6 / 21
ギフト編
密林
しおりを挟む
――くおっ! 今までにない腹の痛み。
フン速は観測史上最大規模!
このままでは、学校の緑色の廊下を別色に塗り替えてしまう!!
壁に爪を立てて、ゆっくりと体を動かし、いつものトイレに到着。
扉を開くと愛しき便器はなく、密林が広がっていた。
「ジャングル? よかった、これなら気兼ねなくそこらで」
もはや、野糞に抵抗感をなくした私は、適当な茂みに尻を添えて闇を落とす。
「きたきたきたきた~!! Hey! カモン、カモン、かっ!? 誰だ!?」
ひたすらに生み出される闇を、ヤシの木の傍で見つめる誰かがいる。
そいつは上半身裸で、下半身には蓑しか纏っていない若い男性だった。
「くっ、そんなにまじまじと見ないでくれないか。この通り、今の私は自身の意志ではどうにもぉぉぉぉぉぉ、た、たまらん!」
止まらぬ闇。
しかし、腰蓑の男は目元をたらんと下げて、フイッとその場から離れていった。
何故だ!? これだけの惨状に興味を抱かないと?
いや、抱かれても困るが……。
闇は堕ち、静寂が訪れる。
純白な天使の贈り物を使い、残った闇を払い落とす。
フッ、世界が闇に満ちることはなかった。
傍に生えていた葉っぱで堕ちた闇を覆い、その場から立ち去る。
去ってから思ったが、葉っぱで隠したら地雷の役割になってしまうのでは?
しかし、隠さず立ち去れば、マナーに反する。
中々に深い哲学だな。
人が思考を得て以来、延々と巡る知恵の円環にうんこを乗せて、哲学の真髄を味わう。
知恵とは、人とは、うんことはいかなる関係なのか?
思便哲学を旅の道連れとして、先程の男の後を追う。
男の姿を発見。彼は地面に転がっている。
怪我でもしたのかと慌てて傍に寄るが、男は健やかな寝息を立てていた。
「よくもまぁ、こんな何もない場所で寝れるな――おや?」
奥の方から複数の声?
声を頼りに、そこへ近づき、大きく開けた場所に出た。
そこには、ボロボロになったマンションを思わせる建造物があった。マンションやその周辺には、腰蓑だけを巻いた男女がそこらに転がっている。
彼らは何をするわけもなく、ただ寝ているだけ。
何人かは食事を取っていたが、その者たちも食事を終えると、その場に転がり、眠り始めた。
「なんだ、こいつらは? まるで生気を感じない」
「おや、誰かな? お前さんは?」
背後から、年老いた男性の声が響く。
声に惹かれ振り返ると、杖を突いた老人が立っていた。
彼に向かい、怪しい者ではないことを説明する。
「私は、異界から訪れた者だ。敵意はない。明日には立ち去るから気にしないでくれ」
「異界から……ほぉ~」
老人はくわりと瞼を開き、目玉を剥き出しにして私を見つめる。
「お若いのこっちへ来なされ」
「え? はい……」
老人に連れられ、ボロボロになったマンションの一室へ案内された。
壁には、たくさんの木の杖が飾ってある。
「この世界は不思議なところだな。このような建造物があるのに、文明らしさを感じない」
「ふぉふぉふぉ、わしらもかつては星々を渡るだけの力を持っていたのじゃがな――そのすべてを失った……」
「失った? 何をだ?」
「思考力をじゃ。わしらはもはや、思考することに疲れたのじゃ。何も考えず、緩慢な死を迎えるだけじゃ」
腰蓑の若い男が闇を産み出す私を見て何も思わなかったのは、そのせいだったのか。
ここの連中は、思考を失い、何も感じないようになったようだ。
てっきり、闇を産む私の姿に恐れおののき、言葉を失ったのかと思っていた。
「しかし、ご老公。あなたは他の人たちと少し違う気がするが?」
「ふぉふぉ、あなたの存在に半世紀ぶりに好奇心が疼きました。じゃが、すぐに冷めてしまうでしょう」
「こういっては何だが、寂しい限りだな」
「なればこそ、寂しい思いをさせぬよう、老いさらばえたワシのお相手をお願いしたい」
「わかった、お相手しましょう」
私はご老公が興味を抱きそうな話題を口にしていったが、ご老公はすぐに話に飽きてしまい、眠ってしまった。
私では、彼の好奇心を満たすことができなかったようだ。
ご老公の部屋を借り、一夜が明ける。
去り際に、部屋を貸してもらった礼を述べる。
「部屋を貸していただき、ありがとうございます」
「…………」
ご老公は、ぼーっとして、どこともない場所を見ている。私の声は心まで届いていない。
私は彼に頭を下げて、出口へ振り返る。
そこで、壁に飾られていた木の杖たちが目についた。
「そういえば、何故こんなに木の杖を飾っているんだ?」
質問をして、すぐに首を横に振った。
私の声は彼には届かない――そう、思ったのだが!?
「これは、知恵の象徴じゃ」
「え?」
「木の杖……木の棒は人が生み出した知恵の証。強く擦りつければ、火を生む。火を燈せば、たいまつとなる。両手でしっかりと握りしめれば、身を守る武器となる。私のような老人の最高の相棒となる」
と語り、ご老公は強く杖をついた。
「なるほど。木の棒とはアイデア次第で無限の道具となるわけか。面白い話を聞かせていただき、ありがとうございます」
「ふぉふぉ、ワシも久方ぶりに愉快な話ができた。よければ、これを持って行け」
ご老公は壁から何の変哲もない木の杖を取り外して、私に手渡した。
「ありがたく頂戴します。人の知恵、たしかに受け取りました」
扉を開き、部屋から出ていく頃には私に興味をなくしたようで、ご老公はぼんやり佇んでいた。
密林に戻り、トイレの扉を開く。
元の世界へ戻ってきた私は、杖を手に笑みを浮かべる。
「今までいろんなものを持って帰ってきたが、一番嬉しい戴きものだな」
フン速は観測史上最大規模!
このままでは、学校の緑色の廊下を別色に塗り替えてしまう!!
壁に爪を立てて、ゆっくりと体を動かし、いつものトイレに到着。
扉を開くと愛しき便器はなく、密林が広がっていた。
「ジャングル? よかった、これなら気兼ねなくそこらで」
もはや、野糞に抵抗感をなくした私は、適当な茂みに尻を添えて闇を落とす。
「きたきたきたきた~!! Hey! カモン、カモン、かっ!? 誰だ!?」
ひたすらに生み出される闇を、ヤシの木の傍で見つめる誰かがいる。
そいつは上半身裸で、下半身には蓑しか纏っていない若い男性だった。
「くっ、そんなにまじまじと見ないでくれないか。この通り、今の私は自身の意志ではどうにもぉぉぉぉぉぉ、た、たまらん!」
止まらぬ闇。
しかし、腰蓑の男は目元をたらんと下げて、フイッとその場から離れていった。
何故だ!? これだけの惨状に興味を抱かないと?
いや、抱かれても困るが……。
闇は堕ち、静寂が訪れる。
純白な天使の贈り物を使い、残った闇を払い落とす。
フッ、世界が闇に満ちることはなかった。
傍に生えていた葉っぱで堕ちた闇を覆い、その場から立ち去る。
去ってから思ったが、葉っぱで隠したら地雷の役割になってしまうのでは?
しかし、隠さず立ち去れば、マナーに反する。
中々に深い哲学だな。
人が思考を得て以来、延々と巡る知恵の円環にうんこを乗せて、哲学の真髄を味わう。
知恵とは、人とは、うんことはいかなる関係なのか?
思便哲学を旅の道連れとして、先程の男の後を追う。
男の姿を発見。彼は地面に転がっている。
怪我でもしたのかと慌てて傍に寄るが、男は健やかな寝息を立てていた。
「よくもまぁ、こんな何もない場所で寝れるな――おや?」
奥の方から複数の声?
声を頼りに、そこへ近づき、大きく開けた場所に出た。
そこには、ボロボロになったマンションを思わせる建造物があった。マンションやその周辺には、腰蓑だけを巻いた男女がそこらに転がっている。
彼らは何をするわけもなく、ただ寝ているだけ。
何人かは食事を取っていたが、その者たちも食事を終えると、その場に転がり、眠り始めた。
「なんだ、こいつらは? まるで生気を感じない」
「おや、誰かな? お前さんは?」
背後から、年老いた男性の声が響く。
声に惹かれ振り返ると、杖を突いた老人が立っていた。
彼に向かい、怪しい者ではないことを説明する。
「私は、異界から訪れた者だ。敵意はない。明日には立ち去るから気にしないでくれ」
「異界から……ほぉ~」
老人はくわりと瞼を開き、目玉を剥き出しにして私を見つめる。
「お若いのこっちへ来なされ」
「え? はい……」
老人に連れられ、ボロボロになったマンションの一室へ案内された。
壁には、たくさんの木の杖が飾ってある。
「この世界は不思議なところだな。このような建造物があるのに、文明らしさを感じない」
「ふぉふぉふぉ、わしらもかつては星々を渡るだけの力を持っていたのじゃがな――そのすべてを失った……」
「失った? 何をだ?」
「思考力をじゃ。わしらはもはや、思考することに疲れたのじゃ。何も考えず、緩慢な死を迎えるだけじゃ」
腰蓑の若い男が闇を産み出す私を見て何も思わなかったのは、そのせいだったのか。
ここの連中は、思考を失い、何も感じないようになったようだ。
てっきり、闇を産む私の姿に恐れおののき、言葉を失ったのかと思っていた。
「しかし、ご老公。あなたは他の人たちと少し違う気がするが?」
「ふぉふぉ、あなたの存在に半世紀ぶりに好奇心が疼きました。じゃが、すぐに冷めてしまうでしょう」
「こういっては何だが、寂しい限りだな」
「なればこそ、寂しい思いをさせぬよう、老いさらばえたワシのお相手をお願いしたい」
「わかった、お相手しましょう」
私はご老公が興味を抱きそうな話題を口にしていったが、ご老公はすぐに話に飽きてしまい、眠ってしまった。
私では、彼の好奇心を満たすことができなかったようだ。
ご老公の部屋を借り、一夜が明ける。
去り際に、部屋を貸してもらった礼を述べる。
「部屋を貸していただき、ありがとうございます」
「…………」
ご老公は、ぼーっとして、どこともない場所を見ている。私の声は心まで届いていない。
私は彼に頭を下げて、出口へ振り返る。
そこで、壁に飾られていた木の杖たちが目についた。
「そういえば、何故こんなに木の杖を飾っているんだ?」
質問をして、すぐに首を横に振った。
私の声は彼には届かない――そう、思ったのだが!?
「これは、知恵の象徴じゃ」
「え?」
「木の杖……木の棒は人が生み出した知恵の証。強く擦りつければ、火を生む。火を燈せば、たいまつとなる。両手でしっかりと握りしめれば、身を守る武器となる。私のような老人の最高の相棒となる」
と語り、ご老公は強く杖をついた。
「なるほど。木の棒とはアイデア次第で無限の道具となるわけか。面白い話を聞かせていただき、ありがとうございます」
「ふぉふぉ、ワシも久方ぶりに愉快な話ができた。よければ、これを持って行け」
ご老公は壁から何の変哲もない木の杖を取り外して、私に手渡した。
「ありがたく頂戴します。人の知恵、たしかに受け取りました」
扉を開き、部屋から出ていく頃には私に興味をなくしたようで、ご老公はぼんやり佇んでいた。
密林に戻り、トイレの扉を開く。
元の世界へ戻ってきた私は、杖を手に笑みを浮かべる。
「今までいろんなものを持って帰ってきたが、一番嬉しい戴きものだな」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる