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第六章 活気に満ちたトーワ
世界一の
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――古城トーワ・一階
ケントは自室で事務作業に追われ、他の者も自分たちの仕事に従事していた。
棟梁であるゴリンが柱のヒビの修復に精を出していると、部下である若大工が仕事の報告にやってきた。
「棟梁、地下の部屋に続く階段の瓦礫の撤去を終えましたよ」
「おお、そうか。どうだ、やっぱり地下室も荒れ放題か?」
「それが……ちょっと、来てもらえますか?」
「あん? なんだってんだ?」
ゴリンは若大工に引き連れられ、地下室へ向かう。
そこで彼が見たモノは……。
「なんだ、こりゃ? 壁一面に妙な模様が……」
「棟梁、呪いのまじないとかじゃないでしょうね……?」
「馬鹿言え、そんなわけあるかっ! でも、まぁ、ケント様に報告しとかねぇとな」
二人は地下室から一階へ戻る。
そして、三階の自室に籠るケントのもとに向かおうとしたところ、エクアが駆け足で城の正面玄関から階段へ向かっていく姿が見えた。
「おや、エクアちゃん? どうしたんだい、そんなに急いで?」
「それが、絵を描いていてちょっと休憩を挟もうとしたら三枚目の防壁のところに誰かが居まして、尋ねてみたら、ケント様に何か用があると」
「客人か? それなら報告はあとにするか。しかし、防壁が役に立っちゃいねぇな。仕方ねぇ、そっちの方も見てみるか。少しでもアルリナの恩返しをしてぇからな。そんためにはノイファン様に手紙を出して人を寄越してもらわねぇと」
「クスッ、防壁が直ったら、一枚目の防壁の前に門番さんが必要になっちゃいますね」
「あはは、そうだな。それでも、防壁は少しくらいは手直ししておいた方がいいだろうな。っと、引き止めて悪かった。ケント様に客人のことを伝えに行くんだろ?」
「はい、それでは失礼します」
エクアは駆け足で階段を上がり、三階のケントの執務室へ向かった。
――三階・執務室
私は黙々と書類たちに手が痺れるような熱烈なサインを書き続けていた。
するとそこへ、間の短いノックが響く。
音の様子からして、急ぎの要件のようだ。
「入ってくれ」
「失礼します」
「エクアか?」
「はい。お仕事中、すみません」
「構わんさ。それで用件は? なんだか、急ぎみたいだが」
「お客様がお見えになっています」
「客? ノイファン殿の使いか?」
「いえそれが、私より少し年上の女性で、ケント様を出せの一点張りでして」
「女性ねぇ。それほど年の若い女性に手を出した覚えはないが?」
「え? それじゃ、年上の女性には手を出したことがあるんですかっ?」
「あはは、今のは軽い冗談だ、冗談」
「ケント様、そういう冗談は……」
エクアが新緑の瞳を赤に染める勢いで睨みつけてきた。
私は慌てて誤魔化すような声を上げる。
「ああっと、客人だったか? 待たせては悪い。今はどこに?」
「防壁の三枚目のそばで待たせています。お城へお通ししようかと思いましたが、勝手な判断はできないと思いましたので。それに、城内の整備はまだ落ち着いていませんから」
「そうか、良い判断だ」
私が微笑みながら言葉を返すと、エクアもにこりと笑って会釈を返した。
だが、私は自分の微笑みの中に、そら寒さを隠していた。
(城に通さなかったのは危険人物である可能性を考えたからのようだな。十二歳の少女がそこまで判断するとは……私の悪い影響か)
純朴な少女が着実に、かつての私の足跡を歩もうとしている姿に頭を抱えてしまう。
いくら彼女が自分自身で選ぼうとしている道とはいえ、このままで良いのだろうか?
(やはり、なるべく早く、王都の学園に……)
そう、考えていると、それを見透かしたようにエクアが声を掛けてくる。
「ご心配無用です。私は私の責任の名の下で、自分の歩む道を選択しているつもりですから」
「そ、そうか……」
どこかで聞いた言葉……駄目だ、エクアの成長が早すぎる。
世の親はこういった悩みを抱えているのだろうか? 私の父もまた……いや、議員になるまで私は素直な子だったからなぁ。
「ケント様? どうしました?」
「ああ、なんでもない。客だったな。三枚目の防壁?」
「はい、そうです」
「わかった。今から向かおう」
「ギウさんを呼びますか?」
「いや、必要ない」
「でしたら、帯刀なさった方が。銃も」
エクアはちらりと壁に飾ってある剣と銃を見る。
剣はしっかり鞘に納められ、銃はホルスターに入った状態でぶら下がっていた。
このホルスターは革製で、エクアの手作りだ。
エクアは視線を私に戻す。
「いつでも人が呼べるよう、私は後方で控えていますので」
「……そうだな」
本当に、成長速度が早すぎる……。
――三枚目の防壁
エクアと共に年若い女性の客人が待っているという、防壁の三枚目に向かう。
現場に到着すると、客人らしき女性は防壁に背を預け待っていた。何故か片手にネギや大根といった野菜の入った袋を提げて……。
彼女は私をキッと鋭く睨み、大仰に人差し指を突きつけてきた。
「ふふ、待っていたのよ。私は世界一にして、実践派歴代最強の錬金術師フィナ=ス=テイロー。理論派最強の錬金術師の後継者・ケント=ゼ=アーガメイト! あんたから理論派に関する知識をいただきに来た!」
ケントは自室で事務作業に追われ、他の者も自分たちの仕事に従事していた。
棟梁であるゴリンが柱のヒビの修復に精を出していると、部下である若大工が仕事の報告にやってきた。
「棟梁、地下の部屋に続く階段の瓦礫の撤去を終えましたよ」
「おお、そうか。どうだ、やっぱり地下室も荒れ放題か?」
「それが……ちょっと、来てもらえますか?」
「あん? なんだってんだ?」
ゴリンは若大工に引き連れられ、地下室へ向かう。
そこで彼が見たモノは……。
「なんだ、こりゃ? 壁一面に妙な模様が……」
「棟梁、呪いのまじないとかじゃないでしょうね……?」
「馬鹿言え、そんなわけあるかっ! でも、まぁ、ケント様に報告しとかねぇとな」
二人は地下室から一階へ戻る。
そして、三階の自室に籠るケントのもとに向かおうとしたところ、エクアが駆け足で城の正面玄関から階段へ向かっていく姿が見えた。
「おや、エクアちゃん? どうしたんだい、そんなに急いで?」
「それが、絵を描いていてちょっと休憩を挟もうとしたら三枚目の防壁のところに誰かが居まして、尋ねてみたら、ケント様に何か用があると」
「客人か? それなら報告はあとにするか。しかし、防壁が役に立っちゃいねぇな。仕方ねぇ、そっちの方も見てみるか。少しでもアルリナの恩返しをしてぇからな。そんためにはノイファン様に手紙を出して人を寄越してもらわねぇと」
「クスッ、防壁が直ったら、一枚目の防壁の前に門番さんが必要になっちゃいますね」
「あはは、そうだな。それでも、防壁は少しくらいは手直ししておいた方がいいだろうな。っと、引き止めて悪かった。ケント様に客人のことを伝えに行くんだろ?」
「はい、それでは失礼します」
エクアは駆け足で階段を上がり、三階のケントの執務室へ向かった。
――三階・執務室
私は黙々と書類たちに手が痺れるような熱烈なサインを書き続けていた。
するとそこへ、間の短いノックが響く。
音の様子からして、急ぎの要件のようだ。
「入ってくれ」
「失礼します」
「エクアか?」
「はい。お仕事中、すみません」
「構わんさ。それで用件は? なんだか、急ぎみたいだが」
「お客様がお見えになっています」
「客? ノイファン殿の使いか?」
「いえそれが、私より少し年上の女性で、ケント様を出せの一点張りでして」
「女性ねぇ。それほど年の若い女性に手を出した覚えはないが?」
「え? それじゃ、年上の女性には手を出したことがあるんですかっ?」
「あはは、今のは軽い冗談だ、冗談」
「ケント様、そういう冗談は……」
エクアが新緑の瞳を赤に染める勢いで睨みつけてきた。
私は慌てて誤魔化すような声を上げる。
「ああっと、客人だったか? 待たせては悪い。今はどこに?」
「防壁の三枚目のそばで待たせています。お城へお通ししようかと思いましたが、勝手な判断はできないと思いましたので。それに、城内の整備はまだ落ち着いていませんから」
「そうか、良い判断だ」
私が微笑みながら言葉を返すと、エクアもにこりと笑って会釈を返した。
だが、私は自分の微笑みの中に、そら寒さを隠していた。
(城に通さなかったのは危険人物である可能性を考えたからのようだな。十二歳の少女がそこまで判断するとは……私の悪い影響か)
純朴な少女が着実に、かつての私の足跡を歩もうとしている姿に頭を抱えてしまう。
いくら彼女が自分自身で選ぼうとしている道とはいえ、このままで良いのだろうか?
(やはり、なるべく早く、王都の学園に……)
そう、考えていると、それを見透かしたようにエクアが声を掛けてくる。
「ご心配無用です。私は私の責任の名の下で、自分の歩む道を選択しているつもりですから」
「そ、そうか……」
どこかで聞いた言葉……駄目だ、エクアの成長が早すぎる。
世の親はこういった悩みを抱えているのだろうか? 私の父もまた……いや、議員になるまで私は素直な子だったからなぁ。
「ケント様? どうしました?」
「ああ、なんでもない。客だったな。三枚目の防壁?」
「はい、そうです」
「わかった。今から向かおう」
「ギウさんを呼びますか?」
「いや、必要ない」
「でしたら、帯刀なさった方が。銃も」
エクアはちらりと壁に飾ってある剣と銃を見る。
剣はしっかり鞘に納められ、銃はホルスターに入った状態でぶら下がっていた。
このホルスターは革製で、エクアの手作りだ。
エクアは視線を私に戻す。
「いつでも人が呼べるよう、私は後方で控えていますので」
「……そうだな」
本当に、成長速度が早すぎる……。
――三枚目の防壁
エクアと共に年若い女性の客人が待っているという、防壁の三枚目に向かう。
現場に到着すると、客人らしき女性は防壁に背を預け待っていた。何故か片手にネギや大根といった野菜の入った袋を提げて……。
彼女は私をキッと鋭く睨み、大仰に人差し指を突きつけてきた。
「ふふ、待っていたのよ。私は世界一にして、実践派歴代最強の錬金術師フィナ=ス=テイロー。理論派最強の錬金術師の後継者・ケント=ゼ=アーガメイト! あんたから理論派に関する知識をいただきに来た!」
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