時代を越えてお宝探し!?黒猫と僕らの時空大冒険

空道さくら

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第1章

第15話:本当にそんなことできるの?

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 澪たちはヘスペリデスの園を全力で駆け抜けた。

 色とりどりの果実が実る木々が左右に広がり、その輝きが周囲を照らす。
 だが、美しさに目を向ける余裕はない。

 背後から警備兵の怒声が響き渡り、重い足音と金属の音が近づいてくる。

 夏輝ナツキは振り返りながら険しい表情で叫んだ。
「急げ!追いつかれるぞ!」

 ミオは息を切らしながらも、必死で足を動かしていた。
「どうするの…このままじゃ捕まる…!」

 奏多カナタは肩で息をしながらも、周囲を見渡して急かすよう促した。
「あそこが出口だよ!早く出よう!」

 木々の間を駆け抜けるたびに、警備兵の怒声と角笛の音が背後から迫る。
 澪たちは息を切らせながら出口を目指し、全力で走り続けた。



 ついにヘスペリデスの園の外へ飛び出す。

 園を抜けた先には、鬱蒼とした森が広がっていた。
 日の光は木々の間からわずかに差し込み、森の中は薄暗く、静寂が支配している。

「走れ!止まるな!」
 夏輝が声を張り上げ、振り返ることなく先頭を走る。

「あと少しだ!絶対いけるって!踏ん張れよ!」
 ユーマが尻尾を一度勢いよく振り、力強く声を張り上げた。

「奏多、大丈夫?ついてきてる?」
 澪が振り返らずに、少し心配そうな声で叫んだ。

 奏多は息を整えながら、少し途切れがちな声で応じた。
「大丈夫…でも、後ろの警備兵に注意して…!」

 だが、背後の警備兵たちも懸命に追いすがる。
 甲冑がきしむ音と重い足音が近づき、迫り来る影が澪たちに緊張を強いる。

「どうするの、このままじゃ追いつかれる!」
 澪が息を切らしながら叫ぶ。

「大丈夫、全力で走り抜ける!」
 夏輝の声はぶれず、前を見据えたまま一直線に駆け続けていた。

 木々の間を縫うように走りながら、警備兵の足音がまだ背後から迫るのを感じる。

「おい!どっか隠れる場所探さねえとマジでヤバいぞ!」
 ユーマが焦り混じりの声で叫んだ。

 澪たちは走りながら周囲を見回し、近くの茂みや岩陰を探した。
 そして、警備兵の足音が再び近づいてくるのを感じた瞬間、慌てて身を潜める。

 ざわざわと揺れる葉音と、自分たちの荒い呼吸だけが耳に響く。
 警備兵たちの声が次第に遠ざかるものの、完全に静かになるまで、長い時間が過ぎたように感じられた。



 全員が息を潜め、息苦しさに耐えながらじっと身を縮める。

 澪が何度か顔を上げかけたが、夏輝がそっと手を挙げて制する。
 奏多は疲れた様子で汗をぬぐいながらも、わずかな音に敏感に耳を傾けていた。

 やがて、足音と怒声が完全に聞こえなくなった。

「……行ったみたいだね。」
 澪が小声で呟き、胸を押さえて安堵の息をつく。

「ったく、心臓止まるかと思ったぜ。」
 夏輝が額の汗を拭いながら笑みを浮かべる。

 ユーマが尻尾を振りながら鼻を鳴らした。
「ほらな。ちゃんと出れただろ。」

「本当に、よくやったね。全員無事でよかった。」
 奏多は肩で息をしながら、周囲を確認しつつ言った。

 明るい陽光が木々の隙間から差し込み、澪たちを包む。
 ヘスペリデスの園を抜けた彼らの顔には、達成感と次への不安が入り混じった表情が浮かんでいた。



 澪たちは足が重く感じるほどの疲労を抱えながら、少し開けた場所でようやく立ち止まった。

 澪はすぐに地面に腰を下ろし、息を整える。
 奏多は周囲を見渡しながら、警戒を怠らない。

 夏輝は軽く体を伸ばし、そのまま地面に腰を下ろした。
「腹が減ったな。走りっぱなしで、もう限界だよ。」

 澪がふと顔を上げ、空を見上げた。
「そういえば…今、何時だろう?」

 奏多が少し考え込んでから答える。
「来てから4、5時間くらいかな。でも、元の時間が放課後だったし…。」

 夏輝が腕を組み、首をかしげながら呟く。
「昼の時間帯に飛んできたから、元の時間と比べるとよくわかんないな。」

「ユーちゃん、一回家に帰ろうよ。こんな状態で動き回るのは無理があるし、食べ物もないんだから。」
 澪が少し困った表情でユーマを見つめながら言った。



「無理だよ。」
 ユーマはあっさりと言い放つ。

 尻尾をピンと立て、淡々と続けた。
「時間移動の魔法ってさ、めっちゃ魔力使うんだ。一日一回が限界なんだよ。だから、今すぐ帰るのは無理だな。」

 その言葉に、澪は困ったように眉を寄せ、視線を落としたまま考え込んだ。
「一日一回……じゃあ、どうすればいいの?食べ物もないし、このままじゃ……」

 視線を落とし、考え込む澪の隣で、夏輝が勢いよく立ち上がった。
「よし、まずは飯を探そう!」

 元気な声が重たい空気を一掃する。
「悩んでたって腹は減るばっかだし、とにかく動こうぜ!」
 夏輝が勢いよく声を上げた。

 奏多は冷静に立ち上がりながら提案する。
「そうだね。食べ物を手に入れる方法を考えよう。それだけでも状況は変わると思う。」

 澪がふと顔を上げ、提案した。
「それなら…街に戻ってみない?市場なら、何か食べ物を買えるかも。」

 その提案に、夏輝が顔を明るくしながら頷いた。
「おお!それいいじゃん!古代ギリシャの市場とか、なんか面白そうだな!」

 奏多は周囲を見渡しながら、落ち着いた声で言った。
「それが現実的だと思う。でも、警備兵がまだ近くにいるかもしれないから、慎重に行動しよう。」

 次の目的地として、街の市場を目指すことに決めた。
 澪たちは森を後にし、少しずつ歩みを進める。



「市場ってどんな感じかな?何か美味しいものがあるといいけど。」
 夏輝が明るく話しかけると、澪も小さく頷いた。

 奏多が少し考え込みながら口を開いた。
「でも…お金の問題があるよね。古代ギリシャの通貨がないと、何も買えないんじゃない?」

 その言葉に、澪がハッとしながら顔をしかめる。
「あ…確かに。何も考えてなかった…。どうしよう?」

 夏輝は腕を組みながらしばらく考えた後、軽い口調で提案する。
「いやいや、大丈夫だろ!俺たちで何か売れるものを探せばいいんじゃないか?なんなら、働いて手伝うとかさ!」

 ユーマが尻尾を振りながら鼻を鳴らした。
「はあ?そんな悠長なこと言ってる場合かよ。そんな時間ねえよ。」

 奏多は少し考え込むようにして言った。
「街に着く前に、何か方法を考えておかないとね。何か使えるアイデアがあるはずだよ。」

 足を緩めることなく、街への道を進みながら、お金の問題について知恵を絞った。



 ユーマが尻尾を軽く揺らしながら得意げな声をあげた。
「だったら、俺が魔法で石を金貨に変えてやるよ!」

 夏輝が目を輝かせてユーマを見ながら、勢いよく声を上げた。
「マジか!?それ、すごすぎるだろ!ユーマ、お前天才じゃん!」

 澪は少し驚いたように目を見開き、素直に声を漏らした。
「えっ、本当にそんなことできるの?」

 ユーマは鼻を鳴らしながら自信満々に言い返す。
「できるって!俺を誰だと思ってんだよ。こんなの朝飯前だっての。」

 夏輝が肩をすくめながら笑った。
「夕飯前だけどな。」

 奏多は微笑みを浮かべながらユーマを見つめ、落ち着いた声で言った。
「本当にできるなら助かるけど、金貨はちょっと目立つかもしれないね。この時代の市場なら、銀貨や銅貨の方が普通なんじゃないかな。」

 ユーマは鼻を鳴らし、自信満々に胸を張った。
「じゃあ銀貨にするよ。それで文句ないだろ?任せとけって!」

 澪たちは足を止め、ユーマの魔法が成功するのを固唾を飲んで見守った。



 ユーマが石を前足で挟み、集中して目を閉じた。
 その尻尾が小さく揺れ、周囲に静かな緊張が漂う。

 一瞬、空気がピリリと変わったような感覚が走り、ユーマの前足の間に挟まれた石が銀貨に変わった。

「できたぜ!」
 ユーマが銀貨を掲げて得意げに笑った。

 夏輝が目を輝かせて拍手をしながら叫ぶ。
「すげえ!マジで銀貨になってるじゃん!これなら市場でも普通に使えそうだな!」

 澪も驚きつつ微笑みを浮かべた。
「ほんとだ。ユーちゃん、すごいね!」

 ユーマはさらに周囲を見回しながら、いくつかの石を前足で寄せ集めた。
「よし、どんどん変えるぞ!これでしばらくは困らないはずだ!」

 次々と石を挟み、銀貨へと変える。
 変わるたびに銀貨が小さく反射して光った。

 その手際の良さに感心するように、奏多が息を飲む。
「すごい……こんなに簡単にできるなんて。」

 夏輝が横で感嘆しながら言う。
「ほんと、ユーマがいてくれて助かるわ。これで食べ物ゲットだな!」

 ユーマは尻尾を得意げに振りながら胸を張った。
「だろ?俺の魔法、完璧だって言っただろ!」

 澪は小さく頷きながら、みんなを見渡した。
「それじゃ、街に向かおうよ。」

 銀貨を手に、街の市場を目指して歩き始めた。
 遠くに見える賑わいに、自然と胸が弾むのを感じながら、澪たちの足取りは軽快になっていった。
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