銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
192 / 359
第十七章 頂へ続く階段の一歩

深謀遠慮、百術千慮

しおりを挟む
 エクアを真四角の広間に残し、奥へ続く廊下をフィコンと共に進んでいく。
 エクアを一人残すことに不安はあるが、サレートはともかく、あのエムトという将軍は口数少なくとも非常に実直な方と見受けられる。
 彼が近くにいる限り、滅多なことはないだろう。


 そう考えていると、前を歩くフィコンから心を見透かされるような声を掛けられた。
「なかなかの慧眼けいがんを持っているようだ」
「え?」
「エムトは信頼に足る人物だ。安心するがよい」
「ええ、将軍から伝わる威風からは、彼をよく知らぬとも信頼の文字が心に伝わってきます」

「ふふ、口が上手い……話しは変わるが、貴様は魔族退治をおこなったと聞いたが?」
「よくご存じで。正確には私の仲間ですが」
「ふむ。そこで奴らの変化を知ったか?」
「はい。道具を持ち、仲間同士で連携をとるという知性の片鱗を見ました」
「今、ビュール大陸の魔族たちに変化が起きている。いや、世界中のな」

「何故でしょうか?」
「さてな。実はその調査のためにヴァンナスへ書簡を送った」
「ヴァンナスへ?」
「なんだ、意外か?」

「……はい、ヴァンナスとは距離を置いているのかと思っていましたので」
「あやつらとは相容れぬのは確かだが、魔族の調査となると我らでは少しばかり手に余る。はてさて、誰を寄越すのやら」
「魔族の調査となれば、勇者の一人かと」
「そうだろうな。もし、ヴァンナス最強のレイを寄越したとなれば、どう考える?」
「レイを? ありえません。ヴァンナスの剣をこちらへ向け……」


 私は途中で言葉を止める。
 仮に、レイを寄越したとなれば、それはアグリスを危険視しているという信号を送るもの。もしくは魔族の変化について、私が考えている以上にヴァンナスが警戒をしている証明。
 どちらの理由にしろ、この大陸に災いの種が宿っているということになる。

「どうした、ケント?」
「いえ、いずれにしても、調査から何かわかるといいですね」
「そうだな……主題を移そうか」

 
 彼女は立ち止まり、私に体を向ける。
 そして、両目を大きく開き、黄金の瞳をギラリと輝かせた。

「ケントよ、貴様はサノアの本当の力を知っておるか?」
「本当の力? 世界を創生する御力や愛を伝播する優しさでしょうか?」
「フッ、面白みのない回答だ。王都オバディアは愛を訴えるタレン派が跋扈している。その影響だろうが……サノアの真の力は、遠見とおみと守護だ」
「遠見と守護?」
「遠くを覗く力。またの名を予知。そして、絶大なる守護の力。この二つの力は…………異界の神々・・・・・の力を遥かに凌駕する」
「なっ!?」

 
 フィコンは今、異界の神々と口にした。
 これはありえない話。
 サノアは世界を創生した、創造主。
 そうでありながら、他に世界があり、ましてや異神いしんの存在を認めるなどっ。

 これは何かの試しであろうか?
 私は言葉に窮する。


 押し黙る私を見て、フィコンは薄く口角を上げる。
「フフ、そう構えるな。これは神の愛を讃える『タレン派』も神の意を解する『フェナク派』も、そして、神の厳格さを訴える、我が『ルヒネ派』も指導者層であれば誰もが心の内で理解しているもの。我々と異なる世界が存在し、そこには世界の数以上に神がいることを」

「あ、その、申し訳ありません。そのお言葉には返す言葉が見つかりません」
「ふむ、かなり慎重な性格のようだな。まぁよい。話をサノアの力に戻そう。サノアの遠見の力。その一端をこのフィコンは宿している」
「はっ?」

 突拍子もない言葉に、無礼にも口をぽかんとしてしまった。
 すると、その顔がおかしかったようで、フィコンは十四歳の少女に似つかわしい笑い声を漏らす。

「ふふふ、間抜けな顔だ。フィコンの言葉をそのような顔で受け止めるとは」
「あ、こ、これは失礼を」
「良い。愉快であった。さて、貴様は信じぬようだが、黄金の瞳に宿る遠見の力を使い、神託を授けよう。ただし、遠見と言ってもはっきり見えるほどではないので、占いとでも思っておけ」
「占い……」


 神託と言いながら、占いと呼ぶ言葉に、ますますをもって返答に窮する。
 そんな私の様子をフィコンは楽しみながら、黄金の瞳に魔力、いや、教会に属する者たちが使用する力――神力しんりょくを瞳に宿し、黄金を輝かせ神託を授けた。


「ふむふむ、なるほど。先の世の助けにより、貴様は死の運命を克服したのか」
(なっ!?)

 私は無表情のまま、動揺を察せられないように心を震わせた。
 彼女はそれに気づいているのか気づいていないのか、神託を続ける。

「貴様の前には過酷な選択が現れ続ける。その選択は常に、生と死のみ。誤れば、死ぬ」
「随分と理不尽な選択ばかりのようで」
「そうだな。しかし、正しき選択を選び続ければ……ほぉ、これは面白い」
「面白い?」

「ふむ……望んでおらぬのに、巨大な椅子へ座ることになるだろうな。ただし、犠牲は……そうか、成長により、最も素晴らしい選択肢は消えるのか。成長が仇になるとは難儀だな」
「私の成長が何か問題でも?」
「いや、貴様のことではない。貴様が影響を与え成長した者のことだ」
「はぁ?」
「まぁ、この程度にしておくか。あまり、先を知ってもつまらぬことよ」


 彼女は瞳から光を降ろし、神託を壅蔽ようへいした。
 そして、前を向き、歩き出そうとするのだが……。


「黄金の瞳にサノアの力が宿っている。やはり、信じられぬか?」
「……凡俗には、人の知を超える力は理解しがたいものですから」
「それは奇矯ききょうなことを。貴様の銀の瞳に宿っている古代人の力よりも、我々にとって身近な力だというのに」
「仰っている意味をわかりかねます」
「フフ、自分を隠すのが上手い。さて、行こうか」

 
 フィコンは冷たい笑いを残して歩き始めた。
 私は少女の小さな背中を見つめ、鳥肌を全身に纏う。


(底知れない。一体、どこまで私のことを、私たちのことを知っている? ネオ陛下やジクマ閣下と雰囲気は違うが、あの方々と同じ。人の心を見透かし、未来を眺望ちょうぼうする力を持っている。普通の十四歳の少女ではないっ)

 
 目の前を歩くのは、ルヒネ派の頂に立つ少女。
 アグリスの全市民から尊崇そんすうを集める少女。
 そして、畏れられる少女……。


 だがしかし、悪魔とも神とも言える少女は口を滑らした。
 それは、二十二議会との不和。
 いや、滑らすわけがない。あれはわざと……。
 私は彼女にとって、敵でもないが味方でもない存在。その私にわざわざ漏らした目的は一体……なんだ?
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...