時代を越えてお宝探し！？黒猫と僕らの時空大冒険

空道さくら

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第1章

第31話：……やるしかない

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　夏輝ナツキは棒を握りしめ、鋭い目でヘラを睨みつけた。
　その目には、仲間を守ろうとする強い意志が宿っていた。

　澪ミオと奏多カナタも、そんな夏輝の姿に触発され、決意を固めた。
　澪は震える手で地面に落ちていた棒を拾い、奏多もすぐそばの棒を手に取った。

「……やるしかない。」
　澪が小さく呟き、勇気を振り絞って棒を握りしめる。

　奏多も静かに棒を構え、真剣な表情を浮かべた。
　三人は視線を交わし、無言のまま小さく頷き合った。

　その様子に、ヘラは冷たく嘲笑を漏らした。
「ふふふ……人間風情が、何ができるというの？」

　ユーマは必死にもがきながら声を出そうとしたが、見えない力が口元を覆い、それを阻んでいた。

　澪たちは、もがくユーマを見つめながら、震える体で棒を握りしめた。
　それでも視線を逸らすことなく、ヘラを真っ直ぐに見据える。

　対して、ヘラは余裕の笑みを浮かべながら澪たちを見下ろしていた。
　
「そんなもので私に立ち向かうつもり？」
　そう言うと、ヘラはゆっくりと片手を澪たちに向けた。

　ヘラの手が静かに澪たちへ向けられると、空気が一気に重くなった。
　手のひらに光が集まり始め、不気味な気配が周囲を支配していく。

「愚かね……せめて痛みなく終わらせてあげるわ。」
　ヘラの低い声が静かに響き、その言葉に呼応するように光の圧力が一層強まった。

「何をしている！」
　重く響く怒声が辺りに轟いた。

　その声はあまりにも大きく、澪たちの体にまで響くようだった。
　振り返ると、土埃をまといながら、険しい顔つきのヘラクレスが堂々と歩み寄ってきた。

「やらせるか！」
　ヘラクレスは澪たちの前に立ち、自らの体でヘラの攻撃を受け止めようとした。

　その背中は、澪たちを守る頼もしい壁のように見えた。

「ヘラクレスさん！」
　夏輝が感動の声を上げ、目を輝かせながら叫んだ。
「無事だったんですね！」

　ヘラクレスは振り返ることなく、低い声で言った。
「油断するな。奴を止めるぞ。」

　ヘラは掌の光を掻き消し、薄く笑みを浮かべた。
「へえ、そんな状態で来るなんて。感心するわね。」

　ヘラクレスはその言葉に動じることなく、満身創痍の体でヘラに向かって突進した。
　しかし、ヘラは指先をわずかに動かすだけで、その体を弾き飛ばした。

「やっぱり本物とは違うわね。こんなにあっけないなんて。」
　冷たい声が澪たちの耳に突き刺さった。

　地面に叩きつけられたヘラクレスを見て、澪たちは息を呑むしかなかった。

「もう飽きたわ。」
　ヘラはつまらなそうに肩をすくめて言う。
「次はあなたたちよ。可愛らしい蛇にしてあげるわ。」

　その言葉とともに、ヘラの手が澪たちに向けられる。

「やめろ！」
　ヘラクレスが血を流しながら体を起こし、怒りに満ちた声を上げた。
「俺の仲間に手を出すな！」

　ヘラは冷たく笑いながら、軽蔑の目でヘラクレスを見下ろした。
「偽物のあなたに、一体何ができるというの？その程度の力で私を止められるとでも？」

　ヘラの掌がまばゆい光を帯び始めた。
　微笑みを浮かべたまま、余裕たっぷりに言葉を続ける。
「まあ……大人しく見ていなさい。」

　その言葉が響く中、ヘラクレスは静かに目を閉じた。
　一瞬の静寂が場を包む中、彼は深く息を吸い込み、口元に不敵な笑みを浮かべた。

　やがて目を開き、ゆっくりと立ち上がってヘラに向き直った。
「隠しておきたかったが……しょうがない。」

　その瞬間、彼の体からまばゆい光が放たれ、澪たちの視界を覆った。

　風が渦を巻き、地面がかすかに震える中、ヘラクレスの姿が変わり始める。

　たくましい筋肉に覆われた体は徐々に引き締まり、優雅で整ったシルエットが浮かび上がった。
　まばゆい光の中、神秘的な雰囲気を纏う和装の男性へと姿を変えていく。

　その姿は、威厳と優雅さを兼ね備え、立っているだけで圧倒的な存在感を放っていた。
　腰には美しい鞘に収められた刀が静かに揺れ、その存在がさらに神秘的な雰囲気を際立たせている。

　新たな姿となった彼は、力強い目でヘラを見据え、静かに笑みを浮かべた。

「ヘラクレスさん……なの？」
　澪が震える声で問いかけるが、彼は答えず、ただヘラを静かに見据えたままだった。

　澪を背後に庇うように一歩前へ進み出た彼は、長い黒髪を風になびかせながら、静かに口を開いた。
「この方に手を出させるわけにはいかない。」

　その声には揺るぎない決意と鋭い力が込められていた。

　ヘラは小さく鼻で笑い、腕を組みながら言った。
「姿が変わったからって、私に勝てるとでも？愚かな自信ね。」

　彼は微笑みながらも、目に強い光を宿してヘラを見据えた。
「試してみるか？俺の本当の力を。」

　その言葉とともに、彼の体から眩い稲妻が迸った。

　稲妻は彼の周囲を走り、刀へと流れ込む。
　彼がその柄を静かに握り締めた瞬間、全身から溢れるような力が周囲に放たれた。

　ヘラはユーマを軽く放り投げ、冷笑を浮かべながら手をかざした。
「いいわ、その自信がどれだけのものか確かめてあげる。」

　すると、周囲に冷たい霧がじわじわと漂い始めた。

「はっ！」
　彼が腰の刀を抜き、一閃すると、鋭い光の刃が空気を裂いてヘラへと迫る。

　ヘラは静かに手を上げ、周囲の霧を瞬時に氷へと変える。
　氷の壁が光の刃を受け止め、鋭い音を立てながら砕け散った。

　飛び散った氷の破片が冷気を広げ、澪たちは息を呑んだ。
　場全体が凍りついたかのような静寂が訪れる中、緊張だけが漂っていた。

　彼は迷うことなく地を蹴り、ヘラへ向かって突進した。
「これで終わらせる！」

　その動きはこれまで以上に速く、鋭く、澪たちは目で追うことさえできなかった。

　だが、ヘラが手を軽く振ると、空間が歪む。
　刀の刃はその力に進路をねじ曲げられ、虚しく彼女の横を通り過ぎた。

「そんなものが、この私に届くとでも？」
　ヘラは口元に静かな微笑を浮かべ、言い放った。

「まだ試す余地はあるだろうさ。」
　彼もまた、わずかに微笑みながら刀を構え直し、静かに答えた。

　二人は互いににらみ合い、その間に張り詰めた緊張が漂う。
　澪たちは息を飲み、その場に立ち尽くすしかなかった。

　稲妻をまとった刀が煌めき、ヘラが冷たい霧を漂わせる。
　二人の視線が交錯し、次の瞬間、激しい戦いが始まった。

　二人の戦いを見守っていた澪たちの元へ、ユーマが駆け寄ってきた。
「おい、今のうちに元の時代に戻るぞ。」

　澪はユーマの言葉に目を見開き、戸惑いを隠せない様子で問いかけた。
「えっ？でも、ヘラクレスさんをほっといていいの？」

　ユーマは軽く鼻を鳴らし、尻尾をひょいと揺らしながら笑った。
「いいだろ、あいつなら何とかするさ。」

　ユーマの言葉に、澪と奏多は顔を見合わせ、迷いながらもその場から離れようと足を動かした。

「待てよ！」
　夏輝の鋭い声が、足を止めさせた。

　夏輝はその場で踏みとどまり、二人をじっと見つめた。

「置いて行けるわけないだろ！」
　夏輝が拳を握りしめながら怒りを込めて声を上げた。
「俺たちの代わりに戦ってくれてるんだぞ！」

　その視線は戦い続ける彼の背中を真っ直ぐに捉えていた。

　奏多は慎重に言葉を選び、静かに言った。
「僕たちは……邪魔になるだけだよ。」

　その言葉に夏輝は、目を伏せ声を震わせながら苦しげに口にした。
「でも……ほっとけるわけないだろ……」

　肩を震わせながら涙を堪えようとしている夏輝の姿に、澪は胸が締め付けられる思いだった。

「夏輝……私たちだって同じ気持ちだよ。」
　澪は静かに夏輝の肩に手を置き、優しく語りかけた。
「でも、もしここで私たちが足を引っ張ったら、あの人の覚悟を台無しにしてしまうかもしれない。」

　夏輝は顔を伏せたまま、唇をぎゅっと噛みしめた。
「でも……」

　小さな声が漏れるが、言葉の続きを紡ぐことはできなかった。
　
　澪は顔を上げ、夏輝を真っ直ぐに見つめた。
「だから、私たちにできることをしよう。黄金のリンゴを持って戻る。それがあの人の想いに応えることだと思うんだ。」

　夏輝は目を閉じ、深く息を吐き出した。
　その顔には、抑えきれない悔しさと葛藤が入り混じっていた。

　奏多がそっと夏輝の肩に手を置く。
　その仕草には、言葉では伝えきれない思いやりが込められていた。

　夏輝は拳を強く握りしめ、少し震える手を胸元に引き寄せる。
　顔を上げると、その瞳には覚悟が宿り始めていた。

　小さく頷いた後、決意を固めるように一言、力強く口にした。
「……わかった。ヘラクレスさんを信じる。」

　その声には、未練を抱えながらも、確かな覚悟が感じられた。

「よし、帰るぞ！」
　ユーマが笑みを浮かべながら澪たちを促した。

　戦いの音が徐々に遠ざかる中、澪たちは振り返らずに足を動かした。
　心に秘めた祈りは、ひとつ――ヘラクレスの無事を信じて。

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