30 / 359
第三章 アルリナの影とケントの闇
走れ若者
しおりを挟む
ギウにエクアの守護を頼み、私は一人、ムキ=シアンに関する情報を集める。
その途中で、以前、釣りを指導してもらった老翁に出会った。
早速、老翁にムキ=シアンについて尋ねると、老翁はこう答えた。
「父親も酷かったが、息子は輪をかけて酷い。少なくとも父親は借金のカタに子どもを売り飛ばしたりはしなかったからの。ま、父親も暴利で金を貸し、返せない者には見せしめに家を燃やしたりしてたがな」
「なるほど、程度に差はあれど悪党というわけか……」
「そうじゃな」
「しかし、彼らは表の取引もしているでしょう?」
「もちろんじゃ。しかし、取引で少しでも自分らが不利と見ると、暴力を持ち出すが……」
「まったく、ヤクザな連中だ。そう言えば、八百屋の若夫婦も買い叩かれることがあると言っていたな」
「八百屋だけではないぞ。ムキの屋敷の出入り業者はみんな愚痴をこぼしておる」
「出入り業者?」
「ムキ=シアンはアルリナの高台に屋敷を構えておるんじゃが、ほれ、ここからも見えるじゃろ」
老翁が高台を指差す。
そこには遠くからでもはっきりわかる豪邸が建っていた。
屋敷は金ぴかで、白と青で映えるアルリナの町にはとても不似合い。かなりの悪趣味だ。
「あの屋敷には八百屋・肉屋・工務店と、いろんな業者が出入りしておる」
「たしか、若夫婦との世間話で、裏口から通されていると聞いた覚えがあるな……ムキ=シアンは相当恨みを買っているから、やはり警備も厳重なのでしょうね?」
「そうさねぇ~、表玄関も屋敷の敷地内も警備だらけだと聞いとるの。じゃが、裏口はそうでもないと」
「ほぉ~、それはまた何故?」
「頻繁に業者が出入りするから、身分の照会が面倒だそうだ。それに出入りする者は全部、身分照会済みの者たちばかりだからの。だから見張りは二、三人いる程度じゃと」
「それはそれは……おっと、そろそろ行かねば。ありがとう老翁、世間話に付き合ってくれて」
「いやいや、こちらこそこんなジジイの相手をしてくれてありがとうよ。しかもそれが領主様ときたら、嬉しいやら申し訳ないやら」
「おや、いつから私のことを?」
「釣りの仕方を教えて、すぐにな。元々町では古城トーワに新しい領主がやってきたというのは噂になっとるし、その方が銀の瞳を持っているという話を聞いて、ピンときた」
「隠すつもりはなかったのだが、申し訳ありません」
「いやいやいや、領主様から頭を下げられたら困ってしまうよ。それにしても、こう言っては失礼だが、随分と腰の低い領主様ですな。王都では貴族だったでしょうに」
「貴族もピンキリでして……」
「ふぉっふぉっふぉ、面白い方じゃ。じゃが……」
老翁は笑いを鎮め、代わりに厳かな声を上げつつ、真っ白な眉をピクリと跳ねた。
「ケント様が何をお考えになっておるのかはわかりませんが、火中の栗を拾うような真似はせん方がいいと思います」
「そうですか。忠告、痛み入ります」
私は老翁の言葉を重々しく受け取り、頭を下げた。
その姿に老翁は少し困ったような声を上げる。
「殊勝な態度じゃが……まったく、若い奴はジジイの言うことを聞こうとせん。それが若さというものじゃろうが。止まる気がないのなら、全力で駆け抜けるのも手じゃろ」
「あはは、申し訳ありません」
「ふぉふぉ。この町の者たちはシアンファミリーをよく思っとらん連中ばかりじゃ。ケント様が何かを尋ねれば喜んで教えてくれるじゃろう。じゃが、それは期待とはかけ離れたものじゃよ」
「重々承知しております。私は新参者。町には迷惑を掛けないように努めるつもりです。ですが、同時に、可能性を示せると思っていますので」
シアンファミリーが支配する港町アルリナ。
誰も彼らに逆らえない。この状況に皆は辟易している。
そこに逆らう者が現れた。
町の皆は期待はしてないが、何かが変わってほしいという思いはあるはずだ。
問題は、その思いを商人ギルドも持っているかどうか……今回の問題は、シアンファミリーと相対している、商人ギルドの心の内に掛かっている。
私は老翁に一礼をして、次なる情報を求め、立ち去った。
その途中で、以前、釣りを指導してもらった老翁に出会った。
早速、老翁にムキ=シアンについて尋ねると、老翁はこう答えた。
「父親も酷かったが、息子は輪をかけて酷い。少なくとも父親は借金のカタに子どもを売り飛ばしたりはしなかったからの。ま、父親も暴利で金を貸し、返せない者には見せしめに家を燃やしたりしてたがな」
「なるほど、程度に差はあれど悪党というわけか……」
「そうじゃな」
「しかし、彼らは表の取引もしているでしょう?」
「もちろんじゃ。しかし、取引で少しでも自分らが不利と見ると、暴力を持ち出すが……」
「まったく、ヤクザな連中だ。そう言えば、八百屋の若夫婦も買い叩かれることがあると言っていたな」
「八百屋だけではないぞ。ムキの屋敷の出入り業者はみんな愚痴をこぼしておる」
「出入り業者?」
「ムキ=シアンはアルリナの高台に屋敷を構えておるんじゃが、ほれ、ここからも見えるじゃろ」
老翁が高台を指差す。
そこには遠くからでもはっきりわかる豪邸が建っていた。
屋敷は金ぴかで、白と青で映えるアルリナの町にはとても不似合い。かなりの悪趣味だ。
「あの屋敷には八百屋・肉屋・工務店と、いろんな業者が出入りしておる」
「たしか、若夫婦との世間話で、裏口から通されていると聞いた覚えがあるな……ムキ=シアンは相当恨みを買っているから、やはり警備も厳重なのでしょうね?」
「そうさねぇ~、表玄関も屋敷の敷地内も警備だらけだと聞いとるの。じゃが、裏口はそうでもないと」
「ほぉ~、それはまた何故?」
「頻繁に業者が出入りするから、身分の照会が面倒だそうだ。それに出入りする者は全部、身分照会済みの者たちばかりだからの。だから見張りは二、三人いる程度じゃと」
「それはそれは……おっと、そろそろ行かねば。ありがとう老翁、世間話に付き合ってくれて」
「いやいや、こちらこそこんなジジイの相手をしてくれてありがとうよ。しかもそれが領主様ときたら、嬉しいやら申し訳ないやら」
「おや、いつから私のことを?」
「釣りの仕方を教えて、すぐにな。元々町では古城トーワに新しい領主がやってきたというのは噂になっとるし、その方が銀の瞳を持っているという話を聞いて、ピンときた」
「隠すつもりはなかったのだが、申し訳ありません」
「いやいやいや、領主様から頭を下げられたら困ってしまうよ。それにしても、こう言っては失礼だが、随分と腰の低い領主様ですな。王都では貴族だったでしょうに」
「貴族もピンキリでして……」
「ふぉっふぉっふぉ、面白い方じゃ。じゃが……」
老翁は笑いを鎮め、代わりに厳かな声を上げつつ、真っ白な眉をピクリと跳ねた。
「ケント様が何をお考えになっておるのかはわかりませんが、火中の栗を拾うような真似はせん方がいいと思います」
「そうですか。忠告、痛み入ります」
私は老翁の言葉を重々しく受け取り、頭を下げた。
その姿に老翁は少し困ったような声を上げる。
「殊勝な態度じゃが……まったく、若い奴はジジイの言うことを聞こうとせん。それが若さというものじゃろうが。止まる気がないのなら、全力で駆け抜けるのも手じゃろ」
「あはは、申し訳ありません」
「ふぉふぉ。この町の者たちはシアンファミリーをよく思っとらん連中ばかりじゃ。ケント様が何かを尋ねれば喜んで教えてくれるじゃろう。じゃが、それは期待とはかけ離れたものじゃよ」
「重々承知しております。私は新参者。町には迷惑を掛けないように努めるつもりです。ですが、同時に、可能性を示せると思っていますので」
シアンファミリーが支配する港町アルリナ。
誰も彼らに逆らえない。この状況に皆は辟易している。
そこに逆らう者が現れた。
町の皆は期待はしてないが、何かが変わってほしいという思いはあるはずだ。
問題は、その思いを商人ギルドも持っているかどうか……今回の問題は、シアンファミリーと相対している、商人ギルドの心の内に掛かっている。
私は老翁に一礼をして、次なる情報を求め、立ち去った。
10
あなたにおすすめの小説
転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件
fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。
チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!?
実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。
「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる