銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
76 / 359
第七章 遺跡に繋がるもの

知識を手にした場所は?

しおりを挟む
 私は地球人の知識を大幅に超える数式と設計図を見つめる。
 無言で見つめ続ける私に、フィナが疑問の声を掛けてきた。


「地球人の知識を超えてるってどういう…… いや、その前にあんたが考えたって、何を?」
「ある研究を完成させるために、どうしてもこの数式が必要だった。そして、その数式を生み出したのは私ということだ。内容は言えないぞ」

「もう、またそれだっ。どうせ話してくれないだろうから、それは脇に置いて話を戻すけど、この数式が地球人の知識を超えてるってどういうこと?」
「ここにある数式は私が考え出したものよりも遥か先を歩んでいる。意味を知っている私でも、理解しがたい部分が多々ある。そして、設計図に至っては、話にすらならない」

「よくわからないけど、そんなにすごいものなの?」
「私たちには微小機械を生みだすことができない。古代人が残していった装置と設計図を使い、合成しているだけだ。だが、この設計図は、全くの白紙から作られている。これは、古代人の知識に匹敵するものだ」

「……そ、それはあり得ないんじゃない? 地球人の知識レベルって、せいぜい遺伝子操作をしたり、宇宙にちょっとだけ人を送り出すことができるレベルでしょ」
「ああ。まぁ、それでも現在のスカルペルよりも百か二百年か先を進んでいるが……」


 一体、これを書いたのは何者なんだ?
 そもそも、これを書いた理由は……?
 何故、このような場所に文字を刻んだのかわからない。
 しかし、これを考え出し、生み出そうとしたことから、この地球人は気づいたのだろう。
 そう、地球人は……。

 
 私が地球人に思い馳せている横では、フィナがどうやって地球人が古代人レベルの数式と設計図を生んだのかを推測していた。


「ケント。私たちが知る地球人は三百年前のもの。でも、ここに書かれているものはせいぜい数十年前ってところでしょ?」
「そうだな。トーワの放棄が百年ほど前だから、そこから今に至るまでの間くらいだろう」
「ということはさ、この地球人は私たちが知る地球人よりも二百数十年くらい進んだ地球からやってきたんじゃ?」

「なるほど、そう考えられるか。だが、それでも疑問が残る。これは基本となる問題になるが、そもそもとして、この地球人はどうやってきたんだ?」
「そっか、その謎があるよね。三百年前はヴァンナス王家が召喚した。じゃあ、最近までいたと思われる、この地球人は誰が呼んだのって話になっちゃうね?」
「召喚を扱える一族はそうはいない。まず、ビュール大陸にはその様な力を持つ者はいないはずだ」


 ここでエクアがちょこんと小さく手を挙げる。

「あ、あの、私の出身である大陸ガデリには召喚術を使える人たちがいますよ。もしかしたら、その人たちが地球人を呼んで、その呼ばれた地球の人がここへ訪れたとか?」
「いや、それは難しいだろう。ヴァンナス王家が地球人を呼び出せたのは古代人の遺跡にあった装置を使ったからだ。地球とスカルペルは遠く離れており、並みの召喚術では彼らを呼び出せない」

「そうなんですか……」
「まぁ、ガデリにいる召喚術士がヴァンナス王家を遥かに上回る召喚術を持ってるならば……いや、ピンポイントで地球人を呼びだす理由がないな。こちらも元々は古代人を呼び出そうとして失敗し、地球人を呼び寄せたわけだし……これを書いた者は一体…………?」


 私たちは壁の模様を見つめ、地下室を沈黙で満たす。
 何故、ここに地球人がいる? どうやってスカルペルにやってきた? どうして、こんな場所に数式と設計図を書く必要があった?
 書いたということは、『あのこと』に気づいたということ……どうやって気づいた?


 謎が私たちから音を奪い、息を詰まらせるような感覚に襲われる。 
 このまま息を吸うことも忘れ、窒息してしまうのではないかと感じていたその時、それを打ち破ったのはフィナだった。


「理由はわからないけど地球人がいる。小さな可能性として、地球人じゃない誰かが地球の言語を使った可能性もあるけど、わざわざ地球の言語を使う必要性がない」
「それは、たしかに……」
「ともかく、私たちが知る地球人よりも二百数十年先の地球人がここにいたと仮定する。私が言い出したことを否定するのもなんだけど、居たとしても、たかが二百数十年数程度で古代人の技術に追いつけるはずがない」

 
 チラリとフィナは私に視線を振った。
 私は眉を折って応える。
 それは彼女が行きつこうとしている厄介な推測に、私も行きついていたからだ。
 フィナは小さく頷き、言葉を続けた。


「でも、古代人に匹敵する知識を持っている……このことから、この地球人は、トーワに眠る古代遺跡を探索した可能性がある!」


 その者が持っていないモノを持っている。
 と、なるならば、どこかで手に入れたことになる。
 それがどこかとなると――古代人の遺跡以外存在しない……。


 フィナは片手を腰において、こちらへ振り向き、一言、私の名を呼んだ。
「ケント」
「わかっている。こうなっては遺跡をしっかりと確認するしかあるまい」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...