銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
80 / 359
第七章 遺跡に繋がるもの

今も遺跡は……

しおりを挟む
――防壁、北側


 エクアは北の一枚目の防壁の外で待っていた。
 ここは緑豊かな古城トーワと北へ広がる荒れ地との境界線。
 荒れ地には二頭の馬。

 一頭は生水の安全性を確かめてくれたり荷物を運んでくれたり、私に鼻水を掛けたりするのが趣味の私の馬。
 もう一頭は、フィナが乗ってきた馬だ。
 エクアは彼女の後ろに乗る予定。

 因みに、エクアが同行する理由となったのはフィナの薦めであるところが大きい。
 ワントワーフは鉱山を切り開く鉱山労働者であり、鍛冶職人でもある。その仕事柄、日常的に怪我が多く、治癒魔法を使える者は歓迎されると。
 フィナはエクアが治癒魔法を使えると知り、彼女を使い、ワントワーフの印象を良くしようと考えたようだ。

 エクアも私の役に立てるならと、喜んで応じてくれた。
 免許のない者が魔法を使い治療する行為に問題はあるが、そこは領主である私が目を瞑れば済むこと。
 私としては、ここまで少女たちに頼りきりで情けないかぎりだが……ありがたいのも事実だ。



 私は二頭の馬の前で待っていたエクアに話しかける。
「エクア、待たせたな」
「いえ、それほどでもありませんから」
「馬の調子は?」
「二人とも元気いっぱいです。食料品は十分ですし、お水の方はフィナさんが錬金術で作るとか」

「携帯型水精石すいせいせきか。あれは結構貴重な道具なのだが、さすがはテイローのおさと言ったところだな」
「遺跡までは二日、そこからワントワーフの方々が暮らすトロッカー鉱山までは一日でしたね?」
「ああ。資料に含まれていた古城トーワ周辺地図に間違いがなければ」
「それじゃあ、早速参りましょうか」
「そうしたいが……フィナ、何をやっている?」


 フィナは話に参加することなく、あらゆるものを調査する真実の瞳ナルフを浮かべていた。
 そのナルフで、緑と荒れ地の境界線を注意深く観察しているようだ。
 私はもう一度尋ねる。

「何か、興味深いものでも?」
「まぁね。まずはこの境界線を見てよ。防壁のちょっと先までは緑があるけど、そこからは切り分けられたように荒れ地になってる。まるで誰かが線を引いたように……」


 緑と荒れ地の境界線。それは徐々にではなく、はっきりとわかるような境界線。
 とてもじゃないが、自然によってできた境界線には見えない。

「ああ、それについては訪れた当初から私も不思議に思っていた。ナルフから何かわかったのか?」
「具体的なことはわからないけど、見えない壁があることはわかったよ」
「なに?」
「ちょっと、この境界線を見てて……風が吹いたら、荒れ地の土埃が舞うでしょ。でも、防壁近くに土埃が近づくと、ふわりと荒れ地に帰るの」


 私とエクアは目を凝らして荒れ地と緑の間を見る。
 舞い上がる土埃。それが緑の境界線に近づくとうちわであおがれたように荒れ地へ帰る。


「不思議な現象だ」
「ちょっと、怖いですね……でも、この妙な現象のおかげでトーワは緑のままなんでしょうね」
「そうだろうな。街道側にも境界線があるが、この北の荒れ地はフィナの言う、見えない壁に囲まれていて、周辺への土埃の浸食を防いでいるのだろう。フィナ、この壁は一体?」

「わからない。だけど、境界線に奇妙なエネルギー変動がある。ということは、これって」
「遺跡の力か?」
「そう、遺跡の力……つまり、トーワにある遺跡は生きている」


 荒れ地からの浸食を防ぐための壁が遺跡の力によるものならば、その遺跡の機構は現在も動いていることを示している。
 クライエン大陸にあった古代人の遺跡は朽ち果てていて、まともな遺物はほとんど残っていなかった。
 だが、ビュール大陸・クライル半島に存在するトーワの遺跡は生きている。

 これは是が非でも手に入れたい知識と力の塊。
 そうだというのに、ヴァンナスもランゲンも遺跡の発掘を諦めている。 
 遺跡には呪いや病気が蔓延しているというが、それは一体……?


 私とフィナは、土埃で先が霞む北の荒れ地を望む。
「ヴァンナスとランゲンの牙を負った遺跡」
「ヴァンナスが本気で封印した遺跡」

「「これはっ」」


「とても恐ろしいな」
「とても楽しみね」


「ん?」
「え?」
「どうして、そうなる?」
「それはこっちのセリフよ。生きている遺跡。ヴァンナスもランゲンもまともに調査できなかった遺跡。ワクワクするじゃない!」

「好奇心よりも先に恐れというのはないのか?」
「恐れはあっても好奇心の前じゃ無いも同然よ」
「どうやら君はかなり無茶をするタイプと見える。これはぶっとい手綱が必要そうだ」
「はっ、噛み切ってやる」
「狂犬か?」
「なんですって?」

「お二人とも、落ち着いて、ケホンケホン」

 私とフィナの間に立ったエクアが咳を始めた。
 すぐに私は声を掛ける。


「大丈夫か?」
「は、はい、ちょっと、土埃を吸ったみたいで」
「そうか。フィナ、土埃と大地の成分分析は?」
「もちろんやってる。大地の表面の大部分が塩と土。土埃も塩と砂が混じったものね」
「害は?」
「吸っても喉を傷める程度。二人とも、移動中はこれを使って」


 フィナは腰のポシェットからマスクといくつかの飴玉を取り出して、私とエクアに渡した。
「飴……これは何かの薬?」
「うんにゃ、ただの飴」
「その程度で十分というわけか」
「大地の内部はそうでもないけど」
「危険なものでも?」
「そうね。どういう原理かはわからないけど、簡単に説明してあげる」

 フィナは語る。この北の荒れ地に眠るものを……。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...