時代を越えてお宝探し！？黒猫と僕らの時空大冒険

空道さくら

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第1章

第14話：私たちも怖いよ

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　ユーマの叫び声がヘスペリデスの園の中心に響き渡り、緊迫した空気が一層張り詰めた。
　ラドンの巨大な頭が音のする方向をゆっくりと向き、その鋭い目が一行を捉える。

　澪ミオと夏輝ナツキが息を呑み、足を止めたその瞬間――奏多カナタの力強い声が響いた。
「ここは一度引き返そう！このまま進むのは危険すぎる！」

　夏輝が苛立ちを隠せず、拳を握りしめた。
「せっかくここまで来たのに、諦めるのかよ？こんなチャンス二度とないかもしれないだろ！」

　奏多は夏輝の言葉を受け止めつつ、少し息を整えて静かに言った。
「無理をして危険にさらすわけにはいかないよ。一旦引いて、状況を立て直そう。」

　澪はしばらく黙り込んでいたが、深いため息をつき、夏輝をまっすぐ見つめた。
「…分かった。でも、絶対にまた挑戦しよう。ね、夏輝。」

　夏輝は悔しそうに唇を噛み、少しの間黙り込んだ後、やっとの思いで口を開いた。
「…仕方ねえな。でも、次は絶対にやり遂げてみせるぜ。」

　澪たちは後退の準備に取り掛かる。

　一方で、ラドンの動きは止まらない。
　その巨大な体が地面を滑るようにゆっくりと動き、まるで逃げる獲物を追う蛇そのものだった。

「足音を立てないように。焦らず、ゆっくりと後退しよう。」
　奏多が低い声で注意を促す。

　澪たちは息を殺しながら、慎重にその場を離れ始めた。

　ラドンの鋭い目が動き、澪たちを追う冷たい視線が全身に刺さるようだった。
　張り詰めた空気の中、一行は息を殺してゆっくりと後退を始めた。

　園の奥で囮役を務めていたユーマは、ラドンの視線を引きつけるために木々の間を動き回っていた。
　足元の枯れ葉を鳴らしたり、意図的に音を立ててみせるが、ラドンはほとんど反応を見せない。

　その鋭い目は依然として3人を捉えたまま、わずかに動くだけだった。

「ユーマ！」
　奏多が低い声で呼びかけると、ユーマはピクリと耳を動かし、鋭い目でラドンの動きを確認しながら彼らの方へ駆け寄ってきた。

「やっと来たか！で、どうだったんだよ？」
　ユーマは苛立った表情を浮かべ、息を切らしながら問いかけた。

　だが、奏多は申し訳なさそうに小さく息をつき、落ち着いた声で静かに告げた。
「ごめん。ここは一度引き返そう。ラドンに気づかれている以上、このまま進むのは無理だよ。体勢を立て直して、改めて挑むべきだよ。」

　ユーマの耳がピクリと動き、次の瞬間、全身の毛を逆立てて怒りの声を上げた。
「はあ！？何言ってんだよ！ここまで来て諦めるとか、バカじゃねえの！？」

　夏輝が慌てて手を振りながら宥めようとする。
「いやいや、ユーマ。冷静になれって。あいつマジでやばいんだよ！今無理に突っ込んだら全滅だろ。」

　だが、ユーマは引き下がらない。
「全滅！？だったらなんで俺が囮やったんだよ！？時間稼ぎだろ？無駄にすんのか、俺の努力を！」

　澪は申し訳なさそうに目を伏せ、そっとユーマに言葉をかけた。
「ユーマ…私たちも怖いよ。だから、奏多の言う通り、今は無理しない方がいいと思うの。」

　しかし、ユーマは澪の言葉を遮り、目を細めて奏多を睨みつける。
「ここで引いたら、黄金のリンゴを手に入れるチャンスなんて二度と来ないかもしれないんだぞ！」

　奏多はユーマの視線を真っ直ぐに受け止め、穏やかな声で答えた。
「そうだね。でも、全員が無事でいることが一番大切だと思うんだ。」

　ユーマは不満そうに立ち止まり、足元の地面を爪で引っ掻きながら低く唸った。
「全員無事って…そんなの言い訳だろ。今の状況で逃げるなんて、臆病者だ。」

　その言葉に、一瞬、静寂が訪れる。

　しかし、奏多は落ち着いた声で静かに言った。
「僕たちは逃げるわけじゃない。しっかり準備を整えて、もう一度挑むんだ。ユーマ、君の力も必要なんだよ。」

　ユーマはその言葉に少しだけ反応を見せ、黙り込んだ。

　夏輝が間を取り持つように笑いながら肩をすくめる。
「まあまあ、ユーマの言いたいことも分かるけどさ。今はちょっと頭冷やして、作戦練ろうぜ？」

　澪も優しく微笑み、ユーマにそっと言葉をかけた。
「私たち、絶対に諦めないから。ね？」

　ユーマはしばらく地面を見つめていたが、やがて深いため息をつき、尻尾をだらりと垂らした。
「…仕方ねえな。お前らがそこまで言うなら、一旦引く。」

　澪たちはラドンの守護する領域から、緊張を解かれるように静かに距離を取った。
　そして、安全と思われる場所にたどり着き、ようやく足を止めた。

　夏輝がハッとしたように辺りを見回し、少し焦った声で言った。
「そういや、こっち来るときはユーマが囮やってくれたからスルッと来れたけど…このまま出たら、警備兵にバレるんじゃね？」

　澪が心配そうに眉を寄せ、震える声で答える。
「見つかったら…捕まるだけじゃ済まないかも。」

　奏多は少し考え込んでから、落ち着いた声で静かに言った。
「確かに、このまま出るのは危険だね。でも、まだ方法はあるはずだよ。」

　夏輝が期待の目で奏多を見て言う。
「お、策があるのか？」

　奏多は慎重に辺りを見回しながら、低い声で提案した。
「警備兵を引きつけるための囮を作ろう。それで、その隙に抜け出すんだ。」

「また囮？そればっかりだな。もうめんどくさい！」
　ユーマは尻尾をだらりと垂らしながら、不満そうに口を開いた。

　少し間を置いて、さらに続ける。
「強行突破でいいだろ！どうせ出るだけなんだし、バレてもなんとかなるって！」

　澪が目を丸くして、ユーマの勢いに戸惑いながら声を上げた。
「ちょっと待って、それ、本気で言ってるの？強行突破なんて危険すぎるよ！」

　夏輝は澪の言葉に少し考え込むと、ニヤリと笑った。
「でも、ユーマの言うことも一理あるな。ここまで来れたんだし、出るだけならいける気がする！」

　澪は呆れたように肩を落とし、少し強い口調で言った。
「もう…二人とも楽観的すぎるよ。本当にそれでうまくいくと思ってるの？」

　夏輝は肩をすくめて軽い調子で返す。
「まあ、やってみなきゃ分からないだろ？少なくとも、ここでじっとしてるよりはマシだって！」

　澪は夏輝の言葉に反論しようとしたが、ユーマが横から軽い調子で口を挟んだ。
「隠れてても結局バレる可能性はあるんだよ。だったら、突っ切った方が楽だろ？」

　澪は少し苛立ちながら手を腰に当て、冷静に言い返す。
「強行突破って簡単に言うけど、追い詰められたらどうするの？逃げる余裕なんてないかもしれないんだよ！」

　夏輝が片手を軽く振りながら、いつもの調子で答えた。
「まあまあ、大丈夫だって。俺とユーマが先頭に立つ。澪と奏多は後ろからついてきてくれればいいからさ！」

　澪は深いため息をつき、奏多の方を見た。
「…ねえ、本当にこれでいいの？奏多、どう思う？」

　奏多は少し考え込むように眉を寄せ、慎重に口を開いた。
「確かに、突っ切るのはリスクが高いよ。それに、どうやって警備兵をかわすつもりなの？」

　夏輝はニヤリと笑い、自信満々に指を振った。
「簡単だろ？全速力で突っ走るだけさ！俺とユーマが目立てば、他の二人は問題ないって！」

　澪はため息をつきながら困った顔をしていたが、夏輝とユーマの勢いに気圧されるように静かに頷いた。
「はあ…もう止めても無駄そうだね。」

　奏多も渋々同意し、最後に静かに言った。
「仕方ないね。一番の近道を選ぼう。ただし、全員が無事に抜けられるように、気を抜かないで。」

　こうして澪たちは、警備兵たちが巡回する園の出口を目指し、強行突破を試みることになった。

　ヘスペリデスの園に、澪たちの決意が静かに満ちる。

　ユーマが先頭に立ち、夏輝がその横に並んでニヤリと笑う。
「行くぜ。俺たちなら絶対やれる！」

　奏多は後方で冷静に辺りを見渡しながら言った。
「全力で走るよ。途中で絶対に振り返らないこと。それから、何があっても諦めない。」

　澪は少し緊張した顔をしながらも、一歩を踏み出す。
「…わかった。全員で抜け出そう。」

　太陽の光が果樹園の小道を照らす中、澪たちは駆け出した。
　風を切る音と共に、遠くから警備兵たちの怒号が響き始める。

「侵入者だ！止めろ！」

　その声を背に、澪たちは一心不乱に駆け抜けた。
　足元に響く踏みしめる音、胸の鼓動、耳を刺す怒号――それらすべてを振り切るように、出口に向かって一直線だ。

　目の前に広がるヘスペリデスの園の外の明るい光が、自由への道を照らしていた。
　果たして、澪たちは無事にこの危険を切り抜けられるのか。

　運命の針は、次の瞬間に向かって動き出した。

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