銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
20 / 359
第三章 アルリナの影とケントの闇

絹を裂くような

しおりを挟む
「調味料、良し! 食料、良し! 工具類、良し!」
 町中まちなかの道の端に寄り、馬に載せた購入品を確認していく。
 
 そんな中、傍に立つギウは何かの店に視線を向けていた。
「どうした、ギウ? 何か買いたい物でも?」
「ギウギウ」
 

 ギウは店の前で束になっている絨毯たちを指差す。
「絨毯か……たしかに石の床が剥き出しの部屋は寒々としているな。だが、これ以上、馬に載せるのは無理だろう。また、次の買い出しの時にしよう」
「ギウ」
 ギウは別の店を指差す。そこは寝具店。

「ああ、そうだった。ベッドのことも考えないと。いつまでもソファで寝ていられないし。どうも、食料品や日用品に目が行きがちで、つい忘れてしまうな。とはいえ、ベッドを運ぶとなると馬では足りないし」

 家具類を運ぶには荷馬車が必要。さらに人を雇い、運んでもらう必要がある。

「はぁ~、物を揃えるというのは色々と手間がかかるな。ギウの部屋のこともあるし、荷車の購入も考えないと」
「ギウ? ギウギウ?」
 
 ギウは身体を傾けている。表情はわかりにくいが、きょとんとしているといった感じか。
 だが、彼がそうなるのも無理もない。


「君の部屋のことは話していなかった。ギウさえ良ければ、城に住んでくれないか?」
「ギウ!?」
「君が傍にいてくれると、何かと助かっていてね。すべて私の都合になるが、もし、良ければ……幸い、ボロボロの城と言えど、片付けさえすれば部屋だけはたくさんあるからな」
「ギウウ?」
「ああ、問題ない。正直言えば、一人で城に住むのは寂しくて。それで……どうかな?」
「ギウ」

 ギウは快く身体を前に揺すった。

「そうか、良い返事をもらえてよかった。それでは、これからよろしくな」
「ギウ」

 ギウとギュッと固い握手をする。
 そこに、少女らしき声が飛び込んできた。


――返してください!


 近くの路地裏から響く声。
 その響きは切迫している。明らかに揉め事だ。

「ふむ、暖かな日差しが降り注ぐ、穏やかな町中まちなかを切り裂く乙女の叫び声、か」
「ギウギウ?」
「そうだな。耳に入ってしまった以上、知らんぷりとはいくまい。ギウは待っていてくれ」
「ギウ?」
「なに、チンピラ程度ならどうとでもなる。それに、便利な武器もあるしな」

 私はベルトに挟んでいる銃を見せつけた。
 銃を見たギウは身体を捻って、目を瞑り考え事をする素振りを見せる。
 考えてみれば銃は珍しく、ギウにはなんなのかわからないのだろう。

「これは飛び道具だ。剣や弓よりも扱いやすく、小ぶりだが、非常に威力のある武器だ。だから、心配ない」
「ギウ」
「ふふ、それでは、様子を見に行ってみるよ。ギウは荷物を見ていてくれ」

 私はギウに荷物番を頼み、少女の声が聞こえた路地裏へと向かった。



――路地裏

「返してください!」
 少女の声が響いてくる路地裏をこそりと覗く。
 そこでは十二~三歳程度の少女が屈強な男三人に何かを訴えていた。
 男は三人とも腰に剣をたずさえた、戦士らしき風貌をしている。

 
 私は心の中で、一人で来たのは不味かったかと考える。
(てっきり、チンピラかと思ったが、戦士とは……並の戦士であればなんとかなるが)

 私にはとても役に立つ銀の瞳がある。
 剣や魔法の心得がない私でも、この瞳の力を使えば並の戦士程度ならどうとでもなる。

 その瞳を動かし、戦士から少女に向けた。
 大きな茶色の肩掛けカバンを身に着けた少女は、青いワンピースの上にエプロンを重ね着している。
 白いエプロンには赤や青や黄色といった様々な塗料が付着していた。
 
 また、その色合いに新たな色を足すように水色の長い髪を持ち、さらに水色の髪には赤と白の髪が数本混じっている。

 容姿は少女らしい幼さを纏い、実に愛らしい。
 身体は華奢で、肌は透き通るように白く、弱々しく感じる。失礼だが薄幸の少女という表現がとても合う。
 だがしかし、その容姿とは裏腹に少女は淡い緑の瞳に力を籠めて、屈強な男三人を相手にはっきりとした意思の籠る声をぶつけていた。


「お願いです、返してください!」
「んなこと言われてもな~。こっちはちゃんと報酬を払っただろ?」
「それは、そうですけど……でも、私の絵をあんなことに使っているなんて知らなかったから。お願いです、ジェイドおじ様に会わせてください!」


 私は彼らに見つからぬように様子を伺いながら、会話の流れから何が起こっているのか推察してみる。
 少女は『絵』と言っていた。
 エプロンに付いている塗料から、少女は絵描きなのだろう。
 そしてその絵を、彼ら、またはジェイドおじ様なるものに売った。
 だが彼らは、少女の絵を不本意な形で使っている。
 だから少女は、絵を返してくれと頼んでいる。と、いったところだろうか?

(ふむ、困ったな。取引での揉め事となると、第三者が介入して良いものか? 下手な介入は事態を悪化させかねない……だが)

 
 息を吹きかけるだけで砂のように崩れてしまいそうな少女と、岩で頭を殴りつけてもピンピンとしていそうな男たちの諍い。
 放っておくには忍びない。
 それに、男たちの容貌はお世辞にも上品とは言えない。
 明らかに暴力を生業としている連中。
 少女が食い下がれば、必ず暴力的な手段に訴えるだろう。

(やはり、口出しすべきか。だが、少女に迷惑が掛からぬようにせねばな)
 私は路地裏の中へ入っていき、男たちに声を掛けた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...