21 / 359
第三章 アルリナの影とケントの闇
一人の男として
しおりを挟む
私は少女を威圧している三人の戦士にやんわりと話しかけた。
「失礼。先ほどから、何やら揉めているようだが……何か厄介事かな?」
「あん、誰だてめえは? 気持ち悪ぃ目の色しやがって、殺すぞ」
三人の中で一番小柄な戦士が巻き舌を交え威嚇してきた。
彼のとても友好的な態度に、この先が思いやられる。
「通りすがりの者だ。何事かと思って声を掛けたんだが?」
「うっせいな。関係ねぇ奴は引っ込んでろよ! 殺すぞ」
男はまたもや殺すぞと威嚇してくる。これでは話にならない。
私は視線を奥にいる少女に投げた。
「何があった? 少し話が聞こえていたが、何らかの取引をしていたようだが?」
「あの、それは……ちょっと」
少女は言い淀む。私はもう一度、少女に問いかけようとした。
だが、小柄な戦士が追い払うような口調で私の声を止めた。
「ただの商売だよ。だから、てめぇには関係ねぇの。殺すぞ」
「殺すぞは口癖なのか?」
「あん?」
「何でもない。はぁ、仕方がない」
穏便に済ませたかったが、そうもいかないらしい。私は覚悟を決める。
「大人の男が三人で少女を囲んでいたら、あまり良い状況とは思えない。君たちは何をやっている?」
「んだとぉ~、いきなり俺らを犯罪者扱いかよ? 殺すぞ」
「違うというならば説明して欲しい」
「てめぇ、警吏でもねぇくせに、何の権利があって口を挟むんだよ? 殺すぞ」
「権利は有している。一人の男として、少女が怯えている姿は見過ごせない。それが犯罪に関わる可能性があるならば、なおさらな!」
「ギャハハハ、聞いたかよ? かっけ~な、おい。一人の男だってよ!」
「好きなだけ馬鹿にしろ。だが、何をしているのか説明してくれ。問題なければ、すぐに立ち去る」
「鬱陶しい奴だな~。てめぇの言った通り、こいつと商売してただけだよ。ちゃんとお互い納得した金額で商品を購入したのに、いまさらになって返せって言いやがる。どちらかというと俺らは被害者なんだぜ~」
「そうなのか?」
少女に顔を向けて問いかける。
すると、少女は力なく答えた。
「そうだけど。でも、あんなことに……」
「あんなこと、とは?」
「それは、あの……っ」
少女は口を噤んでしまった。代わりに小柄な戦士が盛大に笑う。
「ギャハハハ、ま、言えね~よな。俺たちは商売仲間。いまさら、誰かに助けを乞うなんてできねぇよな。そうだろぉ?」
「それは……でも、私は知らなかった!」
少女の声が路地裏に響き渡る。それはとても悲痛な叫び。
その叫びは、彼女が何を思い、何をしたのかわからないが、助けを求めていることは十分にわかる声だった。
痛みの宿る少女の声は、男たちの顔を醜く捻じ曲げさせる。
「くそ、うるせいなっ。グダグダ言いやがって。おい、てめぇら場所を変えっぞ。じゃねぇと、この男みてぇな鬱陶しい野郎が来るかもしれねぇからな」
小柄な戦士は顎をくいっと前に出した。
その指示に従い、戦士の一人が少女のか細い腕を握り締める。
「来い!」
「痛っ! やめて!」
「やめろ!」
私は大声を張り上げて彼らの不埒な行為を止めさせた。
その声が響くと同時に、男たちの雰囲気が変わる。
「マジ、うぜぇな。殺すぞ」
「悪いが、殺されても見過ごせないこともある」
「はっは~、かっけ~。だけどな、俺らはシアンファミリーの傭兵だぜ。覚悟はできてんだろうなぁ?」
「なに?」
シアンファミリー――港町アルリナを牛耳る一派。評判はすこぶる悪く、関わり合いになってはいけない連中。
(クッ、彼らがシアンファミリーの傭兵とは……)
私は顔を曇らせる。
それを見た戦士たちは表情をニヤつかせている。
「へへ、ビビりやがった。なっさけね。おい、お前ら行くぞ。こっちの正義の味方は休業するらしいからよ」
男たちは下卑た笑い声上げながら、私を横切っていく。
少女もまた、無理やり男たちに引きずられ、私の隣を通り過ぎようとした。
少女の淡い緑の瞳は恐怖に彩られている。
彼らは薄汚れた粗雑な指先で、ガラス細工のように儚い少女の腕を握り締めている。
私は……大きくため息をついた。
「はぁ、厄介事についてどうするかはあとで……考えるとしようっ!」
言葉を跳ねると同時に、剣の鞘で少女を握り締めていた男の腕を打つ。
「いでっ!」
男が痛みに負けて、少女の拘束を解く。
「こっちへ!」
私は少女の手を引き、自分の後ろへと回した。
男たちは殺気の宿る瞳で私を睨みつけてくる。
「てめぇ、何をしたのかわかってんだろうなぁ? シアンファミリーに喧嘩を売ったんだぜ。ぶっ殺すぞ!」
「ふん、相手が何者であろうと、幼い少女を怯えさせるような連中は見過ごせない。一人の男として、君たちに、いや、貴様たちにこの子を渡すわけにはいかない!」
「失礼。先ほどから、何やら揉めているようだが……何か厄介事かな?」
「あん、誰だてめえは? 気持ち悪ぃ目の色しやがって、殺すぞ」
三人の中で一番小柄な戦士が巻き舌を交え威嚇してきた。
彼のとても友好的な態度に、この先が思いやられる。
「通りすがりの者だ。何事かと思って声を掛けたんだが?」
「うっせいな。関係ねぇ奴は引っ込んでろよ! 殺すぞ」
男はまたもや殺すぞと威嚇してくる。これでは話にならない。
私は視線を奥にいる少女に投げた。
「何があった? 少し話が聞こえていたが、何らかの取引をしていたようだが?」
「あの、それは……ちょっと」
少女は言い淀む。私はもう一度、少女に問いかけようとした。
だが、小柄な戦士が追い払うような口調で私の声を止めた。
「ただの商売だよ。だから、てめぇには関係ねぇの。殺すぞ」
「殺すぞは口癖なのか?」
「あん?」
「何でもない。はぁ、仕方がない」
穏便に済ませたかったが、そうもいかないらしい。私は覚悟を決める。
「大人の男が三人で少女を囲んでいたら、あまり良い状況とは思えない。君たちは何をやっている?」
「んだとぉ~、いきなり俺らを犯罪者扱いかよ? 殺すぞ」
「違うというならば説明して欲しい」
「てめぇ、警吏でもねぇくせに、何の権利があって口を挟むんだよ? 殺すぞ」
「権利は有している。一人の男として、少女が怯えている姿は見過ごせない。それが犯罪に関わる可能性があるならば、なおさらな!」
「ギャハハハ、聞いたかよ? かっけ~な、おい。一人の男だってよ!」
「好きなだけ馬鹿にしろ。だが、何をしているのか説明してくれ。問題なければ、すぐに立ち去る」
「鬱陶しい奴だな~。てめぇの言った通り、こいつと商売してただけだよ。ちゃんとお互い納得した金額で商品を購入したのに、いまさらになって返せって言いやがる。どちらかというと俺らは被害者なんだぜ~」
「そうなのか?」
少女に顔を向けて問いかける。
すると、少女は力なく答えた。
「そうだけど。でも、あんなことに……」
「あんなこと、とは?」
「それは、あの……っ」
少女は口を噤んでしまった。代わりに小柄な戦士が盛大に笑う。
「ギャハハハ、ま、言えね~よな。俺たちは商売仲間。いまさら、誰かに助けを乞うなんてできねぇよな。そうだろぉ?」
「それは……でも、私は知らなかった!」
少女の声が路地裏に響き渡る。それはとても悲痛な叫び。
その叫びは、彼女が何を思い、何をしたのかわからないが、助けを求めていることは十分にわかる声だった。
痛みの宿る少女の声は、男たちの顔を醜く捻じ曲げさせる。
「くそ、うるせいなっ。グダグダ言いやがって。おい、てめぇら場所を変えっぞ。じゃねぇと、この男みてぇな鬱陶しい野郎が来るかもしれねぇからな」
小柄な戦士は顎をくいっと前に出した。
その指示に従い、戦士の一人が少女のか細い腕を握り締める。
「来い!」
「痛っ! やめて!」
「やめろ!」
私は大声を張り上げて彼らの不埒な行為を止めさせた。
その声が響くと同時に、男たちの雰囲気が変わる。
「マジ、うぜぇな。殺すぞ」
「悪いが、殺されても見過ごせないこともある」
「はっは~、かっけ~。だけどな、俺らはシアンファミリーの傭兵だぜ。覚悟はできてんだろうなぁ?」
「なに?」
シアンファミリー――港町アルリナを牛耳る一派。評判はすこぶる悪く、関わり合いになってはいけない連中。
(クッ、彼らがシアンファミリーの傭兵とは……)
私は顔を曇らせる。
それを見た戦士たちは表情をニヤつかせている。
「へへ、ビビりやがった。なっさけね。おい、お前ら行くぞ。こっちの正義の味方は休業するらしいからよ」
男たちは下卑た笑い声上げながら、私を横切っていく。
少女もまた、無理やり男たちに引きずられ、私の隣を通り過ぎようとした。
少女の淡い緑の瞳は恐怖に彩られている。
彼らは薄汚れた粗雑な指先で、ガラス細工のように儚い少女の腕を握り締めている。
私は……大きくため息をついた。
「はぁ、厄介事についてどうするかはあとで……考えるとしようっ!」
言葉を跳ねると同時に、剣の鞘で少女を握り締めていた男の腕を打つ。
「いでっ!」
男が痛みに負けて、少女の拘束を解く。
「こっちへ!」
私は少女の手を引き、自分の後ろへと回した。
男たちは殺気の宿る瞳で私を睨みつけてくる。
「てめぇ、何をしたのかわかってんだろうなぁ? シアンファミリーに喧嘩を売ったんだぜ。ぶっ殺すぞ!」
「ふん、相手が何者であろうと、幼い少女を怯えさせるような連中は見過ごせない。一人の男として、君たちに、いや、貴様たちにこの子を渡すわけにはいかない!」
0
あなたにおすすめの小説
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる