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エクスプレス_2
しおりを挟むメイクは、先程のものをベースに、目元と口元をバージョンアップしたらしい。まつ毛がぱちっと張り付いて、瞬きすると少し引っかかるようになった何かと、唇にはペタペタする何かを塗られ、ちょっと気持ち悪い。女性はこれを我慢しながらニコニコ笑っているのかと思うと、灯の中でその偉大さがさらに増した。思えば灯の母も、毎日メイクをしっかりしていた。年に合わない派手なメイクで、せっかく整っている顔を覆い隠す厚塗りが、灯は気に入らなかった。だが、男に媚びるためだとしてもこういう苦労と努力を積み重ねていたのだと思うと、少し見方が変わった。
どこから取り出してきたのか、みゆちに黒髪ボブのウィッグを渡された。オプションで何度か使った事があるので、悲しいかな、装着方法は知っている。
「へ、変じゃないかな?」
ウィッグをつけ終えた灯が、はねた部分を撫でつけながら問うてきた。みゆちはあまりの衝撃に、手に持っていた服をストン、と落とす。ちなみに、京獄の山積みされた衣服(洗濯済み)を物色して見つけた、いい感じのオーバーサイズTシャツだ。
「どっからどう見ても女の子!みゆちの最高傑作!」
だそうだ。
灯は身長が低くない方だが、自前のスキニーとみゆちが発掘したTシャツを組み合わせると、背の高い女性と違和感なく見られる出立ちになった。その証拠に、道行く人に訝しんだ目を向けられることもなく、みゆちと普通に並んで歩けていた。
メイクとコーデはもはや魔法なんだ、と、少し恐怖を覚えた。
新作コスメの偵察、と言うから、デパートの、一見さんお断り的なオーラが出ているフロアとか、誰もが見たことのあるマークがついた、店内がやたらゴージャスな路面店に行くのかと思っていたら、その辺のドラッグストアに入ったので驚いた。
「こういうところで買うんや」
「デパコスも憧れるし好きだけど、みゆちのファン層は10代から20代前半が多いから、なるべくで3000円以下で買える物を選んでます」
「なるほど、ちゃんと分析してるんや。好きなものだけ選んでたらアカンのやなぁ」
「それに、プチプラばっかり紹介してたら、素敵なおじさんがデパコスプレゼントしてくれるんですよね、なぜか」
みゆちが、あははーと申し訳なさそうに笑った。灯が「なるほど」と大きく頷く。灯の頭に、件の男に買い与えられた、服とか財布とか便利家電とか、その他諸々色々なものが思い浮かんだ。世の中の、余裕のあるおじさん達は、プレゼントを贈りがちだ。
「なんでおじさんって、高価なプレゼントくれるんやろか?」
「単純に相手に喜んで欲しいのと、単純に独占欲を満たしたいのと、単純に見返りが欲しいとかですかね!」
とても無邪気ないい笑顔だ。その答えに、単純にみゆちとはマブダチになれると確信した。
「あとこれは個人的に、私の妹がアレルギーいっぱい持ってるから、妹も使えるコスメ選んじゃうかな」
みゆちがアイテムを決めたようだ。パラベンフリーとやらの8色展開の口紅をすべてかごに入れた。
あと何点か、気になっていたアイテムをカゴに入れ、みゆちの買い物が終わった。食材を買いに行く前に、カフェで休憩する事にした。
女性客で賑わうカフェも、今の自分なら堂々と長居できる。灯が何かに勝ち誇った顔をで辺りを眺めていると、みゆちが紙袋をガサガサし始めた。
「これ。灯さんにプレゼントです」
いつの間に選んだのか、みゆちが、猫のイラストの入ったパッケージのアイシャドウパレットを灯に渡す。説明してくれた、今日のメイクに使ったものと同じだ。サプライズが嬉しくて、灯はおどけてみせた。
「えー、嬉しい!ありがとう。おじ~」
「みゆおじたよ~独占欲満たされる~」
なんだかツボに入って、しばらく2人で笑った。
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