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第二章 たった二人の城

優しいギウ

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――港町アルリナ


 護身用の剣を腰に差して銃をベルトに挟み込み、ギウを伴ってアルリナの東門までやってきた。
 ここに来るまで私は馬で駆け抜けたのだが、ギウの足は馬よりも速かった……彼の実力は本当に底知れない。

 東門を守るやる気のない二人の兵士が見えてきた。
 私は馬を降りて彼らに近づいていくが、そこでギウのことが気になった。

「ギウ、君は町の中に入っても大丈夫なのか?」
「ギウ?」
「いや、私にとって君は珍しい種族で、最初の出会いは衝撃的だったからな。ここでは普通なのか珍しいのか判断がつかなくてね。失礼な話だが、町の人が驚いたりしないだろうかと?」
「ギウ~、ギウッ」

 ギウはひらひらと手を振る。どうやら問題ないようだ。
「なら、いいが。では、門へ向かおう」


 東門に近づくと、二人の兵士が私たちの存在に気づいた。そのうちの一人が話しかけてくる。
「これは、させ……ケント様」
「いま、左遷王と口にしそうになったな」
「いえいえ、滅相もありません。なぁ、相棒」
「そうっすよ。領主様に向かってそんな失礼なこと。領地に一人しかいないけど、クク」

 二人は十日ほど前に訪れた時と同様に、私を小馬鹿にした態度を取っている。
 たしかに、領地に領主が一人しかいないというのは馬鹿げた話。
 私自身もそう思っているので気にしないでおこうと思っていたが、ここまであからさまな嘲笑の対象となり続けると、少しばかり腹が立つ。
 だからと言って、彼ら相手に問答を起こしても時間の無駄だ。


 私は通行許可証を見せて、この不快な場から離れようとした。
 だが、ギウが私の感情を汲むように前へ出て、二人を睨みつけた。

「ギウッ」
「な、なんだ。どうしてギウが?」
「も、文句あんのかよ」

 二人の兵士は身体を震わせながら虚勢を張っている。
 この様子から、ギウは相当恐れられているらしい。同時に彼らの接し方から見て、アルリナにおいて普通の種族でもあるようだ。
 さらに、彼らからも『ギウ』と呼ばれているみたいだ。

 私は顎に手を置き、ギウの姿を瞳に入れた。
(私はギウを個人名として使っているが、ギウというのは種族の名前なのか? だとすると、かなり失礼なことをしているな)

 これを人間に置きかえるならば、名前を呼ばずに『おい、人間』と言っているようなもの。
(どうりでギウと呼ばれて、微妙な顔をするはずだ。あとで謝らなければ)


 私はいまだ無言で二人の兵士を睨み続けるギウに話しかける。
「もう、十分だ」
「ギウ?」
「なに、私は気にしていない。でも、私のために怒ってくれてありがとう」
「ギ、ギウ~」

 エラをパタパタ動かし、身体を大きく左右に振っている。彼の照れ方は思いのほかバリエーションが豊かそうだ。
 私は二人の兵士に顔を向ける。

「では、通ってもいいかな?」
「え、ええ」
「は、はい、どうぞっす」


 怯えを引き摺る兵士を横目に門をくぐる。
 彼らから少し離れたところで、ギウの名について謝罪を口にした。
「ギウとは種族名だったのだな。そうと知らずに、君のことをギウと呼んですまない。さぞ、不快であったであろう」
「ギウ?」
「ん?」

 彼は一瞬だけ疑問の声を漏らす。しかし、すぐに言葉を返してきた。
「ギウギウ」
 彼は気にするなと身体を軽く左右に振る。
 さきほどの疑問の声は気になるが、すぐに声を返したところから大したことではないだろう。
 
「ギウ、ギウ?」
 ギウは私を覗き込むように体を傾けた。どうやら、私が名前のことで気にしすぎてないか心配している様子。 
 彼の表情から感情の変化はわかりにくいが、その心の中は優しさに満ち溢れている。


「ふふ、君は優しいな。だが、これから君のことを何と呼ぶべきか?」
「ギウ、ギウ、ギウ」
 彼は自身の胸を叩きながら、ギウという言葉を連呼する。それはつまり……。

「呼び名はギウのままでいいのか?」
「ギウ」
「しかしそれでは……」
「ギウギウギウ」

 彼は軽く手を振って、前へ歩き出した。
 もう、名前のことはいい、と態度に表している。

「わかったよ、ギウ。正直言えば、すでに言い慣れてしまっていたからね」
「ギウッ」
「ふふ、それでは早速買い物に向かおうか」
 
 彼の本当の名前がわからないのは残念だが、わからなくともギウは気の良い仲間だ。
 そんな彼と共に、私はアルリナの町で買い物を楽しむことにした。
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