278 / 359
第二十四章 絶望と失意の花束を
ざ・へっぽこ
しおりを挟む
ノートサイズの黒いガラス片にフィナたちの数値が映し出される。
魔族の平均値――3000・フィナ――41327
ギウ――97999?・レイ――575505
並ぶ四つの名前と四つの数値。
私たちは桁外れの数値を前に感嘆の息を漏らした。
グーフィスはレイの数値を見て、目をごしごし擦っている。
「フィナさんも凄いですが、一人、とんでもない数値があるんですが……」
「レイでしょ。まさに桁外れ。勇者を名乗るだけあるわ」
「それでもフィナさんは魔族よりも遥かに強いんですね」
「魔族の場合はあくまでも平均値だからね。調べてる最中、一万を超える連中がごろごろいたよ」
「それは、怖いっすね……」
グーフィスは見かけの図体によらず、自分を抱きしめてぶるぶるとした震えを見せる。
私は彼を横目に、ギウの数字に付いた?マークに着目する。
「フィナ、ギウの『97999?』の『?』マークはなんだ?」
「それがさ、ギウの力を測定しようとしたら、ギウの測定値に揺らぎがあったのよ」
「理由は?」
「その理由はギウが教えてくれた。彼って、力の放出にかなりの振り幅があるんだって。普段はガラス片に映った数字だけど。本気を出せばもっと伸びるってさ」
「その本気は測定させてくれなかったのか?」
「釣りをしている最中に話しかけたから、煙たがれて追い払われた……」
「あはは、彼は釣りになると無心になるからな。しかし、振り幅とは……私たちでも本気の時とそうではない時とでは幅があるだろう? 何か違いが?」
「たしかに、私たちでも気合が入ってない場合と入ってる場合で力の加減が違うけど、たぶんギウはその幅が凄いんだと思う。ちなみにその幅を考慮した場合、四十万くらいはあると思う」
「その根拠となるものは?」
「アイリとレイの存在」
「二人の?」
「まずは……えっとほら、以前アルリナでアイリとギウが会話したことがあったじゃん。私はその時、アイリに見つからないように姿を隠してたからこっそり聞いてたんだけど、アイリがギウに対して『私よりも強い。レイ並の強さくらいはあるかも』って言ってたの覚えてる?」
「ああ、言っていたな」
「で、次に、レイとギウの会話。互いに認め合いながらも、ギウが一歩引いてた感じがあった。レイもまた、勇者の中では一・二を争う強さがあると評したけど、自分を越えているとは言わなかった」
「たしかにそんなを話していたな」
「これらに加えて、私はアイリとやり合ってるからあいつとの実力差を把握してる。これについては少し腹が立つけど……それはさておき、アイリの実力を知る私。そして、アイリより強くレイより下。そこら辺から四十万くらいだろうなぁって」
「なるほど、はっきりした数字ではなく、君の戦士としての勘からということか」
「勘かもしれないけど結構自信あるよ。とまぁ、ギウの話はここまでにして、そろそろオードブルから口直しと行きましょうか」
「スープもなしにいきなり口直しか。で、口直しとはなんだ?」
「それはね、フッフッフッフッフッフ……」
フィナは私の言葉を受け取ると雰囲気を一変させ、不敵な笑い声を漏らし、こう言葉を続けた。
「今から皆さまの強さを測りますが、この中で一番へっぽこな人は誰でしょう……ねぇ~、ケント?」
「き、君は!?」
私はぞわりと鳥肌を立てた。
嫌らしく笑う少女を前にして冷たいものが背中に走る。
彼女は……私をおもちゃにするつもりだ!
「フィ、フィナ。そういうのはやめた方が、いいんじゃないかな?」
「あれあれ~、どうしたんですか、領主様?」
「こういうときだけ領主呼ばわりするんじゃない。君は私を小馬鹿にするためだけに半月も留守にしていたのか!」
「え~、違うよ~。ちゃんと別の目的があるんだって。これはあくまでも口直し。ホントにヤバいメインにつながるね」
「ん?」
「とにかく、今はおもちゃになってなさい。それに、あんた以外のメンバーは興味あるみたいだよ」
と言って、フィナは私の後ろを指差す。
親父は自分の拳を見つめ握り締めている。
「宗教騎士団の団長に勝ちはしたが、ギウのおかげであそこまで届いた。実際の俺はどこまで強くなったんだろうな」
グーフィスは拳を打っている。
「フィナさんにはまだまだ全然届かねぇだろうけど、足を引っ張らねぇ程度には強くならねぇとな。その基準がわかるのはいいっすね」
マスティフとマフィンは目から火花を飛ばし合う。
「ふふ、どうやらワシの方が実力が上とわかる時が来たようだな、マフィン」
「何をほざくニャか。俺との実力差に絶望しにゃいといいけどニャあ~」
四人の様子に私は肩を落とす。
「た、楽しそうだな……」
「ま、あんたがへっぽこなのは承知だから、弱くても落ち込む要素ないでしょ」
「そうであっても数値を突きつけられるのはいい気分じゃないぞ」
「まぁまぁ、とりあえず計測してみましょうよ。大丈夫よ、キサがいる限りドベにはならないから」
「私のライバルはキサかっ」
私は怒りに唾を飛ばすが、それを無視してフィナは計測を始めた。
キサ――27・エクア――254
カイン――232・親父――4780
ゴリン――356・グーフィス――3376
マスティフ――37380・マフィン――37350
皆は思い思い言葉を飛ばし合う。
キサとエクアとカインは……。
「う~ん、やっぱり子どもだから全然だねぇ。でも、エクアお姉ちゃんは大人の男の人よりも強いんだ」
「どうしてでしょうね? 腕力なんて全然ないのに?」
「たぶん、エクア君の場合、癒しの魔力が能力として評価されたんじゃないかな。それに引き換え僕はエクア君よりも二十も下……少しダイエットでもして体を鍛えようかなぁ」
次に親父が言葉を出し、それにフィナが注意を呼び掛ける
「四千? 俺は魔族とやり合えるぐらいに強かったのか? 信じられねぇ。もう、魔族相手にこそこそ逃げ回る必要はないってのか?」
「いえ、魔族の三千という数値は平均値で、五千、一万っていうのが普通にいるから逃げの一手の方が良いと思うよ」
「そうか……ま、魔族相手に名を広めるつもりなんてないからいいか。少なくとも、あのクソッたれな宗教騎士団の団長様よりもはっきり上ってので満足だぜ」
ゴリンとグーフィスは……。
「う~ん、普通の奴よりかぁ、強いみてぇでやすけど。半端な感じでやすな。問題は……グーフィス、おめぇ、そんなに強いのか?」
「どうなんだろう? 俺は戦士並みに強いって感じもしないっすけどね」
彼の疑問に私が声を返す。
「最近はフィナに殴られ続けて体が丈夫になってるから、その分が加味されているんじゃないのか?」
「ああ~、なるほど! ということは、これはフィナさんの愛の鞭による賜物! フィナさん、待っててくださいね。まだまだ差は桁違いでも、フィナさんの背中を守れるくらいに丈夫になりますから!!」
「ウザ……」
フィナは小さく本気のトーンで言葉を返す。
一方、マスティフとマフィンは、こちらの賑やかさに一層の賑やかさをつけ足すように言葉をぶつけあっていた。
「あはははは、どうやらワシの方が上のようだなっ、マフィン!」
「たった三十の差でそこまで馬鹿笑いされる謂れはないニャ!」
「三十の差でもワシが上であることは変わらんだろう」
「クッ、にゃんとういう屈辱ニャ。にゃけどニャっ」
「言うな、マフィンっ。それはわかっておる!」
二人は黒いガラス片に浮かぶ、ある数字に目を向ける。
フィナ――41327
「幼い少女よりも我らは弱いのか……」
「悲しい現実にゃのニャ」
そんな二人へフィナがフォローに入る。
「数値は様々なことを考慮した総合値で、あくまでも目安。一対一でやり合っても私が勝てる保証があるわけじゃないから。エクアとフィコンがいい例よ」
「はい。大人の人と喧嘩しても勝てる自信なんてありませんし」
二人の慰めにマスティフとマフィンはますます落ち込む。
「なんか、辛いの……」
「たしかにニャ。それに何を勘案しても、フィナは錬金術師として戦術の幅が広い分、俺らよりも有利っぽいし……」
二人は揃ってがくりと頭を下げる。
だが、そのようなことに構っていられる余裕はない。
なぜならば、まだ私の数値が発表されていないからだっ!
「フィナ、どうして私を最後に残した……」
「フフ、それはもちろん、お楽しみだから……」
「クッ、なんというエグさを極めた性格っ。こうなったら自棄だ! 早く私の数値を出せ!」
「ふふふ、ではでは、領主様の数値をどうぞ~」
ガラス片に私の数値が現れる。
それは――――。
ケント――97
沈黙……そして、ざわつき。
私は急ぎ声を出す。
「待て待て待て待てっ、フィナ、計測ミスでは!?」
「ううん、残念ながら、現実」
「現実という言葉で片づけるなっ。クッ、自分はさほど強くはないと思っていたが、ここまでとは……」
私は片手で顔を覆う。
すると、エクアが残酷も優し気な言葉を掛けてきた。
「ケント様……大丈夫ですっ。私がお守りしますから!」
「待ってくれエクア! それはそれで結構きついぞっ。そ、そうだ! 銀眼、銀眼の力を発動すれば! フィナ、それで計測してくれ」
私は銀眼に意識を集める。
銀眼は白光を纏い、私の四肢に力を伝えた。
「どうだ、フィナ?」
「え~と……え、嘘っ」
「ん、もしかして、すごい数値が出たのか!?」
「えっとね……」
銀眼発動時のケント――472
私は片膝をつき、両手で顔を包んだ。
それをカインとエクアが慰めてくれるが、むしろ傷が広がっているようにも感じる。
私は嗚咽のような言葉を漏らす。
「思い返してみれば、銀眼を発動した状態で698の小柄な戦士相手に苦戦していたな。そうか、これが私の実力か……いや、まだだ! フィナ、暴走時の私の記録はないのか?」
「ないね」
「ああ~、なんということだ。おそらく記録されていれば、百万は超えていただろうなぁ。ああ~、残念だ」
「ケント、それ、虚しくない?」
「うるさい。それで、私をからかえて満足か?」
「ううん、予想以上にひどくて笑えなかった」
「余計に傷つくぞ!」
このように一騒動を終えて、フィナは口直しからメインへと会話を移していった。
魔族の平均値――3000・フィナ――41327
ギウ――97999?・レイ――575505
並ぶ四つの名前と四つの数値。
私たちは桁外れの数値を前に感嘆の息を漏らした。
グーフィスはレイの数値を見て、目をごしごし擦っている。
「フィナさんも凄いですが、一人、とんでもない数値があるんですが……」
「レイでしょ。まさに桁外れ。勇者を名乗るだけあるわ」
「それでもフィナさんは魔族よりも遥かに強いんですね」
「魔族の場合はあくまでも平均値だからね。調べてる最中、一万を超える連中がごろごろいたよ」
「それは、怖いっすね……」
グーフィスは見かけの図体によらず、自分を抱きしめてぶるぶるとした震えを見せる。
私は彼を横目に、ギウの数字に付いた?マークに着目する。
「フィナ、ギウの『97999?』の『?』マークはなんだ?」
「それがさ、ギウの力を測定しようとしたら、ギウの測定値に揺らぎがあったのよ」
「理由は?」
「その理由はギウが教えてくれた。彼って、力の放出にかなりの振り幅があるんだって。普段はガラス片に映った数字だけど。本気を出せばもっと伸びるってさ」
「その本気は測定させてくれなかったのか?」
「釣りをしている最中に話しかけたから、煙たがれて追い払われた……」
「あはは、彼は釣りになると無心になるからな。しかし、振り幅とは……私たちでも本気の時とそうではない時とでは幅があるだろう? 何か違いが?」
「たしかに、私たちでも気合が入ってない場合と入ってる場合で力の加減が違うけど、たぶんギウはその幅が凄いんだと思う。ちなみにその幅を考慮した場合、四十万くらいはあると思う」
「その根拠となるものは?」
「アイリとレイの存在」
「二人の?」
「まずは……えっとほら、以前アルリナでアイリとギウが会話したことがあったじゃん。私はその時、アイリに見つからないように姿を隠してたからこっそり聞いてたんだけど、アイリがギウに対して『私よりも強い。レイ並の強さくらいはあるかも』って言ってたの覚えてる?」
「ああ、言っていたな」
「で、次に、レイとギウの会話。互いに認め合いながらも、ギウが一歩引いてた感じがあった。レイもまた、勇者の中では一・二を争う強さがあると評したけど、自分を越えているとは言わなかった」
「たしかにそんなを話していたな」
「これらに加えて、私はアイリとやり合ってるからあいつとの実力差を把握してる。これについては少し腹が立つけど……それはさておき、アイリの実力を知る私。そして、アイリより強くレイより下。そこら辺から四十万くらいだろうなぁって」
「なるほど、はっきりした数字ではなく、君の戦士としての勘からということか」
「勘かもしれないけど結構自信あるよ。とまぁ、ギウの話はここまでにして、そろそろオードブルから口直しと行きましょうか」
「スープもなしにいきなり口直しか。で、口直しとはなんだ?」
「それはね、フッフッフッフッフッフ……」
フィナは私の言葉を受け取ると雰囲気を一変させ、不敵な笑い声を漏らし、こう言葉を続けた。
「今から皆さまの強さを測りますが、この中で一番へっぽこな人は誰でしょう……ねぇ~、ケント?」
「き、君は!?」
私はぞわりと鳥肌を立てた。
嫌らしく笑う少女を前にして冷たいものが背中に走る。
彼女は……私をおもちゃにするつもりだ!
「フィ、フィナ。そういうのはやめた方が、いいんじゃないかな?」
「あれあれ~、どうしたんですか、領主様?」
「こういうときだけ領主呼ばわりするんじゃない。君は私を小馬鹿にするためだけに半月も留守にしていたのか!」
「え~、違うよ~。ちゃんと別の目的があるんだって。これはあくまでも口直し。ホントにヤバいメインにつながるね」
「ん?」
「とにかく、今はおもちゃになってなさい。それに、あんた以外のメンバーは興味あるみたいだよ」
と言って、フィナは私の後ろを指差す。
親父は自分の拳を見つめ握り締めている。
「宗教騎士団の団長に勝ちはしたが、ギウのおかげであそこまで届いた。実際の俺はどこまで強くなったんだろうな」
グーフィスは拳を打っている。
「フィナさんにはまだまだ全然届かねぇだろうけど、足を引っ張らねぇ程度には強くならねぇとな。その基準がわかるのはいいっすね」
マスティフとマフィンは目から火花を飛ばし合う。
「ふふ、どうやらワシの方が実力が上とわかる時が来たようだな、マフィン」
「何をほざくニャか。俺との実力差に絶望しにゃいといいけどニャあ~」
四人の様子に私は肩を落とす。
「た、楽しそうだな……」
「ま、あんたがへっぽこなのは承知だから、弱くても落ち込む要素ないでしょ」
「そうであっても数値を突きつけられるのはいい気分じゃないぞ」
「まぁまぁ、とりあえず計測してみましょうよ。大丈夫よ、キサがいる限りドベにはならないから」
「私のライバルはキサかっ」
私は怒りに唾を飛ばすが、それを無視してフィナは計測を始めた。
キサ――27・エクア――254
カイン――232・親父――4780
ゴリン――356・グーフィス――3376
マスティフ――37380・マフィン――37350
皆は思い思い言葉を飛ばし合う。
キサとエクアとカインは……。
「う~ん、やっぱり子どもだから全然だねぇ。でも、エクアお姉ちゃんは大人の男の人よりも強いんだ」
「どうしてでしょうね? 腕力なんて全然ないのに?」
「たぶん、エクア君の場合、癒しの魔力が能力として評価されたんじゃないかな。それに引き換え僕はエクア君よりも二十も下……少しダイエットでもして体を鍛えようかなぁ」
次に親父が言葉を出し、それにフィナが注意を呼び掛ける
「四千? 俺は魔族とやり合えるぐらいに強かったのか? 信じられねぇ。もう、魔族相手にこそこそ逃げ回る必要はないってのか?」
「いえ、魔族の三千という数値は平均値で、五千、一万っていうのが普通にいるから逃げの一手の方が良いと思うよ」
「そうか……ま、魔族相手に名を広めるつもりなんてないからいいか。少なくとも、あのクソッたれな宗教騎士団の団長様よりもはっきり上ってので満足だぜ」
ゴリンとグーフィスは……。
「う~ん、普通の奴よりかぁ、強いみてぇでやすけど。半端な感じでやすな。問題は……グーフィス、おめぇ、そんなに強いのか?」
「どうなんだろう? 俺は戦士並みに強いって感じもしないっすけどね」
彼の疑問に私が声を返す。
「最近はフィナに殴られ続けて体が丈夫になってるから、その分が加味されているんじゃないのか?」
「ああ~、なるほど! ということは、これはフィナさんの愛の鞭による賜物! フィナさん、待っててくださいね。まだまだ差は桁違いでも、フィナさんの背中を守れるくらいに丈夫になりますから!!」
「ウザ……」
フィナは小さく本気のトーンで言葉を返す。
一方、マスティフとマフィンは、こちらの賑やかさに一層の賑やかさをつけ足すように言葉をぶつけあっていた。
「あはははは、どうやらワシの方が上のようだなっ、マフィン!」
「たった三十の差でそこまで馬鹿笑いされる謂れはないニャ!」
「三十の差でもワシが上であることは変わらんだろう」
「クッ、にゃんとういう屈辱ニャ。にゃけどニャっ」
「言うな、マフィンっ。それはわかっておる!」
二人は黒いガラス片に浮かぶ、ある数字に目を向ける。
フィナ――41327
「幼い少女よりも我らは弱いのか……」
「悲しい現実にゃのニャ」
そんな二人へフィナがフォローに入る。
「数値は様々なことを考慮した総合値で、あくまでも目安。一対一でやり合っても私が勝てる保証があるわけじゃないから。エクアとフィコンがいい例よ」
「はい。大人の人と喧嘩しても勝てる自信なんてありませんし」
二人の慰めにマスティフとマフィンはますます落ち込む。
「なんか、辛いの……」
「たしかにニャ。それに何を勘案しても、フィナは錬金術師として戦術の幅が広い分、俺らよりも有利っぽいし……」
二人は揃ってがくりと頭を下げる。
だが、そのようなことに構っていられる余裕はない。
なぜならば、まだ私の数値が発表されていないからだっ!
「フィナ、どうして私を最後に残した……」
「フフ、それはもちろん、お楽しみだから……」
「クッ、なんというエグさを極めた性格っ。こうなったら自棄だ! 早く私の数値を出せ!」
「ふふふ、ではでは、領主様の数値をどうぞ~」
ガラス片に私の数値が現れる。
それは――――。
ケント――97
沈黙……そして、ざわつき。
私は急ぎ声を出す。
「待て待て待て待てっ、フィナ、計測ミスでは!?」
「ううん、残念ながら、現実」
「現実という言葉で片づけるなっ。クッ、自分はさほど強くはないと思っていたが、ここまでとは……」
私は片手で顔を覆う。
すると、エクアが残酷も優し気な言葉を掛けてきた。
「ケント様……大丈夫ですっ。私がお守りしますから!」
「待ってくれエクア! それはそれで結構きついぞっ。そ、そうだ! 銀眼、銀眼の力を発動すれば! フィナ、それで計測してくれ」
私は銀眼に意識を集める。
銀眼は白光を纏い、私の四肢に力を伝えた。
「どうだ、フィナ?」
「え~と……え、嘘っ」
「ん、もしかして、すごい数値が出たのか!?」
「えっとね……」
銀眼発動時のケント――472
私は片膝をつき、両手で顔を包んだ。
それをカインとエクアが慰めてくれるが、むしろ傷が広がっているようにも感じる。
私は嗚咽のような言葉を漏らす。
「思い返してみれば、銀眼を発動した状態で698の小柄な戦士相手に苦戦していたな。そうか、これが私の実力か……いや、まだだ! フィナ、暴走時の私の記録はないのか?」
「ないね」
「ああ~、なんということだ。おそらく記録されていれば、百万は超えていただろうなぁ。ああ~、残念だ」
「ケント、それ、虚しくない?」
「うるさい。それで、私をからかえて満足か?」
「ううん、予想以上にひどくて笑えなかった」
「余計に傷つくぞ!」
このように一騒動を終えて、フィナは口直しからメインへと会話を移していった。
0
あなたにおすすめの小説
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる