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第二十三章 ケント=ハドリー
ケントと勇者たち
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――五分後
執務室には、ギウ、エクア、親父、ゴリン、フィナ、カイン、キサ、マスティフ、グーフィス、マフィン、そしてレイが集った。
私は全員へ瞳を振り、声を漏らす。
「皆、すまない。手間を取らせてばかりで。では、私のこと。そして、レイたちについての話をしよう。レイ、構わないな?」
「もちろんだよ、兄さん」
レイはとても自然に微笑んだ。
彼は私と違い、遥か昔から覚悟を決めていたのだろう。臆病な私とは違い……さすがは私の弟であり、兄である存在。
私はもう一度、全員を瞳に取り込み、一つ一つ順番に言葉を編んでいく。
「それではまず、サレートとの戦いで私に起きたこと。また、そこまでに辿った足跡を話そう。この中にはまだ詳しくない者もいるからな」
私はドハ研究所の事故で父を失い、父の名を捨て研究者から政治家に転向するが有力議員と対立し、王都から左遷され、このビュール大陸のクライル半島に抱かれるトーワへと訪れた。
そこでギウと出会い、そこから多くの仲間たちを得ることになる。
フィナが遺跡の結界を打ち破り、古代人の知識の一端に触れる。
私の銀眼に古代人の力の源泉である、ナノマシンが宿っている。
銀眼はセアたちが休む情報世界へ導いてくれた。
「私はサレートとの戦いで、銀眼に思いを込めた。仲間を救いたいと。その思いに銀眼は応え、再びセアたちの世界と共鳴し扉が開いた。そこで、彼らから勇者の力を貸してもらったのだが……暴走をする。そこにトーワで見られた亡霊が現れ、私の暴走を鎮めてくれた」
これにグーフィスが声を出す。
「亡霊って、あの麦藁帽子を被った白いワンピースの長い黒髪の女性ですよね?」
「ああ」
「美人でした?」
「そこか? 残念だが、顔は麦藁帽子で隠れていて見えなかった」
「あ~~、残念っ。ごふっ、ふぃ、ふぃなさん?」
「この馬鹿、こんな時に下らないことをっ」
フィナがグーフィスの顎下を打ち抜いた。しかし、彼は呻き声を上げたものの平然と耐えている。
私は二人の姿に少しばかりの苦笑いを見せて、白いワンピースの女性について話を続ける。
「そうそう、美人かどうかはわからなかったが、フィナを越える乱暴な言葉遣いだったな」
「あっ? あんた、喧嘩売ってんの?」
「三度目なるか? それは万年売り切れ中だ。その亡霊の女性だが、正直、清楚な姿からは想像もできない口汚さで驚いたよ」
「ギウ」
「ん、どうしたギウ?」
ギウは小さく言葉をぶつけてきた。しかし、私が顔を向けると、ふいっと横を向く……横を向いても魚眼がバッチリこっちに向いているのだが……。
「ふむ……ともかく、彼女から罵倒され、拳を痛めつけられ、私は正気を取り戻した。その時、彼女から感じた力は暴走した私を遥かに超えるもの。門外漢のため力量は測りにくいが、おそらくレイの力を超えていると思う」
「兄さん、その方は何者なんでしょうか?」
「さてな。憶測で語るならば、二つ。地球人か、古代人か……」
謎の女性――トーワに亡霊として現れ、次に現われた時には私の瞳のみに映った存在。このことから銀眼の力、ナノマシンと関わりの持つ存在だと予想できるが、それ以上はわからない。
とりあえず、謎は謎として残しておき、私はいよいよ、自分とレイたちの謎を開示する。
「では、ある程度この場にいる者と情報を共有できたとして話を進めよう……私と勇者についてだ。まずは、そうだな……勇者が何者なのか、ということについて語ろう」
私はレイへ視線を振る。彼はこくりと頷く。
その覚悟を受けて、私は無用な溜めなど一切行わずレイたちの正体を明かした。
「現行勇者の正体とは、地球人の複製人間だ」
この事実に、驚きの反応を示したのはフィナとカインのみ。
他の者には馴染みの薄い単語のためピンと来ていないようだ。
というわけで、クローンについて簡単に語る。
クローン――同一の遺伝情報を持つ個体同士、もしくは生物の集団。一個の細胞あるいは個体から無性生殖または胚分割や核移植などを用い増殖し、それと全く等しい形質の遺伝子組成を受け継ぐ別の細胞群あるいは個体群を指す。
「と、これではまだわかりにくいだろうから、例えを出そう。私、ケントという存在を、何ら変わりなくいくつも複製することのできる技術だ」
これにキサが反応を示す。
「挿し木や挿し芽みたいなものだね~。植物も母株の茎の一部を切り取って土に挿すと根付くことがあるんだよ~。そうやって同じ品種を増やすんだ~」
「ふふふ、さすがはキサ。飲み込みが早い。キサの言うとおり同じ品種、同じ人間を、同じ地球人の血を引く勇者をドハ研究所の所長アステ=ゼ=アーガメイトは生み出すことに成功した」
フィナが父の研究とサレートに触れる。
「サレートが目にした研究とは違うものね?」
「そのとおりだ。彼が目にしたものは初期段階のもので、父が採用しなかった方法だろう。父は当初、サレートと同じく絶滅してしまった勇者の代わりに、スカルペル人を改良して勇者を増産できないかと考えていた」
「でも、それをしなかった」
「ああ、この方法だと個々の才能に依存しすぎる上、被験者に負担が掛かり過ぎる。これを断念し、その後は複製人間へと意識を向ける。そのために密かに女性を募ったことがある」
カインが深く眉間に皺を刻み、声を産む。
「女性の卵子と腹を借りて、勇者を創ろうとしたんですね。ドハ研究所は予め勇者の体細胞ないし受精卵などを保存していた。それを使い、レシピエント卵子――未受精卵子から核を取り除き、その中に勇者の細胞を入れて、電気的刺激を用い融合させる。そうやってクローン胚を作った」
「カイン、随分と詳しいな」
「一応、ヴァンナス直属の国立病院に勤めていたこともありますから」
国家が管理する病院――ここは通常の病院とは違い、普通の医者であれば触れることのできない知識に触れることができる。
カインはそれに触れる権限を持っていて、それに見合うエリートだったようだ。
「よく、ヴァンナスが君を手放したな」
「メスを置いた医者に価値はありませんからね。それに、知識があっても王都以外ではそれに見合う施設がありませんし。外では役に立たない知識ですよ」
「ある意味、私もそうだな。ナノマシンの知識など外では役に立たない……話を戻そうか。クローン胚を作ったところまでだったな。そのクローン胚の細胞分裂を誘発させ、その後、」
ここでカインが私の言葉を奪う。
「母体となる女性の子宮へ移植、受胎させるんですね。ですがそれは……明らかに神への冒涜。悪魔の所業ですよっ」
「まったくだ。だが、これらも技術的な問題があり、研究は断念している」
「倫理的な問題でやめたわけじゃないんですね!」
カインの声に怒りが宿る。
それは当然だろう。
命を守り、救う医者の彼が生命を冒涜する行いを良しとするわけがない。
彼が深く眉間に皺を刻んだ理由はここにあるようだ。
だが、フィナは怒れる彼へ純粋すぎる知識への好奇心という言葉を差し向ける。
「カイン、それほど怒ること?」
「当然ですよっ。これは明らかに倫理的に問題がある! 生命を操るなんて、人の領域を超えています!」
「たしかに、倫理を持ち出せば問題があるし、ドハがやろうとしたことは暴走気味な気もする。でも、複製技術は多くの命を救える技術でもあるのよ」
「それは……」
カインは言葉を詰まらせる。
彼はかつてヴァンナスの最高医療機関に属し、一般の医者が知らぬ知識を有しながらも医者として生命を知る者。
だから、この技術が大きな可能性を秘めていることをわかっている。
複製技術は何も人間をそのものを複製するだけではない。
臓器の一部を複製することも可能。それを難病や怪我などにより臓器を失った者たちへ新たな臓器として提供できる。
そしてそれは臓器だけではない。
造血幹細胞(血球系細胞に分化が可能な幹細胞)を複製し、分化の誘導ができれば、造血幹細胞から赤血球、白血球、血小板などを生成し、輸血医療に安全な血液製剤を供給・製造が可能になる。
カインは言葉を降ろす。だが、心の中は倫理と可能性の綱引きに苦しんでいるようだ。
「二人とも、その話はまた今度にしよう。そう簡単に結論が出る話ではないからな。では、話を戻そう。父は母体を用いた複製には危険があると感じ、それを取り止め、嫌々ながらも古代人の力を借りることにした」
「嫌々? ケント様?」
「エクア、父は自分の知識内で何でも行う方だったんだ。だから、なるべく古代人の力を使いたがらなかった。使っても、理解できるもの以外、手を出そうとしなかった」
「でも、使ってしまったんですね」
「ああ、王家や議員からドハ研究所へ結果を求められてね。それに当時は勇者不在。情報操作によりヴァンナスに勇者が存在するかのように見せかけていたが、それも長くはもたない。ヴァンナスは焦っていたんだよ。絶対的な地位を失うことにね……」
ヴァンナスの焦り。
このまま結果を出さずにいると、焦りは理論派への失望へとつながる。
そうなれば、大事なパトロンからの支援が滞りかねない。
父以下、理論派の上位層はそう考え、古代人の装置を利用することにした。
「それは、トーワの遺跡にあったものと同じもの。あの金髪の男性が眠る球体だ。もっともドハのものは水球ではなく、クローンポットという生命の溶液に満たされたガラスの筒だったが……」
カインは降ろした言葉に新たな言葉をつけて呟くように語る。
「それでは、遺跡に眠る男性は古代人そのものではなく、古代人のクローン?」
「その可能性が高い。あちらの方が数段進んだ技術のようなので、はっきりとは言えないが。ともかく、理論派はその装置を使い、勇者を産み出した」
ちらりと、レイへ視線を振る。
彼は一歩前に出て、自身の胸に手を置き言葉を出し、それに私も続く。
「だけど、私たちは欠陥品だった。複製された私たちの肉体には強化のナノマシンと滅びのナノマシンが宿ったままだった。もちろん、滅びのナノマシンが活性化した状態で。このまま私たちをクローンポットから取り出しても、すぐに死んでしまう」
「父であるアステ=ゼ=アーガメイトを中心に、滅びのナノマシンを除去できないか? もしくは滅びのナノマシンを除去した状態で複製できないだろうか? と、その研究が続けられたが成果はなかった」
「そう、アステ様の知をもってしても、ナノマシンは御せなかった。そこであの方は、兄さんを産み出す」
このようにレイが言葉を生むと、皆は一斉に私へ振り向いた。
多くの瞳が注がれる中で、私もまたレイのように覚悟をもって、私自身の正体を明かす。
「アステ=ゼ=アーガメイトはこう考えた。クローンでは無理。ならば、最初から生命を産み出せばよいのではないか?」
この謎かけに、フィナは肌をザワリと粟立たせ、マフィンはもふもふの毛を逆立てた。
「まさか、あんたって」
「ケント、おめぇは……」
「ああ、私は無から作られた生命体――人工生命体だ」
執務室には、ギウ、エクア、親父、ゴリン、フィナ、カイン、キサ、マスティフ、グーフィス、マフィン、そしてレイが集った。
私は全員へ瞳を振り、声を漏らす。
「皆、すまない。手間を取らせてばかりで。では、私のこと。そして、レイたちについての話をしよう。レイ、構わないな?」
「もちろんだよ、兄さん」
レイはとても自然に微笑んだ。
彼は私と違い、遥か昔から覚悟を決めていたのだろう。臆病な私とは違い……さすがは私の弟であり、兄である存在。
私はもう一度、全員を瞳に取り込み、一つ一つ順番に言葉を編んでいく。
「それではまず、サレートとの戦いで私に起きたこと。また、そこまでに辿った足跡を話そう。この中にはまだ詳しくない者もいるからな」
私はドハ研究所の事故で父を失い、父の名を捨て研究者から政治家に転向するが有力議員と対立し、王都から左遷され、このビュール大陸のクライル半島に抱かれるトーワへと訪れた。
そこでギウと出会い、そこから多くの仲間たちを得ることになる。
フィナが遺跡の結界を打ち破り、古代人の知識の一端に触れる。
私の銀眼に古代人の力の源泉である、ナノマシンが宿っている。
銀眼はセアたちが休む情報世界へ導いてくれた。
「私はサレートとの戦いで、銀眼に思いを込めた。仲間を救いたいと。その思いに銀眼は応え、再びセアたちの世界と共鳴し扉が開いた。そこで、彼らから勇者の力を貸してもらったのだが……暴走をする。そこにトーワで見られた亡霊が現れ、私の暴走を鎮めてくれた」
これにグーフィスが声を出す。
「亡霊って、あの麦藁帽子を被った白いワンピースの長い黒髪の女性ですよね?」
「ああ」
「美人でした?」
「そこか? 残念だが、顔は麦藁帽子で隠れていて見えなかった」
「あ~~、残念っ。ごふっ、ふぃ、ふぃなさん?」
「この馬鹿、こんな時に下らないことをっ」
フィナがグーフィスの顎下を打ち抜いた。しかし、彼は呻き声を上げたものの平然と耐えている。
私は二人の姿に少しばかりの苦笑いを見せて、白いワンピースの女性について話を続ける。
「そうそう、美人かどうかはわからなかったが、フィナを越える乱暴な言葉遣いだったな」
「あっ? あんた、喧嘩売ってんの?」
「三度目なるか? それは万年売り切れ中だ。その亡霊の女性だが、正直、清楚な姿からは想像もできない口汚さで驚いたよ」
「ギウ」
「ん、どうしたギウ?」
ギウは小さく言葉をぶつけてきた。しかし、私が顔を向けると、ふいっと横を向く……横を向いても魚眼がバッチリこっちに向いているのだが……。
「ふむ……ともかく、彼女から罵倒され、拳を痛めつけられ、私は正気を取り戻した。その時、彼女から感じた力は暴走した私を遥かに超えるもの。門外漢のため力量は測りにくいが、おそらくレイの力を超えていると思う」
「兄さん、その方は何者なんでしょうか?」
「さてな。憶測で語るならば、二つ。地球人か、古代人か……」
謎の女性――トーワに亡霊として現れ、次に現われた時には私の瞳のみに映った存在。このことから銀眼の力、ナノマシンと関わりの持つ存在だと予想できるが、それ以上はわからない。
とりあえず、謎は謎として残しておき、私はいよいよ、自分とレイたちの謎を開示する。
「では、ある程度この場にいる者と情報を共有できたとして話を進めよう……私と勇者についてだ。まずは、そうだな……勇者が何者なのか、ということについて語ろう」
私はレイへ視線を振る。彼はこくりと頷く。
その覚悟を受けて、私は無用な溜めなど一切行わずレイたちの正体を明かした。
「現行勇者の正体とは、地球人の複製人間だ」
この事実に、驚きの反応を示したのはフィナとカインのみ。
他の者には馴染みの薄い単語のためピンと来ていないようだ。
というわけで、クローンについて簡単に語る。
クローン――同一の遺伝情報を持つ個体同士、もしくは生物の集団。一個の細胞あるいは個体から無性生殖または胚分割や核移植などを用い増殖し、それと全く等しい形質の遺伝子組成を受け継ぐ別の細胞群あるいは個体群を指す。
「と、これではまだわかりにくいだろうから、例えを出そう。私、ケントという存在を、何ら変わりなくいくつも複製することのできる技術だ」
これにキサが反応を示す。
「挿し木や挿し芽みたいなものだね~。植物も母株の茎の一部を切り取って土に挿すと根付くことがあるんだよ~。そうやって同じ品種を増やすんだ~」
「ふふふ、さすがはキサ。飲み込みが早い。キサの言うとおり同じ品種、同じ人間を、同じ地球人の血を引く勇者をドハ研究所の所長アステ=ゼ=アーガメイトは生み出すことに成功した」
フィナが父の研究とサレートに触れる。
「サレートが目にした研究とは違うものね?」
「そのとおりだ。彼が目にしたものは初期段階のもので、父が採用しなかった方法だろう。父は当初、サレートと同じく絶滅してしまった勇者の代わりに、スカルペル人を改良して勇者を増産できないかと考えていた」
「でも、それをしなかった」
「ああ、この方法だと個々の才能に依存しすぎる上、被験者に負担が掛かり過ぎる。これを断念し、その後は複製人間へと意識を向ける。そのために密かに女性を募ったことがある」
カインが深く眉間に皺を刻み、声を産む。
「女性の卵子と腹を借りて、勇者を創ろうとしたんですね。ドハ研究所は予め勇者の体細胞ないし受精卵などを保存していた。それを使い、レシピエント卵子――未受精卵子から核を取り除き、その中に勇者の細胞を入れて、電気的刺激を用い融合させる。そうやってクローン胚を作った」
「カイン、随分と詳しいな」
「一応、ヴァンナス直属の国立病院に勤めていたこともありますから」
国家が管理する病院――ここは通常の病院とは違い、普通の医者であれば触れることのできない知識に触れることができる。
カインはそれに触れる権限を持っていて、それに見合うエリートだったようだ。
「よく、ヴァンナスが君を手放したな」
「メスを置いた医者に価値はありませんからね。それに、知識があっても王都以外ではそれに見合う施設がありませんし。外では役に立たない知識ですよ」
「ある意味、私もそうだな。ナノマシンの知識など外では役に立たない……話を戻そうか。クローン胚を作ったところまでだったな。そのクローン胚の細胞分裂を誘発させ、その後、」
ここでカインが私の言葉を奪う。
「母体となる女性の子宮へ移植、受胎させるんですね。ですがそれは……明らかに神への冒涜。悪魔の所業ですよっ」
「まったくだ。だが、これらも技術的な問題があり、研究は断念している」
「倫理的な問題でやめたわけじゃないんですね!」
カインの声に怒りが宿る。
それは当然だろう。
命を守り、救う医者の彼が生命を冒涜する行いを良しとするわけがない。
彼が深く眉間に皺を刻んだ理由はここにあるようだ。
だが、フィナは怒れる彼へ純粋すぎる知識への好奇心という言葉を差し向ける。
「カイン、それほど怒ること?」
「当然ですよっ。これは明らかに倫理的に問題がある! 生命を操るなんて、人の領域を超えています!」
「たしかに、倫理を持ち出せば問題があるし、ドハがやろうとしたことは暴走気味な気もする。でも、複製技術は多くの命を救える技術でもあるのよ」
「それは……」
カインは言葉を詰まらせる。
彼はかつてヴァンナスの最高医療機関に属し、一般の医者が知らぬ知識を有しながらも医者として生命を知る者。
だから、この技術が大きな可能性を秘めていることをわかっている。
複製技術は何も人間をそのものを複製するだけではない。
臓器の一部を複製することも可能。それを難病や怪我などにより臓器を失った者たちへ新たな臓器として提供できる。
そしてそれは臓器だけではない。
造血幹細胞(血球系細胞に分化が可能な幹細胞)を複製し、分化の誘導ができれば、造血幹細胞から赤血球、白血球、血小板などを生成し、輸血医療に安全な血液製剤を供給・製造が可能になる。
カインは言葉を降ろす。だが、心の中は倫理と可能性の綱引きに苦しんでいるようだ。
「二人とも、その話はまた今度にしよう。そう簡単に結論が出る話ではないからな。では、話を戻そう。父は母体を用いた複製には危険があると感じ、それを取り止め、嫌々ながらも古代人の力を借りることにした」
「嫌々? ケント様?」
「エクア、父は自分の知識内で何でも行う方だったんだ。だから、なるべく古代人の力を使いたがらなかった。使っても、理解できるもの以外、手を出そうとしなかった」
「でも、使ってしまったんですね」
「ああ、王家や議員からドハ研究所へ結果を求められてね。それに当時は勇者不在。情報操作によりヴァンナスに勇者が存在するかのように見せかけていたが、それも長くはもたない。ヴァンナスは焦っていたんだよ。絶対的な地位を失うことにね……」
ヴァンナスの焦り。
このまま結果を出さずにいると、焦りは理論派への失望へとつながる。
そうなれば、大事なパトロンからの支援が滞りかねない。
父以下、理論派の上位層はそう考え、古代人の装置を利用することにした。
「それは、トーワの遺跡にあったものと同じもの。あの金髪の男性が眠る球体だ。もっともドハのものは水球ではなく、クローンポットという生命の溶液に満たされたガラスの筒だったが……」
カインは降ろした言葉に新たな言葉をつけて呟くように語る。
「それでは、遺跡に眠る男性は古代人そのものではなく、古代人のクローン?」
「その可能性が高い。あちらの方が数段進んだ技術のようなので、はっきりとは言えないが。ともかく、理論派はその装置を使い、勇者を産み出した」
ちらりと、レイへ視線を振る。
彼は一歩前に出て、自身の胸に手を置き言葉を出し、それに私も続く。
「だけど、私たちは欠陥品だった。複製された私たちの肉体には強化のナノマシンと滅びのナノマシンが宿ったままだった。もちろん、滅びのナノマシンが活性化した状態で。このまま私たちをクローンポットから取り出しても、すぐに死んでしまう」
「父であるアステ=ゼ=アーガメイトを中心に、滅びのナノマシンを除去できないか? もしくは滅びのナノマシンを除去した状態で複製できないだろうか? と、その研究が続けられたが成果はなかった」
「そう、アステ様の知をもってしても、ナノマシンは御せなかった。そこであの方は、兄さんを産み出す」
このようにレイが言葉を生むと、皆は一斉に私へ振り向いた。
多くの瞳が注がれる中で、私もまたレイのように覚悟をもって、私自身の正体を明かす。
「アステ=ゼ=アーガメイトはこう考えた。クローンでは無理。ならば、最初から生命を産み出せばよいのではないか?」
この謎かけに、フィナは肌をザワリと粟立たせ、マフィンはもふもふの毛を逆立てた。
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