銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
32 / 359
第三章 アルリナの影とケントの闇

長生きをしたければ……

しおりを挟む
 私は鋭く親父を睨みつける。

「何故、私に情報を? 金か?」
「いえ、今回はサービスですぜ」
「それはそれは胡散臭いな。答えろ、何が目的だっ?」

 私は銀の瞳に力を籠めて、親父の心を視線で貫いた。
 親父はツーっと一筋の冷たい汗を零す。


「お、お若いのになかなか迫力がありますな」
「……王都では議員として、多くの議員あくまどもを相手にしていたからな。嫌でも鍛えあげられる」
「さすがは大貴族ジクマ=ワー=ファリン様と真っ向から対立しただけはありますね」

「無謀の極みだったがな。しかし、随分と私に詳しいな」
「多少は調べさせていただきました。俺の期待に添える人物かどうかをね……」
「期待とは?」
「そいつはまだお話しできません」


 そう言って、親父は土産物の人形を掴み、置時計の後ろへ隠した。

「ふん、話せるときは親父の期待に応えられたときか。応えられなければ、勝手に消える。ともかく、私に情報を与える行為は、親父に何かの利があるわけだ。ふふ、安心した」

「善意だけの行為は信用に欠けますからね。へっへっへ、見た目はお優しそうだが、やはり旦那の腹は中々だ」
「それはお互いにな」
「へへ。そうだ、腹の中身と言えば、旦那はどうして『偽名』を? 正直、あのお方の御子息だと知った時は驚きましたぜ。これにはなにか理由わけが?」


「……なに、大したことではない。父から独立したかった。それだけだ」
 これはある意味本音だが、誤魔化しの度合いも強い。
 その誤魔化しの雰囲気には、もちろん親父は気づいている。
 だが、彼は飄々とした態度で言葉を返してくる。そこには切迫した様子はない。

 だからこそ、釘を刺さなければならないだろう。
 彼は私の胸の内を悟ることなく、相も変わらず緊張感など皆無で言葉を生んでいる。

「なるほど、お父上の名はジクマ=ワー=ファリン様とついなす程のお方。子としては相当な圧でしょうし」
「ふふ、本当によく調べている。だが、私の姓を偽名と指すところから、まだハドリーの名が偽名ではなく旧名であることを知らぬようだな」
「旧名?」
「しかしな、そこまでにしておいた方がいいぞ」
「え?」
「これ以上、私のことを深く調べようとするな。長生きをしたければな」


 これは嘘偽りのない言葉。
 私という存在は、ヴァンナス国の奥深い場所に繋がっている。
 下手に私を知ろうとすれば、必ず消される……。

 親父は私の言葉を冗談ではなく、本当のものとして受け取り、口を堅く閉ざす。
 表情から一切の色を消して何食わぬ顔をしているが、心臓を打ち鳴らす鐘は鼓膜にまで響いているだろう。


「親父、これまでの情報はありがたく受け取っておく」
「いえいえ、旦那もあまり無茶をされぬように」
「私としても無茶はしたくないが、それは難しいかもな。それよりも親父さん、商人ギルドの長・ノイファン殿の屋敷がどこにあるか知っているか?」

「おや、旦那は知らないんですか? 領主様なら、この町を通る際に屋敷へ招かれてそうですが」
「私は利用価値のない存在だからな、最低限の関わりしか持っていない」
「冷遇されてますね」
「価値がないということもあろうが、ジクマ閣下の影も恐れているのだろう。なにせ、私は閣下に喧嘩を売った大馬鹿者だからな。だから、仕方のない話だ。それで場所は?」

「アルリナの中央通りから南西側に歩くと、富裕層が多く住むエリアに着きます。そのエリアの南側に赤色のレンガ造りの屋敷がありまして、そいつがノイファン様のお屋敷ですぜ」


 私は土産物の安っぽいブレスレットを手にして、それを観察する振りをしながら視線を南西の方角に向けた。
 今いる場所は町の東側なので小高い丘になっている。そのため、南西側にある町を見下ろせる。
 南西にある建物たちはどれも豪奢で、いかにも高級住宅街といった感じだ。

「ふむ、ここからだと距離があるな」
「差し出がましいでしょうが、ノイファン様に御用があるなら、俺が言付けを預かりしましょうか?」
「いや、親父さんが言付けをたずさえて訪れても、私からだと信用してもらえないだろう。それとも、親父さんはノイファン殿と通じているのか?」
「いえいえ。ですが、会う口実はいくらでも作れますよ」

 そう言って、彼は口角を上げて頬に皺を作る。
 見た目も曲者だが、中身も曲者のようだ。


「その口実がどんなものかは聞かない方がよさそうだ。だが……」
 私は眉をひそめて、親父を睨む。
 彼はというと、その態度に一切動じる様子もなく声を返してきた。

「信用できませんか?」
「信用できるほどの仲ではないからな。しかし、わざわざ私にタダで情報を渡すほどだ。私の不利になるようなことはしないだろう」
「へっへっへ、旦那の信頼が身に染みます。一言、余計なことを」
「なんだ?」

「旦那が何をお考えかまではわかりませんが、なんにせよ、いま、ノイファン様と直接接触を図るのはあまりよろしくないかと」
「たしかにな。わかった。では、手紙を届けてもらいたい」
「それでは、こちらの伝票にサインを……」


 親父が取り出した真っ白な紙。
 私は親父と世間話をしながら、その紙に言付けを書き込んでいく。


「よし、伝票の内容に相違ないか?」
「はい、大丈夫ですぜ」
「それを届けるタイミングは親父さんに任せる」

 この言葉に、親父はニチャリとした嫌らしい笑い顔を見せた。
「へへへ、旦那からの試しってわけですな」
「今後とも世話になりそうだからな。だが、使えない情報屋に用はない」
「これは手厳しい。しかしながら、見ると聞くとでは大違いで」
「ん?」

「王都では青臭い理想を掲げ、ジクマ=ワー=ファリンと対立した若造。結果、王都で居場所を失い、古城トーワに左遷された。これが世間の評です」
「間違っていない。概ね、その通りだ。だが、そのジクマ閣下に鍛えられた。それが今の私だ」

「こいつは恐ろしい。純朴だった青年をこうまで変えてしまうとは……王都には恐ろしい悪魔が住んでいますね」
「フフ、化け物揃いだ。良くも悪くも中央の政治を担っている方々だからな。では、そろそろ行くとしよう。日が傾く前に片づけてしまいたいことがあるのでね」
「そうですか。それでは、お手紙は確かに預かりました。毎度あり」

 親父は価値のなさそうな古ぼけたブレスレットを差し出す。
 私はブレスレットを受け取り、一度、とある店に立ち寄り商品を購入してから八百屋へ戻った。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...