銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
281 / 359
第二十四章 絶望と失意の花束を

沈黙の男

しおりを挟む
――遺跡のとある一室


「何か、不自由はないか?」
 私は特殊な力を宿したガラス張りの部屋に佇む、細身ながらもしっかりとした筋肉にバスローブのような白服を纏う男へ問い掛ける。
 だが彼は、首を傾けるだけ。
「ああ、こちらの言葉がわからないんだったな」

 
 彼は艶やかな金の髪を揺らし、暗緑色あんりょくしょくと薄茶が混じり合う榛色ヘーゼルの瞳をこちらへ向けて喉を押さえる仕草を見せた。
 そこから彼の意図を読み取る。
「喉が渇いているんだな。わかった。フィナ」

 フィナに呼びかける。
 彼女はモニターを浮かべ操作し、ガラスの向こう側にあるテーブルの上に水の入ったコップを産み出した。
 彼は何の警戒心も抱くことなく、礼のような態度を取って喉を潤していく。

 私はひとまずこの場をマフィンとマスティフに預けることにした。


――幻想のアーガメイトの書斎

 キサ・ゴリン・グーフィスはトーワに戻り、今ここには、エクアとフィナとカインと腰に二本の剣を差した戦士姿の親父がいる。
 私もまた、右腰に銃の入ったホルスターをぶら下げ、左腰には弾丸の入ったポシェットを装備していた。
 
 隙間のない警戒心を纏いつつ私はエクアとフィナ、そして親父とカインに金髪の男の印象について尋ねる。


「彼が水球より目覚め、早三日。言葉は通じぬとも悪印象はない。皆はどうだ?」
「私もケント様と同じです。こちらに対していつも丁寧な振る舞いですから」
「そうね。敵意は全く感じない」

「だがよ、こっちが警戒してんのはわかってるのに不審な態度の一つも見せないって、逆に怪しくないか?」
「親父さんの意見はもっともですが、彼は目覚めて間もない。言葉も通じず、状況も理解できていない。だから、なるべくこちらへ悪印象を与えないように振舞っているのでは?」


 皆の意見を聞き、私は今後の対応に頭を悩ます。
「ふむ、もうしばらく今の部屋に閉じ込めておくしかないか。だが、いつまでそうしておくかだが……はぁ、誤算だったな。まさか、言葉が通じないとは。それに……彼を殺そうとした存在も気になるしな」



――七日前

 私たちは互いに強さを数値化して覗き込む余興を終え、強大な存在を封印する方法がこの施設にあると知った。
 そこでその施設を利用しつつ、水球の男の肉体に拘束用の魔法や呪いを仕込むという万全に万全を期した状態で目覚めさせることにした。

 四日を掛けて目覚めさせる準備をし、私はドハ研究所の経験を基に彼のナノマシンを安定させる。
 そこから、以前フィナが見つけた蘇生のスイッチを押すだけだったのだが、途中で私はそのスイッチがフェイクであることに気づいた。
 ボタンを押そうとしたフィナを止める。


「フィナ、待て。様子がおかしい」
「え?」
「君が押そうとしているスイッチだが、枠が二重になってぶれていないか?」
「二重に……あ、ほんとだ。なんで?」

 彼女はそう言いながら、スイッチの枠端に指を当てて横にずらしていく。
 すると、スイッチの裏に隠れていたもう一つのスイッチが現れた。

 フィナは新たに表れたスイッチの正体を調べるためにモニターを見つめる。
「ふむふむ……あれ、こっちが起動用のスイッチだ。表面にあったスイッチは~~~~えっ、水球を爆破させるもの!?」
「爆破だと? では、もし気づかずにスイッチを押していたら?」
「たぶん、水球の彼は死んでた」
「なぜ、こんな真似を?」


 この問いに親父が答える。
「何者かが金髪の男を殺そうとしたのでは?」
「おそらくそうだろうが、回りくどすぎる。このような真似をしなくても、フェイクのスイッチを産み出せるほどの者であれば他にも殺す方法はあるだろう」

「たしかにそうですな」
「しかも、わざわざ他の誰かに殺させようとしている。フェイクのスイッチを作った者に殺害の意思があるなら、いつ誰が押すかもしれないスイッチに細工する必要がない。フィナ、どう思う?」


 問い掛けられたフィナは、空中に浮かぶ半透明のモニターに顰めた眉をぶつけながら睨みつけている。
「う~ん、妙ね」
「何がだ?」
「このスイッチだけど、めちゃくちゃいい加減なのよ。無理やりシステムと直結して、ホイッて感じでスイッチの上にスイッチを重ねただけ。まるで子どもの悪戯」

「悪戯にしては酷いな。彼を殺そうとしている」
「そうね……なんというか、たどたどしい感じ。システムを扱い慣れてない……いえ、扱いは完璧だけど、怪我でもしてた? でも、手順がいい加減だし……酔ってた?」
「フィナ?」

「核心はないけど印象から、このスイッチを作った人は思考が鈍い状況でたどたどしくシステムを操ってみたい。酔った状態でって感じ」

「酔った状態とは? 怪我を負ったために意識が朦朧として、不可解なシステムを組んだのでは?」
「いえ、それはない。扱いは完璧。むしろ、朦朧としていたらこんな面倒なことはできない。ただ、思考がおかしい。そういった印象を受ける」



 このスイッチを作った者は、水球の彼を殺したかった。
 だが、なぜか直接システムを止めることもせず、回りくどい方法でスイッチを隠し、勘違いした誰かにスイッチを押させ男が死ぬようにした。

「よくわからないな。このスイッチを作った者は何が目的だったんだ?」
「さぁ。やり口はともかく、この男を殺したかった。そこだけはわかる」
「今から目覚めさせようとしている男は奇妙な殺意を向けられる男、というわけか……不気味だな」

「だからといってここでやめるわけにはいかない。謎はこの男が知ってるかもしれないし」
「そうだな。それではフィナ、目覚めさせた後の手順を確認しよう」
「うん、わかった。それじゃあ」



――フィナの説明による、水球の男を目覚めさせる手順


 昏睡状態を維持しつつ、スイッチを押す。
 水球はゆっくりと床に降りて消えてなくなり男だけになる。
 すぐさま錬金術で造られた貴重な転送石を使い、隔離用に準備した全面ガラス張りの部屋へ移動させる。

 隔離用の部屋は、高位の存在を閉じ込められる部屋。
 その部屋では如何なる力も封じることができる。
 さらに、他の場所へアクセスできないようにシステムを孤立させておく。

 これで完全に隔離が可能。
 男が驚異的な力を持っていたとしても安心して目覚めさせることができる。

 部屋に移動後、マフィンさんが束縛の呪いをかけて、私特製の電撃ブレスレットを足に装着しておく。
 呪いは発動すると四肢の動きを奪うもの。
 ブレスレットは雷撃で体の自由を奪うもの。

 最後に覚醒させて、私たちはガラスの外から男を観察する。
 


―――隔離用の全面ガラス張りの部屋へ移動


「ということで、一連の流れの通り、水球の男を移動させました、と」

 すでに男は水球から出て、バスローブのような白服に身を包み、隔離用の部屋の真ん中で横たわっている。

「では、覚醒。みんな準備は良い?」
 私たちは無言でこくりと頷く。
 フィナは皆の頷きを受け取り、モニターに映る覚醒のスイッチを押した。

 男はびくりと跳ねて、ゆっくりと身を起こしていく。
 フィナは彼の能力値を口にする。

「目覚めてから瞬時に能力値が変化。18200前後で安定している」
「その程度なら君やマスティス殿とマフィンで何とかなるな」
「これ以上、変化しないならね」

 そう言って、フィナは金髪の男へ視線を向ける。
 その彼は細身ながらも程よく筋肉のつい肉体をバスローブで隠しつつ、辺りを見回して、私たちの姿を榛色ヘーゼルの瞳に宿した。
 私が皆を代表して彼に話しかける。


「やぁ、おはよう。私はトーワの領主・ケント=ハドリー。水球に眠っていた君を起こしたのだが、君がどのような存在なのかわかるまで、安全のためにこのような措置を取っている。安全が確認されればすぐにでもこのガラス部屋から出すつもりだ」

 と、彼に話しかけるが、彼はきょとんとした様子で反応が鈍い。
 もう一度話しかける。


「あの、ガラス越しでも聞こえているとは思うが……君の名前は?」
 彼はこの問いかけに、口をパクパクと動かして、首を横に振る。
 カインが彼の仕草からあることに気づく。

「もしかして、喋れないのでは?」
「え?」
「さらにこちらの言葉を理解できていないように見えます」

「まさかっ……いや、その可能性はあるか。この施設はスカルペルの言語を翻訳できていない。そのため、こちらの言葉が翻訳されずにいるのだろう。これは困ったぞ」
「ええ、喋ることもできないようですから、意志の疎通はかなり難しいでしょうね」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...