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第八章 あの日の情景
忘れ去られた人
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私はマスティフの瞳に視線を置き、話の歩を進める。
「あまり、礼儀を前に押し出しても話が進ません。本題である依頼の話に移させていただきます」
「その方が良い。礼儀などほどほどでいいものだ」
「ふふ、では……」
ホルスターに手を置き、銃を取り出し、マスティフの前に置く。
「この銃の弾丸の製造を依頼したい。弾は百程度」
「ほぅ~、銃か。珍しい。その弾丸と……手に取ってみても?」
「ええ、構いません」
「それでは…………ほ~、これはこれは、ふふふ」
銃がよほど珍しいのか、マスティフは子どものような笑いを零し、銃を手にして細部まで観察している。
彼はシリンダーに弾丸が入っていないことを確認する。
「弾丸は、もう?」
「ええ、ありません」
もちろん、ある。
しかし、古代人が製造した威力が計り知れぬ弾丸をほいほい見せることはできない。
その古代人の弾丸は大きめの胸ポケットに納めてある。
これはフィナのアドバイスで、いざという時のために持ち歩いていた方がいいと。
その際、威力がありすぎるから危険なのでは? と、問うと、必殺技はそんなもんでしょと答えてきた。
それには同意しかねるが、切り札として持っておくという点には賛成だった。
マスティフはひな型となる弾丸がないという言葉に、くしゃりと顔を……正確には鼻の頭に皺を寄せた。
口にしてはいけないが、犬が牙をむいた際、このような顔になる。
雰囲気からは怒っているのではなく、難しいから悩んでいるといった様子だ。
そこでフィナが、大きめな紙を一枚取り出して床に広げる。
「設計図ならあるよ。もちろん、この銃の口径に合うように。ついでに魔法石を使った雷管の作り方も記載してあるから。あとはワントワーフの技術で薬莢と弾丸を作ってもらい、これらを組み合わせれば出来上がりでしょ」
「ほほぅ、ほほぅ、これはこれは。見事なものだ。フィナ殿は旅の錬金術士と言ったな」
「士じゃなくて『師』と呼んで。発音は前者が下げる感じで、後者が上げる感じ」
「あははは、『師』か。いやはや、それを名乗るに値する見事な設計図。感服した」
「ふふん、まぁね。あ、これ、雷管。私が作ってもいいけど、そちらで作れるなら任せようかなって」
フィナは試験管に納められた小さな紅玉を取り出す。
紅玉の一部は淡いオレンジ色になっており、そこに一定の衝撃を与えると点火装置として機能するようだ。
マスティフは試験管に納まる雷管と設計図を見つめ、フィナに瞳を寄せた。
その瞳はやんちゃな娘を見ていた瞳から、一人の錬金術師に対して敬意を払う瞳に変わっていた。
それに気づかぬフィナはいつものようにふんぞり返っている。
マスティフは席から立ち上がり、フィナに声を掛ける。
「では、さらに詳しく話を詰めたいのだが?」
「うん、わかった。ついでに値段の交渉もしないとね。ねぇ、ケント。私に任せてもらってもいい?」
「相場に関しては君の方が詳しいだろうし、今回は君持ちだからな」
「ま、そうよね。それじゃ、マスティフさん。行こっか」
フィナは気軽に声を掛けて、馴れ馴れしくも彼の腕に絡みつき、引っ張っていく。
それに私は頭を抱えるが、マスティフはまんざらでもなさそうな態度を見せている。
「あはは、中々積極的なお嬢さんだ。では、三番炉に案内しようか」
この言葉に、両脇に控えていた兵士の一人が声を出す。
「親方様、三番炉は現在あまり調子が良くありませんが」
「ああ、そうだったな。ちょいと遠いが、五番炉に向かうか」
そう言って、マスティフとフィナが外へ向かい歩き出そうとする。
そこにエクアの声が上がった。
「あ、あの、私もお役に立てると思います」
「おや、そちらのお嬢さんも錬金術を?」
「いえ、私は少しだけ治癒術が使えますので、ワントワーフの皆さんの役に立つかなっと。皆さんはお仕事で怪我が絶えないと聞いたので」
「治癒術!? これはありがたい。しかし……」
マスティフはちらりと私を見る。
ヴァンナスの法律を気にしているようだ。
「大丈夫です。領主の名で許可していますから」
「そうですかぁ、本当にありがたい。では、エクア先生、何卒よろしく頼む」
「そ、そんな、先生だなんて。私は簡単な傷や火傷くらいしか治せませんし」
「それで十分だ。ささ、こちらへ」
治癒魔法を使える人材は貴重だが、マスティフがここまで腰を低く構えるとは……余程、怪我人が多いと見える。
私はマスティフに問いかける。
「医者は常駐していないのですか?」
「ここに来るような酔狂な医者はおらんからな。おかげで我らはいつも民間療法に頼ってばかりだ」
「そうですか」
「だが、今は一応、医者らしき旅人が滞在しておるが……」
「医者らしい?」
「偶然、彼の持つ鞄に医療器具が入っているところを見ましてな。そこで治療を頼んだのだが、自分は医者ではないと言って断られてしまった。我らとしても強要するわけにもいかず」
「妙な御仁ですな。その御仁の旅の目的は?」
「それがよくわからんのだ。遠くに行きたいと言っていたのを聞いた者がおるが、どこに行きたいのかさっぱりで」
「放浪者か、世捨て人か。なんにせよ、協力を取り付けないのは残念でありますな」
「ああ、まったく。そこでエクア先生の出番で。ささっ、どうぞ。足元にお気をつけて」
「もう、先生はやめてくださいっ」
エクアはマスティフに引っ張られるように連れていかれた。
彼らの隣にはフィナ。
私はぽつりと家に取り残されてしまった……。
「うん? もしかして、ボッチか私は?」
兵士と目が合う。彼らはそっと目を逸らす。
「まさか置いてけぼりを喰らうとは……そりゃ、私は何もできないけどなっ」
「あまり、礼儀を前に押し出しても話が進ません。本題である依頼の話に移させていただきます」
「その方が良い。礼儀などほどほどでいいものだ」
「ふふ、では……」
ホルスターに手を置き、銃を取り出し、マスティフの前に置く。
「この銃の弾丸の製造を依頼したい。弾は百程度」
「ほぅ~、銃か。珍しい。その弾丸と……手に取ってみても?」
「ええ、構いません」
「それでは…………ほ~、これはこれは、ふふふ」
銃がよほど珍しいのか、マスティフは子どものような笑いを零し、銃を手にして細部まで観察している。
彼はシリンダーに弾丸が入っていないことを確認する。
「弾丸は、もう?」
「ええ、ありません」
もちろん、ある。
しかし、古代人が製造した威力が計り知れぬ弾丸をほいほい見せることはできない。
その古代人の弾丸は大きめの胸ポケットに納めてある。
これはフィナのアドバイスで、いざという時のために持ち歩いていた方がいいと。
その際、威力がありすぎるから危険なのでは? と、問うと、必殺技はそんなもんでしょと答えてきた。
それには同意しかねるが、切り札として持っておくという点には賛成だった。
マスティフはひな型となる弾丸がないという言葉に、くしゃりと顔を……正確には鼻の頭に皺を寄せた。
口にしてはいけないが、犬が牙をむいた際、このような顔になる。
雰囲気からは怒っているのではなく、難しいから悩んでいるといった様子だ。
そこでフィナが、大きめな紙を一枚取り出して床に広げる。
「設計図ならあるよ。もちろん、この銃の口径に合うように。ついでに魔法石を使った雷管の作り方も記載してあるから。あとはワントワーフの技術で薬莢と弾丸を作ってもらい、これらを組み合わせれば出来上がりでしょ」
「ほほぅ、ほほぅ、これはこれは。見事なものだ。フィナ殿は旅の錬金術士と言ったな」
「士じゃなくて『師』と呼んで。発音は前者が下げる感じで、後者が上げる感じ」
「あははは、『師』か。いやはや、それを名乗るに値する見事な設計図。感服した」
「ふふん、まぁね。あ、これ、雷管。私が作ってもいいけど、そちらで作れるなら任せようかなって」
フィナは試験管に納められた小さな紅玉を取り出す。
紅玉の一部は淡いオレンジ色になっており、そこに一定の衝撃を与えると点火装置として機能するようだ。
マスティフは試験管に納まる雷管と設計図を見つめ、フィナに瞳を寄せた。
その瞳はやんちゃな娘を見ていた瞳から、一人の錬金術師に対して敬意を払う瞳に変わっていた。
それに気づかぬフィナはいつものようにふんぞり返っている。
マスティフは席から立ち上がり、フィナに声を掛ける。
「では、さらに詳しく話を詰めたいのだが?」
「うん、わかった。ついでに値段の交渉もしないとね。ねぇ、ケント。私に任せてもらってもいい?」
「相場に関しては君の方が詳しいだろうし、今回は君持ちだからな」
「ま、そうよね。それじゃ、マスティフさん。行こっか」
フィナは気軽に声を掛けて、馴れ馴れしくも彼の腕に絡みつき、引っ張っていく。
それに私は頭を抱えるが、マスティフはまんざらでもなさそうな態度を見せている。
「あはは、中々積極的なお嬢さんだ。では、三番炉に案内しようか」
この言葉に、両脇に控えていた兵士の一人が声を出す。
「親方様、三番炉は現在あまり調子が良くありませんが」
「ああ、そうだったな。ちょいと遠いが、五番炉に向かうか」
そう言って、マスティフとフィナが外へ向かい歩き出そうとする。
そこにエクアの声が上がった。
「あ、あの、私もお役に立てると思います」
「おや、そちらのお嬢さんも錬金術を?」
「いえ、私は少しだけ治癒術が使えますので、ワントワーフの皆さんの役に立つかなっと。皆さんはお仕事で怪我が絶えないと聞いたので」
「治癒術!? これはありがたい。しかし……」
マスティフはちらりと私を見る。
ヴァンナスの法律を気にしているようだ。
「大丈夫です。領主の名で許可していますから」
「そうですかぁ、本当にありがたい。では、エクア先生、何卒よろしく頼む」
「そ、そんな、先生だなんて。私は簡単な傷や火傷くらいしか治せませんし」
「それで十分だ。ささ、こちらへ」
治癒魔法を使える人材は貴重だが、マスティフがここまで腰を低く構えるとは……余程、怪我人が多いと見える。
私はマスティフに問いかける。
「医者は常駐していないのですか?」
「ここに来るような酔狂な医者はおらんからな。おかげで我らはいつも民間療法に頼ってばかりだ」
「そうですか」
「だが、今は一応、医者らしき旅人が滞在しておるが……」
「医者らしい?」
「偶然、彼の持つ鞄に医療器具が入っているところを見ましてな。そこで治療を頼んだのだが、自分は医者ではないと言って断られてしまった。我らとしても強要するわけにもいかず」
「妙な御仁ですな。その御仁の旅の目的は?」
「それがよくわからんのだ。遠くに行きたいと言っていたのを聞いた者がおるが、どこに行きたいのかさっぱりで」
「放浪者か、世捨て人か。なんにせよ、協力を取り付けないのは残念でありますな」
「ああ、まったく。そこでエクア先生の出番で。ささっ、どうぞ。足元にお気をつけて」
「もう、先生はやめてくださいっ」
エクアはマスティフに引っ張られるように連れていかれた。
彼らの隣にはフィナ。
私はぽつりと家に取り残されてしまった……。
「うん? もしかして、ボッチか私は?」
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