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第七章 遺跡に繋がるもの
今も遺跡は……
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――防壁、北側
エクアは北の一枚目の防壁の外で待っていた。
ここは緑豊かな古城トーワと北へ広がる荒れ地との境界線。
荒れ地には二頭の馬。
一頭は生水の安全性を確かめてくれたり荷物を運んでくれたり、私に鼻水を掛けたりするのが趣味の私の馬。
もう一頭は、フィナが乗ってきた馬だ。
エクアは彼女の後ろに乗る予定。
因みに、エクアが同行する理由となったのはフィナの薦めであるところが大きい。
ワントワーフは鉱山を切り開く鉱山労働者であり、鍛冶職人でもある。その仕事柄、日常的に怪我が多く、治癒魔法を使える者は歓迎されると。
フィナはエクアが治癒魔法を使えると知り、彼女を使い、ワントワーフの印象を良くしようと考えたようだ。
エクアも私の役に立てるならと、喜んで応じてくれた。
免許のない者が魔法を使い治療する行為に問題はあるが、そこは領主である私が目を瞑れば済むこと。
私としては、ここまで少女たちに頼りきりで情けないかぎりだが……ありがたいのも事実だ。
私は二頭の馬の前で待っていたエクアに話しかける。
「エクア、待たせたな」
「いえ、それほどでもありませんから」
「馬の調子は?」
「二人とも元気いっぱいです。食料品は十分ですし、お水の方はフィナさんが錬金術で作るとか」
「携帯型水精石か。あれは結構貴重な道具なのだが、さすがはテイローの長と言ったところだな」
「遺跡までは二日、そこからワントワーフの方々が暮らすトロッカー鉱山までは一日でしたね?」
「ああ。資料に含まれていた古城トーワ周辺地図に間違いがなければ」
「それじゃあ、早速参りましょうか」
「そうしたいが……フィナ、何をやっている?」
フィナは話に参加することなく、あらゆるものを調査する真実の瞳を浮かべていた。
そのナルフで、緑と荒れ地の境界線を注意深く観察しているようだ。
私はもう一度尋ねる。
「何か、興味深いものでも?」
「まぁね。まずはこの境界線を見てよ。防壁のちょっと先までは緑があるけど、そこからは切り分けられたように荒れ地になってる。まるで誰かが線を引いたように……」
緑と荒れ地の境界線。それは徐々にではなく、はっきりとわかるような境界線。
とてもじゃないが、自然によってできた境界線には見えない。
「ああ、それについては訪れた当初から私も不思議に思っていた。ナルフから何かわかったのか?」
「具体的なことはわからないけど、見えない壁があることはわかったよ」
「なに?」
「ちょっと、この境界線を見てて……風が吹いたら、荒れ地の土埃が舞うでしょ。でも、防壁近くに土埃が近づくと、ふわりと荒れ地に帰るの」
私とエクアは目を凝らして荒れ地と緑の間を見る。
舞い上がる土埃。それが緑の境界線に近づくとうちわで扇がれたように荒れ地へ帰る。
「不思議な現象だ」
「ちょっと、怖いですね……でも、この妙な現象のおかげでトーワは緑のままなんでしょうね」
「そうだろうな。街道側にも境界線があるが、この北の荒れ地はフィナの言う、見えない壁に囲まれていて、周辺への土埃の浸食を防いでいるのだろう。フィナ、この壁は一体?」
「わからない。だけど、境界線に奇妙なエネルギー変動がある。ということは、これって」
「遺跡の力か?」
「そう、遺跡の力……つまり、トーワにある遺跡は生きている」
荒れ地からの浸食を防ぐための壁が遺跡の力によるものならば、その遺跡の機構は現在も動いていることを示している。
クライエン大陸にあった古代人の遺跡は朽ち果てていて、まともな遺物はほとんど残っていなかった。
だが、ビュール大陸・クライル半島に存在するトーワの遺跡は生きている。
これは是が非でも手に入れたい知識と力の塊。
そうだというのに、ヴァンナスもランゲンも遺跡の発掘を諦めている。
遺跡には呪いや病気が蔓延しているというが、それは一体……?
私とフィナは、土埃で先が霞む北の荒れ地を望む。
「ヴァンナスとランゲンの牙を負った遺跡」
「ヴァンナスが本気で封印した遺跡」
「「これはっ」」
「とても恐ろしいな」
「とても楽しみね」
「ん?」
「え?」
「どうして、そうなる?」
「それはこっちのセリフよ。生きている遺跡。ヴァンナスもランゲンもまともに調査できなかった遺跡。ワクワクするじゃない!」
「好奇心よりも先に恐れというのはないのか?」
「恐れはあっても好奇心の前じゃ無いも同然よ」
「どうやら君はかなり無茶をするタイプと見える。これはぶっとい手綱が必要そうだ」
「はっ、噛み切ってやる」
「狂犬か?」
「なんですって?」
「お二人とも、落ち着いて、ケホンケホン」
私とフィナの間に立ったエクアが咳を始めた。
すぐに私は声を掛ける。
「大丈夫か?」
「は、はい、ちょっと、土埃を吸ったみたいで」
「そうか。フィナ、土埃と大地の成分分析は?」
「もちろんやってる。大地の表面の大部分が塩と土。土埃も塩と砂が混じったものね」
「害は?」
「吸っても喉を傷める程度。二人とも、移動中はこれを使って」
フィナは腰のポシェットからマスクといくつかの飴玉を取り出して、私とエクアに渡した。
「飴……これは何かの薬?」
「うんにゃ、ただの飴」
「その程度で十分というわけか」
「大地の内部はそうでもないけど」
「危険なものでも?」
「そうね。どういう原理かはわからないけど、簡単に説明してあげる」
フィナは語る。この北の荒れ地に眠るものを……。
エクアは北の一枚目の防壁の外で待っていた。
ここは緑豊かな古城トーワと北へ広がる荒れ地との境界線。
荒れ地には二頭の馬。
一頭は生水の安全性を確かめてくれたり荷物を運んでくれたり、私に鼻水を掛けたりするのが趣味の私の馬。
もう一頭は、フィナが乗ってきた馬だ。
エクアは彼女の後ろに乗る予定。
因みに、エクアが同行する理由となったのはフィナの薦めであるところが大きい。
ワントワーフは鉱山を切り開く鉱山労働者であり、鍛冶職人でもある。その仕事柄、日常的に怪我が多く、治癒魔法を使える者は歓迎されると。
フィナはエクアが治癒魔法を使えると知り、彼女を使い、ワントワーフの印象を良くしようと考えたようだ。
エクアも私の役に立てるならと、喜んで応じてくれた。
免許のない者が魔法を使い治療する行為に問題はあるが、そこは領主である私が目を瞑れば済むこと。
私としては、ここまで少女たちに頼りきりで情けないかぎりだが……ありがたいのも事実だ。
私は二頭の馬の前で待っていたエクアに話しかける。
「エクア、待たせたな」
「いえ、それほどでもありませんから」
「馬の調子は?」
「二人とも元気いっぱいです。食料品は十分ですし、お水の方はフィナさんが錬金術で作るとか」
「携帯型水精石か。あれは結構貴重な道具なのだが、さすがはテイローの長と言ったところだな」
「遺跡までは二日、そこからワントワーフの方々が暮らすトロッカー鉱山までは一日でしたね?」
「ああ。資料に含まれていた古城トーワ周辺地図に間違いがなければ」
「それじゃあ、早速参りましょうか」
「そうしたいが……フィナ、何をやっている?」
フィナは話に参加することなく、あらゆるものを調査する真実の瞳を浮かべていた。
そのナルフで、緑と荒れ地の境界線を注意深く観察しているようだ。
私はもう一度尋ねる。
「何か、興味深いものでも?」
「まぁね。まずはこの境界線を見てよ。防壁のちょっと先までは緑があるけど、そこからは切り分けられたように荒れ地になってる。まるで誰かが線を引いたように……」
緑と荒れ地の境界線。それは徐々にではなく、はっきりとわかるような境界線。
とてもじゃないが、自然によってできた境界線には見えない。
「ああ、それについては訪れた当初から私も不思議に思っていた。ナルフから何かわかったのか?」
「具体的なことはわからないけど、見えない壁があることはわかったよ」
「なに?」
「ちょっと、この境界線を見てて……風が吹いたら、荒れ地の土埃が舞うでしょ。でも、防壁近くに土埃が近づくと、ふわりと荒れ地に帰るの」
私とエクアは目を凝らして荒れ地と緑の間を見る。
舞い上がる土埃。それが緑の境界線に近づくとうちわで扇がれたように荒れ地へ帰る。
「不思議な現象だ」
「ちょっと、怖いですね……でも、この妙な現象のおかげでトーワは緑のままなんでしょうね」
「そうだろうな。街道側にも境界線があるが、この北の荒れ地はフィナの言う、見えない壁に囲まれていて、周辺への土埃の浸食を防いでいるのだろう。フィナ、この壁は一体?」
「わからない。だけど、境界線に奇妙なエネルギー変動がある。ということは、これって」
「遺跡の力か?」
「そう、遺跡の力……つまり、トーワにある遺跡は生きている」
荒れ地からの浸食を防ぐための壁が遺跡の力によるものならば、その遺跡の機構は現在も動いていることを示している。
クライエン大陸にあった古代人の遺跡は朽ち果てていて、まともな遺物はほとんど残っていなかった。
だが、ビュール大陸・クライル半島に存在するトーワの遺跡は生きている。
これは是が非でも手に入れたい知識と力の塊。
そうだというのに、ヴァンナスもランゲンも遺跡の発掘を諦めている。
遺跡には呪いや病気が蔓延しているというが、それは一体……?
私とフィナは、土埃で先が霞む北の荒れ地を望む。
「ヴァンナスとランゲンの牙を負った遺跡」
「ヴァンナスが本気で封印した遺跡」
「「これはっ」」
「とても恐ろしいな」
「とても楽しみね」
「ん?」
「え?」
「どうして、そうなる?」
「それはこっちのセリフよ。生きている遺跡。ヴァンナスもランゲンもまともに調査できなかった遺跡。ワクワクするじゃない!」
「好奇心よりも先に恐れというのはないのか?」
「恐れはあっても好奇心の前じゃ無いも同然よ」
「どうやら君はかなり無茶をするタイプと見える。これはぶっとい手綱が必要そうだ」
「はっ、噛み切ってやる」
「狂犬か?」
「なんですって?」
「お二人とも、落ち着いて、ケホンケホン」
私とフィナの間に立ったエクアが咳を始めた。
すぐに私は声を掛ける。
「大丈夫か?」
「は、はい、ちょっと、土埃を吸ったみたいで」
「そうか。フィナ、土埃と大地の成分分析は?」
「もちろんやってる。大地の表面の大部分が塩と土。土埃も塩と砂が混じったものね」
「害は?」
「吸っても喉を傷める程度。二人とも、移動中はこれを使って」
フィナは腰のポシェットからマスクといくつかの飴玉を取り出して、私とエクアに渡した。
「飴……これは何かの薬?」
「うんにゃ、ただの飴」
「その程度で十分というわけか」
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