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第二十三章 ケント=ハドリー
気高き少女
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幼き少女へ傷を与え続ける私は後悔を吐露する。
「私はエクアに、見せてはいけないものばかりを見せている。政治の闇を持つ私。利を求める私。力に呑まれる私。残虐な私」
「ギウ」
「旦那……」
「ケントさん」
「なるべく早く、エクアをどこかへ預けた方が良いのかもしれないな。私の元に居ると彼女は傷ついてばかりだ」
「それは、私をお見捨てになるということですか、ケント様?」
執務室の扉がゆっくりと開かれて、そこからエクアが現れた。
さらに後ろからはフィナ・マフィン・マスティフが続き……さらに、レイまでも?
レイは調停官として纏っていた紫紺のローブから勇者としての姿――海よりも深い藍の鎧に太陽よりも熱い紅蓮のマントを背負っている。
腰には大きな両刃剣。
彼は青みがかったしっとりとした艶やかな黒髪を揺らし、幼さを内包しつつも、戦士としての逞しさを醸す整った顔立ちをこちらへ向けて、髪の色と同じ煌めく黒のオニキスの瞳で私を捉えた。
「やぁ、兄さん」
「レイ、どうして?」
「そろそろクライエン大陸に帰る予定だったんで、その前にこっちに寄ったんだけど、何か色々あったみたいだね。アグリスで感じ取った兄さんの力も含めて」
「そうか、君は私の暴走を感じ取っていたのか……色々と話すべきことがあるな、皆には」
私はエクアへ顔を向ける。
「エクア……大丈夫か?」
彼女はこの問いに応えず、睨みつけるように私を見つめ、静かでありながらも力強い声を生んだ。
「ケント様、もう一度お尋ねします。私をお見捨てになるつもりですか?」
「エクア、それは違う。ここに来て君は傷ついてばかりだ。これ以上、君の心を傷つけるような真似をしたくない。そうだ、レイと共に王都オバディアに渡り、王都にある学園で学んだ方が、」
「ケント様っ。たとえケント様相手でも、私だって怒りますよっ!」
「エ、エクア?」
「ムキ=シアンとの騒動の後、港町アルリナで言ったことを覚えてますか? 私は私のことを自分で決めると宣言しましたっ。あなたが私の人生を左右しないでください! 何様のつもりですか!?」
エクアはつかつかと私の前に進み、背伸びをして胸倉を両手で掴む。
「たしかに辛いことも悲しいこともあります。ムキに利用され、ノイファン様に利用され、親父さんに利用され、あなたにも利用された! サレート先生のあんな惨い死に方を見たのもショックです! でも、でも、でもっ!」
彼女は胸倉を激しく揺する。
その力はとてもとても儚いものだったが、なぜか振りほどくこともできずに息が詰まっていく。
エクアは淡い緑の両目から涙を零して、こう訴える。
「でも! 最高の仲間と出会えました! ギウさんもフィナさんも親父さんもカイン先生も、マスティフ様もマフィン様もとても素晴らしくて優しい人たちばかりです。アイリ様やレイ様も私のことを気に掛けてくれて、ガデリのことを伝えようとしてくれました。こんな素晴らしい出会いをあなたは否定するんですかっ!?」
「エクア……」
「その素晴らしい出会いの中には、ケント様! あなたも含まれているんです! それを否定しないでください!! あなたは私だけじゃ決して歩めなかった未来をくれたんだから!!」
エクアから零れ落ちた熱い涙は私のブラウスを濡らし、心へと浸透していく。
彼女の涙に混じり、私の瞳にも熱いものが宿り、それはほろりと落ちた。
私は彼女を抱きしめる。
「すまない、エクア! 私は君のことを考えているつもりで、自分のことばかりを考えていた!」
「いいんです。ケント様がお優しいからこそ、そう考えてしまうのはわかってますから……」
エクアも胸倉から手を離して、私をそっと包む。
包まれた温かさに、私は、私という存在の意義を強く感じる。
エクアは私を必要として、支えてくれる。私も同じ。
(こんな身近に、私を確固たる存在として認めてくれていた人がいたのに、私はなんて遠回りをしてしまったんだろうか)
しばし、エクアと共に無言の語らいを続ける。
猛る想いを時を掛けて鎮め、私とエクアは名残惜し気に離れた。
数瞬ほど彼女と見つめ合い、私は後ろを振り向く。
そして、執務机の椅子に座り、いつものケント=ハドリーとして声を出した。
「今から君たちへ伝えたいことがある。だが、ここに居る者だけでは足りないな。ゴリンとキサも……ふふ、グーフィスもおまけで呼んできてくれ」
この言葉に、エクアとカインと親父がくすりと笑い、三人を呼びに行った。
「私はエクアに、見せてはいけないものばかりを見せている。政治の闇を持つ私。利を求める私。力に呑まれる私。残虐な私」
「ギウ」
「旦那……」
「ケントさん」
「なるべく早く、エクアをどこかへ預けた方が良いのかもしれないな。私の元に居ると彼女は傷ついてばかりだ」
「それは、私をお見捨てになるということですか、ケント様?」
執務室の扉がゆっくりと開かれて、そこからエクアが現れた。
さらに後ろからはフィナ・マフィン・マスティフが続き……さらに、レイまでも?
レイは調停官として纏っていた紫紺のローブから勇者としての姿――海よりも深い藍の鎧に太陽よりも熱い紅蓮のマントを背負っている。
腰には大きな両刃剣。
彼は青みがかったしっとりとした艶やかな黒髪を揺らし、幼さを内包しつつも、戦士としての逞しさを醸す整った顔立ちをこちらへ向けて、髪の色と同じ煌めく黒のオニキスの瞳で私を捉えた。
「やぁ、兄さん」
「レイ、どうして?」
「そろそろクライエン大陸に帰る予定だったんで、その前にこっちに寄ったんだけど、何か色々あったみたいだね。アグリスで感じ取った兄さんの力も含めて」
「そうか、君は私の暴走を感じ取っていたのか……色々と話すべきことがあるな、皆には」
私はエクアへ顔を向ける。
「エクア……大丈夫か?」
彼女はこの問いに応えず、睨みつけるように私を見つめ、静かでありながらも力強い声を生んだ。
「ケント様、もう一度お尋ねします。私をお見捨てになるつもりですか?」
「エクア、それは違う。ここに来て君は傷ついてばかりだ。これ以上、君の心を傷つけるような真似をしたくない。そうだ、レイと共に王都オバディアに渡り、王都にある学園で学んだ方が、」
「ケント様っ。たとえケント様相手でも、私だって怒りますよっ!」
「エ、エクア?」
「ムキ=シアンとの騒動の後、港町アルリナで言ったことを覚えてますか? 私は私のことを自分で決めると宣言しましたっ。あなたが私の人生を左右しないでください! 何様のつもりですか!?」
エクアはつかつかと私の前に進み、背伸びをして胸倉を両手で掴む。
「たしかに辛いことも悲しいこともあります。ムキに利用され、ノイファン様に利用され、親父さんに利用され、あなたにも利用された! サレート先生のあんな惨い死に方を見たのもショックです! でも、でも、でもっ!」
彼女は胸倉を激しく揺する。
その力はとてもとても儚いものだったが、なぜか振りほどくこともできずに息が詰まっていく。
エクアは淡い緑の両目から涙を零して、こう訴える。
「でも! 最高の仲間と出会えました! ギウさんもフィナさんも親父さんもカイン先生も、マスティフ様もマフィン様もとても素晴らしくて優しい人たちばかりです。アイリ様やレイ様も私のことを気に掛けてくれて、ガデリのことを伝えようとしてくれました。こんな素晴らしい出会いをあなたは否定するんですかっ!?」
「エクア……」
「その素晴らしい出会いの中には、ケント様! あなたも含まれているんです! それを否定しないでください!! あなたは私だけじゃ決して歩めなかった未来をくれたんだから!!」
エクアから零れ落ちた熱い涙は私のブラウスを濡らし、心へと浸透していく。
彼女の涙に混じり、私の瞳にも熱いものが宿り、それはほろりと落ちた。
私は彼女を抱きしめる。
「すまない、エクア! 私は君のことを考えているつもりで、自分のことばかりを考えていた!」
「いいんです。ケント様がお優しいからこそ、そう考えてしまうのはわかってますから……」
エクアも胸倉から手を離して、私をそっと包む。
包まれた温かさに、私は、私という存在の意義を強く感じる。
エクアは私を必要として、支えてくれる。私も同じ。
(こんな身近に、私を確固たる存在として認めてくれていた人がいたのに、私はなんて遠回りをしてしまったんだろうか)
しばし、エクアと共に無言の語らいを続ける。
猛る想いを時を掛けて鎮め、私とエクアは名残惜し気に離れた。
数瞬ほど彼女と見つめ合い、私は後ろを振り向く。
そして、執務机の椅子に座り、いつものケント=ハドリーとして声を出した。
「今から君たちへ伝えたいことがある。だが、ここに居る者だけでは足りないな。ゴリンとキサも……ふふ、グーフィスもおまけで呼んできてくれ」
この言葉に、エクアとカインと親父がくすりと笑い、三人を呼びに行った。
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