ラフィリアード家の恐るべき子供たち

秋吉美寿

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リミィの恋の話

65.舞踏会当日

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 舞踏会当日、タイターナ公国の大公宮殿近くにある気賓客用のホテルの一室では、朝から大騒ぎである。
 最上階にあるその一室はラフィリルからの賓客に貸しきられ、そこからはどこから現れたのか何人もの侍女たちが出入りしている。

「お母様ったら、ぬかりないですわ!ラフィリルの屋敷の扉と、この部屋のクローゼットの扉を魔法で繋げちゃうなんて!」

「うふふっ!この部屋はず~っと私専用に貸してくれるってホテルのオーナーが言ってくれたからね~」

「まぁ、素晴らしいわ!オーナーさん、ご親切ですのね?」
 無邪気に喜ぶリミィにジルが大変子供らしくない意見を言った。

「リミィってば、無邪気だなぁ?そんな訳ないよ!ホテルのオーナーだって商売人だからね!ラフィリルの公爵夫人で、かの有名な”月の石”の主の母様が、ここに泊まったっていうだけで、このホテルにって考えたんじゃない?女神とよばれる母様が、泊まってるホテルになら泊まってみたいとか皆思うじゃない?立派なだよ」

「ええ~何それ!?」

「あらあらあら!ジーンジルってば、ほんとに賢いのね~。そうよ、そんな訳で、このホテルのこの一室はず~っと貸しきれる事になったのよ~。本当は最上階全部、て頼まれたんだけど、どうせラフィリルのうちの屋敷に繋がってるんだから、そんなに部屋は要らないし、この部屋だけで十分なのよね~」

「そうだね。あっ、そうだ!母様!じゃあちょっと屋敷の方の僕の部屋に置いてきた本を取って来ていいかな?読み終わった本なんだけど最近また読みたくなっちゃって!」

「あら、いいわよ。そこのクローゼットが、屋敷の階段下の物置の扉と繋がってるから、行ってらっしゃい」

「あっ!じゃあ、私も置いてきた髪留め取ってくるっ!」

「はいはい、じゃあ、いっそ私も今晩の支度は、あっちでしようかしら?」

「そうしたら?いちいちドレスや小物を運ぶのも面倒じゃない?支度を手伝ってくれる皆もそっちの方が楽だよ!」とジルが侍女たちを気遣う言葉にルミアーナはまた意味ありげな笑みを浮かべた。

「 ジーンジルてばね~?」

(あれ?母様もしかして僕が、前世の記憶が目覚めちゃってるの気づいてる?まさか)とジルは冷や汗をかきつつ笑ってごまかした。

 そしてラフィリルの屋敷に一旦戻った三人と侍女たちは、夜の舞踏会までの時間をあれこれ話し合いながら過ごしたのである!
 残念ながら父のダルタス将軍はお仕事で家にいなかったので一家団欒とまではいかなかったが、こればっかりは仕方がないだろう。

「母様っ!私も舞踏会の様子がみたいですわっっ!」
 リミィはダメもとで言ってみた。
「あ、僕も見たいなっ!」
 ジルもダメもとで言ってみた。
 本当に気の合う双子である。

 そう言う双子達に母ルミアーナは分かっていたのかのように、待ってましたと言わんばかりの笑みで答えた。

「うふふっ!そう言うと思ってたわ~」

「「えっ?まさか!」」
「「いいのっ?」」

「うっふっふ~!よ~?その代わり、ジーンジルもリミアも、ちょ~っと大人にならないとね~?」

「あ、あ、あ!じゃあ、兄様のパートナーは、私に!?」
 リミィが期待に満ちた眼差しで母をみたが、さすがにそれは一蹴された。

「あら、それはダメよ~!そんな事したら、他の人が見たらティムンが許嫁のリミア以外の年頃の令嬢と踊った事になるのよ?あっという間に噂になって許嫁のリミアの立場がなくなってしまうわよ?」

「そうだよ、せっかくティムン兄様がリミィの為に許嫁を理由にリーチェ先生を断ってくれたのに、まるでティムン兄様がリミィ以外の人と浮気したみたいになっちゃうよ!リーチェ先生だって恥をかくことになる」

「うっ…!そ、そっか」
 そこまで考えが至らなかったリミィは項垂れた。

「その点、母様なら姉な訳だし変な噂も立ちようがないし、リミィは僕がパートナーになってあげるから我慢しな?ね?」とジルは姉のリミィの頭を撫でながら言い聞かせた。

 そんな様子を母のルミアーナは目を細めて見ている。

「本当に ジーンジルは賢いわね~?いつ頃からか考え方も大人びちゃって…今度、母様とその事でお話しましょうね~?」と母ルミアーナは笑った。

 やはり感づいているらしい。
 ジルは焦りつつも、直ぐには言及してこない母に何か底知れないものを感じた。
 さすがは””侮れないと思うのだった!

「ふふふ~、じゃあ、まずリミィからね!まず、私のドレスに着替えなさい。ぶかぶかで良いから」そう言っては母心底たのしそうにウィンクした。

 その後、ラフィリアード家の一室では銀色の魔法の光で溢れかえっていた。
 そして、その夜、準備万端の三人はタイターナ公国の大公宮殿に乗り込むのだった。
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