渡せたのだ。
魔物の森とか言われていたが、早々、魔物など出たりはしないだろうとタカをくくっていた。
森の木陰から二人の様子を窺っていたその時だった。
あの魔物に襲われたのは!
本当に運が悪かった。
あの時、フィリアが助けに来なくても良かったのにと今も思う。
全くもって余計な事をしてくれた。
大人に任せておけばよかったのだ!
勝手に助けにきて勝手に怪我をして…せっかくの綺麗な顔が台無しになった。
あんなフィリアが欲しかった訳じゃない。
綺麗で可愛くて傷ひとつない自慢のフィリアが欲しかったのだ!
話が違う!
僕は、こんな事なら婚約者の交代になど名乗りを上げなければ良かったと後悔したものだ。
何で僕ばっかりが貧乏くじを引かされるのだ。
兄のリハルトは、実に良いタイミングで婚約を逃れたものだと兄を羨ましくも思う。
本当に腹立たしい。
兄からしたら弟やフィリアが望んだからだと言い逃れできるだろう!
魔物に襲われたのだったのだって兄のせいだとも言えるのじゃないだろうか?
兄がフィリアにもっと早くに婚約者の交代を申し出てさえいれば良かったのだ!
そうすれば、あんな風に魔物の森から二人を窺い、魔物に襲われることもなかったのだ。
そう!悪いのはぐずぐずしていた兄上だ!
そして、お節介にも勝手に助けに入ってきたフィリアなのだ!
僕はちょっと二人を窺っていただけなのに!
それなのに、僕は皆に責められて責任をとる形で仕方なくフィリアと婚約してやったのに
あげくに、フィリアの方から婚約破棄だって?
何だって言うんだ。
腹立たしい!
だが、冷静に考えると、もうハズレとわかっていた婚約を続けなくて良くなったのだ。
あのジルとか言うあのチビが代わりにハズレを引いてくれるらしい。
「馬鹿な奴だ!はははははは!」
はっ!そうだ、フィリアを引き受けてくれるというのだから、あのジルとやらの姉のリミィは僕が引き受けてやってもいいかな?
身分こそ子爵令嬢とフィリアには及ばないが、あの美しさは傷が出来るまえのフィリアにも引けをとらない容姿だしな!
うん、いい事を思いついたな。
せっかくだからそうしよう。
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愚かで『馬鹿ぼっちゃま』のダン・ホーミットは、そんな事を考えていた。
後に、死ぬほど後悔することになるが、それは学園についてからの話だった。
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