時代を越えてお宝探し!?黒猫と僕らの時空大冒険

空道さくら

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第1章

第33話:ユーちゃん、また明日。

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 窓の外では、オレンジ色の夕陽が理科準備室に柔らかな光を投げかけていた。
 机の上には、試験管やビーカーが規則正しく並んでいる。

 西本先生が腕を組みながら、少し困ったような顔で澪たちを見た。
「それで……薬の材料は手に入ったのか?」

 ユーマが小首をかしげて問い返す。
「薬の材料?」

 一瞬考え込むような表情を浮かべた後、彼ははっとしたように声を上げた。
「ああ、材料ね。もちろん手に入ったに決まってるだろ。」

 夏輝ナツキが目を輝かせて笑いながら言った。
「ユーマ、先生に見せてあげてよ!きっと驚くからさ!」

 ユーマは尻尾を揺らしながら不敵な笑みを浮かべた。
「しょうがねえなぁ。特別に見せてやるよ。」

 軽く前足を振ると、ふわりと空間が歪むような光景が広がった。
 その中から、黄金に輝くリンゴを取り出し、両手で掲げて見せた。

 西本先生の目が驚きに見開かれる。
「これが……伝説の黄金のリンゴ?」

 先生が手を伸ばし、そっとリンゴに触れようとしたその瞬間――。



「触るな!」
 ユーマが鋭い声を上げ、慌てたようにリンゴをぐっと引き寄せた。

 その勢いに西本先生が思わず手を引っ込め、驚いたように眉を上げる。
「おい、危ないだろ!」

 西本先生が戸惑った声を上げると、ユーマはリンゴをしっかりと抱え込み、睨むように見上げた。

 ミオが不思議そうに問いかけた。
「どうして止めるの?」

 ユーマは鼻を鳴らし、少し警戒したような表情を浮かべた。
「なんか信用できないんだよな。こいつ、なんか隠してそうだし。」

 その言葉に、西本先生が驚きと少し焦ったような声で返した。
「隠せていることなんか何もないぞ!」

 そんな先生の様子を見て、ユーマはふっと口角をわずかに上げ、軽く笑った。

 澪はユーマに歩み寄り、少し困ったように眉を寄せながら優しい声で言った。
「ねえ、ユーちゃん。少しぐらいいいじゃない。」

 しかし、ユーマは全力で首を横に振った。
「駄目だ、駄目だ!苦労してやっと手に入れたんだぞ!簡単に触らせねえよ!」

 その目には、宝物を守り抜こうとする強い意思が宿っていた。

「わかったよ。そこまで言うなら、無理に触れたりはしないさ。」
 西本先生は肩をすくめて小さく笑い、軽くため息をついた。

 そんな二人のやり取りに、奏多カナタはやれやれと小さく首を振った。
 一方で、澪は微笑みを浮かべながら静かに様子を見守り、夏輝は時折小さく吹き出しながら眺めていた。



 やがて話題は冒険の出来事へと移り、みんなで感想を言い合い始めた。

「本当にヘラクレスさん、すごかったよな!」
 夏輝が身振り手振りを交えて語ると、澪が笑いながら頷いた。

「でも、あのラドンは本当に怖かったよ……。」
 澪が少し遠い目をしながら呟いた。

「最後のところ、どうなるかと思ったよ。」
 澪の言葉に、奏多が静かに肩をすくめた。
「まあ、結果的には全員無事だったし、いい経験になったと思うよ。」

 ユーマは尻尾を軽く揺らしながら笑い声を上げた。
「お前ら、あの時の顔、ほんとにおかしかったぞ!全力で逃げてたじゃねえか!」

 その言葉にみんなが思わず笑い合い、理科準備室には冒険を振り返る楽しげな声が響き渡った。

 窓の外では夕陽が沈み始め、部屋の中は次第にオレンジ色の光に包まれていく。
 澪たちはいつの間にか窓のそばに集まり、ぼんやりと空の色が変わっていく様子を見つめていた。

「……いろいろあったね。」
 澪が小さく呟くと、夏輝と奏多がそれぞれ頷いた。

 冒険の余韻を胸に、静かな夕暮れがゆっくりと訪れようとしていた。



 夏輝が大きく伸びをしながら、少し疲れた声でぼやいた。
「そろそろ帰ろうぜ。今日はもうヘトヘトだよ。」

 澪は夏輝を見て小さく笑い、優しい声で頷いた。
「うん。でも、疲れたけど、楽しかったね。」

 奏多は腕を組みながら少し考えるような表情を見せた後、穏やかに口を開いた。
「そうだね。でも、こういう経験って貴重だし、色々と勉強になることも多かったよ。」

 西本先生が手を叩いてにっこりと微笑んだ。
「ちょうどいい、今日の出来事をレポートにまとめて出してくれ!」

 夏輝が目を丸くして抗議の声を上げる。
「えっ、マジっすか!?せっかく無事に戻ってきたのに、まだ宿題っすか?」

 西本先生は肩をすくめて笑いながら答えた。
「無事に戻ってきた記念だよ。さ、しっかり思い出を残しておけ!」

 澪が苦笑しながら小さく頷いた。
「まあ、確かに貴重な体験だったしね。」

 奏多は少し悩ましげな表情を浮かべた。
「うーん、何から書こうかな……。」

 夏輝が軽く手を挙げ、笑いながら言った。
「はは、さすが奏多!やっぱり真面目だな。」

 奏多は肩をすくめ、小さなため息をついた。
「別に真面目ってわけじゃないけど、何を書けばいいか考えてるだけだよ。」

「それが真面目なんだよ!」
 夏輝が笑いながら言うと、みんながつられて笑い出した。

 笑い声が落ち着くと、西本先生が明るい声で告げた。
「じゃあ、来週の月曜日までに、ちゃんと書いてくるんだぞ!忘れるなよ!」

「えぇ~!すぐじゃん!」
 夏輝が大げさに肩を落とし、不満そうな声を上げた。

 西本先生は軽く手を振りながら、穏やかに言った。
「じゃあ今日は解散だ。ゆっくり休めよ。」

 その言葉に澪たちは頷き、それぞれ帰り支度を始めた。



 澪たちは鞄を手に取りながら、理科準備室を後にしようとしていた。

 夏輝が勢いよく立ち上がり、明るい声で言った。
「さあ、帰るか。」

「そうだね。」
 澪も立ち上がりながら、ふと気になったように顔を上げた。
「そういえば、ユーちゃんはどうするの?」

「俺はちょっと、こいつに話があるんだ。」
 ユーマは西本先生に視線を向け、にやりと笑った。

「何の話だよ?」
 夏輝が眉を上げ、少し興味を引かれた様子で問いかけた。

 ユーマは尻尾を揺らしながら軽く肩をすくめた。
「それは内緒さ。」

 西本先生も軽く笑い、ユーマの方に歩み寄った。
「私も少し話がしたかったんだ。君たちは先に帰りなさい。」

 奏多が澪に目配せしながら、小さく頷いた。
「じゃあ、そういうことなら……行こうか。」

 澪たちは名残惜しそうに理科準備室を後にする。

 扉を閉める直前、澪が振り返り、優しく声をかけた。
「ユーちゃん、また明日。」

 その言葉にユーマは振り向き、笑みを浮かべて尻尾を一振りした。
「ああ、またな。」

 扉が閉まり、静寂が訪れた理科準備室には、ユーマと西本先生の二人だけが残った。
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