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第二十六章 過を改め正へ帰す
必然と偶然に揺蕩う
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映像の中の百合さんは父へ力を貸し与えた見返りにあるものを市場に流せと言っている。
「こいつを適当な市場で売っ払ってきてくれ」
彼女が手にしたのは――陶器のような金属の箱。中に納められているのは銃。
私は映像に映し出された二度目となる銃を見て声を出す。
「やはり、この銃は百合さんのものだったのか。しかし、市場に売りに出すとは? 一体何をするつもりだ?」
私の疑問など知らぬ百合さんと父は、常人には理解できぬ会話を重ねていく。
「こいつは人を選ぶ箱に銃だ。偶然のベールを纏い必然性を消しながらも、必要な奴の手に絶対に渡る代物」
「ほほ~、面白い。興味深いはずなのだが、好奇心があまり向かない。認識を阻害する何らかの電波のようなものが出ているのか……これは共鳴因子? いや、違う!!」
「フフ、てめぇに最初に渡したのは、」
――――
映像は不意に消えて、幻想のアーガメイトの書斎へと戻った。
私はフィナに声を向ける。
「フィナ、一体?」
「故障じゃない。映像はこれで終わり。なんなの、こんな半端なところで。しかも、あの仏頂面のアステ=ゼ=アーガメイトが鼻水飛ばしてびっくりするなんて」
「鼻水は飛ばしてないだろっ。珍しく取り乱していたが……ん、フィナ?」
フィナは私の声に反応を見せずに、モニターをじっと睨みつけて歯を擦るような声を生む。
「あの親父、私なんかよりもずっと上だっ。くそったれ。だけど、必ず……ケント、銃を見せてもらえる?」
「え、ああ、構わないが」
私はホルスターから銃を抜いて、フィナに手渡す。
彼女はそれを見つめ、首を傾げつつ、眉を顰める。
「不思議ね。こうまで興味深い物なのに、私もあまり気にしてなかった」
「そういえば、六十年後の君がこう言ってた。その銃は人から興味を消し去る機能があるから昔の私はあまり興味を持たないってな」
「六十年後の私は銃の機能に気づいたわけか。よっしゃ、その十分の一の時間で私を超えて、アステ=ゼ=アーガメイトを超えてやんよっと。え~っと、その前に銃に興味がいっている間にこれを調べてっと……」
フィナはモニターを浮かべ、そこへ銃を投げ入れる。
すると、モニターは銃を解析して、答えを表示した。
「ステルス認識阻害――特定の存在以外に対して、興味を無くさせる機能。導かれる鎖? これについては施設にも機能の説明がない」
「それは?」
「たぶん、百合がギウ時代に生み出した技術だと思う。これは憶測だけどいい?」
「構わん、説明してくれ」
――フィナの憶測
この銃は特定の存在以外にとって興味を抱かせないもの。だけど、捨てるという気も起きない。壊すという気も起きない。一定の場所に留まり、その時の持ち主がふとした瞬間に手放すを繰り返す代物。
そうやって、世界をぐるぐる回り、やがて持つべき主の下へ帰る。
こんな面倒な手段を取ったのはバルドゥルの目を誤魔化すため。
少し前の映像で古代人は素粒子レベルで先を予測できる。千年先を見通せると豪語していた。
そしてその視線は、意味あるものを見通せる――つまり必然。
その必然を隠すために偶然のベールに銃を包み込んだ。
あんたの親父に預けっぱなしにしなかったのは、バルドゥルを倒すためにあんたの親父が銃の主に切り札を渡すという必然性を呼び起こさせないため。
そのようなことをしなくても、偶然の流れに乗り、これは主だけが興味を持ち、手に渡る。
そして、その主がケント。あんたってわけ。
「私? 何故だ?」
「あんたは対バルドゥル戦における切り札の一つだったんだと思う」
「え?」
「勇者たちの存在もそう。あんたたちはみんな、対魔族、さらにはその王。魔王になろうとしていたバルドゥルを打ち破るために生み出された」
「なるほどな。周辺国に力を誇示する意味合いもあったが、大元はバルドゥル。ヴァンナスはあいつの存在を知っていて、目覚めの時に対抗しようとしていたのか」
「たぶんね。百合の話からだと、あんたの親父が下手につつくともっとやばい状況になるから、あんたの親父は動かず待ってた。あんたという切り札が育つことをね」
「私が、切り札ねぇ。ピンと来ないが……」
「あんたっていうか、銀眼」
「これか……」
私は二本の指で目頭をそっと押さえて、銀眼を指し示す。
「この銀眼が、百合さんが父さんへ貸し与えた力……だからか、父さんががっかりするはずだ」
「ん、どういうこと?」
「私が目覚めたあと、私には大した力がないと知って落胆していたからな。本来ならば銃など頼らずに、切り札を名乗れるくらいの存在になる予定だったのかもしれない」
「失敗したってこと? う~ん、違和感」
「何がだ?」
「百合やあんたの親父が失敗するとは思えない。あんたが弱いのはどっちかの意思。そして、その意思は百合の方」
「理由は?」
「……わかんない」
「そうか」
ケントは落胆をありありと見せる。
その姿にフィナは申し訳なさそうな表情を見せて、理由を心の中だけで広げた。
(百合はあんたの強化に成功しても勝てないと踏んでいた。だからあえて、へっぽこのへなちょこに……だとすると、ひっどい賭け)
彼女はケントの銃をちらりと見る。
(古代人は素粒子レベルで先を読み、必然の繋がりを読め解ける。だから、バルドゥルに気づかれないように必殺の兵器を偶然と必然の間に揺蕩わせた)
ケントへこっそり視線を向ける。
(偶然手に入れた銃により、必然性を消す。必然――つまり、目的を知りケントが銃を手に入れてしまったら、バルドゥルがそれを感知してしまう。ケントのへっぽこぷりと偶然の銃の存在……これはバルドゥルの油断に繋がる。油断が勝利の鍵だったなんて……逆に言えば、それだけか細い勝利の道だったってことか)
フィナはケントの様子を窺う。
謎解きが半端になってしまい漫然とする彼へエクアと親父が話しかけている。
その彼を見ながら、フィナは思う。
(切り札とはいえ、さすがにあんたは対バルドゥル用のためだけに生み出され、しかもわざとへっぽこに作られました~とは言いにくいよね……でも)
フィナの脳裏に、百合が意図的に見せなかった映像の部分が過る。
(実はそうじゃなかったり? 見せなかった部分が気になるなぁ)
「こいつを適当な市場で売っ払ってきてくれ」
彼女が手にしたのは――陶器のような金属の箱。中に納められているのは銃。
私は映像に映し出された二度目となる銃を見て声を出す。
「やはり、この銃は百合さんのものだったのか。しかし、市場に売りに出すとは? 一体何をするつもりだ?」
私の疑問など知らぬ百合さんと父は、常人には理解できぬ会話を重ねていく。
「こいつは人を選ぶ箱に銃だ。偶然のベールを纏い必然性を消しながらも、必要な奴の手に絶対に渡る代物」
「ほほ~、面白い。興味深いはずなのだが、好奇心があまり向かない。認識を阻害する何らかの電波のようなものが出ているのか……これは共鳴因子? いや、違う!!」
「フフ、てめぇに最初に渡したのは、」
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映像は不意に消えて、幻想のアーガメイトの書斎へと戻った。
私はフィナに声を向ける。
「フィナ、一体?」
「故障じゃない。映像はこれで終わり。なんなの、こんな半端なところで。しかも、あの仏頂面のアステ=ゼ=アーガメイトが鼻水飛ばしてびっくりするなんて」
「鼻水は飛ばしてないだろっ。珍しく取り乱していたが……ん、フィナ?」
フィナは私の声に反応を見せずに、モニターをじっと睨みつけて歯を擦るような声を生む。
「あの親父、私なんかよりもずっと上だっ。くそったれ。だけど、必ず……ケント、銃を見せてもらえる?」
「え、ああ、構わないが」
私はホルスターから銃を抜いて、フィナに手渡す。
彼女はそれを見つめ、首を傾げつつ、眉を顰める。
「不思議ね。こうまで興味深い物なのに、私もあまり気にしてなかった」
「そういえば、六十年後の君がこう言ってた。その銃は人から興味を消し去る機能があるから昔の私はあまり興味を持たないってな」
「六十年後の私は銃の機能に気づいたわけか。よっしゃ、その十分の一の時間で私を超えて、アステ=ゼ=アーガメイトを超えてやんよっと。え~っと、その前に銃に興味がいっている間にこれを調べてっと……」
フィナはモニターを浮かべ、そこへ銃を投げ入れる。
すると、モニターは銃を解析して、答えを表示した。
「ステルス認識阻害――特定の存在以外に対して、興味を無くさせる機能。導かれる鎖? これについては施設にも機能の説明がない」
「それは?」
「たぶん、百合がギウ時代に生み出した技術だと思う。これは憶測だけどいい?」
「構わん、説明してくれ」
――フィナの憶測
この銃は特定の存在以外にとって興味を抱かせないもの。だけど、捨てるという気も起きない。壊すという気も起きない。一定の場所に留まり、その時の持ち主がふとした瞬間に手放すを繰り返す代物。
そうやって、世界をぐるぐる回り、やがて持つべき主の下へ帰る。
こんな面倒な手段を取ったのはバルドゥルの目を誤魔化すため。
少し前の映像で古代人は素粒子レベルで先を予測できる。千年先を見通せると豪語していた。
そしてその視線は、意味あるものを見通せる――つまり必然。
その必然を隠すために偶然のベールに銃を包み込んだ。
あんたの親父に預けっぱなしにしなかったのは、バルドゥルを倒すためにあんたの親父が銃の主に切り札を渡すという必然性を呼び起こさせないため。
そのようなことをしなくても、偶然の流れに乗り、これは主だけが興味を持ち、手に渡る。
そして、その主がケント。あんたってわけ。
「私? 何故だ?」
「あんたは対バルドゥル戦における切り札の一つだったんだと思う」
「え?」
「勇者たちの存在もそう。あんたたちはみんな、対魔族、さらにはその王。魔王になろうとしていたバルドゥルを打ち破るために生み出された」
「なるほどな。周辺国に力を誇示する意味合いもあったが、大元はバルドゥル。ヴァンナスはあいつの存在を知っていて、目覚めの時に対抗しようとしていたのか」
「たぶんね。百合の話からだと、あんたの親父が下手につつくともっとやばい状況になるから、あんたの親父は動かず待ってた。あんたという切り札が育つことをね」
「私が、切り札ねぇ。ピンと来ないが……」
「あんたっていうか、銀眼」
「これか……」
私は二本の指で目頭をそっと押さえて、銀眼を指し示す。
「この銀眼が、百合さんが父さんへ貸し与えた力……だからか、父さんががっかりするはずだ」
「ん、どういうこと?」
「私が目覚めたあと、私には大した力がないと知って落胆していたからな。本来ならば銃など頼らずに、切り札を名乗れるくらいの存在になる予定だったのかもしれない」
「失敗したってこと? う~ん、違和感」
「何がだ?」
「百合やあんたの親父が失敗するとは思えない。あんたが弱いのはどっちかの意思。そして、その意思は百合の方」
「理由は?」
「……わかんない」
「そうか」
ケントは落胆をありありと見せる。
その姿にフィナは申し訳なさそうな表情を見せて、理由を心の中だけで広げた。
(百合はあんたの強化に成功しても勝てないと踏んでいた。だからあえて、へっぽこのへなちょこに……だとすると、ひっどい賭け)
彼女はケントの銃をちらりと見る。
(古代人は素粒子レベルで先を読み、必然の繋がりを読め解ける。だから、バルドゥルに気づかれないように必殺の兵器を偶然と必然の間に揺蕩わせた)
ケントへこっそり視線を向ける。
(偶然手に入れた銃により、必然性を消す。必然――つまり、目的を知りケントが銃を手に入れてしまったら、バルドゥルがそれを感知してしまう。ケントのへっぽこぷりと偶然の銃の存在……これはバルドゥルの油断に繋がる。油断が勝利の鍵だったなんて……逆に言えば、それだけか細い勝利の道だったってことか)
フィナはケントの様子を窺う。
謎解きが半端になってしまい漫然とする彼へエクアと親父が話しかけている。
その彼を見ながら、フィナは思う。
(切り札とはいえ、さすがにあんたは対バルドゥル用のためだけに生み出され、しかもわざとへっぽこに作られました~とは言いにくいよね……でも)
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