銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
227 / 359
第二十章 それぞれの道

魔族の変化

しおりを挟む
――アグリス領地・ビュール大陸北方・山間部


 ヴァンナスの剣・勇者レイとアグリスの剣・エムトは魔族の実態調査に向かい、目撃情報をもとに魔族が群れていると思われる場所へ訪れていた。

 二人は調査員を引き連れ、身を隠しつつ小高い丘から魔族の群れを双眼鏡で覗き込む。
 レンズに映るのは、二人の想像を遥かに超えた現実。
 エムトは言葉を零し、レイもそれを拾い上げることなく同じく言葉を零す。

「ば、馬鹿な。集落だと……」
「道具を使い、家畜を育て農業を行っているなんて……」

 
 人の足を遠ざける険しい山々に挟まれた地帯で、魔族たちはつどい、藁ぶき屋根の簡素な家でできた集落を作り、家畜を育て、農業を始めていた。


 魔族とは知性なき存在――
 

 言葉を纏わず、素手で獲物に襲い掛かり、仲間同士であろうと意思の疎通をほとんど行わない。
 そのような存在だったモノが、人のように群れ、社会を産み出していた。

 エムトは瞳を遠くへ投げる。
 遠くへ投げる理由……それは、先へ続く魔族の姿を瞳に映すため。

「な、なんという数だ。千はいるぞ」
「それも、ここだけで千。ビュール大陸全体にこの現象が広がり集落を形成しているとすれば、魔族の数は優に数万、いえ、十万はいる。クライエン大陸の魔族は棒切れを振り回す程度で、ここまでの変化はなかった。一体、何が起こっているんだ?」


 レイはビュール大陸で起きている魔族の変化はクライエン大陸と同等かそれ以下と考えていた。
 だが、実際には、ビュール大陸の全種族を滅ぼしかねない数と変化を魔族は見せていた。
 エムトは双眼鏡のレンズを家畜と農作物に合わせる。

「奴らは生き物を喰らい、魔力の根源たるレスターを取り入れる。そのために家畜を育てている理由はわかるが、何故、農作物まで?」
「見てください。村の中心近くにある家のそばで、魔族が普通に食事をとっています」


 家の外で家族と思われる一団が焼いた肉を喰らい、パンのようなものを口にしていた。
 ありえぬ光景に、エムトは言葉に怯えを纏う。
「なんてことだ。通常の食事でも活動が可能になったのか。さらに、パンを作るということは小麦を育て、石臼を使い、ふるいにかける知恵も持ったということだぞ」
「すさまじい勢いで進歩している。あと数十年もすれば、金属の武器さえも生み出すかもしれない」

「武器まで作り始めたら、種族では対抗できぬ」
「すぐに報告を。私はアグリスに報告を届け次第、ヴァンナスに戻り、陛下の判断を仰ぎます」
「ああ、レイ殿。頼んだ。もはや、事はアグリスだけでは対応に困難を極める。ぬっ!?」


 エムトはレンズ越しで魔族たちを見ていた。
 そうだというのに、一匹の魔族がレンズに視線を合わせてきた。

「気づかれた!」
「この距離でですか!? すぐに退きましょう! なっ!?」

 レイの瞳は驚愕の色に染まる。
 幾人かの魔族がつどい、なんとっ! 魔導らしき詠唱を始めたのだ!

「そんなっ、魔法まで使えるようになっているなんてっ? しかも、私たちの知らない術式!?」
「レイ殿、来るぞ!」
 魔族はレイたちに向かって、無数の強力な魔法弾を撃ってきた。

「クッ、仕方ない!」
 レイは腰より巨大な両刃剣を抜き、全身から青白い光を放ち、その光を剣に這わせて大きく薙ぎ振るう。
「やぁっ!!」

 剣から青の光が放たれる。
 それは距離を重ねるごとに巨大な弧の形を描いた鎌となり、魔族の放った魔法弾を消し去り、そのまま集落へ届く。

 届いた鎌は地を揺るがし振盪しんとうを広げ、肌に痛みを覚える衝撃となり土煙を舞わせた。

――山々を撫でる風が吹く。

 風が土煙を霧散させると、エムトは言葉を失う。

「こ、こんなことが……」

 険しい山々に挟まれた大地。
 そこには千の魔族が存在し、集落を形成していたはず。
 だが、今は、何もない。

 巨大な噴火口のように深々と抉られた大地があるのみ……。
 人智を圧倒する力に、エムトは瞳を震わせながらレイを見た。
 そのレイは軽く肩で息を落とし、頭をポリポリと掻いている。


「偵察のみで終わらせるつもりだったんですけどね」
「千の魔族を一瞬で消し去る力……なるほど、ヴァンナスが誇る最強。その文字に偽りはないようだ」
「いえいえ、全てを消し去ったわけではありませんよ」

 レイが指先を大地に降ろす。
 抉られた地面から数百の魔族が這い出してきている。

「魔族の再生力を封じようとすれば、強力な魔法を操れる魔術士が必要ですから。私の力押しの一撃では半分も消せなかった」
「いや、それでも……」
「エムト将軍。魔族が完全に再生する前にこの場を離れましょう」
「あ、ああ。総員、撤退の準備を!」

 このめいに、調査部隊は撤収を始めた。
 レイもまた、ヴァンナスから引き連れてきた調査員に命令を伝えている。
 エムトはただの一撃で集落を消し去った若き勇者の姿を、恐怖と敬いの目で見つめていた。

(ヴァンナス最強の勇者か。彼のような存在が七人。さらには王家の血を引く召喚士たち。これでは千年経とうともアグリスでは勝てぬ。なるほど、フィコン様が政治の舞台からルヒネの教義を下ろそうとするはず。ただ寄り添う存在を選ばず、力で押すことを選べば、ルヒネ派は消える)
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...