5 / 10
チョコレート_1
しおりを挟む灯は、半ば強引に連れてこられた京獄の部屋に居心地悪くちょこんと座っていた。ドアの数から察するに、間取りは2LDK。声の響き方から、おそらく防音。そして、期待を裏切らない想像通りの配信者の部屋だった。赤のゲーミングチェアに、黒いデスク。その上にはモニターが2台とやたらでかいスピーカーが置かれている。配線が無駄なくきれいに整理されていたり、コントローラーやヘッドホンがうまく空間利用して収納されていたりと、垣間見える京獄の几帳面さは意外だった。
灯がそんな事を考えて時間を潰していると、この部屋の家主が現れた。箱売りみかん程の大きさの、ダンボールを抱えて。
「じゃん!戦利品~」
ご機嫌にそう言うと、ダンボールから次々と大小様々な箱を取り出す。小さなリボンがついているものや、人気キャラクターが描かれたもの、ダイヤモンドをかたどったものなど、多種多様だ。辺りに、かすかに甘い匂いが漂った。
「え、チョコ?バーゲンセールやったん?」
京獄は、ポカン、と口を開け「信じられない」という顔で灯を見つめた。
「違う!ファンの子から!今日……日付変わってるから昨日、バレンタインだったじゃん!」
「……あー、ほんまや」
あの男は、こんな覚えやすい日に打ち明けるなんて、わざわざ選んだのだろうか。いや、多分何も考えてなかったんだろう、と灯は思った。頭の中に影が落ちる。
「ちょっとぉ!男子にとって1年のうちでもっとも重要な日でしょ、あなた!あな、あー、お名前は?」
「灯、です」
「あかりんね、オッケー」
京獄は両手で大きく丸を作った。身振り手振りを交えて、コロコロと表情を変え、無駄に動く。昔よく遊んでた、隣の家の中型犬みたいだ、と灯は思った。来る人みんなに遊んで!と尻尾をふるので、「番犬にならん」と飼い主がぼやいていたのを思い出す。
「ふふっ」
京獄の頭に耳、尻にぶんぶんと揺れるしっぽが安易に想像できて、思わず吹き出す灯。それを見て京獄はやっと少し安心できた。初めて笑ってくれたな。
「おっ、あかりん笑顔可愛い。どしたの?」
「めっちゃようしゃべるなー思て」
「いやいや、配信者はしゃべってナンボでしょう!」
「あ、俺がファンやから、スイッチ入ってる感じ?お気になさらず」
「いやいや、俺、いつもこんな感じ。裏垢無い系男子だから!……でもちょっとテンション控えめで失礼しやす」
京獄は、先ほど自分で積んだチョコの山を見ながら、灯の隣にストン、と座る。甘い香りがふわりと舞った。
「俺、甘いもの苦手なんだよね」
「え、初めて知った。配信で言うてた?」
「言ってない。まだまだペーペーだから、好き嫌いなんて言えないよ。貰えるだけありがたい」
灯が知る配信者としての京獄は、まさに光属性。若くして今の地位を築きあげただけあって、いつも自信に満ち満ちている。ファンに対して下手に媚びることはせず、先輩配信者とのコラボも、敬いはするものの対等な立場で接していた。
見る人が変われば「なんて不遜な態度だ」と言われそうなスタイルだが……
「意外と謙虚なんやね」
「意外って何!てかずっと気になってたけど、関西弁なんだね」
灯の顔から血の気が引く。人から指摘を受けると、体と思考が思うように操れなくなる。もちろん、京獄が指摘のつもりで言ったのではないと、頭では理解できているがどうにも制御できない。
「あっ……ごめ……う、うざかった?標準語で話します」
どんどん強張っていく体を何とか落ち着かせようと、膝の上で拳を強く握りしめる灯。京獄はその両手を自分の手で包み、胸の高さまで持ち上げて、ぶんぶんと振りながら目を輝かせて言い放った。
「なんで?むしろ関西弁俺にうつしてほしい!」
無意識に、全身から、ふっと力が抜けていく。灯は、頭に浮かんだ疑問符をシンプルな言葉で表現することができた。
「なんで?」
0
あなたにおすすめの小説
政略結婚したかった
わさび
BL
御曹司 朝峰楓× 練習生 村元緋夏
有名な事務所でアイドルを目指して練習生をしている緋夏だが、実は婚約者がいた。
二十歳までにデビューしたら婚約破棄
デビューできなかったらそのまま結婚
楓と緋夏は隣同士に住む幼馴染で親はどちらも経営者。
会社のために勝手に親達が決めた政略結婚と自分の気持ちで板挟みになっている緋夏だったが____
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ひとりのはつじょうき
綿天モグ
BL
16歳の咲夜は初めての発情期を3ヶ月前に迎えたばかり。
学校から大好きな番の伸弥の住む家に帰って来ると、待っていたのは「出張に行く」とのメモ。
2回目の発情期がもうすぐ始まっちゃう!体が火照りだしたのに、一人でどうしろっていうの?!
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる