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第二章 たった二人の城
看板の意味
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桐の箱に入った貴重な花瓶を絶対に壊れないように馬の腰に結び付けて、親父の店から離れた。
ギウはその花瓶入りの箱を見つめ、申し訳なさそうな声を上げる。
それは親父の店で、花瓶の購入を強く勧めたことに対する後悔の声。
先ほどは花瓶購入に興奮していたが、今になって冷静さを取り戻したのだろう。
「ギウ~ギウ」
「まぁ、いいさ。ギウには城のことをいろいろ手伝ってもらっているし。それに親父からは銃を安くせしめているからな。それらを考えると安い買い物だ」
「ギウ~……」
ギウの声に元気がない。かなり落ち込んでいるようだ。
私はこれ以上、彼が落ち込まないように話題を少し逸らす。
「ギウは花瓶が好きなのか?」
「ギウ?」
「いや、花瓶をかなり真剣に見つめていたから」
「ギウ~ギウギウギウギウ」
ギウは右手に持つ銛で、路傍に咲く花を差した。
「花が好きなのか?」
「ギウ」
「なるほど。それで花を生けるための花瓶が欲しかったのだな……それなら花瓶は安物でも……」
「ギウ?」
「いや、なんでもない。そうだ、食料品を購入に向かおう。若夫婦ととても元気で小さなレディが営む八百屋があるんだ」
私は馬を引き、ギウと共に八百屋へ向かう
その道中、町の者はギウを見て一瞬『おっ?』という程度の視線を見せるが、その後はあまり気にする様子を見せない。
やはりこの地域では、ギウはそれほど珍しい種族ではないようだ。
キサとその両親が営む八百屋までやってきた。
若夫婦が私とギウの姿に気づき、二人は店奥から店先へと出てくる。
「これはケント様」
「ギウと一緒なんですね。人と一緒なんて珍しい」
「先日はどうも。先ほども他の者にギウと人間が一緒に居るのは珍しいと言われたが、そうなのか?」
「へい。ギウたちは大抵、海岸沿いに住んでまして、人と交わることはないですね」
「普段は埠頭で釣りをしてたり、銛を使い魚を獲ったりしていますよ。あとは、『マッキンドーの森』で狩りをしているそうです」
「ギウたち? ということは、かなりの数がいるのか?」
「いえ、数からいえばそんなには……百程度だと思いますが」
「みんな見た目は魚で、銛を携えて?」
「へい」
「この町の住民との関係は良いのだな?」
「う~ん、そうですね。ギウたちが獲った魚を、現金や物々交換でやり取りしてますし。得た現金で買い物をしに来たりもしますね。うちの店にもたまに。そのために看板もかぼちゃの看板を掲げていますから」
「看板?」
八百屋のひさしの部分に、紐でぶら下がったかぼちゃマークの看板がある。
それは初めてお店に来たときに、少し気になった看板だ。
「ギウはこちらの言葉はわかりますが字が読めませんので、こうやって看板で何屋さんか知らせているんですよ。魚屋は魚のマーク。金物屋はハンマーといった風に」
「なるほど。こちらの風習かと思っていたが、そんな理由があったのか」
私はギウをチラリと見る。
(言葉は声帯の問題で出せないこともあるだろうが、文字が読めないとは……とても賢そうに見えるのに、何故だろう?)
短い付き合いだが、ギウの知的レベルは非常に高いものだと感じている。
文字を理解するなど、ギウには簡単そうに感じるが……。
「ギウ?」
私に見つめれたギウは、光の宿らない真っ黒な瞳を見せて疑問符を纏う。
前に立つ店主も同じく疑問の声を上げてきた。
「ケント様、どうされました?」
「いや、大したことではない。とにかく、ギウはこの町の人間と仲良くやっており、争いなどないというわけか」
「へい、そうですね。たまに腕自慢の戦士がギウに挑戦して、返り討ちに遭ってますが」
「そ、そうなのか? ギウ、君は只者ではないと思っていたが、戦士たちを返り討ちするくらいに強いのだな」
「ギウギウ」
ギウは誇らしげに胸を張っている。
太陽の光がキラリと反射する胸板は、どことなく逞しい。
私は顔をギウから若夫婦に向ける
「王都周辺ではギウのような種族を見たことがないが、ギウはこの地域特有の種族と思っていいのか?」
「そう言われてますね。種族にしては会話は通じませんが、私たちと同じく知恵を持った存在です。学者様の中には人間よりも頭がいい、なんて声もあるとかないとか」
「ほぉ、たしかに彼は色々なことを知っているからなぁ」
料理、魚釣り、干し魚の作り方、美の追求。
会話は通じなく文字も読めないが、とても高度な生命体と見受けられる。
少なくとも、料理が下手で魚も満足に捌けず、美に興味のない私よりかは……。
「ふふふ、ギウとは本当に底知れない種族だ」
「ギウウ~」
ギウは銛の柄頭で、石畳の地面をコンコンと叩いている。新しい照れ方だ。
するとそこに、冷や水を浴びせるキサの声が響いた。
ギウはその花瓶入りの箱を見つめ、申し訳なさそうな声を上げる。
それは親父の店で、花瓶の購入を強く勧めたことに対する後悔の声。
先ほどは花瓶購入に興奮していたが、今になって冷静さを取り戻したのだろう。
「ギウ~ギウ」
「まぁ、いいさ。ギウには城のことをいろいろ手伝ってもらっているし。それに親父からは銃を安くせしめているからな。それらを考えると安い買い物だ」
「ギウ~……」
ギウの声に元気がない。かなり落ち込んでいるようだ。
私はこれ以上、彼が落ち込まないように話題を少し逸らす。
「ギウは花瓶が好きなのか?」
「ギウ?」
「いや、花瓶をかなり真剣に見つめていたから」
「ギウ~ギウギウギウギウ」
ギウは右手に持つ銛で、路傍に咲く花を差した。
「花が好きなのか?」
「ギウ」
「なるほど。それで花を生けるための花瓶が欲しかったのだな……それなら花瓶は安物でも……」
「ギウ?」
「いや、なんでもない。そうだ、食料品を購入に向かおう。若夫婦ととても元気で小さなレディが営む八百屋があるんだ」
私は馬を引き、ギウと共に八百屋へ向かう
その道中、町の者はギウを見て一瞬『おっ?』という程度の視線を見せるが、その後はあまり気にする様子を見せない。
やはりこの地域では、ギウはそれほど珍しい種族ではないようだ。
キサとその両親が営む八百屋までやってきた。
若夫婦が私とギウの姿に気づき、二人は店奥から店先へと出てくる。
「これはケント様」
「ギウと一緒なんですね。人と一緒なんて珍しい」
「先日はどうも。先ほども他の者にギウと人間が一緒に居るのは珍しいと言われたが、そうなのか?」
「へい。ギウたちは大抵、海岸沿いに住んでまして、人と交わることはないですね」
「普段は埠頭で釣りをしてたり、銛を使い魚を獲ったりしていますよ。あとは、『マッキンドーの森』で狩りをしているそうです」
「ギウたち? ということは、かなりの数がいるのか?」
「いえ、数からいえばそんなには……百程度だと思いますが」
「みんな見た目は魚で、銛を携えて?」
「へい」
「この町の住民との関係は良いのだな?」
「う~ん、そうですね。ギウたちが獲った魚を、現金や物々交換でやり取りしてますし。得た現金で買い物をしに来たりもしますね。うちの店にもたまに。そのために看板もかぼちゃの看板を掲げていますから」
「看板?」
八百屋のひさしの部分に、紐でぶら下がったかぼちゃマークの看板がある。
それは初めてお店に来たときに、少し気になった看板だ。
「ギウはこちらの言葉はわかりますが字が読めませんので、こうやって看板で何屋さんか知らせているんですよ。魚屋は魚のマーク。金物屋はハンマーといった風に」
「なるほど。こちらの風習かと思っていたが、そんな理由があったのか」
私はギウをチラリと見る。
(言葉は声帯の問題で出せないこともあるだろうが、文字が読めないとは……とても賢そうに見えるのに、何故だろう?)
短い付き合いだが、ギウの知的レベルは非常に高いものだと感じている。
文字を理解するなど、ギウには簡単そうに感じるが……。
「ギウ?」
私に見つめれたギウは、光の宿らない真っ黒な瞳を見せて疑問符を纏う。
前に立つ店主も同じく疑問の声を上げてきた。
「ケント様、どうされました?」
「いや、大したことではない。とにかく、ギウはこの町の人間と仲良くやっており、争いなどないというわけか」
「へい、そうですね。たまに腕自慢の戦士がギウに挑戦して、返り討ちに遭ってますが」
「そ、そうなのか? ギウ、君は只者ではないと思っていたが、戦士たちを返り討ちするくらいに強いのだな」
「ギウギウ」
ギウは誇らしげに胸を張っている。
太陽の光がキラリと反射する胸板は、どことなく逞しい。
私は顔をギウから若夫婦に向ける
「王都周辺ではギウのような種族を見たことがないが、ギウはこの地域特有の種族と思っていいのか?」
「そう言われてますね。種族にしては会話は通じませんが、私たちと同じく知恵を持った存在です。学者様の中には人間よりも頭がいい、なんて声もあるとかないとか」
「ほぉ、たしかに彼は色々なことを知っているからなぁ」
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会話は通じなく文字も読めないが、とても高度な生命体と見受けられる。
少なくとも、料理が下手で魚も満足に捌けず、美に興味のない私よりかは……。
「ふふふ、ギウとは本当に底知れない種族だ」
「ギウウ~」
ギウは銛の柄頭で、石畳の地面をコンコンと叩いている。新しい照れ方だ。
するとそこに、冷や水を浴びせるキサの声が響いた。
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