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「ガッポガッポ!」

 自身も賭けていた金で膨らんだ財布を見つめながら嬉しそうに見つめる東海。
 私見だが、そこまで都会ではない(東北の中では最も都会だが)仙台でもスリに会いそうな持ち方だ。

「荒らしすぎだろ。
 直に出禁食らうぞ。」

「もう、来ないから良い。」

 狼狩流の師範代とやら試合から、賭け金オッズが1.1倍になるまで荒らし込んでいた。
 しかも絶賛煽り散らすことで、挑戦者を募り時間にして2時間ほどであの闘技場に居た自称腕自慢達を地面にディープキスさせていた。

「ま、あの手の腕自慢たちは対人戦特化だし、ダンジョンじゃあ、人型以外は歯が立たないって輩も多い。
 東方19軍術のように双方に対応した術持ちは居ないからな。」

「僕の東桂馬術って凄い流派だったの!」

「西方6軍術と並び最強の武術と証されたのが東方19軍術の1つ桂馬術は敵を飛び越え闘う術とされ、小さいモノが大きいモノに勝つための術。」

「へー....」

「あそこの師範とはたまに飲みに行く。
 確か馬鹿な弟子が1人入るとか言っていたっけ?」

 厚焼卵はギルドとして色んな道場や流派との交流がある。
 寄り合いとして、他流試合を申し込むために道場同士のパイプはそこそこ太い。

 特にダンジョンが出来てからは、万が一の時の自衛も兼ねて道場に通う人も増えた。
 対人、対魔流派によって様々。
 一般的にダンジョン用の武器術、素手戦闘技術は対魔流と呼ばれている。
 両方に通ずる流派は稀、それこそダンジョンが表に出るよりも前にできた流派とされる。
 対人用はダンジョンが蔓延る現代においては不要と考える冒険者も多い。

「僕です僕でーす!」

「「馬鹿って自覚(あったんだな)。」」

「そうだよー!
 卒業試験の点数29点だったし!」

 恥をさらすな。
 恥ずかしい。

「お前どこ校?」

「私立ダンジョン高校だよ!」

「あー、あのバカでも強ければ入れるあそこか。」

 偏差値10のボンクラ校である。
 逆に言えば実力が無ければ、落とされる。
 確か、全員プロボクサー免許とかと一緒で拳が凶器と化している認定喰らっているんだよね。
 学生は全員、学生証を携帯、学生証不携帯可の状態では同等以上の免状持ちを除いて10:0の扱いになるので要注意が必要。
 ちなみに警察官学校も併設されているので交流はそこそこあるらしい。

「そうだよー!
 僕はそこのワースト1位だったよ!
 ワースト2位の子とどっちが学園最低の学力か争っていたんだ!」

「おい、お前さんは大丈夫か。」

「高校不通学、学力試験合格。」

「高校卒業程度認定試験か、そっちもダンジョン系の奴らが取ったりするし、県立高校卒業程度ならまだいいか。」

 ギルドとしては生粋のダンジョン探索のために学習してきてるならいい。
 テストで点数を取るための勉強と高校生活を送るのは全く違うことだが、どっこいどっこいの学力に少しばかり、今後の教育に頭を悩ませた。

「高校認定卒業試験ってダンジョン高校辞めた人たちが受けて堕ちる奴って言われたよ!
 とっても!
 難しいんだよね!」

「簡単。」

「うそー!」

 嘘では無い。
 普通に勉強していればわかる程度の問題だ。(できるやつの言うセリフ)
 春はこのことから協調性が皆無か、サバサバしてる系女子かと思った。

「簡単かどうかは受験する人達が決めることだから、コイツの言っていることは嘘でない。
 そういう言葉の駆け引きも覚えておかないと指名依頼とか来た時に食い物にされる。
 …勉強会も考えておかないといかんな。」

 ギルドは一般的に派遣会社と同義のため雇用教育はあまり行わないが、依頼者とのトラブルを避けるために一定数そう言った場を設ける義務が課せられている。
 今回の場合は、どちらにも言えることのためマスター、雇用主である春はどうしたものかと考えていた。

「一般企業合同研修会の参加は?」

「うちはそう言ったコネが無い!」

 少し考えて口に出した類衣だが、残念ながらうちにはそう言うコネがねえんだわ。
 ま、コイツらは足りないものが何かは理解しているみたいだしまだマシか。
 いや、元気っ子は自分が成長できるって理解はしているが、何が必要かは気づいていない。

 さっきから元気っ子はアホ面下げながら、栄養補助食品を口一杯頬張っている。

「それ、美味そうだな。」

「これ?
 僕のお気に入りなんだ!
 エナジーメイトの新味!」

「何味?」

 珍しく類衣が身を乗り出してきた。
 栄養補助食品をそこそこ食べるのだろうか?
 それにしては身体の線が細いが?

「蜘蛛!」

 まさかのゲテモノの味に春は言葉が出てこなかった。
 スナック菓子とかで偶にネタとして、変な味を加えることがある。
 それはわかる。
 企業戦略の側面スナック菓子はパーティグッズの括りとして捉えられている。

 パーティグッズなどの娯楽としての側面が無い栄養補助食品になぜ、ゲテモノ味を追加したのか理解出来なかった。

「ゲーマー用。」

「ん?
 ああ!
 そう言うことな。」

「パッケージに食事を取らないゲーマー用にって書いてあったよ!
 何か関係あるの?」

「お前さんが味音痴ってことだな。」

「栄養失調防止。」

「わざと風味を悪くすることできちんとしたご飯を食べるように促す対策だな。
 最近は栄養補助食品に頼り過ぎた栄養失調が目立つ。
 おまえさんもあまり頼り過ぎないことだ。
 栄養補助食品は基本的な食事に加えて食べるもの、大抵は尖った栄養をしていたり、取り過ぎると身体に悪影響を与える適度な栄養が含まれていたりする。
 そういった食事の勉強もダンジョン高校では習うが……」

 覚えてないだろとは言葉が続かなかった。
 だってエナジーメイトの蜘蛛味をそもそも美味しいと言っている味音痴。
 これなら、他にも癖のある食べ物を食べさせても美味しいと言いそうだ。

「ほへー…。」

「まあいいや。
 今日は夜も遅いし何か奢ってやる。
 お前さんたち何が食べたい?」

「ホヤ。」

「ホヤ?
 また、珍しいモノを。」

「ホヤって僕食べたことないけど美味しいの?」

「美味。」

「いや、好みに別れる味だな。
 アオサは食べたことがあるか?」

「アオサのお味噌汁はあるけど、あんまり美味しくなかったよ。」

「ならホヤもダメだと思うぞ。
 精々、ホヤキムチとかで香辛料の香りが入っていないと食べづらいしな。
 他にはあるか?」

「僕は仙台に来るの初めてで、何を食べられるのかわかんない!」

 仙台に始めてきたからにはごちそうするモノが牛タンくらいしか思い浮かばなかったので牛タン屋に行くことにした。
 しかし、ホヤを食べたがるとは、生まれ故郷が海辺の方なのだろうか。
 それとも親が海産物を好んで食べていてその手の食生活になったのかもしれない。

 アルコールはご法度のなのでソフトドリンクでプチ歓迎会をした。

「これから名前で呼ばないってなると不便だから渾名何かつけることにするか?」

「僕は東海でいいよー!」

「私はルフと普段は読んでくれればいい。」

「あいよ。
 ちなみに詮索とかじゃないんだが、ルフは親が海辺の方の出身なのか?
 お前さん、日本人とどこかの外国人とのハーフかなんかだろ。
 ホヤが好きな奴は海辺の出身な奴が多いから少し気になってな。」

 今まで触れてこなかったが類衣は、日本人離れした容姿をしている。
 ダンジョンに長らくいた人物は体毛の色が変化する傾向がしばし見られているが、類衣は顔の作りからまず違った。
 全体的に彫りが深く、日本人からすれば年長にも見える容姿は日本人離れしている。
 加えて、彼女は翡翠色の髪の毛と碧眼の鋭い瞳を持っている。
 どこからどう見ても日本人には程遠い。
 しかし、流暢な日本語と、隠しきれない日本人っぽさがどうにも、日本人とのハーフと疑わせる要因の1つとなっていた。

「知らない。
 ダンジョンで拾われた。」

「すまん。」

「育ての親が好きだった。」

「そうか。」

「気にしてない。」

 意外と重かった。
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