銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第十七章 頂へ続く階段の一歩

会談という名の詰問

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――サノア教『ルヒネ派』・調べ車しらべぐるまの塔


 黒の胴体に、金の歯をつけた歯車を積み上げて作られた、アグリスの中心にしてルヒネ派の象徴の塔――塔の名は『調べ車しらべぐるまの塔』
 大と小とで組み合わされた歯車は音もなく、運命を回す。

 塔の前で馬車が止まり、私とエクアは透明な強化ガラスの蓋がしてある巨大な歯車の地面へ降り立った。
 馬車の前ではアグリスの最高議会である『二十二議会』の一人、エナメル=アメロブ=トーマが案内役として待っていた。


「これはエメル殿」
「ようこそ、おいでになりました。ケント様にエクア様」
 エメルはちらりと私たちの衣装に目を飛ばす。
「ふひひ、なるほど、ご立派なお姿で。杞憂でしたね。では、ご案内いたしましょう。アグリスのにして、運命。調べ車の塔へ」


 エメルに連れられ、塔へ向かう。
 しかし、塔の前まで来たが、入り口らしきものはない。
 私たちがきょろりきょろりと辺りを見回すと、エメルは手を上げて、下へ振りおろす。
 すると、地面から私たちを挟み込むように巨大な歯車が現れた。
 
 歯車が明滅をする。
 途端に光が世界を覆い、気がつけば上下を歯車に挟まれた室内に立っていた。

「これは?」
「あれ、さっきまでお外だったのに?」
「ふひひ、わがルヒネ派が誇る、結合転送魔法でございますよ」

 

――転送魔法及び技術

 これらにはいくつか種類がある。
 
 勇者であるアイリをアルリナに降ろした飛行艇ハルステッドの転送技術。
 これは、亜空間転送技術。
 転送対象を光の結界で包み込んで保護し、我々の知る空間とは異なる空間を移動して目的地へ転送するもの。

 
 ルヒネ派が披露した、魔導による結合転送。
 Aという場所とBという場所を直結し、繋げる魔法。

 双方ともに、己自身が出発点から目的地へ移動するもの。


 己自身という表現――これには理由がある。
 転送の種類は他に、物質を情報に変えて転送先で再構成するものや、分子レベルに分解して再構成するものがある。
 これらの場合、理論上、肉体は一度滅びたことになり、あまり好まれる転送ではない。



 私は魔導による最高峰の転送技術に賞賛を述べる。

「素晴らしい。転移の際の酔いも感じさせず、場面を切り取ったかのような移動を可能にするとは」
「んふふふ、理論派史上最高にして、世界最強とうたわれる錬金術師であられたアーガメイトのご子息であるケント様にお褒め頂けるとは恐悦至極」
「今はアーガメイトではありませんが、父の名に恥じぬよう努めたいと存じております」
「アーガメイト様はご立派なご子息を得られ、サノア様の下で誇りに思っているでしょう。ふひ、では、こちらへ」


 彼らは錬金術を忌み嫌ってる。すなわち、今の言葉は…………私たちは虚飾に塗れた世辞と返答を終えて、湾曲した長い通路を歩むことにした。

 通路の天井は大変高いが、幅は三人も横に並べばつかえてしまう程度。
 壁には歯車が張り付き音もなく回り続け、所々に置かれた光の魔導石が廊下全体を白く浮かび上がらせる。

 私は後方にちらりと視線を送る。
 後ろからついてくるエクアもまた、後方を気にしていた。

 無言のエクアと目が合い、小さく頷き合う。
 入口と出口は転送のみで行き来可能。 
 つまり、不測の事態が起こっても、この塔からの脱出は不可能。

 万が一のことがあった場合、外で見守っているであろうフィナ頼りだ。


 細く長い廊下を通り、途中の壁に張り付いていた扉の前でエメルは立ち止まり、中へと案内される。
 室内には弧の形をした大きな白い机と小さな白い机が向かい合うように置かれいた。
 大きな白い机の背後には日差しが掛かる広いガラス窓があり、街を一望できる。

 その部屋には二人の女性と一人の男性と領主であるオキサ=ミド=ライシ。
 領主以外は二十二議会の一員。 
 議員は全員エメルと同じく、青く巨大な歯車模様が入った白装束を身に纏っていた。

 私とエクアは小さな机に座り、エメルを含めた五人は大きな机へ座る。
 女中がお茶とお菓子をテーブルに並べたところで話し合いが始まるのだが……領主のオキサ=ミド=ライシは自己紹介以降、ほとんどしゃべらない。

 どうやら彼がこちらに訪れたのは、領主同士で挨拶を行ったという礼儀を通すためだけのもの。
 お飾りと言われていたが、これほど冷遇されているとは思ってもいなかった。

 
 領主の存在を空気のように扱い行われる話し合い――それは話し合いというよりも詰問であった。

 彼らはトーワに関する情報。主に種族間とどのような交流があるのか。
 また、アグリスに対する印象。特に、ルヒネ派に対する理解を問いてきた。
 時折、こちらを挑発するかのような発言を盛り込みつつ……。

 それらを当たり障りなくかわし、エクアにはハイ・イイエの返答のみで答えさせる。
 私たちは終始笑顔を見せて答えを返すが、相手方あいてがたの顔はよく見えない。
 それは、ガラス窓から入ってくる逆光のため。

 こちらに表情を読ませないように、彼らは太陽を背にしたのだろう。
 非礼もいいところだ。


 話し合いは小一時間ほどで済み、エメルを残して三人の議員と領主のオキドは部屋から出ていった。
 エメルはこちらへ振り向き、一言。


「ケント様はなかなか御仁のようで。エクア様もまた、お若くあるのに凛とした対応に、このエメル、感激を覚えましたよ。ふひひ」

 
 首尾一貫、私たちを試すような態度。
 誉め言葉も額面通り受け取れない。
 私たちは軽く会釈を返す。

 エメルは青白い四角顔に笑みを乗せて、こう言葉を出す。

「フィコン様たっての懇請こんせいとはいえ、直接の拝謁となるとその人柄を見極めなければなりませんから」
「なるほど、先ほどの会談は面接、といったところですか?」

 彼はにやりとするだけで、答えは返さない。
 代わりに私が言葉を続ける。


「それでは、これからフィコン様に?」
「はい。その前に、一つ、ご忠告を」
「なんでしょう?」
「フィコン様は議員である我らを挟まずに、あなた方とお会いしたいとのこと。ですが、我ら議員、そしてフィコン様やルヒネの教えを穢すような行いは許されませんので」


 エメルが、『ですが』の先頭に『議員』を持ってきたということは、フィコンに対して議員たちの負となる情報を与えるなと言っている。

 こちらとしては議員の誰が何をしているのか全く知らないのだが、これは念のためであり……同時に、後ろめたいことがあるからこそ出た言葉であろう。

「重々承知しております」

 と、私は無難な言葉を返し、エメルに案内されて、調べ車の塔を進む。
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