時代を越えてお宝探し！？黒猫と僕らの時空大冒険

空道さくら

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第1章

第2話：これ、絶対誘ってるよね？

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　夕暮れの帰り道、茜色の空が街を染める中、澪ミオ、夏輝ナツキ、奏多カナタの3人は、一匹の黒猫に出会った。
　長く伸びた影が足元を横切る中、その猫はじっと彼らを見つめ、金色の瞳を夕日の光に反射させながら鈍く輝かせていた。
「ニャア」と低く鳴くその声は、まるで「ついて来い」と誘っているかのように響いた。

「これ、絶対誘ってるよね？」
　澪が目を輝かせながら猫に一歩近づく。
　その表情は好奇心に満ち溢れていて、黒猫の視線に引き寄せられるようだった。

「おお、確かになんかただの猫じゃない気がする！行ってみようぜ、面白いことがありそうじゃん！」
　夏輝が興奮気味に声を上げ、猫を追おうとする。
　その期待感に満ちた声が、彼の高揚感を物語っていた。

　しかし、奏多が冷静に手を挙げて制止した。
「待って。もう時間も遅いし、これ以上寄り道すると家の人が心配するよ。」
　彼はちらりと腕時計を確認しながら、理性的に判断を下す。

「でもさ、こんなチャンス滅多にないよ！見逃したら後悔しそう！」
　澪が振り返り、猫の方に目を向けた。
　その目はまだどこか未練がましい。

「ほら、こういうのってオカルト研究会らしいじゃん！ついて行ったら、きっと面白い展開になるって！」
　夏輝が楽しそうに笑いながら、奏多を軽く促すように言った。

　しかし、奏多は少し視線を落とし、冷静な口調で首を横に振った。
「確かに気になるけど、もうすぐ夜になるよ。親を心配させたくないし。今日はやめておこうよ。」
　その落ち着いた声には、慎重な判断と理性的な説得力が感じられた。

　澪と夏輝は顔を見合わせ、小さく頷いて歩き始めた。

「まあ、今日は帰るか。」
　夏輝が軽く肩をすくめ、足を進める。

　澪は夕陽を見上げながら、少しだけ振り返る。
「なんか気になるけど…しょうがないね。」

　奏多は黒猫を一度振り返り、しばらく視線を留めた後、静かに歩き出した。
「どうしてあんなに誘うみたいな仕草をするんだろう…。」
　その呟きは、自分に言い聞かせるような、どこか納得しきれない響きを帯びていた。

　背後から、黒猫の低い「ニャア…」という声が聞こえたが、3人は一度足を止めたものの、振り返ることなく歩き出した。

　夕焼けの中、三人の影が長く伸びていく。静かな風がその背中を押すように吹き抜けていった。

　しかし、澪はどうしても気になり、歩みを止めてそっと振り返った。

　黒猫はその場で動かず、じっと彼らを見つめている。
　尻尾をゆっくりと揺らしながら、低い「ニャア！」という鋭い声を上げた。
　その鳴き声には、明らかに苛立ちと怒りが混じっているように感じられる。

「なんか…怒ってるよね、これ。」
　澪が困惑したように小声でつぶやく。

「たぶん、『話を聞け』って言いたいんじゃないかな？」
　奏多が冷静に分析するように言う。

　黒猫はさらに鋭い声で「ニャア！」と鳴き、地面を前足で軽く叩いた。
　その仕草に3人は一瞬動きを止めたが、やがて顔を見合わせると、歩き出した。

「いや、帰ろう。怒らせたなら、それも仕方ないってことで。」
　夏輝が軽く肩をすくめて言い、足を速める。

「そうだね…。」
　澪は小さくため息をつきながら、もう振り返ることはなかった。
　けれど、心の奥では、あの金色の瞳が今も何かを伝えようとしているような気がしてならなかった。

　3人が通りの角を曲がり、姿を消していくのを黒猫はじっと見送っていた。
　その小さな影は、しばらくその場に留まっていたが、やがて静かに動き出し、夕闇に溶け込むように姿を消していった。

「ただいまー。」
　澪が声を上げながら玄関に入ると、夕食の美味しそうな匂いが漂ってきた。

「おかえり、澪。遅かったわね。」
　母親がキッチンから顔を出し、心配そうに言った。

「ごめん、部活が盛り上がっちゃってさ。」
　澪は靴を脱ぎながら答えた。

「またオカルトの話？夢中になるのはいいけど、時間は守りなさいよ。」
　母親は軽く笑いながら注意した。

「わかってるって！」
　澪は元気よく答え、洗面所へと向かった。
　冷たい水で手を洗うと、軽やかな足取りで階段を駆け上がる。

　自分の部屋に入ると、カーテンを閉めようと窓に近づいた。

　そのとき、不意に目の端に黒い影が動いたように見えた。
　澪は一瞬驚いて足を止め、窓に顔を近づける。

「…あれ？」
　澪は小さな声でつぶやき、外をじっと見つめる。
　門の近く、街灯の薄明かりの中で何かが揺れた気がする。

　目を凝らしてよく見ようとしたが、そこには誰もいなかった。
　ただ、風に揺れる木の枝が影を作っているだけだった。
　冷たい風が吹き抜け、葉がざわめく音が窓越しに微かに聞こえる。

「見間違い…かな。」と小声でつぶやき、澪はカーテンを閉めた。
　しかし、胸の奥には得体の知れない感覚が残ったままだった。

　だが、その窓の外では――。

　門のそばに一匹の黒猫がいた。

　いつの間にか現れたその猫は、影に溶け込むように座り込んでいる。
　金色の瞳が暗闇の中でわずかに光り、じっと澪の部屋を見上げていた。
　風が木々を揺らし、影を踊らせる中でも、猫だけは動かず、ただその場に存在している。

　まるで、何かを伝えようとしているように――。
　その姿は、見ている者がいないはずの中でも、異様な存在感を放っていた。

　澪はそんなことには気づくはずもなく、静かにベッドへ向かう。
　しかし、窓の外の黒猫の視線はなおも変わらず、彼女の部屋を捉え続けていた。

　澪はベッドに仰向けに横たわり、静かに天井を見つめた。
　ため息がこぼれ、胸の奥に広がるざわめきが消えないまま、ぽつりと呟いた。
「なんだろう…胸がざわざわする。」

　澪が気づかぬ間、黒猫はその場に居続け、まるで彼女の反応を待ちわびるかのように、不気味な静けさをまとっていた。

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