ラフィリアード家の恐るべき子供たち

秋吉美寿

文字の大きさ
23 / 113
フィリアの話

022.フィリアの婚約破棄-02ダンの独り言

しおりを挟む
 ダンは思った。

 何故だ?何でこうなった。

 大体、フィリアはあんな傷痕のある顔で普通に結婚など出来ると本気で思っているのか?
 そりゃあ、傷を髪で隠しているぶんには、美しいし可愛いとは…思うが…。

 僕は、キズ一つなくシミひとつない美しく可愛いフィリアが好きだった。
 黒く真っ直ぐな髪はサラサラで瞳は黒曜石のように美しい。

 肌はまるで陶器のようにすべらかで、その上、所作までもが美しく上品だった。
 伯爵令嬢どころか皇族の姫君だといっても通用するだろう。

 まだ子供の彼女だが、彼女の美しさは『ジャニカの黒曜石』だとか『皇国の天使』だなどと噂されていたほどである。

 彼女が好きだったのだ。
 幼馴染というだけでもで憧れだった。

 婚約予定の兄が羨ましくて羨ましくて仕方がなかった。

 兄にフィリアが好きな事を告げた。
 そして兄よりも自分との方がフィリアも気軽に話せるとも…。

 兄はフィリアがいつも兄に遠慮がちな事を気にしているようだったから、そこをついてみた。
 我ながらいいつっこみどころだと考えたのだ。

 ダメもとで言ってみただけだったが兄は言ったのだ。

「フィリアも…フィリアが望むなら…いい…よ」

 何と!フィリアとの婚約を代わってくれると兄は言ったのだ。

 言った傍から兄リハルトは後悔するような顔をしたが、そんな事は知ったこっちゃない。
 言質はとった!

「兄上!約束ですよ!では、婚約式の前に必ずその事をフィリアに伝えて下さいよ!そしてフィリアが了承したなら婚約式は僕が兄上と代わって受けますからね!」とたたみこんだ。

「あ、ああ…」と、兄は何だか頼りない返事をしたが一度言葉にしたのだ。
 生真面目な兄は約束を違えたりはしないだろうと思った。

 だが、真面目で嘘の嫌いな筈の兄が何故か、中々フィリアに婚約を僕との交代する話を言いださずとうとう婚約式の直前になった。

 婚約式の前日、僕は兄に詰め寄り言った。
「兄上は僕をだましたのですか?婚約を代わってくれると言ったはずです!いつフィリアに言うのですか!婚約式はもう明日なのですよ!それにフィリアはいつも全然、僕と婚約した方が断然いい筈です!」

 兄は、何か苦し気な表情で僕をみて、小さなため息をついて言った。

「っ!…わかった。明日…婚約式の前に…話そう」

 一体何だっていうのだ。
 兄上から言いだした事なのに何故か歯切れが悪い。

 今さらフィリアの事が惜しくなったとか?
 あり得ると僕は内心、喜んだ。
 今さら遅いよ。
 フィリアは僕のだ!

 綺麗で可愛い自慢の伯爵令嬢。

 兄上がフィリアに話しさえすれば、婚約者はこの僕になる筈だ!フィリアだって同い年の僕の方が話しやすい筈だ。
 実際、兄上と話している時はいつも緊張しているように見えたし…。

 それに両親たちはフィリアの相手が兄でも僕でも別に構いはしないだろう。
 互いの家の繋がりが守れて僕達が納得するのなら何の文句もない筈だ。
 そう、むしろ祝福してくれる筈なのだ。

 ようやく僕にもよい運がめぐってきたと思った。
 そう、、そう思っていたのだ!

 そして、婚約式直前、僕は二人が話しているのを陰から見ていた。
 婚約式の行われる教会の裏手の森から教会内の裏手の敷地内が隠れながらにもよく見渡せたのだ。
 魔物の森とか言われていたが、早々、魔物など出たりはしないだろうとタカをくくっていた。

 森の木陰から二人の様子を窺っていたその時だった。
 あの魔物に襲われたのは!
 本当に運が悪かった。

 あの時、フィリアが助けに来なくても良かったのにと今も思う。
 全くもって余計な事をしてくれた。
 大人に任せておけばよかったのだ!
 勝手に助けにきて勝手に怪我をして…せっかくの綺麗な顔が台無しになった。

 フィリアが欲しかった訳じゃない。
 綺麗で可愛くてフィリアが欲しかったのだ!

 話が違う!
 僕は、こんな事なら婚約者の交代になど名乗りを上げなければ良かったと後悔したものだ。
 何で僕ばっかりが貧乏くじを引かされるのだ。

 兄のリハルトは、実に良いタイミングで婚約を逃れたものだと兄を羨ましくも思う。
 本当に腹立たしい。
 兄からしたら弟やフィリアが望んだからだと言い逃れできるだろう!

 魔物に襲われたのだったのだって兄のせいだとも言えるのじゃないだろうか?
 兄がフィリアにもっと早くに婚約者の交代を申し出てさえいれば良かったのだ!
 そうすれば、あんな風に魔物の森から二人を窺い、魔物に襲われることもなかったのだ。

 そう!悪いのはぐずぐずしていた兄上だ!
 そして、お節介にも勝手に助けに入ってきたフィリアなのだ!

 僕はちょっと二人を窺っていただけなのに!

 それなのに、僕は皆に責められて責任をとる形でフィリアとのに

 あげくに、フィリアの方から婚約破棄だって?
 何だって言うんだ。

 腹立たしい!

 だが、冷静に考えると、もうハズレとわかっていた婚約を続けなくて良くなったのだ。
 あのジルとか言うあのチビが代わりにハズレを引いてくれるらしい。

「馬鹿な奴だ!はははははは!」

 はっ!そうだ、フィリアを引き受けてくれるというのだから、あのジルとやらの姉のリミィは僕が引き受けてやってもいいかな?

 身分こそ子爵令嬢とフィリアには及ばないが、あの美しさは傷が出来るまえのフィリアにも引けをとらない容姿だしな!

 うん、いい事を思いついたな。
 せっかくだからそうしよう。

 ***

 愚かで『馬鹿ぼっちゃま』のダン・ホーミットは、そんな事を考えていた。
 後に、死ぬほど後悔することになるが、それは学園についてからの話だった。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...