時代を越えてお宝探し!?黒猫と僕らの時空大冒険

空道さくら

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第1章

第17話:夏輝!大丈夫!?

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 ミオたちは町はずれの木陰で、夏輝ナツキの帰りを待っていた。

 夕陽はすでに沈み、空は茜色から深い藍色へ変わりつつあった。
 木々が長い影を落とし、涼しい風が草の間を滑り抜ける。
 遠くには街の灯りがちらちらと揺れ、静けさだけが辺りを支配していた。

 奏多カナタが空を見上げ、眉をひそめた。
「遅いね…絶対何かに夢中になってるよ。」

 澪も頷きながら、少し不安そうに辺りを見渡した。
「そうだね。こんなに遅いのはちょっと心配かも。」

 その時、ユーマがぴくりと耳を立てた。
「なんか嫌な感じがする…。」

 そう言うと、ユーマは尻尾を振り上げ、一目散に市場の方へ駆け出した。

「ユーちゃん!ちょっと待ってよ!」
 澪は慌てて立ち上がり、奏多とともにその後を追った。
「こんなに急いで…どうしたの?」

 奏多も険しい表情で頷く。
「もしかしたら、夏輝が危ないのかも。」



 市場の奥、薄暗い路地で、夏輝は二人の男にじわじわと追い詰められていた。

 一人は若く痩せた男で、目つきは鋭く、口元には不気味な笑みが浮かんでいる。
 もう一人は中年のがっしりした体格の男で、無言ながらも視線は冷たく、重い威圧感を漂わせていた。

 若い男が不気味に笑いながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。
 中年男は背後に回り込み、無言のまま夏輝の退路をふさぐように立ち塞がった。

 市場の喧騒は遠く、周囲は異様な静けさに包まれている。
 夏輝の額にじわりと汗が滲み、喉がひとりでにごくりと鳴った。

「おい、坊主。」
 若い男の低く響く声が、空気をさらに重くする。
「ちょっと話をしようじゃねえか。」

 その視線はまるで獲物を定めた猛獣のようだった。

 夏輝の背中に冷たい感覚が走る。
「な、なんだよ?俺、急いでるんだ!」

 必死に声を張り上げるが、返ってくるのは二人の薄ら笑いだけだった。

「そう慌てるなよ。ただ、お前が持ってる金を少し分けてくれればいいんだ。」
 若い男が冷たく笑いながら、夏輝の肩を掴む。

「ちょっ…!放せって!」
 夏輝が振り払おうとするが、相手の力は圧倒的だった。

 中年男は背後に立ったまま、じっと夏輝を見下ろしていた。
 若い男が肩を掴んだ手にさらに力を込め、夏輝を動けないように押さえつけた。

 その時――。



「おい、そこで何をしている。」
 低く響く声が路地に満ち、空気が一瞬で引き締まった。

 二人の男は一瞬驚いたように目を見合わせた。
 次の瞬間、若い男が振り返り、中年男も声の方に注意を向ける。

 肩には獅子の毛皮を纏い、鋭い青い瞳が二人の男をじっと見据える。
 その眼差しには容赦のない力強さが宿り、まるで彼らの心を見透かすようだった。

 無駄のないその装いと圧倒的な存在感は、まるで人知を超えた力そのものが立ち現れたかのようだった。

「なんだ、あんた…?」
 中年男が怯えたように後ずさる。

 だが、大男は一歩、また一歩と彼らに近づき、低く力強い声で言葉を紡いだ。
「弱い者を脅す行いは許さない。今すぐ立ち去れ。」

 二人はその迫力に圧倒され、言葉を失った。
 中年男が小さく舌打ちしながら後ずさり、若い男は視線を逸らして慌てて大男との距離を取る。

「くそっ、行こう。」
 中年男がそう呟くと、二人は背を向けてその場を立ち去った。



 路地が静まり返った直後、軽やかな足音が近づいてきた。

「おい!そこのでかいの!」
 ユーマが勢いよく駆け寄り、目を吊り上げて大男を鋭く睨みつける。
「夏輝をどうするつもりだ!俺の仲間に手を出すなんて許さないからな!」

「ちょ、ユーマ、待てって!」
 夏輝が慌てて立ち上がり、ユーマの前に立ちはだかった。
「この人は違うんだ!助けてくれたんだよ!もしこの人が来なかったら、俺、どうなってたか…。」

 夏輝の声は少し震えていたが、その表情には助けられたことへの安堵が滲んでいた。

 ユーマは一瞬驚いたように目を丸くし、次に鼻を鳴らして大男を見た。
「…助けた、ねえ。」

 そのまま大男に近づき、鼻をひくひくと動かして匂いを嗅いだ。
 途端に目を細め、口元に薄い笑みを浮かべながら、意味深な表情を見せた。



 その時、澪と奏多が息を切らしながら路地に駆け込んできた。

「夏輝!大丈夫!?」
 澪が駆け寄り、夏輝の肩に手を置いて顔を覗き込む。

「澪、奏多!俺、さっき変な奴らに絡まれてさ…でも、この人が助けてくれたんだ!」
 夏輝が大男を指差しながら説明すると、澪と奏多もようやく彼の存在に気付き、驚いたように目を見開いた。

 澪が一歩近づき、恐る恐る声を掛けた。
「あなたが…助けてくれたんですか?本当にありがとうございます。」

 深々と頭を下げる澪に、彼は静かに頷き、落ち着いた声で答えた。
「見て見ぬふりはできなかった。それだけのことだ。」

 夏輝は澪の隣に立ち、真剣な表情で頭を下げる。
「本当にありがとうございました!あのままだったら、どうなってたか…感謝してもしきれません!」

 彼は少し照れたように肩をすくめ、軽く手を振った。
「大したことじゃないさ。気にするな。」

 その堂々とした振る舞いに心を打たれた夏輝が、思わず尋ねた。
「あの、よかったら名前を教えてもらえませんか?」

 大男は一瞬考え込むように視線を遠くにやり、やがて静かに首を振った。
「名乗るほどの者ではないさ。」

 その言葉に、夏輝は戸惑ったような顔を見せたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「そうですか。でも、本当に助かりました!ありがとうございました!」



 夏輝の感謝の言葉を横で聞きながら、奏多はふと視線を大男に向けた。
 ただならぬ雰囲気を感じ取り、その存在に目が離せなかった。

 肩に掛けられた獅子の毛皮と圧倒的な体格。その堂々たる存在感は、まさに神話の英雄そのものだった。

「…まさか。」
 奏多は小さく息を呑み、疑念を確かめるように静かに口を開いた。
「あなた…もしかしてヘラクレスさんですか?」

 その言葉に、澪は目を見開いて奏多を振り返る。
「えっ、ヘラクレスって…あの神話の?」
 声に驚きと戸惑いが混ざり、思わず大男と奏多の顔を交互に見比べる。

 大男は肩に掛けた獅子の毛皮を軽く撫で、穏やかな笑みを浮かべた。
「そうだ、俺はヘラクレスだ。」

 その一言に、夏輝は興奮を隠せず声を上げる。
「マジか!本物のヘラクレス!?すごい、神話の英雄に会えるなんて!」

 澪は驚きのあまり言葉を失いながらも、大男をじっと見つめた。
「まさか、本当に…。」

 一方、ユーマは尻尾を揺らしながら、口元に小さな笑みを浮かべていた。



「俺、助けてもらったのに、このままじゃ気が済まないです!」
 夏輝は真剣な表情で大男――ヘラクレスに向き直った。
「何かお礼をさせてください!俺にできることがあれば、何でも言ってください!」

 ヘラクレスは夏輝の真剣な表情を見て、静かに首を振った。
「礼はいいさ。それより、何か困っていることがあれば言ってくれ。せっかくの縁だ。」

 その言葉に、澪たちは顔を見合わせた。

 夏輝は少し苦笑しながら首を振った。
「いや、本当に大丈夫です。助けてもらっただけで十分なんで…。」

 しかし、ヘラクレスは微笑みを浮かべたまま、一歩前に出た。
「そうか?本当に何もないのか?なんでもいいんだぞ。」

「困ってること…。」
 澪は考え込むように視線を落とした。

 奏多が腕を組みながら静かに言った。
「実を言うと、今日はまだ泊まる場所を決めてないんだよね。街の宿を探すつもりだったけど、遅くなっちゃったし…どうしようか。」

 その言葉に、澪は小さく頷いた。
「ああ、確かに。」

 夏輝は勢いよく手を叩き、ヘラクレスに向き直った。
「ヘラクレスさん、もしよかったら、泊まれる場所とか教えてもらえませんか?」

 そう言いながら、夏輝の表情には期待と少しの不安が混じっていた。
 困った時に頼れる相手がいることへの安堵と、英雄へのお願いをする気後れが同時に浮かんでいるようだった。

 ヘラクレスは一瞬考え込むように目を閉じたが、やがて穏やかな笑みを浮かべ、澪たちに向き直った。
「この街のことは詳しくないが、一緒に探してみよう。」

 澪たちはその言葉に頷き、ヘラクレスの大きな背中を頼りに歩き出した。

 静かな夜風が心地よく吹き抜ける中、彼の堂々とした歩みを見ていると、自然と胸の奥に温かな安心感が広がっていく。

 この夜だけは、何も心配する必要はない――そう感じられる穏やかなひとときが、澪たちを包み込んでいた。
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