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「ケルベロス……。」
「な、何でわかった。」

ネコの額に何かしらの角の生えた動物っぽい紋章が張り付いた。

「にゃにゃ?」
「私は大型犬をケルベロスと呼んで遊んでいたことを何で知っているのかな葵君。」
「何となく?」
「何となくでわかるはずないでしょうが。」

どうやらこの黒歴史は黒歴史中の黒歴史らしい。

「私がケルベロスと遊ぼうと思って吠えられて疎遠になったのを知っているの。」
「それは私も初めて知ったわね。」
「ああ、よく大型犬って幼児とか乗れますから買ってくれと従妹にせがまれたものです。」

松岡さんはどうやら年の離れた従弟が居るらしい。

「いやあ生前は従妹が本当に懐いてきて楽しかった。
 私の従妹は今は何をしているのかは知りませんが結構小っちゃくてかわいかったもんですよ。
 私のお得意先のお嬢様自慢も人のことが言えないくらいに可愛がったものです。」

しみじみと生前の未練を語りだす松岡さんに対してそこまで解りやすかったのかと涼奈は絶望顔になる。

「松岡さんもですか。
 私も近所に居たみずきちゃんに犬の真似をさせられたものですよ。
 やっぱり小さな子は大型犬にいろんな憧れを持つのでしょうかね。」

やはり社会人同士分かり合えるところが多い。
話の切り口の出し方が大体同じなため会話の広がり方が似ている。

「突き放された気分。」
「でもこいつは社会人だったんでしょう。
 そりゃあ会社でヤなことだってあるわよ。
 私たちとは違う世界で生きているのよ。
 例えば私たちが呼吸のように行っている連携だって社会人には実力の把握もしないで急に現場に駆り出さられることも多いわ。」
「え?
 実力の把握もしないのに現場に駆り出すのって自殺行為じゃない。」
「私は元々社会人も経験してるからわかることだけど実力の把握もせずに任せてしまったがあまりに迷惑をかけることだってあるわ。
 それも出来て当然と言う認識にされるから埒が明かないのよ。」

社会構造の都合上、会社のシステムは出来て当然、当たり前の世界。
もちろんわからないことが分かっていない人が大半の性でその愚痴に勝る会話は無く。
職業定着率の低い企業の出身者たちは意気投合することは多々ある。

「椿ちゃんは確か中卒で働いていたんだよね。」
「家庭の事情でしょうがなかったのよ。
 今はギルドマスターに拾われて感謝しているわ。」
「ぷすー。」
「なに?そんなに頬を膨らませて。」
「葵君との共通点のある人が私以外に多くてなんかヤダ。」

椿は苦笑いをするしかなかった。
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