銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第十九章 暗闘

とても短い交渉

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 ノイファンの屋敷の会議室。
 私以外の仲間たちは別室へ。
 しかし、フィナがこっそりと青いナルフを部屋の隅に潜ませて、別室で会議の様子を聞いている。

 会議室には机が四脚、四角の形に配置され、私とエメルは左右に相対するように座る。
 場を提供したノイファンと調停官であるレイが上座に座り、下座には半島の有力種族代表のマスティフとマフィンが座った。


 まず、エメルがアグリスの正当性を主張して、カリスを返還するように求める。
 それを私が拒否する。


「ふひ、これは明らかな違法であり、拉致行為。さらには宗教騎士団への不法な戦闘行為。ですが、こちらとしては武力による解決を望んでおらず、トーワが拉致を認め、無条件で我が民であるカリスの返還をしていただければ、今回の件は不問としましょう」

「トーワとして、その条件は飲めない。彼らは難民であり保護を求めている。実際にアグリスでは不当とも呼べる階級制度が敷かれ、カリスの待遇は熾烈しれつを極まる。人道的見地からこれを看過できない」

「ふひひ、なるほどなるほど。アグリスとしてはかなりの譲歩のつもりでしたが、お受けにならないと?」
「譲歩? それは異になることを。武力による解決を望んでいないと仰ったが、すでにアグリスの門前には武装した兵士が配置され、さらには街道にも配置されている。すでにアグリスに話し合いの余地などなく、トーワへ武力制圧の準備を行っているのではありませんか?」


 私のこの言葉に対して、マフィンも同様の懸念を伝える。

「トーワを擁護するつもりじゃにぇが、半島側の森近くに警備隊ならいざ知らず、アグリスの軍が出張でばってきてんのは、キャビットとしても穏やかじゃいられにぇ~ニャあ」
「んっふっふっふ、それは誤解というもの。兵は現在災害に見舞われ復興中のカルポンティへ対して物資を搬入するための警備です。なにせ、街道には盗賊が出没していますから……ですが、誤解が生じているようですので、兵は下げ、警備隊のみにしましょう」

 にこりと笑って、エメルは私を見る。私も笑顔で応える。
「ふふ、そうですか。では、こちらは難民であるカリスに意志を尋ね、アグリスに戻るという者があればその一覧を纏め、アグリスにお渡しいたしましょう」
「んふふふふふふふ、そうですかっ。それでは、良しなに。調停官殿、交渉はこれにて終了となりますが」

「…………そうですか。トーワもよろしいのですか?」
「構いません」


 この返しに、レイは少し眉を折るがすぐに戻して、交渉の終了を宣言した。
 エメルは席を立つと同時に、レイやノイファン、マスティフ、マフィンに話しかけつつ、私をちらりと見た。


「では、新たな議題について話し合いを行いたいのですが? なにせ、半島に属する有力者たちが一堂に介する機会はそうそうありませんから、これを機会に少々。さらには、レイ様とはアグリスとの魔族対策に関するお話もありますからね。ケント様はもうお帰りに?」
「ええ、もうお話しすることはありません。失礼させていただく」



――別室


 別室で会議の様子に聞き耳を立てていたエクアとフィナは拍子抜けをしていた。
「なんだか、あっさり話し合いが終わりましたね。もっと激しいやり取りがあると思ったんですが、終始穏やかで」
「そうね。アグリスは兵の準備をやめて、トーワは表向き帰還者を募る。これでお互いに譲歩したつもり? 政治って、なんだかわかんないね」

 と、二人が会議の一幕に対してありのままの感想を述べる中で、親父は穏やかな空気に隠された鋭利な刃に震えを見せていた。


「違うぜ、嬢ちゃんら。今の話し合いで…………トーワとアグリスの戦争が決まっちまったんだ!」
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