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第一章 左遷された銀眼の青年
飲み水の確保
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「ほぉ~、屋根が残っているな」
最後の部屋には屋根が残っていたため風雨に晒されることなく部屋としての原型を保っていた。
窓の近くに植物の浸食はあるが内部にはなく、この城で唯一、部屋らしい部屋だと感じられる。
しかし、他の部屋と違い、薄暗い。
窓があるのでそこから光が差し込んでいるのだが、今まで屋根や外壁の崩れた外のような部屋を見てきた私からすると光量が少なく感じてしまう。
「ふふ、これが普通の部屋なのにな。私は何を考えているんだか」
短時間であれど、廃墟の散策というのは私の常識に影響を与えているようだ。
軽く頭を振り、虚ろになった常識を取り戻して部屋を観察することにした。
部屋には天蓋付きのベッド……だったもの。
ベッドの上には、その天蓋がスヤスヤと休んでいる。
天蓋を片づければ寝られないこともないが、それをやるには一苦労だ。
次に、目に飛び込んだのはソファ。
ソファの色はくすみを帯びていたが、元々は桃色に近いものだったように感じる。
表面の模様は花柄。
視線を床に向ける。
そこには複雑な模様が描かれたくたびれた絨毯。
その上には、化粧用の薄汚れたパフが転がっていた。
どうやらここは女性の部屋だったようだ。
ソファの上に積まれた埃を落とし、表面を撫で、押さえてみる。
「ふむふむ、固いが寝られないわけでもない。少しぐらぐらするが、気になるようなものでもない。ただ、三階というのが不安を誘うが……」
壁に近づき、軽く足で何度か小突いていく。
続いて、床を強く踏み、飛び跳ねてみる。
「うん、なかなか丈夫そうだ。急に崩れるようなことはないだろう。では、先程のソファをベッド代わりに使うか……しかし」
私は部屋全体をさらりと見回す。
元とはいえ、ご婦人の部屋で眠るのは少々気が引けるがまともな部屋はここ以外存在しない。
「失礼だが、ここで休ませてもらうとしよう。いや、その前に必要な書類に目を……一階に置いた荷物の中か。ならば、暇なときでいいか」
古城トーワに関する詳しい説明が書かれた書類。
旅の間に読む機会はいくらでもあったが王都での出来事が尾を引きずり、まともに読む気力もなかった。
そのため、今日に至るまでざっと目を通した程度。内容は朧げにしか把握していない。
私は大きく背伸びをする。
「ふぁぁ、まだ太陽は沈む前だが長旅で疲れた。一階の荷物を適当な場所に移動させてから、今日はもう横になるとするか」
書類に関しては折を見て、しっかり目を通すことにしよう。
――次の日の朝
早めの就寝であったが身体が疲れていたのであろう。
崩れかけた古城の古びたソファの上であっても朝までぐっすりと眠ってしまった。
「ふぁぁ、半日くらい寝てしまったな。だが、早めに休んだので太陽が昇ってさほど経っていまい。とりあえず、朝食にするか」
自分以外、音を奏でることのない古城の廊下に足を響かせ、唯一のお供である欠伸を相棒に階段を下りて一階へ向かう。
一階の倉庫らしきところだった場所に放り込んだ荷物の中から、火打石と食料と水を取り出す。
私は水の入った銀製の水筒を見つめ、真っ先にやるべきことを考えていた。
「食料はともかく、水の蓄えがあまりないな。飲み水を探さないと……」
外で火を起こし、卵と小麦と砂糖と水を混ぜてこねて、それをフライパンで焼いた簡素なパンもどきを朝食にして周辺の探索に出ることにした。
水を求めるなら川が手っ取り早いが、そのようなものは古城の周りにはない。
城の背後にはたんまりと海水があるが飲み水としては不適当だ。
そういうわけで、まずは古城のあちこちに設置してある井戸を調べることに。
調べてみると、井戸にはまだ水があった。
しかし、残念ながら放置されていたため草木などのゴミが折り重なり、飲み水としては適していない。
困り果て、防壁のそばを歩いていると再び井戸が目に入った。
井戸の上には錆びた鉄製の蓋がしてあり、雨やゴミから守られていたようだ。
その井戸に一縷の望みを託し、鉄製の蓋をよっこらせと持ち上げて、中を覗き見た。
ひんやりとした空気が顔に当たる。
底は暗くて見えづらいが、空気には水の気配が感じられる。
早速、水筒の中に重石代わりとなる石を少し詰め、次に紐を括りつけて、井戸の中に落としてみた。
水が貯まったところで水筒を引き上げ、水を手のひらに零す。
水はとても透明で濁った様子は全くない。
僅かに苔の香りが混じっているが口に含んで試す価値はありそうだ。
「どれ、ずずっ……うん、味に問題はないな。ぺっ」
含んだ水を吐き出したが、別に腐っている様子はない。
だが、飲み水として使用するなら、念のため火を通してからの方がいいだろう。
口の中に残る水を別の水筒の水で洗い流しながら、耳をくすぐるさざ波に意識を向ける。
「海が近いというのに、井戸水は真水。沿岸部でも地下水は基本淡水だろうが、こうまで近いと潮汐などの影響で海水と混合することがあるのではなかったか? 自然とは不思議なものだ」
理屈はわからないが城のあちこちに井戸があるところを見ると、海を背後に置きながら、この周辺の土地の地下には真水の地下水があるようだ。
「しかし……」
私は崩れた防壁の先にある、北方に広がる荒れ果てた土地を見る。
草木などの緑は一切なく、荒涼とした大地。
「地下に真水があるなら、あそこまで土地が荒れるものなのか? それとも、人の喉は潤せても、大地を潤せるほど水はないのか?」
私は城と防壁内部へ視線を振る。
「防壁内には草木が生い茂っている……何故、外の土地だけ荒れている?」
次に西へ目を向ける。
そこには、トーワの真西にある『港町アルリナ』へと続く道。
道は深い森に包まれている。
さらにその森は北へ大きく広がっていた。
だがしかし、かつて古城トーワが使用していた北に延びる街道を境に、潤いに満ちた森は消え去り、乾燥した大地が広がる。
詳しく位置関係を説明するならば、森と古城トーワはL字型で繋がり、Lの空白の部分だけが荒れ地となっている。
その空白の部分は広大で地平線が見えるほど。
「自然に囲まれた、死の大地。遺跡が原因で大地が荒れていると言っても、こうまで綺麗に境界線ができるとは……それとも、この地形に何か原因があって、いや、考えるのはよそう」
水や土地に関する専門知識はないため、途中で考えるのを諦めた。
私としては、飲み水が確保できたという事実だけで十分だ。
「さて、お次は城の状態を確認しようか」
今後、我が家となる古城内部の状態を確認するため城へ戻ってきた。
真っ先に確認すべきは、私が寝所として決めた部屋の強度だ。
寝所は三階。その下にある、二階と一階の部屋の状態を確認することにした。
私は足元に落ちていた石を手にして部屋壁を叩いていく。
一階も二階も壁の響きは重厚で、今すぐに崩れ落ちる気配はない。
「ふむふむ、建築についてはまるっきりの素人だが、大丈夫そうだな。もし、崩れたら、大人しく諦めよう。ふふ」
冗談交じりの独り言を古城に響かせる。
響いた冗談には死に対する恐怖はなかった。
何故かと問われれば、私は諦観と答えたであろう。
すでに私は守るべき者を守れた。十分だ。
そして、生きる意味を見失った。だから……
――グ~
腹の虫が古城に響く。
「なるほど。心は死んでも、身体は生きたいと訴えているのか。ならば、君のためにもう少し頑張ってみよう」
一度外へ出て、水筒を使い井戸から水を汲む。
その際、古びた鉄仮面を見つけたので、そいつをひっくり返し桶代わりにして馬に水を与えることにした。
うまそうに水を飲んでいる彼の周りを見る。
「草が無くなっている。いいな君は、料理の手間がなくて……」
彼は相当喉が渇いていたのだろう。私の言葉に応えることなく勢いよくごくごくと水を飲んでいる。
「ふふ、水は美味いか? これで君が腹を壊したり病気にならなければ、この水は生で飲んでも大丈夫ということになるな」
「ヒヒン、ブルルッ」
盛大に鼻水を掛けられた。どうやら、悪い言葉には反応するようだ……。
「すまないな。実験動物のような扱いをして。さて、そろそろ私は戻るよ」
馬に水を与えたあとは、一階のかまどがある部屋に向かうことにした。
最後の部屋には屋根が残っていたため風雨に晒されることなく部屋としての原型を保っていた。
窓の近くに植物の浸食はあるが内部にはなく、この城で唯一、部屋らしい部屋だと感じられる。
しかし、他の部屋と違い、薄暗い。
窓があるのでそこから光が差し込んでいるのだが、今まで屋根や外壁の崩れた外のような部屋を見てきた私からすると光量が少なく感じてしまう。
「ふふ、これが普通の部屋なのにな。私は何を考えているんだか」
短時間であれど、廃墟の散策というのは私の常識に影響を与えているようだ。
軽く頭を振り、虚ろになった常識を取り戻して部屋を観察することにした。
部屋には天蓋付きのベッド……だったもの。
ベッドの上には、その天蓋がスヤスヤと休んでいる。
天蓋を片づければ寝られないこともないが、それをやるには一苦労だ。
次に、目に飛び込んだのはソファ。
ソファの色はくすみを帯びていたが、元々は桃色に近いものだったように感じる。
表面の模様は花柄。
視線を床に向ける。
そこには複雑な模様が描かれたくたびれた絨毯。
その上には、化粧用の薄汚れたパフが転がっていた。
どうやらここは女性の部屋だったようだ。
ソファの上に積まれた埃を落とし、表面を撫で、押さえてみる。
「ふむふむ、固いが寝られないわけでもない。少しぐらぐらするが、気になるようなものでもない。ただ、三階というのが不安を誘うが……」
壁に近づき、軽く足で何度か小突いていく。
続いて、床を強く踏み、飛び跳ねてみる。
「うん、なかなか丈夫そうだ。急に崩れるようなことはないだろう。では、先程のソファをベッド代わりに使うか……しかし」
私は部屋全体をさらりと見回す。
元とはいえ、ご婦人の部屋で眠るのは少々気が引けるがまともな部屋はここ以外存在しない。
「失礼だが、ここで休ませてもらうとしよう。いや、その前に必要な書類に目を……一階に置いた荷物の中か。ならば、暇なときでいいか」
古城トーワに関する詳しい説明が書かれた書類。
旅の間に読む機会はいくらでもあったが王都での出来事が尾を引きずり、まともに読む気力もなかった。
そのため、今日に至るまでざっと目を通した程度。内容は朧げにしか把握していない。
私は大きく背伸びをする。
「ふぁぁ、まだ太陽は沈む前だが長旅で疲れた。一階の荷物を適当な場所に移動させてから、今日はもう横になるとするか」
書類に関しては折を見て、しっかり目を通すことにしよう。
――次の日の朝
早めの就寝であったが身体が疲れていたのであろう。
崩れかけた古城の古びたソファの上であっても朝までぐっすりと眠ってしまった。
「ふぁぁ、半日くらい寝てしまったな。だが、早めに休んだので太陽が昇ってさほど経っていまい。とりあえず、朝食にするか」
自分以外、音を奏でることのない古城の廊下に足を響かせ、唯一のお供である欠伸を相棒に階段を下りて一階へ向かう。
一階の倉庫らしきところだった場所に放り込んだ荷物の中から、火打石と食料と水を取り出す。
私は水の入った銀製の水筒を見つめ、真っ先にやるべきことを考えていた。
「食料はともかく、水の蓄えがあまりないな。飲み水を探さないと……」
外で火を起こし、卵と小麦と砂糖と水を混ぜてこねて、それをフライパンで焼いた簡素なパンもどきを朝食にして周辺の探索に出ることにした。
水を求めるなら川が手っ取り早いが、そのようなものは古城の周りにはない。
城の背後にはたんまりと海水があるが飲み水としては不適当だ。
そういうわけで、まずは古城のあちこちに設置してある井戸を調べることに。
調べてみると、井戸にはまだ水があった。
しかし、残念ながら放置されていたため草木などのゴミが折り重なり、飲み水としては適していない。
困り果て、防壁のそばを歩いていると再び井戸が目に入った。
井戸の上には錆びた鉄製の蓋がしてあり、雨やゴミから守られていたようだ。
その井戸に一縷の望みを託し、鉄製の蓋をよっこらせと持ち上げて、中を覗き見た。
ひんやりとした空気が顔に当たる。
底は暗くて見えづらいが、空気には水の気配が感じられる。
早速、水筒の中に重石代わりとなる石を少し詰め、次に紐を括りつけて、井戸の中に落としてみた。
水が貯まったところで水筒を引き上げ、水を手のひらに零す。
水はとても透明で濁った様子は全くない。
僅かに苔の香りが混じっているが口に含んで試す価値はありそうだ。
「どれ、ずずっ……うん、味に問題はないな。ぺっ」
含んだ水を吐き出したが、別に腐っている様子はない。
だが、飲み水として使用するなら、念のため火を通してからの方がいいだろう。
口の中に残る水を別の水筒の水で洗い流しながら、耳をくすぐるさざ波に意識を向ける。
「海が近いというのに、井戸水は真水。沿岸部でも地下水は基本淡水だろうが、こうまで近いと潮汐などの影響で海水と混合することがあるのではなかったか? 自然とは不思議なものだ」
理屈はわからないが城のあちこちに井戸があるところを見ると、海を背後に置きながら、この周辺の土地の地下には真水の地下水があるようだ。
「しかし……」
私は崩れた防壁の先にある、北方に広がる荒れ果てた土地を見る。
草木などの緑は一切なく、荒涼とした大地。
「地下に真水があるなら、あそこまで土地が荒れるものなのか? それとも、人の喉は潤せても、大地を潤せるほど水はないのか?」
私は城と防壁内部へ視線を振る。
「防壁内には草木が生い茂っている……何故、外の土地だけ荒れている?」
次に西へ目を向ける。
そこには、トーワの真西にある『港町アルリナ』へと続く道。
道は深い森に包まれている。
さらにその森は北へ大きく広がっていた。
だがしかし、かつて古城トーワが使用していた北に延びる街道を境に、潤いに満ちた森は消え去り、乾燥した大地が広がる。
詳しく位置関係を説明するならば、森と古城トーワはL字型で繋がり、Lの空白の部分だけが荒れ地となっている。
その空白の部分は広大で地平線が見えるほど。
「自然に囲まれた、死の大地。遺跡が原因で大地が荒れていると言っても、こうまで綺麗に境界線ができるとは……それとも、この地形に何か原因があって、いや、考えるのはよそう」
水や土地に関する専門知識はないため、途中で考えるのを諦めた。
私としては、飲み水が確保できたという事実だけで十分だ。
「さて、お次は城の状態を確認しようか」
今後、我が家となる古城内部の状態を確認するため城へ戻ってきた。
真っ先に確認すべきは、私が寝所として決めた部屋の強度だ。
寝所は三階。その下にある、二階と一階の部屋の状態を確認することにした。
私は足元に落ちていた石を手にして部屋壁を叩いていく。
一階も二階も壁の響きは重厚で、今すぐに崩れ落ちる気配はない。
「ふむふむ、建築についてはまるっきりの素人だが、大丈夫そうだな。もし、崩れたら、大人しく諦めよう。ふふ」
冗談交じりの独り言を古城に響かせる。
響いた冗談には死に対する恐怖はなかった。
何故かと問われれば、私は諦観と答えたであろう。
すでに私は守るべき者を守れた。十分だ。
そして、生きる意味を見失った。だから……
――グ~
腹の虫が古城に響く。
「なるほど。心は死んでも、身体は生きたいと訴えているのか。ならば、君のためにもう少し頑張ってみよう」
一度外へ出て、水筒を使い井戸から水を汲む。
その際、古びた鉄仮面を見つけたので、そいつをひっくり返し桶代わりにして馬に水を与えることにした。
うまそうに水を飲んでいる彼の周りを見る。
「草が無くなっている。いいな君は、料理の手間がなくて……」
彼は相当喉が渇いていたのだろう。私の言葉に応えることなく勢いよくごくごくと水を飲んでいる。
「ふふ、水は美味いか? これで君が腹を壊したり病気にならなければ、この水は生で飲んでも大丈夫ということになるな」
「ヒヒン、ブルルッ」
盛大に鼻水を掛けられた。どうやら、悪い言葉には反応するようだ……。
「すまないな。実験動物のような扱いをして。さて、そろそろ私は戻るよ」
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