銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
267 / 359
第二十三章 ケント=ハドリー

気高き少女

しおりを挟む
 幼き少女へ傷を与え続ける私は後悔を吐露する。

「私はエクアに、見せてはいけないものばかりを見せている。政治の闇を持つ私。利を求める私。力に呑まれる私。残虐な私」
「ギウ」
「旦那……」
「ケントさん」
「なるべく早く、エクアをどこかへ預けた方が良いのかもしれないな。私の元に居ると彼女は傷ついてばかりだ」


「それは、私をお見捨てになるということですか、ケント様?」

 執務室の扉がゆっくりと開かれて、そこからエクアが現れた。
 さらに後ろからはフィナ・マフィン・マスティフが続き……さらに、レイまでも?


 レイは調停官として纏っていた紫紺のローブから勇者としての姿――海よりも深い藍の鎧に太陽よりも熱い紅蓮のマントを背負っている。
 腰には大きな両刃剣。

 彼は青みがかったしっとりとした艶やかな黒髪を揺らし、幼さを内包しつつも、戦士としての逞しさを醸す整った顔立ちをこちらへ向けて、髪の色と同じ煌めく黒のオニキスの瞳で私を捉えた。


「やぁ、兄さん」
「レイ、どうして?」
「そろそろクライエン大陸に帰る予定だったんで、その前にこっちに寄ったんだけど、何か色々あったみたいだね。アグリスで感じ取った兄さんの力も含めて」
「そうか、君は私の暴走を感じ取っていたのか……色々と話すべきことがあるな、皆には」


 私はエクアへ顔を向ける。
「エクア……大丈夫か?」
 彼女はこの問いに応えず、睨みつけるように私を見つめ、静かでありながらも力強い声を生んだ。

「ケント様、もう一度お尋ねします。私をお見捨てになるつもりですか?」
「エクア、それは違う。ここに来て君は傷ついてばかりだ。これ以上、君の心を傷つけるような真似をしたくない。そうだ、レイと共に王都オバディアに渡り、王都にある学園で学んだ方が、」

「ケント様っ。たとえケント様相手でも、私だって怒りますよっ!」
「エ、エクア?」
「ムキ=シアンとの騒動の後、港町アルリナで言ったことを覚えてますか? 私は私のことを自分で決めると宣言しましたっ。あなたが私の人生を左右しないでください! 何様のつもりですか!?」

 
 エクアはつかつかと私の前に進み、背伸びをして胸倉を両手で掴む。
「たしかに辛いことも悲しいこともあります。ムキに利用され、ノイファン様に利用され、親父さんに利用され、あなたにも利用された! サレート先生のあんな惨い死に方を見たのもショックです! でも、でも、でもっ!」


 彼女は胸倉を激しく揺する。
 その力はとてもとても儚いものだったが、なぜか振りほどくこともできずに息が詰まっていく。
 エクアは淡い緑の両目から涙を零して、こう訴える。


「でも! 最高の仲間と出会えました! ギウさんもフィナさんも親父さんもカイン先生も、マスティフ様もマフィン様もとても素晴らしくて優しい人たちばかりです。アイリ様やレイ様も私のことを気に掛けてくれて、ガデリのことを伝えようとしてくれました。こんな素晴らしい出会いをあなたは否定するんですかっ!?」

「エクア……」

「その素晴らしい出会いの中には、ケント様! あなたも含まれているんです! それを否定しないでください!! あなたは私だけじゃ決して歩めなかった未来をくれたんだから!!」


 エクアから零れ落ちた熱い涙は私のブラウスを濡らし、心へと浸透していく。
 彼女の涙に混じり、私の瞳にも熱いものが宿り、それはほろりと落ちた。
 私は彼女を抱きしめる。


「すまない、エクア! 私は君のことを考えているつもりで、自分のことばかりを考えていた!」
「いいんです。ケント様がお優しいからこそ、そう考えてしまうのはわかってますから……」

 エクアも胸倉から手を離して、私をそっと包む。
 包まれた温かさに、私は、私という存在の意義を強く感じる。
 エクアは私を必要として、支えてくれる。私も同じ。
(こんな身近に、私を確固たる存在として認めてくれていた人がいたのに、私はなんて遠回りをしてしまったんだろうか)

 しばし、エクアと共に無言の語らいを続ける。
 猛る想いを時を掛けて鎮め、私とエクアは名残惜し気に離れた。
 数瞬ほど彼女と見つめ合い、私は後ろを振り向く。
 そして、執務机の椅子に座り、いつものケント=ハドリーとして声を出した。


「今から君たちへ伝えたいことがある。だが、ここに居る者だけでは足りないな。ゴリンとキサも……ふふ、グーフィスもおまけで呼んできてくれ」
 この言葉に、エクアとカインと親父がくすりと笑い、三人を呼びに行った。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...