猫かぶり令嬢の婚活〜もう誰でもいいから結婚して〜

微睡

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お茶会での邂逅-中-

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ルカはほくほくしていた。

先程の恋愛話の流れから「実は私も運命の人を探していますの」とさりげなさを装って話を切り出せたのだ。

どうしましょうこのままでは行き遅れになってしまうわ、と悲しい顔をしてみせると、優しいブラウン夫人は今度良い人を紹介しましょうと約束してくれた。

もちろんルカは行き遅れになることはこれっぽっちも気にしていないので想定よりもずっと優しすぎる夫人にちょっとだけ罪悪感があるが、罪悪感では生活していけない。

求めるものは
第一に住む家!第二にご飯!である。

___こんなに求めていることは最低限なのに、結婚できないのは何故なの!

さすがのルカも怒りたくもなる。主に父に。
迷惑をかけている分役に立てと言いたいのだろうが、もうちょっと条件を負けてくれてもいいじゃないか。

実家から逃げて平民になるという手段もちょっとは考えないではなかったが、その考えは即座に却下した。

あまりお上品には育たなかったが、腐っても伯爵令嬢である。たまに見に行く程度で街での生活をほとんど知らないルカが一人で暮らせるとはとても思えない。

それに王都にいては捜索されてすぐに連れ戻されてしまう可能性がある。そうなれば逃げ出さないように閉じ込められてしまうかもしれない。

そんな危険を冒すよりも、良い結婚相手を探す方がずっと現実的なのは間違いなかった。

___まあとりあえず一つ、目的を達成できて良かった。

今日は夫人の目利きで特別に仕入れられている珍しいお菓子やお茶を飲むチャンスでもあるのでルカは束の間、お茶会を純粋に楽しんでいた。




「皆さまお話中、申し訳ありません」

侍従を連れて、そう謝罪をしながら現れたのは夫人のご子息で次期ブラウン侯爵のギルバート・ブラウンだ。

まだ若いながらも学園でトップの成績を収めて卒業した秀才で、さらに魔導士としての一面も持つ。ルカの世代ではなかなか有名な人である。

…うーん、確か炎を操るギルバートと氷を支配するアシュリー公爵は美形セットで騒がれていた気がする。


___これが紅蓮の君…!

学園で友人たちに散々噂だけは聞かされたが、学年が違っていたのでこんなに近くで会うのは初めてである。有名人のいきなりの登場についマジマジと見てしまう。

___確か、燃え盛る炎で練習場を跡形もなく焼き尽くした、とか。魔法大会で向かい合っただけで相手を失神させた、とか。すごいのかなんなのか伝説は色々あったけど。

夫人に似た面立ちだが、ルビーの瞳は理知的な光を湛え、そんな派手な噂とは結びつかないほど真面目そうに見える。

「あら、ギルバート。ここに顔を出すなんて珍しいわね。いつもは口うるさい母から逃げ回っているのに」

息子に気づいたブラウン夫人は驚きながらも、どなたかお目当ての方でもいるのかしら?と悪戯っぽく笑う。

母には強く出られないらしいギルバートは困ったように頰を掻いた。

「母上、無作法をしたことは謝ります。ここでは勘弁してください…」

夫人は仕方ないわね、と席から立ち上がって会場を見渡した。

「皆さま、突然のご無礼をお許しくださいませ。うちの息子ギルバートですわ。どうぞお見知り置きください。」

「ギルバート・ブラウンと申します。」

今をときめく貴公子の登場に参加者たちは揃って興味津々だ。

「それで一体どうしたの?」

「…実は少々急ぎで確認してもらいたいことがありまして」

「まあこんな時に」

普通なら使いをやればいいものを、ご嫡男がわざわざやってくるぐらいだから余程のことなのだろう。

どうしようかしら、と夫人が頬に手を当て躊躇うような素振りをした。

今日の主催である夫人は本来ならば、その場を離れることは出来ない。目を離してなにか問題があれば主催の責任にもなる。

「すぐに済みますよ。母の代わりとは行かないでしょうが、良ければ僕が対応させていただきます」

「本当に珍しいこと…じゃあお願いしようかしら」

ギルバートがそう言うとお茶会の空気が変わった。

明らかにざわついている。

忙しい次期侯爵様と話す機会などなかなかないし、繋がりを作りたい、もしくはただ単にミーハーな気持ちかもしれない。

「本当に申し訳ありません。では少し席を外しますわね」

ブラウン夫人はギルバートの侍従に連れられて足早に去っていった。

当然ギルバートの席は空きが出たところになった。
先程まで夫人が座っていたルカにも近い席である。

___そうだよね、そりゃ、そこに座るよね

思ったよりも近い。学園ではまるで手出し口出し厳禁のアイドルのような扱いだったので、こんなに近くにいるなんて信じられない気持ちが大きい。

あとで友人たちに自慢しよう。

…そういえば先日アシュリー公爵と話した時は怖くてひやひやしたが、ギルバート様はどこか親しみやすい雰囲気がある。

「お邪魔いたします。僕のことはどうかお気になさらず。…ああ、お綺麗なご夫人方ばかりで緊張してしまいそうです」

「まあお上手!」

少しは気まずい雰囲気になるかと思いきや、ギルバートは意外なことに話し上手だった。
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