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チョコレート_1

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 灯は、半ば強引に連れてこられた京獄の部屋に居心地悪くちょこんと座っていた。ドアの数から察するに、間取りは2LDK。声の響き方から、おそらく防音。そして、期待を裏切らない想像通りの配信者の部屋だった。赤のゲーミングチェアに、黒いデスク。その上にはモニターが2台とやたらでかいスピーカーが置かれている。配線が無駄なくきれいに整理されていたり、コントローラーやヘッドホンがうまく空間利用して収納されていたりと、垣間見える京獄の几帳面さは意外だった。
 灯がそんな事を考えて時間を潰していると、この部屋の家主が現れた。箱売りみかん程の大きさの、ダンボールを抱えて。

「じゃん!戦利品~」

 ご機嫌にそう言うと、ダンボールから次々と大小様々な箱を取り出す。小さなリボンがついているものや、人気キャラクターが描かれたもの、ダイヤモンドをかたどったものなど、多種多様だ。辺りに、かすかに甘い匂いが漂った。

「え、チョコ?バーゲンセールやったん?」

 京獄は、ポカン、と口を開け「信じられない」という顔で灯を見つめた。

「違う!ファンの子から!今日……日付変わってるから昨日、バレンタインだったじゃん!」

「……あー、ほんまや」

 あの男は、こんな覚えやすい日に打ち明けるなんて、わざわざ選んだのだろうか。いや、多分何も考えてなかったんだろう、と灯は思った。頭の中に影が落ちる。

「ちょっとぉ!男子にとって1年のうちでもっとも重要な日でしょ、あなた!あな、あー、お名前は?」

「灯、です」

「あかりんね、オッケー」

 京獄は両手で大きく丸を作った。身振り手振りを交えて、コロコロと表情を変え、無駄に動く。昔よく遊んでた、隣の家の中型犬みたいだ、と灯は思った。来る人みんなに遊んで!と尻尾をふるので、「番犬にならん」と飼い主がぼやいていたのを思い出す。

「ふふっ」

 京獄の頭に耳、尻にぶんぶんと揺れるしっぽが安易に想像できて、思わず吹き出す灯。それを見て京獄はやっと少し安心できた。初めて笑ってくれたな。

「おっ、あかりん笑顔可愛い。どしたの?」

「めっちゃようしゃべるなー思て」

「いやいや、配信者はしゃべってナンボでしょう!」

「あ、俺がファンやから、スイッチ入ってる感じ?お気になさらず」

「いやいや、俺、いつもこんな感じ。裏垢無い系男子だから!……でもちょっとテンション控えめで失礼しやす」

 京獄は、先ほど自分で積んだチョコの山を見ながら、灯の隣にストン、と座る。甘い香りがふわりと舞った。

「俺、甘いもの苦手なんだよね」

「え、初めて知った。配信で言うてた?」

「言ってない。まだまだペーペーだから、好き嫌いなんて言えないよ。貰えるだけありがたい」

 灯が知る配信者としての京獄は、まさに光属性。若くして今の地位を築きあげただけあって、いつも自信に満ち満ちている。ファンに対して下手に媚びることはせず、先輩配信者とのコラボも、敬いはするものの対等な立場で接していた。
 見る人が変われば「なんて不遜な態度だ」と言われそうなスタイルだが……

「意外と謙虚なんやね」

「意外って何!てかずっと気になってたけど、関西弁なんだね」

 灯の顔から血の気が引く。人から指摘を受けると、体と思考が思うように操れなくなる。もちろん、京獄が指摘のつもりで言ったのではないと、頭では理解できているがどうにも制御できない。

「あっ……ごめ……う、うざかった?標準語で話します」

 どんどん強張っていく体を何とか落ち着かせようと、膝の上で拳を強く握りしめる灯。京獄はその両手を自分の手で包み、胸の高さまで持ち上げて、ぶんぶんと振りながら目を輝かせて言い放った。

「なんで?むしろ関西弁俺にうつしてほしい!」

 無意識に、全身から、ふっと力が抜けていく。灯は、頭に浮かんだ疑問符をシンプルな言葉で表現することができた。

「なんで?」




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