時代を越えてお宝探し!?黒猫と僕らの時空大冒険

空道さくら

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第1章

第16話:ちょっと待ってよ、夏輝!

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 澪たちは市場へと足を踏み入れた。

 古代ギリシャの市場は祝宴のような賑わいで満ちていた。
 店主の威勢のいい呼び込みと、買い手の交渉する声が入り混じり、喧騒が響き渡る。

 通りには果物やパンを並べた屋台がずらりと軒を連ね、香ばしい匂いと甘い香りが漂い、空腹を否応なく刺激する。



「すごい活気だね。」  
 奏多が周囲を見渡しながら、感心したように呟いた。  
「これだけ人が集まってると、市場全体が生きているみたいだ。」  

 人々がせわしなく行き交い、品物を吟味する手つきや、笑い声と怒声が交差する光景は、まさに市場そのものが熱を帯びているかのようだった。

 夏輝は屋台を眺めて目を輝かせた。
「あのパン、湯気まで美味そうじゃねえか!」

 焼きたてのパンの香りが鼻をくすぐり、思わず視線が釘付けになる。

「お腹空いた…あれ、美味しそうだな。」
 澪は足を止め、果物が山積みになった屋台を見つめた。

 色鮮やかな果物が陽光を浴びて煌めき、甘い香りが風に乗って広がってくる。
 それだけで空腹を刺激するようだった。



「よし、俺、買ってくるよ!」
 夏輝が銀貨を握りしめ、屋台の店主に駆け寄る。
「おっちゃん、この銀貨でパンいくつ買える?」

「三つだね。焼きたてだよ。」
 店主が笑顔で答えると、夏輝はパンをじっと見つめた。

「三つか…。でもさ、おっちゃんのパン、こんなに美味そうだし、絶対みんな喜ぶと思うんだよ!」
 夏輝が勢いよく続ける。
「おまけであと一つつけてくれたらさ、俺、みんなに『このパン屋が最高だ!』って広めるよ!」

 店主はその言葉に一瞬驚き、次に声を上げて笑った。
「そんな宣伝してくれるのかい?面白いこと言うな。よし、特別に四つにしてやるよ!」

「マジで!?おっちゃん神だわ!」
 パンを四つ受け取った夏輝は、店主が用意した布製の袋にそれを丁寧に入れてもらった。

 袋の中から漂う香ばしい香りに、思わず鼻を近づけて満喫する。
「これ、絶対美味いよ!ありがとう!」



 澪は目の前の果物に目を留めた。

 艶やかなブドウ、熟れたイチジク、鮮やかなザクロ――どれも甘い香りが漂い、宝石のように輝いている。
「うーん、どれも美味しそう…どうしようかな。」
 澪は目を輝かせながら、果物を行ったり来たりして見比べる。

「迷ってるのかい?」
 店主が籠を手に笑いかけてきた。
「ブドウ一房とイチジク三つなら銀貨一枚でどうだい?どっちも今が食べ頃だよ。」

「そうですね…じゃあ、それでお願いします!」
 澪は満足げに銀貨を差し出し、手渡された果物を大事そうに抱えた。
 手に伝わるブドウの張りとイチジクの柔らかさに、自然と笑顔が浮かぶ。

「ありがとうございます!」
 軽やかな足取りで仲間たちの元へ戻っていった。



 夏輝が軽快な足取りで戻ってくる。

 抱えたパンの香りがふわりと漂い、仲間たちの視線を自然と引き寄せた。
「じゃーん!これ、最高に美味そうだろ!」
 満面の笑みを浮かべながら、手にした焼きたてのパンを自慢げに見せる。

 少し遅れて澪もやってきた。
 手に抱えた果物を掲げながら、穏やかな笑みを浮かべて仲間たちに声をかけた。
「これ、みんなで食べたら元気出るよね。」

 奏多は手に取ったブドウをじっと見つめ、柔らかく微笑んだ。
「これで少し落ち着けそうだね。澪も夏輝も、ありがとう。」
 その穏やかな声には、仲間を気遣う優しさが滲んでいた。

 一方、ユーマは鼻を鳴らしながら尻尾を軽く揺らし、得意げに胸を張った。
「ったく、お前ら、もっと俺を褒めてもいいだろ?銀貨がなかったら、パンも果物も手に入らなかったんだからな!」

 夏輝は大きく笑いながら手をひらひらと振り、明るい声で応じた。
「わかったって!ユーマ様には感謝してるよ!」

 澪も微笑みながら軽く頷いた。
「ありがとう、ユーちゃんのおかげで助かったよ。」

 ユーマは鼻を鳴らしながら誇らしげに頭を軽く振った。
「だろ?もっと褒めてもいいんだぜ!」

 言葉に合わせて前足で地面をトントンと叩き、尻尾を楽しげに勢いよく揺らす。
 その仕草には隠しきれない満足感と嬉しさが溢れ、自然と場の雰囲気を和ませていた。

 そんなユーマの様子に、澪たちは自然と笑顔を交わし合った。



 澪たちは市場を抜け、人混みから少し離れた街外れへと向かった。

 緩やかな坂道の途中、石造りの建物の影がちょうど涼しく、近くの大きなオリーブの木の下には平らな岩がいくつか並んでいる。
 休むのにぴったりの場所だった。

「ここならゆっくりできそうだね。」
 奏多がそう言って岩の一つに腰を下した。

 夏輝は早速、袋からパンを取り出し、嬉しそうに声を上げた。
「よし、食べようぜ!いただきまーす!」

 パンを一口頬張った夏輝の顔が、一瞬で笑顔に変わる。
「うわっ、これめっちゃ美味い!外はカリッとして中はしっとり、噛むたびに甘みが広がる!」

 澪も隣の岩に腰を下ろし、ブドウを手に取って一粒口に放り込んだ。
「うん、これもすっごく美味しい。甘さがしっかりしてて、ジューシーで最高だね。」

 奏多はイチジクを手に取り、静かに一口かじった。
「濃厚な味だね。イチジクって、こんなにしっかりした味がするんだ。」

 ユーマは尻尾を揺らしながら鼻を鳴らし、パンをちらりと見て言った。
「おい、パン少しよこせよ。俺の魔法のおかげなんだからな。」

 夏輝が苦笑しながらパンを一切れ差し出すと、ユーマは満足げに前足で受け取った。
「うめぇ!やっぱり俺がいないとダメだな!」

 夏輝が笑いながら声を上げた。
「それはもうわかったよ!」

 木漏れ日の下、澪たちはそれぞれ買った食べ物を分け合いながら、穏やかな休息のひとときを楽しんでいた。

 涼しい風が頬を優しく撫で、静かな時間が、疲れた体と心を少しずつ癒していく。



 夏輝がパンを平らげると、勢いよく手を叩きながらにっこりと笑った。
「いやー、美味かった!でも、まだ全然余裕だ。他のも買ってこようぜ!」

 奏多が少し驚いたように顔を上げた。
「また行くの?市場は人が多いし、あんまり目立つと面倒なことになりそうだけど。」

 だが、夏輝はニヤリと笑いながら立ち上がり、軽く伸びをした。
「いやいや、こんな機会滅多にないだろ?せっかくだし、この市場で何か面白いもの探してくるよ!」

「探してくるって、ちょっと待ってよ、夏輝!」
 澪が慌てて声をかけるが、夏輝は手を振りながら軽やかな足取りで市場の方へ向かっていく。

「本当に行っちゃったよ…。まあ、あの性格じゃ止めるのは無理だね。」
 奏多は小さく溜め息をつきながら、苦笑混じりに言った。

 澪も苦笑しながら肩をすくめる。
「迷子にならなきゃいいけど。」

 ユーマは尻尾を揺らしながら鼻を鳴らし、少し呆れたように言った。
「まったく、あいつは相変わらずだな。」

 三人は夏輝の背中を見送りながら、少し離れた木陰で帰りを待つことにした。



 夏輝は市場の中を歩きながら、活気に満ちた雰囲気に目を輝かせていた。
「おお、やっぱりすげーな!いろんなものが売ってる!」
 
 炭火で焼かれた肉や魚の香りが漂い、蜂蜜菓子の甘さが鼻をくすぐる。
 その誘惑に、夏輝の足が自然と止まった。

 夏輝は屋台を巡りながら、目を輝かせて品物を眺めたり、店主と軽い冗談を交わしたりしていた。
 気づけば両手には湯気を立てる肉串やこんがり焼かれた魚、甘い香りの菓子がぎっしりと抱えられている。

「これ見たら、みんな喜ぶだろうな!」
 満足そうな笑みを浮かべ、夏輝は軽い足取りで仲間たちの元へ向かった。



 市場の賑わいに紛れるように、少し離れた場所から二人の男が夏輝の後ろ姿をじっと追っていた。

 彼らの視線は、夏輝が次々と屋台で金を使い込む様子に集中している。
 無防備に見える彼の背中は、二人にとって絶好の獲物に映っていた。

「見ろよ、あのガキ。」  
 中年男が低い声で囁き、粗布の一端を頭に巻いて顔を隠すようにしながら、人ごみの中から様子を伺う。  
「銀貨を惜しげもなく使ってやがる。気前がいいっていうか、無防備っていうか…。」  

 若い男が視線を細め、夏輝をじっと見つめる。  
「ああ。子供のくせに、ずいぶん金を持ってるな。」  

 中年男が口元を歪めて笑う。
「気づかれるなよ。俺たちのやり方、忘れるな。」

 二人は人混みの中に溶け込みながら、徐々に夏輝との距離を詰めていく。
 若い男の目が一瞬、夏輝の背中に吸い付くように固定された。

 市場全体が夕闇に包まれ始め、赤く染まった陽が建物の間に長い影を落とす。
 ちらほらと灯る屋台の明かりが、不穏な影をかすかに照らした。

 一方、夏輝は何も気づかず、軽い足取りで歩き続ける。
 日暮れの中、じわりじわりと近づく二人の影が、その背中に狙いを定めていた。
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