時代を越えてお宝探し！？黒猫と僕らの時空大冒険

空道さくら

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第1章

第32話：ありがとう、ユーちゃん

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　澪ミオたちは戦いの場を後にし、足早に森の中を進んでいた。
　遠くで木々を揺らすような轟音が響き渡り、二人の戦いの激しさを物語っていた。

「ヘラクレスさん、大丈夫かな……。」
　澪が不安そうに呟いた。

「心配だね……。」
　奏多カナタも静かに答え、遠くの音に耳を傾けながら小さく眉を寄せた。

　その隣で夏輝ナツキは拳を強く握りしめ、うつむきながら足を進めていた。

「そういえば――」
　ユーマが尻尾をひょいと揺らし、目を細めていたずらっぽい笑みを浮かべた。
「あいつ、ヘラクレスじゃなかったみたいだな！」

　奏多は一瞬考え込み、視線を落として呟いた。
「……何者なんだろうね。」

「そんなのどうでもいいだろ！」
　夏輝が拳を握りしめ、力強く言い放った。
「俺にとっちゃ、英雄だってことに変わりはねえんだ！」

「うん……そうだよね。」
　澪が夏輝の言葉にそっと頷き、優しく寄り添うように答えた。

　微かに響く衝撃音が耳に届く中、澪は足を止めて振り向いた。
　視線を一瞬だけ落としたその時、背後から声が響く。

「おい、置いてくぞ！」
　尻尾を揺らしながら、ユーマが軽い調子で声をかけた。

「……うん。」
　澪は前を向き直して足を速めた。

　三人の足音が、森のざわめきと溶け合いながら続いていった。

　澪たちが森を抜けると、広々とした草原が目の前に広がっていた。
　空から降り注ぐ柔らかな光が草の上に影を落とし、どこまでも続く緑が風に揺れている。

　ユーマは足を止め、くるりと振り返った。

「そろそろいいだろ！」
　笑みを浮かべながら尻尾を揺らし、その声には弾む明るさが満ちていた。

「ようやく戻れるな！」
　足元で小さく跳ねながら、目を輝かせて続けた。

「お前、なんか楽しそうだな。」
　夏輝が横目でユーマを見ながら軽く肩をすくめた。
「ヘラクレスさんは、まだ戦ってんだぞ？」

　ユーマは耳をぴんと立て、にやりと笑った。
「へへ、そのおかげで帰れるんだよな。」

　夏輝は小さくため息をつき、視線を逸らした。
「少しは心配しろよな。」

「ユーちゃん。少しは夏輝の気持ちも考えてあげなよ。」
　澪が諭すように言った。

「まあ、うれしいんだろうけどね。」
　奏多が肩をすくめて言った。

「してる、してる。心配してるよ。」
　ユーマは鼻を鳴らし、少し面倒くさそうに答えた。

　その言葉に、夏輝はやれやれと首を振り、肩をすくめた。

「おい！お前ら、待て！」
　突然、後方から鋭い声が響いた。

　振り返ると、木々の間から警備兵がこちらに向かって走ってくるのが見えた。

「まずい！追ってきたぞ！」
　奏多が慌てて声を上げた。

「お前らがグダグダ言ってるからだろ！」
　ユーマが苛立ちを隠さず声を上げた。
「さっさと帰るぞ！」

　そう言うと、ユーマは目を閉じて深呼吸をした。

　ユーマの体から淡い金色の光が滲み出し、周囲を静かに包み込む。
　風が渦を巻き始め、森のざわめきが一瞬だけ消えた。

　ユーマは前足をかざし、低い声で呪文のような言葉を紡ぎ始める。
　その声に応えるように地面がわずかに震え、光は次第に鮮やかさを増していった。

「ヘラクレスさん……」
　夏輝は拳を握りしめ、苦渋の表情を浮かべた。

「夏輝、きっと大丈夫だよ。」
　澪がそっと肩に手を置き、優しく声をかける。

　その言葉に、夏輝はわずかに顔を上げ、小さく頷いた。

　光は次第に強まり、足元にぼんやりとした輪を描き出す。
　その輪は脈打つように輝きを増し、鮮やかさを帯びていった。

　澪たちの周囲を柔らかな光が包み込み、空間が静かに歪み始めた。

「いいか？行くぞ！」
　ユーマが合図をした瞬間、光が一気に爆発するように瞬いた。

　澪たちはふわりと宙に浮く感覚に包まれた。
　目の前の景色がゆっくりと歪み始め、森が溶けるように消え去っていく。

　やがて視界がぐるりと反転する。
　次に目を開けた時、そこは中学校の理科準備室だった。

「うわっ！」
　突然、大声が響いた。

　澪たちは思わず身を縮め、その方向に目をやった。
　見ると、西本先生が尻もちをついていた。

「君たち……帰ってきたのか？」
　先生は慌てて立ち上がり、大きく息をついて、澪たちの方へ視線を向けた。

　その声には心底ほっとした様子が滲んでいる。

　奏多は少し慌てた様子で声をかけた。
「先生、大丈夫ですか？」

　西本先生は苦笑いを浮かべながら言った。
「はは、急に現れたから驚いたよ。」

　澪は苦笑いを浮かべ、申し訳なさそうに言った。
「すみません、先生。」

　西本先生は胸に手を当て、柔らかな笑みを浮かべた。
「でも安心したよ。本当に心配してたんだからな……。」

　その様子を見て、ユーマがくすくすと笑った。
「そんな心配だったのか。」

　西本先生はユーマをじろりと睨みつけた。
「当たり前だろ！」

　澪は小さく頭を下げ、柔らかな笑みを浮かべた。
「先生、ありがとうございます。心配かけてごめんなさい。」

　その言葉に、西本先生は優しげなまなざしを澪に向け、柔らかな笑みを浮かべた。

　西本先生は意外そうな表情を浮かべて言った。
「でも、10分も経たないうちに戻ってくるなんてね。」

「えっ、たった10分？」
　澪が目を見開き、信じられないというように声を漏らした。

「1日以上たってるはずだよ！どういうこと？」
　奏多が眉を寄せて困惑した様子で問いかける。

「気を効かせてやったんだよ。」
　ユーマが軽く鼻を鳴らし、得意げに尻尾を揺らした。
「出発した10分後に戻ってきたんだ。」

「そうだったんだね。」
　澪がほっとして微笑んだ。
「パパとママに心配かけなくて済んだよ。ありがとう、ユーちゃん。」

「当たり前だろ！」
　ユーマはにやりと笑い、耳をピンと立てた。
「俺を誰だと思ってんだ？」

　ユーマの言葉に澪たちは思わず笑い声を上げた。

　ふと澪が夏輝に目を向けると、彼の表情はまだどこか沈んでいた。

「夏輝、ほら元気出してよ。」
　澪は優しい声で語りかけながら、彼の肩を軽く叩いた。

　ユーマが呆れたように鼻を鳴らしながら言った。
「お前、静かだと思ったら、まだ落ち込んでたのかよ。」

　その言葉に夏輝は顔を上げ、少しむっとした表情で言い返した。
「別に落ち込んでるわけじゃねえけどさ……。」

　ユーマは西本先生に視線を向け、にやりと笑った。
「心配すんなよ。ヘラクレス様は無事だよ。な、先生？」

　西本先生は一瞬戸惑い、目を瞬かせたが、すぐに小さく頷いて答えた。
「そ、そうだな。きっと大丈夫だよ。」

　夏輝が西本先生の方に目を向け、わずかに表情を和らげた。
「先生がそう言うなら、大丈夫な気がしてきた。」

　奏多が首をかしげながら口を開いた。
「あれ？先生にはまだヘラクレスさんのこと、話してないよね？」

　その言葉に、西本先生が一瞬目を泳がせた後、ユーマを指さして誤魔化すように声を張り上げた。
「そ、そういえば！なんで私を置いて行ったんだ！」

　ユーマは西本先生の様子を見てニヤニヤと笑みを浮かべた。
「ごちゃごちゃうるさかったからだろ。」

　西本先生は腕を組み、じっとユーマを睨みつけた。
「無事だったからよかったものの、許されることじゃないぞ。」

　夏輝が軽く手を振り、間に入るように言った。
「まあまあ先生。ヘラクレスさんが助けてくれたから、大丈夫だったって！」

　西本先生は瞬きをした後、軽く頷いて落ち着いた声で言った。
「あ、そ、そうか。助けてもらったならよかった……」

　その瞬間、ユーマが尻尾を揺らしながら大声で笑い出した。
「ははは！動揺しすぎだろ？」

　澪たちは顔を見合わせ、困惑した表情を浮かべた。

「え……何がそんなに面白いの？」
　澪が首をかしげながら問いかける。

「だよな、俺もさっぱりわかんねえ。」
　夏輝も眉を寄せ、ユーマをちらりと見た。

「ここまで笑える理由が謎すぎる……」
　奏多は溜息混じりに呟いた。

「ははは！」
　それでも、ユーマは肩を震わせながら笑い続ける。

　その笑い声が理科準備室いっぱいに響き渡り、夕陽に染まる部屋に奇妙な明るさを添えていた。

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