銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第三章 アルリナの影とケントの闇

傭兵たち

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――八百屋

 
 エクアを引き取るため、なるべく人の目がつかないようにしながら八百屋の裏口へ回った。
 若夫婦とキサに礼を述べて、エクアを引き取る。
 その際、今日購入した品々を預かってもらった。

 しかし、先ほど立ち寄った店で購入した商品は、今から古城トーワで必要になるので別だ。
 エクアは小さく首を斜めに傾け、私が手に持っている大きめの布袋に入った商品について尋ねてきた。

「あの、それは?」
「これは黒色の塗料と投網」
「塗料と投網?」
「これから行うことで必要になると思ってね。塗料はなるべく匂いのないものを原料にしたものを選んだ。その分、薄目で色の付き具合も悪いが」
「はぁ?」
「投網の方は、キサから話を聞いて思いついた。たまに、ギウの仲間が引っかかるらしいぞ」
「え?」
「ふふ、では行こうか」



 たくさんの疑問符を並べるエクアと、盛大に鼻水をまき散らす馬を引き連れ、ギウと合流する。
 塗料の入った袋と投網の束以外、目立った荷物はなく、私は腰に剣と銃。ギウは右手に銛。エクアは大きな茶色の肩掛けカバンを身に着けているだけだ。

 私たちは表通りに出て、人通りの多い中央へ向かおうとした。
 そこに、エクアと対峙していた傭兵たちが現れた。
 小柄な戦士が前に出て汚らしく唾を飛ばす。


「見つけたぜ!」
「ああ、君たちか。良いタイミングだ」
「あん?」
「何でもない……今回は人が多いな」

 路地裏では三人だったが、今回は七人に増えている。
 おそらく、ギウを警戒してのことだろう。
 私は数に怯えるエクアを自分の背後に回す。ギウは銛を握る手を強め、私の半歩先に立つ。

 小柄な戦士はギウに薄汚い視線をぶつけながら得意そうに声を出した。
「ああ、こんだけいればギウなんて目じゃねぇぜ。さぁ、大人しくガキを渡せ! 殺すぞっ」
「まったく、天下の往来で大の大人が少女を要求するとは……シアンファミリーとは変態の集まりか!」

 私はわざと大声を上げて、彼らではなくシアンファミリーを侮辱した。
 道を歩いていた人々はその行為に驚いた表情を見せる。
 中には青い顔をしている者も。

 その真逆に、前に立つシアンファミリーの傭兵たちはこめかみに血管を浮かべて顔を赤くしていた。


「て、てめぇ、何を言ってんのかわかってんだろうなぁ!? 殺すぞ!」
「お前たちこそ、誰に向かってそのような口を聞いているのかわかっているのか?」
「はん、ムキ様から聞いたぜ~。てめぇは王都から追い出されて、古城トーワに追いやられた左遷王様だってな。そうだろ、左遷王のケント様よ~、ギャハハハハ!」

 
 小柄な戦士の笑い声に呼応して、他の戦士たちも馬鹿笑いを始めた。
 路地裏で出会った時は私を領主と知らずの態度だっただろうが、今回は違う。
 ムキ=シアンから私のことを聞いたうえで、領主である私を衆人環視の下で愚弄している。


「ふぅ、私がどういった事情で古城トーワに訪れたかはともかく、領主であることは間違いない。そうであるのに、公衆の面前で恥をかかせるとは。ムキ=シアンは部下の教育がなっていないようだ」
「なにが教育だよ。てめぇにはその部下も兵も領民もいない。一人ぼっちの左遷王の分際でよっ」

「一人でも領主は領主だ。あまり持ち出したくはないが、身分差というものはあるぞ。私がその気になれば、君たちを死罪に問える」
「おいおい、聞いたかよ。死罪だってよ! シアンファミリーの俺たち相手に、てめぇ如きがどうこうできるはずないだろうが! ギャハハハ!!」

 再び、小柄な戦士が笑い声を上げると、同様に他の戦士たちも笑い声を上げて私を虚仮こけにする。
 彼は腹を抱え、息を切らしながら言葉を続けた。


「ははは、はは、はぁはぁ、それによ、今回はこっちに正当な権利があるんだよ。てめぇを追及するな」
「追及する正当な権利? さて、それはなんだ?」


 戦士は大仰に手を上げて、一気に振り下ろし、エクアを指差した。

「アルリナの民を拉致しようとしている容疑だ! 領民は領主の財産。手続きも得ず、勝手な移動は許されない!」

「ほぅ、なるほど。ヴァンナス法・十三条三項。封土ほうどに関する権利を持ち出してきたか。与えられた領地にある資源・資産は管理者が権利を有する。そして、ヴァンナス法・二十五条一項。財産権について。たしかに、その条文には領主の資産の中に領民が含まれていたが……それは形骸化けいがいかしていたはずだが?」

「けいが、なんだ?」
「兄貴兄貴、形骸化だよ。形だけ残って、今は使われてないって意味」

 小柄な戦士の後ろから、大柄で無骨そうな戦士が耳打ちをしている。
 兄貴と呼ばれた小柄な戦士は後ろを振り向いて慌てた様子を見せた。
 

「使われてないって、どういうことだよ? ムキ様は領民は領主のものだって言えと言ってたんだぞ」
「それじゃここは、アルリナでは形骸化されてはなく、法として機能していると言い返そうよ」

「お、おおう。おい、ケント!」
「はぁ、なんだ……?」
「アルリナではけいがいかされてはなく、法として機能してんだよ!」

「なるほど。法が機能している。それは良いことだ。だが、現在の状況が領民の拉致であるかどうかをムキ=シアンのみで判断するのはおかしい。アルリナを治めているのは商人ギルド。彼らからの采配を仰ぐべきでは?」

「え、いや。ど、どうする? なんて言い返せばいい?」
「ムキ=シアン様はギルドの一翼。緊急性がある場合、ギルドを通さず、判断が可能。本件はそれに該当している」

「だ、そうだ!」

「ならば、今から正規の手続きを取り、商人ギルドに移動届を出せばいいのだろう? まさか、邪魔はしないだろうな?」
「お、おい、どうする!?」

「先程も申した通り、ムキ様はギルドの一翼。移動の手続きが正当なものかどうか判断する権限を持っています。また、本件が正当であるかどうか判断が難しい場合は、一時保留となります。当方としましては、領民に対する安全確保のために領民をこちらで預かりたいと思っています。尚、危険かどうかの判断はこちらにあり、ケント様が判断することではありません」
 
「そうだっ、俺たちが決める。部外者は邪魔すんじゃねぇ! 殺すぞ!!」

 いきり立つ小柄な戦士と、無骨ながらも頭の回る戦士。
 二人のコントのような掛け合いを相手にするのもさすがに疲れてきた。
 これ以上、彼らに付き合う必要もない。

 私は決定的な事実を突きつける。
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