猫かぶり令嬢の婚活〜もう誰でもいいから結婚して〜

微睡

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偶然の

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「__ッ_危ない」

一瞬の浮遊感。
それからすぐにドサっという音がして体が何かにぶつかった。
咄嗟に地面に叩きつけられる痛みを覚悟したが、思ったよりも衝撃がない。

ルカが恐る恐る目を開くと、何故か見覚えのある麗しい顔がすぐ近くにあった。その水色の瞳は相変わらず、驚く程澄んでいる___


「へ?」

まままって、何が…?

密着した力強い腕と、心臓の音が聞こえるほど近い胸。

___いや、さっき猫を助けようと木を登って足を滑らせた、それは分かる。ルカの腕の中にはまださっきの子猫が大人しく抱かれている。

……そして猫を抱いている私は何故かあのアシュリー公爵の腕にしっかり抱かれている…?

一瞬ルカは信じ難い現実に気が遠くなった。

「無事か?」

「あ、はい…」

返事をしたのは半ば反射である。

突然のことにルカが混乱していると、はーと息をついた公爵に強く抱きしめられた。

「ひゃっ」

「…間に合って良かった」

ルカを見た公爵はそう言って心底安堵したように表情を緩めた。いつもの鉄壁の無表情がなくなると別人のような優しい印象がある。

わ笑った顔、初めてみたかも……
ってそうじゃなくて!!!

呆然としていたルカはようやく大怪我___打ちどころが悪ければ命も危うかっただろう___となりそうだった自分がアシュリー公爵に助けられたことを理解して青くなった。彼の息が少し上がっているのは走ってきてくれたのだろう。
どうしてここにいたのかはさっぱりわからないが。

「あ、ああのわたし、すみません…!」

今更ながら抱き上げられているのが、申し訳なく恥ずかしくなってルカは今度は赤くなった。

羞恥に駆られるルカに気づいたのか、様子を見てもう大丈夫だと思ったのか、公爵がそっと地面に降ろしてくれる。

「アシュリー公爵、本当に助かりました…ありがとうございます…なんとお礼を言って良いか」

心臓の音がいろんな意味で煩い。
落ちた衝撃と助かった安堵とこんなところを見られてしまった羞恥が入り混じって自分でもどんな顔をしたらいいのかわからない。

慌ててお礼を言って顔を上げると公爵はいつもの無表情に戻っていた。

だが以前は氷のようだと感じていたその表情をルカはもう単純に怖いとは思わなくなっていた。

「その、公爵はどうしてここに…?」

「ああ今日は街で特別任務があり俺も魔術師として召集されていたんだ。だが予定より随分早く終わったので帰ろうとここを通ったら、ちょうど君が足を滑らせるのが見えた。心臓が止まるかと思ったぞ」

「そうだったんですね…」

ルカはピンときた。例のレストランで見た下級騎士たちもきっとその任務とやらを終わらせた後だったのだろう。

「だがヘルキャット嬢、一体どうしてあんなところに登っていたんだ。偶然通ったからよかったものを」

責めるように問われて、確かにちょっと無謀すぎたかもとルカは自分の過信を反省した。走れば近くに商店街があるのだから、はしごなり網なり持ってくることができただろう。

「猫が…」

「猫?」

「この子が木に登って降りられなくなっていたんです」

ルカは腕の中の子猫を公爵に持ち上げて見せた。どうやら小さいので抱えていた猫に気づいていなかったようだ。

公爵は何故か猫とルカを見比べてちょっと変な顔をした。

「なるほど、その子を助けようとしたんだな。でも今度からは誰か人を呼ぶようにしてくれ。次も助けられるとは限らない」

「はい、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。あの、今度なにか…お礼をさせてください」

「いや、礼などなくて構わない。とにかく気をつけろ」

「そんな訳には…!」

公爵はなかなか頷いてくれなかったが、ルカはお願いですできることはなんでもしますから、と訴えて最終的には約束を取り付けた。この感じだと有耶無耶にされてしまいそうなのでうちに帰ったらすぐに何がいいか考えよう。

ルカの勝手な行動のせいで迷惑をかけてしまった。このままではさすがに申し訳なさすぎる。

「あ、ああ…それと」

公爵はルカの頭の辺りを見て視線を彷徨わせた。そういえば最初受け止めてもらった後からあんまり視線があっていないような気がする。

頭になにか付いて___

「…言おうか迷っていたんだが、、しまわなくて大丈夫か?」

「え?」

今度こそルカの心臓は止まった。

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