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元来魚は素手で解体されていた。
石器時代の到来前に魚は食べられていた。
素手で捕まえることができたからである。

しかし体調5mを超える大型の魚を素手で解体するのは中々に見ないことだろう。

「これナイフとか持ってくればよかった。」

その前に即席の石のナイフでも作った方がもっとましな解体作業ができた気がする。
魚を解体していくうちにこの魚は血から薬草の匂いが充満していた。
ドクダミとヨモギを混ぜたような匂いがするので薬効もあるかもしれないと思いながら垂れ流しで落としていく。

「血の代わりに木の体液みたいなのが入ってるのかな。」

場所によってはメープルシロップのような甘い香りもすることから植物が魚の形をしていると聞いても納得できる構造だった。
しかしミウスさんがわざわざ捕獲する獲物ってことは美味しい草なんだろう。

「とりあえずこのくらい解体すればいいかな。」
「うん!」

刺身とまでは行かないが部位ごとに分けることはできた。
火を通して食べた方がよさそうだが特に寄生虫らしいものもの無いのでそのまま食べてみることにする。

「薬草っぽい風味はするのに脂肪の甘みがあるね。
 ほんと野菜の良いところだけを取ったような魚だ。」
「それ血合いだから他のところの方が美味しいよ。」

魚の部位の名前までは知らなかったが今のところが風味が一番強い血合いだったらしい。
普通の魚だったら血生臭くてとてもではないが生では食べられない人が多い部位のはずなのに少し薬草の風味がするくらいで済んでいるのだからすごい。
子どもだったら食べられないかもしれないがその程度の風味。
酒の肴にも合うかもしれない。

ミウスさんの勧めで別の部位を食べてみた。
塩気はあまりないがメープルの原液となるほのかな甘さとサクランボのような舌をとろける舌ざわりと濃厚なコク、そして全体を香らせる桜の木の香りが絶妙にマッチした味わい。
塩か醤油を付ければそれは大層な逸品に成ることは間違いなしだ。

「ここは背中のマグロで言う赤身、トロはしつこい。」
「カジキみたいな感じの魚なの。」
「カジキ、うん。そんな感じ。」

トロと言われた部分を食して見ると確かに脂が多い。
その代わり繊維が少なく熟しきったサクランボを思わせる舌ですっと液体変わり味を口いっぱいに広げる感覚は慣れない人には味が濃すぎると表現するには申し分ない味だ。

「岩塩つけるともっと美味しい。」

ミウスさんの差し出した岩塩をつけて食べると思ったとおりの味になった。
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