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第七章 遺跡に繋がるもの
私たちに恋話は似合わない
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まず、フィアンセができた経緯だが、私は由緒あるアーガメイト家の人間。
ある程度の年齢になれば縁談が持ち込まれることもある。その時に紹介された女性と気が合い、婚約まで話が進んだ。
話が生まれた当初、私には彼女を愛しているという感覚はなく、周囲に流されて承諾したといった感じであった。
だが、いざ付き合ってみると、とても魅力的な女性で、気が付けば彼女に惹かれていた。
そこで私は、彼女を喜ばせたい。彼女の気を惹きたい感じ始めた。
しかし、私は研究三昧で付き合うと言えば中年の男たちだけ。
女性との交際経験のない私にはどうすればいいのかわからなかった。
そこに現れたのが……
「ネオ陛下だっ」
私は吐き捨てるように陛下の名を出した。
これにエクアは首をかしげるが、フィナは陛下のお人柄を良く知っているようで、目を細めてため息のような声を出す。
「あ~、あのおっさんかぁ。最悪な人にアドバイスを求めたね」
「ああ、まったくだ。あの年寄りは若者をからかうのが生きがいだからなっ」
私たちの掛け合いにエクアが躊躇いを見せつつ声を上げる。
「あの、ネオ陛下と言われると、ヴァンナスの国王陛下ですよね? お二人ともお知り合いなんですか?」
「まぁな。一応、私はアーガメイト家の者で、中央では議員をやっていたからな。そうでなければ出会わなくてすんだのに」
「私はおばあちゃんのお供でヴァンナス国に訪れることがあって、その時に……はぁ」
「お二人とも、なんだか嫌そうですね。おまけに陛下に対してかなり辛辣な気がするんですけど……?」
「陛下は実に有能な方だ。だが、有能さ故に激務の中でも暇を持て余し、どうでもいいことに首を突っ込みなさる。最近では政務を殿下と官僚に丸投げして遊び惚けているからな、余計に……」
「あの人って、国中に目と耳を置いてるんじゃないかっていうくらい、耳聡いからね。あと、エロじじい」
「フィ、フィナさん、それはいくら何でも」
「エクアも会えばわかるよ。まだ十三歳だった私に、なかなかいい乳と尻だ。あと七年経ったら、私が相手してやろうって、糞みたいな発言を平気でするし! よくあのおっさんが国を運営して上手く纏まるもんよ」
「そ、そうなんですか。かなり、えっと、豪快な王様みたいですね」
「言葉を選ぶ必要ないよ、エクア。ヴァンナスが誇る変態国王で十分」
「え~っと、返す言葉が難しいので、話を進めてください。ケント様」
「たしかにそうだな。陛下の陰口など、普通は考えられないし。では、話を戻そう」
ともかく、私は陛下からアドバイスを受けた。
それは女性に対して情熱的に接すること。
耳元で愛を囁き、華美な言葉で彼女を讃えること。
当時の私はそれを鵜呑みにした。
結果……うまくいった。
「いっちゃったんですか……」
「ああ、彼女は少々夢見がちなところがあって、白馬の王子様に憧れを持つような女性だった。だから、歯の浮くようなセリフを素直に受け取ってくれた。陛下がどこまで知っていたかは知らないが、そこは感謝かもしれない」
「いや、何も考えてないと思うよ。たまたまうまくいっただけで」
と、フィナにツッコまれるが、同意する以外私には言葉がなかった。
「なんにせよ、彼女との関係はうまくいった。その時の私は、彼女と過ごすのがとても楽しかった。だから私は、彼女の理想とする男性であろうと努力し続けた。時が経ち、最初は努力であったものがいつの間にか自然になっていたというわけだ」
「それじゃあ、現在のケント様は、王子様のような自分と政治の世界で戦う自分を重なり合い形作られたと?」
「概ねな。元の自分はもっと幼く、物事を額面通りにしか受け取れない人物だったからな」
このように私の人格形成の元となる話を終える。
エクアは特段何があるというわけでもなく、世間話を受けた時のようにふむふむと頷いているだけだが、フィナは私に顔を顰めて、いかにも嫌そうに声を出した。
「なに、それって、相手の理想に合わせて性格を変えたの?」
「性格を変えたというよりも、彼女の理想でありたいと努力しただけだ」
「それ、一緒だと思うけど? 私だったらヤダなぁ。誰かのために自分を変えるとか。私ならありのままの自分を好きになってほしいし、自分を偽ってまで誰かに好きになってもらいたいとは思わないもん」
「君の価値観は尊重する。だが、愛の形は人それぞれだと思うぞ。私は自分を偽ったわけではなく、愛する人のためにその人の理想でありたいと努力した。それだけだ」
「ごめん、それ全く理解できない」
「そうか。エクアはどうだ?」
「私ですか? う~ん、好きな人を喜ばせたい。そのために自分を変えたいという気持ちもわかりますが、無理に自分を変えるのはちょっと大変かなぁ、と思います」
「はは、私は変わり者なのかもしれないな。ま、その努力も婚約破棄という形で無に帰したのだが……」
そう、唱えると、二人はもちろん破棄の理由について尋ねてきた。
しかし、この部分は相手側のプライバシーに関わると言って、私は話を誤魔化した。
破棄の理由はかなり深刻なもの……別に私と彼女の間に不和が生じたわけではない。
理由は私の出自の問題。
それをどこで知ったか知らないが、相手方の父が大きく問題視して、破棄となった。
このことを彼女は知らない。
彼女に真実が伝えられるはずがない。
私の出自はヴァンナスの機密事項に深く関わる、
彼女の父も、この件に関して固く口止めされ、誓約書を書かされたと聞く。
だが、もし、彼女が知ったならば、どのような態度を見せただろうか?
嫌悪感……それを抱かれるのではないだろうか。
そう思うと、知られなくてよかったのかもしれない。
しかし、真実を知らぬ彼女は私のことを忘れてくれただろうかという傲慢な思いもまた描いてしまう。
(あの時の私は、自分という存在を呪った。自分という存在が如何に歪なものかと突きつけられた思いだった。だが、悲しいかな、その痛みが彼女との別れの痛みを和らげることになったのだが……)
私は沈黙を纏う。
その様子を心配して、エクアが話しかけてくる。
「大丈夫ですか、ケント様? やはり、お話しされるのは辛かったのでは?」
「ん? いや、そこは大丈夫だ。私は意外と立ち直りが早いのが定評でね。寂しい思いあるのは本当だが、気を揉むほどのことではない。むしろ、フィアンセだった女性の心の方が心配だ」
こう答えても、エクアは心配そうな顔を崩さない。
誰かを思うことのできる優しい少女だ……隣にいる奴はそうでもないが……。
「ねぇ、ケント。そのフィアンセのこと今も好きなの?」
「君は凄いなぁ。明け透けに……」
「話したくないなら強制はしないよ。でも、話してもいいなら聞きたいじゃん」
「普通は配慮して聞かないと思うが、まぁいいだろう。答えは……わからない」
「なにそれ?」
「これは議員になる前の話で、なって以降は忙しくて彼女のことを考える暇もなかったからな。今思い返すと……そうだな、幼い頃の初恋の相手を思い出す感覚だろうか?」
「ああ、それ。ばったり会うと再燃するタイプだ。同窓会で熱が入って不倫するタイプ」
「君な……そろそろ、話をお開きにしないか? まだ夜も深い。今なら朝まで休めば疲れも取れるだろう」
「え~、もっと恋話で盛り上がりた~い。ここからどんなお付き合いで、どこまで行ったのか知りたかったのに~。ねぇ、エクア」
「ど、どこまでってっ。ケント様は大人ですから、まさかっ、でもっ、ああ~」
「ありゃりゃ、エクアって結構創造力豊かさん? 因みにエクアってどんな人が好み?」
「わ、私ですか。それは頼りがいがあって、優しくて、格好良くて」
「ほう、格好いい。容姿はやっぱり気になるよねぇ」
「別に容姿ありきじゃありませんよ。性格の方が大切だと思いますし」
「でも、格好いい方がいいでしょ?」
「それは、まぁ……」
「エクアはイケメン好きと、めもめも」
「ちょっと、何をメモってるんですか? 性格重視だって言っているじゃありませんか!」
二人は賑やかにじゃれ合う。
これが昼間なら放っておいてもいいが……。
「もう寝なさいと言っているのだが……フィナ、エクアをからかって遊ぶな。どうしても続けたいなら自分のことを話せばいいだろう。君には浮いた話はないのか?」
「ないね。興味ないし」
「理想のタイプは?」
「自分にとって都合の良い奴」
「はぁ、私たちには恋話は無理そうだ……」
ある程度の年齢になれば縁談が持ち込まれることもある。その時に紹介された女性と気が合い、婚約まで話が進んだ。
話が生まれた当初、私には彼女を愛しているという感覚はなく、周囲に流されて承諾したといった感じであった。
だが、いざ付き合ってみると、とても魅力的な女性で、気が付けば彼女に惹かれていた。
そこで私は、彼女を喜ばせたい。彼女の気を惹きたい感じ始めた。
しかし、私は研究三昧で付き合うと言えば中年の男たちだけ。
女性との交際経験のない私にはどうすればいいのかわからなかった。
そこに現れたのが……
「ネオ陛下だっ」
私は吐き捨てるように陛下の名を出した。
これにエクアは首をかしげるが、フィナは陛下のお人柄を良く知っているようで、目を細めてため息のような声を出す。
「あ~、あのおっさんかぁ。最悪な人にアドバイスを求めたね」
「ああ、まったくだ。あの年寄りは若者をからかうのが生きがいだからなっ」
私たちの掛け合いにエクアが躊躇いを見せつつ声を上げる。
「あの、ネオ陛下と言われると、ヴァンナスの国王陛下ですよね? お二人ともお知り合いなんですか?」
「まぁな。一応、私はアーガメイト家の者で、中央では議員をやっていたからな。そうでなければ出会わなくてすんだのに」
「私はおばあちゃんのお供でヴァンナス国に訪れることがあって、その時に……はぁ」
「お二人とも、なんだか嫌そうですね。おまけに陛下に対してかなり辛辣な気がするんですけど……?」
「陛下は実に有能な方だ。だが、有能さ故に激務の中でも暇を持て余し、どうでもいいことに首を突っ込みなさる。最近では政務を殿下と官僚に丸投げして遊び惚けているからな、余計に……」
「あの人って、国中に目と耳を置いてるんじゃないかっていうくらい、耳聡いからね。あと、エロじじい」
「フィ、フィナさん、それはいくら何でも」
「エクアも会えばわかるよ。まだ十三歳だった私に、なかなかいい乳と尻だ。あと七年経ったら、私が相手してやろうって、糞みたいな発言を平気でするし! よくあのおっさんが国を運営して上手く纏まるもんよ」
「そ、そうなんですか。かなり、えっと、豪快な王様みたいですね」
「言葉を選ぶ必要ないよ、エクア。ヴァンナスが誇る変態国王で十分」
「え~っと、返す言葉が難しいので、話を進めてください。ケント様」
「たしかにそうだな。陛下の陰口など、普通は考えられないし。では、話を戻そう」
ともかく、私は陛下からアドバイスを受けた。
それは女性に対して情熱的に接すること。
耳元で愛を囁き、華美な言葉で彼女を讃えること。
当時の私はそれを鵜呑みにした。
結果……うまくいった。
「いっちゃったんですか……」
「ああ、彼女は少々夢見がちなところがあって、白馬の王子様に憧れを持つような女性だった。だから、歯の浮くようなセリフを素直に受け取ってくれた。陛下がどこまで知っていたかは知らないが、そこは感謝かもしれない」
「いや、何も考えてないと思うよ。たまたまうまくいっただけで」
と、フィナにツッコまれるが、同意する以外私には言葉がなかった。
「なんにせよ、彼女との関係はうまくいった。その時の私は、彼女と過ごすのがとても楽しかった。だから私は、彼女の理想とする男性であろうと努力し続けた。時が経ち、最初は努力であったものがいつの間にか自然になっていたというわけだ」
「それじゃあ、現在のケント様は、王子様のような自分と政治の世界で戦う自分を重なり合い形作られたと?」
「概ねな。元の自分はもっと幼く、物事を額面通りにしか受け取れない人物だったからな」
このように私の人格形成の元となる話を終える。
エクアは特段何があるというわけでもなく、世間話を受けた時のようにふむふむと頷いているだけだが、フィナは私に顔を顰めて、いかにも嫌そうに声を出した。
「なに、それって、相手の理想に合わせて性格を変えたの?」
「性格を変えたというよりも、彼女の理想でありたいと努力しただけだ」
「それ、一緒だと思うけど? 私だったらヤダなぁ。誰かのために自分を変えるとか。私ならありのままの自分を好きになってほしいし、自分を偽ってまで誰かに好きになってもらいたいとは思わないもん」
「君の価値観は尊重する。だが、愛の形は人それぞれだと思うぞ。私は自分を偽ったわけではなく、愛する人のためにその人の理想でありたいと努力した。それだけだ」
「ごめん、それ全く理解できない」
「そうか。エクアはどうだ?」
「私ですか? う~ん、好きな人を喜ばせたい。そのために自分を変えたいという気持ちもわかりますが、無理に自分を変えるのはちょっと大変かなぁ、と思います」
「はは、私は変わり者なのかもしれないな。ま、その努力も婚約破棄という形で無に帰したのだが……」
そう、唱えると、二人はもちろん破棄の理由について尋ねてきた。
しかし、この部分は相手側のプライバシーに関わると言って、私は話を誤魔化した。
破棄の理由はかなり深刻なもの……別に私と彼女の間に不和が生じたわけではない。
理由は私の出自の問題。
それをどこで知ったか知らないが、相手方の父が大きく問題視して、破棄となった。
このことを彼女は知らない。
彼女に真実が伝えられるはずがない。
私の出自はヴァンナスの機密事項に深く関わる、
彼女の父も、この件に関して固く口止めされ、誓約書を書かされたと聞く。
だが、もし、彼女が知ったならば、どのような態度を見せただろうか?
嫌悪感……それを抱かれるのではないだろうか。
そう思うと、知られなくてよかったのかもしれない。
しかし、真実を知らぬ彼女は私のことを忘れてくれただろうかという傲慢な思いもまた描いてしまう。
(あの時の私は、自分という存在を呪った。自分という存在が如何に歪なものかと突きつけられた思いだった。だが、悲しいかな、その痛みが彼女との別れの痛みを和らげることになったのだが……)
私は沈黙を纏う。
その様子を心配して、エクアが話しかけてくる。
「大丈夫ですか、ケント様? やはり、お話しされるのは辛かったのでは?」
「ん? いや、そこは大丈夫だ。私は意外と立ち直りが早いのが定評でね。寂しい思いあるのは本当だが、気を揉むほどのことではない。むしろ、フィアンセだった女性の心の方が心配だ」
こう答えても、エクアは心配そうな顔を崩さない。
誰かを思うことのできる優しい少女だ……隣にいる奴はそうでもないが……。
「ねぇ、ケント。そのフィアンセのこと今も好きなの?」
「君は凄いなぁ。明け透けに……」
「話したくないなら強制はしないよ。でも、話してもいいなら聞きたいじゃん」
「普通は配慮して聞かないと思うが、まぁいいだろう。答えは……わからない」
「なにそれ?」
「これは議員になる前の話で、なって以降は忙しくて彼女のことを考える暇もなかったからな。今思い返すと……そうだな、幼い頃の初恋の相手を思い出す感覚だろうか?」
「ああ、それ。ばったり会うと再燃するタイプだ。同窓会で熱が入って不倫するタイプ」
「君な……そろそろ、話をお開きにしないか? まだ夜も深い。今なら朝まで休めば疲れも取れるだろう」
「え~、もっと恋話で盛り上がりた~い。ここからどんなお付き合いで、どこまで行ったのか知りたかったのに~。ねぇ、エクア」
「ど、どこまでってっ。ケント様は大人ですから、まさかっ、でもっ、ああ~」
「ありゃりゃ、エクアって結構創造力豊かさん? 因みにエクアってどんな人が好み?」
「わ、私ですか。それは頼りがいがあって、優しくて、格好良くて」
「ほう、格好いい。容姿はやっぱり気になるよねぇ」
「別に容姿ありきじゃありませんよ。性格の方が大切だと思いますし」
「でも、格好いい方がいいでしょ?」
「それは、まぁ……」
「エクアはイケメン好きと、めもめも」
「ちょっと、何をメモってるんですか? 性格重視だって言っているじゃありませんか!」
二人は賑やかにじゃれ合う。
これが昼間なら放っておいてもいいが……。
「もう寝なさいと言っているのだが……フィナ、エクアをからかって遊ぶな。どうしても続けたいなら自分のことを話せばいいだろう。君には浮いた話はないのか?」
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