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ルカの秘密
しおりを挟む思わず頭に手をやる。
そんな、まさか。
嘘であれと思ったルカの願望を裏切ってそこにはふさふさの耳があった。髪と同じ黒色で、三角の耳。
頭の上で今自分では見えるはずはないが、そうだと知っている。
腕の中にいた子猫がにゃーと鳴き声をあげてルカの腕から飛び降りた。
___呪われた自分の加護、それは猫の加護。
一応言っておくとルカは正真正銘、純人間である。遠い北の国では、獣人と呼ばれる獣と人間が混ざった姿の種も存在しているらしいが、繋がりはまるでない。
両親の色を引き継ぎ、顔立ちも母に似たルカは伯爵夫妻の血を引いていることが見ただけでわかる。ただよりにもよってハズレ中のハズレ加護、猫の加護を引き当ててしまったのだ。
獣の一部が___大体は耳だとか、尻尾だとか___が体に現れて、身体能力や特性が使えるようになる。
ただでさえ、選民意識の高い貴族社会の中では獣の加護は特に蔑まれていて、自分の子が発動した加護を見て母が汚らわしい、と眉を顰める程だ。
だから普段は間違っても人に見られないように、腕につけたブレスレット型の魔道具でずっと加護の発動を押さえている。の、だけど。
さっきまで確かに付けていたはずの魔道具は無残な姿で地面に転がっていた。落下した時に木に引っ掛けたのかもしれない。
慌てて反射で動いてしまう耳を両手で覆い隠す。もちろんとっくに手遅れだが。
これは一度発動してしまうと数分は消えない。
「な、ななな」
「ヘルキャット嬢…?落ち着け、大丈夫か」
はくはくと壊れた機械のようになったルカを見て公爵がぎょっとしたように言った。
内心ではどう思っているかわからないが、ひとまず手を上げるでもなく声を上げるでもなく、冷静そうな顔の公爵を見て心を落ち着かせる。
「ごめんなさい…これだけは…誰にも言わないで。お願いします」
声が震えてしまった。
…どうしてこの人がいるところで失敗ばかりしてしまうのだろうか。ルカは度重なる謝罪に泣きたい気持ちになった。
手で押さえている耳も心なしかシュンと下がってしまう。
そこまで驚きのない公爵の様子を見たところ、こういう事例があるということをたぶん知っているのだろう。だが、これが他所にバレたらルカはもうおしまいである。余計な噂が広がる前にアイツのところに即嫁入りで間違いない。もしくは大々的にこの醜聞が広まってしまったらもはや用済みかもしれない。
「…わかった。誰かに言いふらしたりしないと誓う」
公爵は真剣な眼差しで言い切ってくれたので少しほっとする。今のところ嫌悪は見られないしとりあえずはその言葉を信じるしかない。
「ありがとうございます…」
「さっき魔道具が壊れてしまったんだろう。自分の意思で戻せるのか?」
「いえ、今すぐには無理です。たぶんあと少し…2分程したら戻れると思うんです」
「そうか、それなら良かった」
やっと一息つきかけたその時、公爵の向こう側からケーキを持った護衛が戻ってきたのが見えた。
まずい外で加護が発動したってバレる!
「お嬢様」
ルカは咄嗟に振り向いたアシュリー公爵の後ろに隠れた。
近づいてきた護衛が隠れたままのルカを見て訝しげな顔をする。
「お望み通り買ってきましたよ…一体何をしているんです?…そちらの方は?」
「あ、あえーと」
「…シリル・アシュリーだ。たまたま任務の帰りにヘルキャット嬢を見かけたので、つい話し込んでしまった。邪魔をしたなら申し訳ない」
口籠もったルカに変わって公爵が答えてくれた。
「公爵閣下!?まさかこんなところにいらっしゃるとは思わず…ご無礼をお許しください」
たまたまと言ったが、護衛はルカと公爵が護衛を引き離してこそこそ逢引きしていたように思ったのだろう。ちょっとだけ顔を出しているルカを護衛は厳しい眼差しで見た。
「いや、構わない……ところでそれは?」
「え、これですか?公爵閣下のお口に合うようものではないと思いますが…そこで買ったチョコレートケーキです。お嬢様がどうしてもと言われて」
「…君はチョコレートケーキが好きなのか?」
「は、はい!ケーキの中で一番好きです」
「そうか…俺もだ」
なぜか突然始まったケーキ談義。
驚いたことにアシュリー公爵はルカのために時間を稼いでくれているらしい。正直見捨てられてもしょうがないと思っていた。
よく考えたら夜会でも助けに来てくれたし、今日も何度も救われてしまった。冷たそうな見かけによらずものすごく優しい人だ。
そうとは知らずに無闇に恐れていた少し前の自分をルカは大反省した。
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