124 / 359
第十二章 唸れ商魂!
私もついていく!
しおりを挟む
幽霊騒動は悩みの種だが、現状ではさっぱりわからない。
今のところちょっと肝を冷やす程度で害もないため放置するほかあるまい。
というわけで、今はキャビットとの会談に集中することにした。
――薬の用意ができ、いよいよキャビットとの交流が始まる。
そのために、あらかじめ親父に手紙を届けさせておいた。
マッキンドーの森を治める『キャビットの長・マフィン=ラガー』は当初、会談を渋っていたそうだが、薬のことを伝えると、長い時間をおいて部下を通じ会談を行うと返答してきたそうだ。
病気のことを隠したい思い、姿を見られたくない思い。そして、薬を手に入れたい思いが時間に現れ、悩みの末に天秤は後者の思いに傾いたようだ。
彼らからの返信の手紙には、キャビットの使いを呼び出すための鈴が同封してあった。
私はキャビットを訪ねるメンバーを選ぶ。
まず、第一として、少人数であることが望まれる。
相手はあまり姿を見られたくないと思っている。そこに大人数で押し掛けるわけにはいかない。
できるだけ、少人数の方が彼らも受け入れやすいだろう。
では、その少人数の内訳となるが……治療のため、フィナとカインは外せない。
二人に加え、マッキンドーの森にはあの桃色の魔族が潜んでいる可能性があるため、護衛を強化したい。
だが、ギウはキャビットと非常に相性が悪いそうだ。
理由は……ギウの姿とキャビットの姿から察してほしい。
となると、ギウの他に戦力になりそうなのは親父。
フィナの見立てではかなりの実力者らしい。
そこで手紙を届けたよしみもあるだろうから、親父についてきてもらうように頼むと……。
「いや~、天国のような宴は地獄ですのでご勘弁を」
と言われ、断られた。
何を言っているのかさっぱりだが、それは行けばわかるだろう。
護衛がいないのは寂しいが……まぁ、護衛は治療兼戦士の役目を果たせそうなフィナがいるから問題はないか。それに、森にはキャビットの戦士たちもいる。
そういうことで、今回のメンバーは私とカインとフィナの三人……のはずだったのだが、一人の少女がどうしてもついていくと言って、頑として言うことを聞かなかった。
その少女とは……。
「危険はほとんどないとはいえ、万が一ということもある。だから、連れて行くわけには行かない。納得してくれ、キサ」
そう、キサが森に向かう直前になってついていくと言い出したのだ。
キサはゴリンたちの手によって修復された第一の防壁の門の前で待ち伏せをしていた。
そのキサは強い言葉で私におねだりをする。
「そこを何とかしてほしいのっ、領主のお兄さん! 同じ商売人としてキャビットの商魂を学びたいの!」
「その向上心には頭が下がる思いだが、店は放っておいてもいいのか?」
「大丈夫、エクアお姉ちゃんとグーフィスさんに頼んでおいたから」
「休業はしないんだな……だけどな、キサ。これは遊びじゃないんだ」
「わかってるよ。私も遊びじゃないもん。アルリナにいたら、キャビットは滅多に会えない商売の神様みたいな存在。だから、会いたいのっ」
「この交渉が上手くいけば、今後はアルリナと交流を深めることになる。そのときに……」
「でも、マフィン=ラガー様に会える機会は絶対ないもん!」
「なるほど、彼と直接会いたいわけか。だが、個人的な理由で……」
「でもでもでも」
私とキサの問答が続く。
その問答にうんざりした様子でフィナが声を上げた。
「もう、いいからさ。一緒に連れて行けばいいじゃん。時間もないことだしさ」
「やったっ。フィナお姉ちゃん、いいこと言う!」
「フィナ! 余計なことを」
「これ以上、揉めても時間を取るだけでしょ。それにこの子、無理やり置いて行っても、こっそり後をつけてくるタイプだよ。それよりかは、私たちの監視下に置いてた方がいいって」
フィナの意見にカインも賛同してくる。
「そうかもしれませんね。それに僕たちが通る道はキャビットの管轄下。危険も少ないですし、あとはキサちゃんが粗相をしないように僕たちが気をつけておけばいいでしょう」
「カインまで。僅かとは言え、君たちはキサのような幼子を危険な目に遭わせてもいいのか?」
「ケント、あんた、過保護すぎ。キサは自分で店を持ち、切り盛りしてるのよ。普通の子どもとして扱うのはどうよ? この私に野菜を売りつけるような子だしね」
「親父さんから話を聞きましたが、キサちゃんは相当な切れ者だそうじゃないですか。その才を伸ばしてあげたいとは思いませんか?」
カインはキサに優しく微笑み、フィナは指先でキサのつむじをぐりぐりと押さえる。
その指をキサはぺちぺち叩きながら、カインにお礼を言っている。
いつ打ち解けたのか、私は仲良さげな三人へため息交じりの言葉を掛ける。
「君たちは……私を過保護と呼ぶが、よっぽど君たちの方が甘いと思うぞ。はぁ、まぁ、危険は少ないし、学べる機会を奪うのも……キサ、次の機会にマフィン殿を紹介するじゃダメか?」
「いま会いたい!」
「……そうか、わかった。同行を許可しよう」
「やった~」
「だが、マフィン殿と会話するという希望は確約できないぞ。まずは私たちとの会談が優先。それはわかってるな?」
「うんっ」
「それと、会話が許可されても、私の前で行うこと。いいか?」
「うんっ!」
「う~ん、返事が立派であるほど不安を誘うな……しかし、あまり問答を行う時間もない。約束の時間に遅れるからな」
「そうだよ、早く行こう、領主のお兄さん。えへへ、やっぱりギリギリまで言い出さなくてよかった!」
「な……に?」
満面の笑みを見せる、才に恵まれたしたたかな少女。
私はこの子の末が恐ろしい……。
今のところちょっと肝を冷やす程度で害もないため放置するほかあるまい。
というわけで、今はキャビットとの会談に集中することにした。
――薬の用意ができ、いよいよキャビットとの交流が始まる。
そのために、あらかじめ親父に手紙を届けさせておいた。
マッキンドーの森を治める『キャビットの長・マフィン=ラガー』は当初、会談を渋っていたそうだが、薬のことを伝えると、長い時間をおいて部下を通じ会談を行うと返答してきたそうだ。
病気のことを隠したい思い、姿を見られたくない思い。そして、薬を手に入れたい思いが時間に現れ、悩みの末に天秤は後者の思いに傾いたようだ。
彼らからの返信の手紙には、キャビットの使いを呼び出すための鈴が同封してあった。
私はキャビットを訪ねるメンバーを選ぶ。
まず、第一として、少人数であることが望まれる。
相手はあまり姿を見られたくないと思っている。そこに大人数で押し掛けるわけにはいかない。
できるだけ、少人数の方が彼らも受け入れやすいだろう。
では、その少人数の内訳となるが……治療のため、フィナとカインは外せない。
二人に加え、マッキンドーの森にはあの桃色の魔族が潜んでいる可能性があるため、護衛を強化したい。
だが、ギウはキャビットと非常に相性が悪いそうだ。
理由は……ギウの姿とキャビットの姿から察してほしい。
となると、ギウの他に戦力になりそうなのは親父。
フィナの見立てではかなりの実力者らしい。
そこで手紙を届けたよしみもあるだろうから、親父についてきてもらうように頼むと……。
「いや~、天国のような宴は地獄ですのでご勘弁を」
と言われ、断られた。
何を言っているのかさっぱりだが、それは行けばわかるだろう。
護衛がいないのは寂しいが……まぁ、護衛は治療兼戦士の役目を果たせそうなフィナがいるから問題はないか。それに、森にはキャビットの戦士たちもいる。
そういうことで、今回のメンバーは私とカインとフィナの三人……のはずだったのだが、一人の少女がどうしてもついていくと言って、頑として言うことを聞かなかった。
その少女とは……。
「危険はほとんどないとはいえ、万が一ということもある。だから、連れて行くわけには行かない。納得してくれ、キサ」
そう、キサが森に向かう直前になってついていくと言い出したのだ。
キサはゴリンたちの手によって修復された第一の防壁の門の前で待ち伏せをしていた。
そのキサは強い言葉で私におねだりをする。
「そこを何とかしてほしいのっ、領主のお兄さん! 同じ商売人としてキャビットの商魂を学びたいの!」
「その向上心には頭が下がる思いだが、店は放っておいてもいいのか?」
「大丈夫、エクアお姉ちゃんとグーフィスさんに頼んでおいたから」
「休業はしないんだな……だけどな、キサ。これは遊びじゃないんだ」
「わかってるよ。私も遊びじゃないもん。アルリナにいたら、キャビットは滅多に会えない商売の神様みたいな存在。だから、会いたいのっ」
「この交渉が上手くいけば、今後はアルリナと交流を深めることになる。そのときに……」
「でも、マフィン=ラガー様に会える機会は絶対ないもん!」
「なるほど、彼と直接会いたいわけか。だが、個人的な理由で……」
「でもでもでも」
私とキサの問答が続く。
その問答にうんざりした様子でフィナが声を上げた。
「もう、いいからさ。一緒に連れて行けばいいじゃん。時間もないことだしさ」
「やったっ。フィナお姉ちゃん、いいこと言う!」
「フィナ! 余計なことを」
「これ以上、揉めても時間を取るだけでしょ。それにこの子、無理やり置いて行っても、こっそり後をつけてくるタイプだよ。それよりかは、私たちの監視下に置いてた方がいいって」
フィナの意見にカインも賛同してくる。
「そうかもしれませんね。それに僕たちが通る道はキャビットの管轄下。危険も少ないですし、あとはキサちゃんが粗相をしないように僕たちが気をつけておけばいいでしょう」
「カインまで。僅かとは言え、君たちはキサのような幼子を危険な目に遭わせてもいいのか?」
「ケント、あんた、過保護すぎ。キサは自分で店を持ち、切り盛りしてるのよ。普通の子どもとして扱うのはどうよ? この私に野菜を売りつけるような子だしね」
「親父さんから話を聞きましたが、キサちゃんは相当な切れ者だそうじゃないですか。その才を伸ばしてあげたいとは思いませんか?」
カインはキサに優しく微笑み、フィナは指先でキサのつむじをぐりぐりと押さえる。
その指をキサはぺちぺち叩きながら、カインにお礼を言っている。
いつ打ち解けたのか、私は仲良さげな三人へため息交じりの言葉を掛ける。
「君たちは……私を過保護と呼ぶが、よっぽど君たちの方が甘いと思うぞ。はぁ、まぁ、危険は少ないし、学べる機会を奪うのも……キサ、次の機会にマフィン殿を紹介するじゃダメか?」
「いま会いたい!」
「……そうか、わかった。同行を許可しよう」
「やった~」
「だが、マフィン殿と会話するという希望は確約できないぞ。まずは私たちとの会談が優先。それはわかってるな?」
「うんっ」
「それと、会話が許可されても、私の前で行うこと。いいか?」
「うんっ!」
「う~ん、返事が立派であるほど不安を誘うな……しかし、あまり問答を行う時間もない。約束の時間に遅れるからな」
「そうだよ、早く行こう、領主のお兄さん。えへへ、やっぱりギリギリまで言い出さなくてよかった!」
「な……に?」
満面の笑みを見せる、才に恵まれたしたたかな少女。
私はこの子の末が恐ろしい……。
0
あなたにおすすめの小説
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる