時代を越えてお宝探し!?黒猫と僕らの時空大冒険

空道さくら

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第1章

第30話:何……これ……?

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 歪んだ笑みを浮かべたヘラクレスの体が、不気味に震え始めた。
 次の瞬間、彼の全身が淡い光に包まれ、その輪郭が揺らめくように歪んでいく。

「まあ、こんなに早く見抜くなんて。ふふ……賢いのね。」
 低い声から徐々に変化していき、やがて響き渡るのは冷たくも妖艶な女性の声だった。

 ミオたちの目の前で、ヘラクレスのたくましい体が眩い光に包まれた。
 全身は瞬く間に白い輝きの中に溶け込んでいく。

 一瞬の静寂の後、光が消え去ると、そこには長い金髪と冷たい輝きを宿した目を持つ女性が立っていた。
 その姿は、神秘的な威厳と冷ややかな美しさを放っていた。

「ヘラ……?」
 澪は息を飲み、震える声で呟いた。

 その言葉に、ヘラの目がわずかに細められた。
 静かに目を閉じたかと思うと、次に開いたその瞳には、威圧感が滲んでいた。

「……ヘラですって?」
 ヘラの低い声には、静かに湧き上がる怒気が滲んでいた。
「そのような安易な呼び方を許すほど、私は寛容ではないのよ。」

 ヘラはゆっくりと澪に歩み寄り、その視線が鋭く光った。
「もう一度、正しい敬意を込めて私の名を呼びなさい。そうでなければ……」

 ヘラは澪にゆっくりと歩み寄り、顔を近づけた。

 不気味な笑みを浮かべながら、ヘラが耳元で囁く。
「ふふ、あなたは――」

 澪はその声に身を強張らせ、思わず息を呑んだ。
 逃げるように顔を背けたい衝動を必死に抑える。

「そんなこと、どうでもいいだろ!」
 鋭い声がその言葉を遮った。



「ヘラクレスさんはどうした!」
 夏輝ナツキが一歩前に踏み出し、怒りを込めて叫ぶ。

 その言葉に、ヘラの眉がピクリと動いた。

「そんなこと?」
 彼女の声には、凍えるような威圧感が宿っていた。
「私を呼び捨てにするなんて、絶対に許されることではないわ。」

 夏輝はぐっと息を吸い込み、足元に迫るヘラの威圧を振り払うように立ち続けた。
 その目には、決して屈しないという強い意志がはっきりと宿っていた。

 その中で、奏多カナタが一歩前に進み出た。

「申し訳ありません、ヘラ様。」
 彼は深く頭を下げ、しっかりとした声で続けた。
「この男が無礼を働きました。どうか彼に代わってお詫び申し上げます。」

 夏輝は奏多の行動に目を見開き、すぐに顔をしかめた。

「奏多!なんでそんな奴に頭を下げるんだよ!」
 彼は怒りを抑えきれず、声を荒げた。
「こんな奴にそんな態度を取る必要なんかないだろ!」

 その瞬間、ヘラの目つきが鋭く変わり、夏輝をじっと睨みつけた。

 奏多はそれに気づき、すぐに夏輝を振り返ると、低い声で叱った。
「夏輝、そんな態度を取らないで!」

 夏輝は納得がいかない様子で言い返した。
「でも、なんで俺たちが頭を下げなきゃならないんだよ!」

 奏多は声を潜め、真剣な目で夏輝を見据えた。
「いいから聞いて。今ここで怒らせたら、どうなるかわかるだろ?」

 夏輝は、奏多の真剣な表情に視線をそらし、ため息混じりに言った。
「……わかったよ。」

「申し訳ありません、ヘラ様。お許しください。」
 奏多は一歩前に進み、改めて深く頭を下げた。

 渋々ながらも、夏輝もゆっくりとヘラに向かって頭を下げた。



「あなたは分別があるようね。」
 ヘラは唇の端をわずかに上げた。
「けれど……謝罪だけで私が満足するとでも?」

 奏多はさらに深く頭を下げ、必死に言葉を重ねた。
「ヘラ様、どうか寛大なお心をお見せください。私たちは愚かで未熟です。ですが、この場で誠心誠意謝罪することしかできません。」

 その言葉に、ヘラの目がわずかに細められた。
「誠心誠意?」

 彼女はゆっくりと歩み寄り、奏多を見下ろすように立ち止まった。

 奏多はその視線を受け止めながら続けた。
「どうか、この謝罪を受け入れてください。ヘラ様の偉大さを知らず、無礼を働いた私たちの罪をお許しください。」

 ヘラはしばらく黙り込み、鋭い視線で奏多を見つめていたが、やがて小さく息をついた。
「まあいいわ。あなたのような者がいるなら、これ以上時間を割くのも無駄でしょう。」

 彼女はゆっくりと顔をそらし、冷たい声で言い放った。
「ただし、次はないと思いなさい。」

 その言葉に、奏多は安堵の息をつきながら頭を下げた。
「ありがとうございます、ヘラ様。」

 奏多の謝罪が受け入れられ、場の空気がわずかに緩んだ。



 澪が勇気を振り絞って口を開いた。
「ヘラ様……一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 ヘラは澪を見下すような冷ややかな視線を向けた。
「何かしら?」

 澪は震える声を抑え込むように、静かに尋ねた。
「ヘラクレスさんは……今どこにいるのですか?彼は無事なのでしょうか?」

 ヘラは髪をかき上げながら、わずかに唇を歪めた。
「ヘラクレス?あれなら、園に捨ててきたわよ。」

 その声には微かな嘲笑が混じり、冷酷さがはっきりと滲んでいた。

 その言葉に夏輝は怒りに満ちた顔で一歩前に踏み出した。
「捨ててきたって……!」

 しかし、その瞬間、奏多が素早く夏輝の腕を掴み、首を振った。
 その静かな仕草には、「やめろ」と言わんばかりの強い意思が込められていた。

 夏輝は歯を食いしばりながら言葉を飲み込んだ。

「あんな偽物のことなんか、どうでもいいわ。」
 ヘラは視線を澪たちに向け、淡々と続けた。
「それより……黄金のリンゴを返してもらえるかしら?」

 次の瞬間、唇に浮かぶ笑みが僅かに深まる。

「私が気づかないとでも思ったの?」
 その声には嘲るような響きが混じり、澪たちを圧倒する重みが込められていた。

 澪は困ったような表情を浮かべ、思わずユーマの方を見た。

 ヘラが澪の視線を追いながら、思い出したかのように口を開いた。
「そういえば……その猫、言葉を話していたわね。」

 彼女の視線が鋭くユーマを捉え、その目には淡い興味が浮かんでいた。



 ユーマは何事もなかったかのように前足で顔をぬぐい、ゆったりと伸びをした。
 そのまま尻尾を軽く揺らしながら地面に転がり、無防備な仕草で体を丸める。

 ヘラはじっとユーマを見つめ、その瞳に冷たく鋭い光を宿した。
「私がそんな見え透いた芝居に騙されると思って?」

 低く響く声には怒気がこもり、周囲の空気が一瞬にして張り詰めた。

 ユーマは一瞬だけ耳を動かし、軽く鼻を鳴らすと、澪の足元で丸まり直した。
 尻尾をわざとゆっくり揺らし、相変わらずの猫らしい仕草を見せる。

「しらを切るつもりなのね。」
 ヘラの声が一層鋭さを帯び、その言葉が場の空気をより重く締め付けた。

 ユーマは丸くなったまま動かずにいたが、ヘラの鋭い視線が突き刺さると、ふっと鼻を鳴らして立ち上がった。
「あー、騙せなかったか……」

 軽く肩をすくめる仕草で笑いながらごまかし、尻尾を一振りする。

 そして、素早く澪たちに目を向け、低い声で告げた。
「逃げるぞ!」

 その瞬間、ユーマが地面を蹴り、澪たちを促すように走り出した。

「ちょっと、待って!」
 澪が慌ててその後を追いかけ、夏輝と奏多も驚きつつ足を動かす。

「逃がすと思っているの?」
 ヘラの冷たい声が背後から響き渡った。

 その瞬間、彼女が軽く指を動かすと、地面から黒い蔦のような影が伸び上がり、澪たちの足元を狙った。
 澪たちは驚きのあまり足を止め、伸び上がる影に言葉を失った。

「何……これ……?」
 澪が震える声で呟き、夏輝と奏多もまた影の動きを凝視していた。

 ヘラは悠然と歩みを進めながら、薄く微笑んだ。
「愚かな子供たち。逃げるつもりなら、もっと賢い方法を考えなさい。」

 その声が響く中、澪たちはただ呆然と立ち尽くしていた。



 澪たちが呆然と立ち尽くす中、ユーマは一つ大きく息を吸い込んだ。

「……やるしかねえか。」
 低く呟きながら、前足で地面を力強く叩き、尻尾を高く掲げる。

 その瞳には覚悟が宿り、ユーマは地面を蹴って勢いよくヘラに突っ込んだ。

「おい、こっちだ!」
 挑発するように声を上げながら、一直線にヘラに向かって突っ込んでいく。

「ユーちゃん!?」
 澪が困惑した声を上げた。

 ユーマは振り返りもせずに全てを背負う覚悟で突き進んだ。

 だが、その動きをあっさりと見切られた。
 ヘラが軽く手を振ると、ユーマの体は宙でピタリと止まり、見えない力に縛られたように動けなくなる。

「あれっ?」
 ユーマが戸惑った声を漏らす。

「あら、せっかくの抵抗も無駄だったわね。」
 ヘラの唇に冷酷な笑みが浮かび、その手にユーマが引き寄せられていく。

 その光景に、夏輝の心が燃えるように熱くなった。

 周囲を見回し、地面に転がった太い木の棒を掴む。
 震える手でそれを強く握りしめると、息を呑みながらその先端をヘラに向けた。

「くそっ……!」
 彼は棒を拾い上げると、全身を震わせながらそれを握りしめ、ヘラに向かって突き出した。

「離せ!」
 怒りが滲む目でヘラを睨みつけ、全身に緊張が走っていた。
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