銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
81 / 359
第七章 遺跡に繋がるもの

大地に封じられたもの

しおりを挟む
――フィナの説明による、トーワ北部に広がる荒れ地の中身


 砂と塩が混じる土が表面を覆い尽くし、その厚さは50cmほど。
 さらに深く潜れば潜るほど濃度の高い、鉛・ヒ素・フッ素・ホウ素・水銀・セレン・カドミウム。その他の重金属類。
 と、有害物質のオンパレード。
 塩がそれらに蓋をして押さえているような状態ね。

 その塩は東側にある海から作られている。


「塩に含まれるミネラル分が海水のそれと一致している。その塩に何かを混ぜて、土壌の地下深くに眠る毒たちを押さえているみたい。何かはさっぱりだけど」

「なるほど、今の話で一つ謎が解けた」
「なぞ?」

 私は防壁内に点在する井戸を指差す。
「海が目と鼻の先にあるのに、なぜ井戸水は真水なのかと思っていたが、遺跡の影響の可能性が高いな」
「遺跡が直接海水からではなく陸地を浸食している海水から塩分を集めたから、井戸が真水になったってこと? 淡水化装置? 防壁内で真水を確保するための?」

「それはわからないが、そのおかげで私たちは美味しい真水にありつけているし、風呂にも入れるようになった」
「ふふ、お風呂は私のおかげね。さて、説明はこれだけじゃ終わらないよ」


 毒物の原因だけど、残念ながらわからない。
 でも、推測はできる。
 大昔に古代人は魔族との戦いで半島全域を汚染させてしまった。
 そこで、彼らは浄化装置のようなものを使い、長い時をかけて北の荒れ地を残し、周辺の土地を回復させた。
 
 この浄化装置は半島に存在する汚染物質を一か所に集めているみたい。
 そのため、魔族との戦い以外で発生した毒。つまり、自然界に存在する汚染物質の一部までも、この北の大地に収束させているんじゃないかと思う。

 塩については、あんたの見解である真水の確保の可能性もあるけど、私としては塩自体が汚染物質にカウントされて集められている気がする。
 ただ、他の汚染物質よりも危険度は低いから浄化の優先順位が低く、蓋代わりに利用されてるってところかな。


「これらのことから、かなり大雑把な方法で大地を浄化してるっていう印象を受ける」
「大雑把な理由は……わからないよな?」
「さすがにね。考えられるとすれば汚染物質を精査する余裕がなくて、急ぎ装置を作るなり発動させるなりした……そんなところ」

「何かの緊急事態が起こった、ということか?」
「かもね。でも、もしそうなら、遺跡内部にあると思われる浄化装置を操ることができれば、北の大地の浄化を正しく促進させることが可能かも?」
「それでは、この広範囲に広がる北の大地に緑を戻せると?」


 私は北の大地を望む。
 広がるのは水平線の先まで、草木など一辺たりともなく、乾燥しひび割れた大地……。


「これが、緑に……」
「あまり期待させちゃって悪いけど、あくまでも推測。推測ね」
「あ、ああ。わかっている」
「んで、その汚染物質について、説明を続けるよ」


 汚染物質は表面にあるものほど濃度が薄く、地下に潜るたびに濃くなっている。
 これから見て、浄化装置の働きによって、大地の表面には浄化された土のみが上がってきているんだと思う。
 塩が混ざっているから、喉への刺激はひどいけど……。
 
 これに加えて、地下の奥深くからなんだかわかんない、微量な何かが溢れ出しているっぽい。


「それが何なのかわからないけど汚染物質を浄化して上に上げている特性上、この地上にいる限り健康被害はないと思う。もしかしたら、これこそが古代人が浄化したかった汚染物質かも? 詳しくは土地を掘り起こしてみないと判断はできないけどね」
「微量な何かか……気にはなるが、掘り起こすと毒物が出てくるわけだ。調査は難しいな」

「私ならやれないこともないけど?」
「そうだな。だが、今のところ皆を危険に晒してまでこの土地を探る必要性はない。やるとしても遺跡の状態を確認してからの方がいいだろう」
「そ、わかった。じゃ、荒れ地を歩いても危険性はなさそうだし、真っ直ぐ遺跡へ向かおう!」

 フィナはナルフを消して、元気よく馬にまたがる。
 そして、エクアに早く乗るように言っている。

「エクア、行くよ。後ろに乗って!」
「は、はい……でも、大丈夫ですか? この下に毒があるんですよね、ケント様?」
「ああ、そうだな。普通なら安全と言われても歩きたくはないもんだ」
「なのになんで、フィナさんは元気なんでしょう?」
「あれは我々とは違う生き物だ。そう、考えよう……」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...