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第二十章 それぞれの道
魔族の変化
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――アグリス領地・ビュール大陸北方・山間部
ヴァンナスの剣・勇者レイとアグリスの剣・エムトは魔族の実態調査に向かい、目撃情報をもとに魔族が群れていると思われる場所へ訪れていた。
二人は調査員を引き連れ、身を隠しつつ小高い丘から魔族の群れを双眼鏡で覗き込む。
レンズに映るのは、二人の想像を遥かに超えた現実。
エムトは言葉を零し、レイもそれを拾い上げることなく同じく言葉を零す。
「ば、馬鹿な。集落だと……」
「道具を使い、家畜を育て農業を行っているなんて……」
人の足を遠ざける険しい山々に挟まれた地帯で、魔族たちは集い、藁ぶき屋根の簡素な家でできた集落を作り、家畜を育て、農業を始めていた。
魔族とは知性なき存在――
言葉を纏わず、素手で獲物に襲い掛かり、仲間同士であろうと意思の疎通をほとんど行わない。
そのような存在だったモノが、人のように群れ、社会を産み出していた。
エムトは瞳を遠くへ投げる。
遠くへ投げる理由……それは、先へ続く魔族の姿を瞳に映すため。
「な、なんという数だ。千はいるぞ」
「それも、ここだけで千。ビュール大陸全体にこの現象が広がり集落を形成しているとすれば、魔族の数は優に数万、いえ、十万はいる。クライエン大陸の魔族は棒切れを振り回す程度で、ここまでの変化はなかった。一体、何が起こっているんだ?」
レイはビュール大陸で起きている魔族の変化はクライエン大陸と同等かそれ以下と考えていた。
だが、実際には、ビュール大陸の全種族を滅ぼしかねない数と変化を魔族は見せていた。
エムトは双眼鏡のレンズを家畜と農作物に合わせる。
「奴らは生き物を喰らい、魔力の根源たるレスターを取り入れる。そのために家畜を育てている理由はわかるが、何故、農作物まで?」
「見てください。村の中心近くにある家のそばで、魔族が普通に食事をとっています」
家の外で家族と思われる一団が焼いた肉を喰らい、パンのようなものを口にしていた。
ありえぬ光景に、エムトは言葉に怯えを纏う。
「なんてことだ。通常の食事でも活動が可能になったのか。さらに、パンを作るということは小麦を育て、石臼を使い、篩にかける知恵も持ったということだぞ」
「すさまじい勢いで進歩している。あと数十年もすれば、金属の武器さえも生み出すかもしれない」
「武器まで作り始めたら、種族では対抗できぬ」
「すぐに報告を。私はアグリスに報告を届け次第、ヴァンナスに戻り、陛下の判断を仰ぎます」
「ああ、レイ殿。頼んだ。もはや、事はアグリスだけでは対応に困難を極める。ぬっ!?」
エムトはレンズ越しで魔族たちを見ていた。
そうだというのに、一匹の魔族がレンズに視線を合わせてきた。
「気づかれた!」
「この距離でですか!? すぐに退きましょう! なっ!?」
レイの瞳は驚愕の色に染まる。
幾人かの魔族が集い、なんとっ! 魔導らしき詠唱を始めたのだ!
「そんなっ、魔法まで使えるようになっているなんてっ? しかも、私たちの知らない術式!?」
「レイ殿、来るぞ!」
魔族はレイたちに向かって、無数の強力な魔法弾を撃ってきた。
「クッ、仕方ない!」
レイは腰より巨大な両刃剣を抜き、全身から青白い光を放ち、その光を剣に這わせて大きく薙ぎ振るう。
「やぁっ!!」
剣から青の光が放たれる。
それは距離を重ねるごとに巨大な弧の形を描いた鎌となり、魔族の放った魔法弾を消し去り、そのまま集落へ届く。
届いた鎌は地を揺るがし振盪を広げ、肌に痛みを覚える衝撃となり土煙を舞わせた。
――山々を撫でる風が吹く。
風が土煙を霧散させると、エムトは言葉を失う。
「こ、こんなことが……」
険しい山々に挟まれた大地。
そこには千の魔族が存在し、集落を形成していたはず。
だが、今は、何もない。
巨大な噴火口のように深々と抉られた大地があるのみ……。
人智を圧倒する力に、エムトは瞳を震わせながらレイを見た。
そのレイは軽く肩で息を落とし、頭をポリポリと掻いている。
「偵察のみで終わらせるつもりだったんですけどね」
「千の魔族を一瞬で消し去る力……なるほど、ヴァンナスが誇る最強。その文字に偽りはないようだ」
「いえいえ、全てを消し去ったわけではありませんよ」
レイが指先を大地に降ろす。
抉られた地面から数百の魔族が這い出してきている。
「魔族の再生力を封じようとすれば、強力な魔法を操れる魔術士が必要ですから。私の力押しの一撃では半分も消せなかった」
「いや、それでも……」
「エムト将軍。魔族が完全に再生する前にこの場を離れましょう」
「あ、ああ。総員、撤退の準備を!」
この命に、調査部隊は撤収を始めた。
レイもまた、ヴァンナスから引き連れてきた調査員に命令を伝えている。
エムトはただの一撃で集落を消し去った若き勇者の姿を、恐怖と敬いの目で見つめていた。
(ヴァンナス最強の勇者か。彼のような存在が七人。さらには王家の血を引く召喚士たち。これでは千年経とうともアグリスでは勝てぬ。なるほど、フィコン様が政治の舞台からルヒネの教義を下ろそうとするはず。ただ寄り添う存在を選ばず、力で押すことを選べば、ルヒネ派は消える)
ヴァンナスの剣・勇者レイとアグリスの剣・エムトは魔族の実態調査に向かい、目撃情報をもとに魔族が群れていると思われる場所へ訪れていた。
二人は調査員を引き連れ、身を隠しつつ小高い丘から魔族の群れを双眼鏡で覗き込む。
レンズに映るのは、二人の想像を遥かに超えた現実。
エムトは言葉を零し、レイもそれを拾い上げることなく同じく言葉を零す。
「ば、馬鹿な。集落だと……」
「道具を使い、家畜を育て農業を行っているなんて……」
人の足を遠ざける険しい山々に挟まれた地帯で、魔族たちは集い、藁ぶき屋根の簡素な家でできた集落を作り、家畜を育て、農業を始めていた。
魔族とは知性なき存在――
言葉を纏わず、素手で獲物に襲い掛かり、仲間同士であろうと意思の疎通をほとんど行わない。
そのような存在だったモノが、人のように群れ、社会を産み出していた。
エムトは瞳を遠くへ投げる。
遠くへ投げる理由……それは、先へ続く魔族の姿を瞳に映すため。
「な、なんという数だ。千はいるぞ」
「それも、ここだけで千。ビュール大陸全体にこの現象が広がり集落を形成しているとすれば、魔族の数は優に数万、いえ、十万はいる。クライエン大陸の魔族は棒切れを振り回す程度で、ここまでの変化はなかった。一体、何が起こっているんだ?」
レイはビュール大陸で起きている魔族の変化はクライエン大陸と同等かそれ以下と考えていた。
だが、実際には、ビュール大陸の全種族を滅ぼしかねない数と変化を魔族は見せていた。
エムトは双眼鏡のレンズを家畜と農作物に合わせる。
「奴らは生き物を喰らい、魔力の根源たるレスターを取り入れる。そのために家畜を育てている理由はわかるが、何故、農作物まで?」
「見てください。村の中心近くにある家のそばで、魔族が普通に食事をとっています」
家の外で家族と思われる一団が焼いた肉を喰らい、パンのようなものを口にしていた。
ありえぬ光景に、エムトは言葉に怯えを纏う。
「なんてことだ。通常の食事でも活動が可能になったのか。さらに、パンを作るということは小麦を育て、石臼を使い、篩にかける知恵も持ったということだぞ」
「すさまじい勢いで進歩している。あと数十年もすれば、金属の武器さえも生み出すかもしれない」
「武器まで作り始めたら、種族では対抗できぬ」
「すぐに報告を。私はアグリスに報告を届け次第、ヴァンナスに戻り、陛下の判断を仰ぎます」
「ああ、レイ殿。頼んだ。もはや、事はアグリスだけでは対応に困難を極める。ぬっ!?」
エムトはレンズ越しで魔族たちを見ていた。
そうだというのに、一匹の魔族がレンズに視線を合わせてきた。
「気づかれた!」
「この距離でですか!? すぐに退きましょう! なっ!?」
レイの瞳は驚愕の色に染まる。
幾人かの魔族が集い、なんとっ! 魔導らしき詠唱を始めたのだ!
「そんなっ、魔法まで使えるようになっているなんてっ? しかも、私たちの知らない術式!?」
「レイ殿、来るぞ!」
魔族はレイたちに向かって、無数の強力な魔法弾を撃ってきた。
「クッ、仕方ない!」
レイは腰より巨大な両刃剣を抜き、全身から青白い光を放ち、その光を剣に這わせて大きく薙ぎ振るう。
「やぁっ!!」
剣から青の光が放たれる。
それは距離を重ねるごとに巨大な弧の形を描いた鎌となり、魔族の放った魔法弾を消し去り、そのまま集落へ届く。
届いた鎌は地を揺るがし振盪を広げ、肌に痛みを覚える衝撃となり土煙を舞わせた。
――山々を撫でる風が吹く。
風が土煙を霧散させると、エムトは言葉を失う。
「こ、こんなことが……」
険しい山々に挟まれた大地。
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だが、今は、何もない。
巨大な噴火口のように深々と抉られた大地があるのみ……。
人智を圧倒する力に、エムトは瞳を震わせながらレイを見た。
そのレイは軽く肩で息を落とし、頭をポリポリと掻いている。
「偵察のみで終わらせるつもりだったんですけどね」
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「いえいえ、全てを消し去ったわけではありませんよ」
レイが指先を大地に降ろす。
抉られた地面から数百の魔族が這い出してきている。
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「いや、それでも……」
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「あ、ああ。総員、撤退の準備を!」
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