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第二十八章 救いの風~スカルペルはスカルペルに~
皆が安らぐ場所
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――――???
身体に浮遊感を覚える。
周囲は真っ暗で何も見えない。
ここはどこだろうか?
そもそも私は一体、何者であったのであろうか?
それを心へ問い掛けると、心はこう返す。
――ケント=ハドリー
そうだ、これが私の名前。
父から貰った名前だ。
私は闇に蕩けている唇を動かし、自分の名を口にする。
「私は、ケント=ハドリー」
すると、闇が一気に光に飲み込まれて、私の視界を白に染めた。
「クッ!」
片手で目を閉ざし、ゆっくりと指の隙間を開けていく。
光が目に馴染んだところで、私は自分という存在を確認する。
両手があり、両足がある。
瞳を上に向けて、髪色を確認する――銀髪。
そう、私は銀の髪を持ち……稀有な銀眼を持つ男。
私は私を取り戻し、銀眼を使い周囲を見渡した。
銀の瞳に映るのは、見覚えのある牧歌的な村。
「ここは……テラか」
「当たりよ、ケント」
背後から女性の声。
私は微笑みを浮かべながら後ろを振り返った。
「久しぶりだな、セア」
「ええ、そうね」
私の前には、二十代には見えないとても可愛らしい黒髪の女性が立っていた。
私は彼女に尋ねる。
「一体、何がどうなったんだ? 百合さんのナノマシンを散布したと同時に意識が消えて、気がつけばここに」
「この世界はナノマシンを通じ、情報を収集している世界。あなたという情報が銀眼を通して、ここへやってきたのよ」
「そういうことか……そういえば、ふふ」
「どうしたの?」
「いや、少し下らぬことを思い出したんだ。無機物もまた情報を未来へ残そうとしている。そう、フィナに話したときのことをね。もしかしたらそれは、ナノマシンのことを指していたのかも、と思ってな」
「そうかもね。ナノマシンに意志があるかどうかはわからないけど、情報を収集し、蓄え、残そうとする特性があるから」
「ま、そいつに意思があろうとなかろうと、こうして再び君と会えてよかった」
「うん、私もよ」
「だが、ここに私が来たということは、私は――」
「お兄ちゃん!」
言葉の途中でとても聞き慣れた声が飛び込んできた。
私はすぐに顔を声へ向ける。
「ア、アイリ!? それにレイにみんなもっ!」
そこにはヴァンナスの七人の勇者であるアイリやレイたちがいた。
アイリは私へ向かってふわふわの銀髪を振り乱しつつ突進し、頭突きをかましてくる。
頭突きがボディに突き刺さる寸でのところで、私は彼女の頭を捕まえた。
「お兄ちゃ~ん!」
「っと! 危ないだろうが、アイリ!」
「いた、いたたた。お兄ちゃん、頭を締め付けないで、いろいろ漏れちゃうから」
「まったく、怪我をしたらどうする?」
私は彼女の頭に食い込ませていた指を離し、代わりに優しく頭を撫でる。
するとアイリは、くすぐったそうに声を漏らした。
「へへへ~、頭を撫でてもらった~」
「年上のくせに甘えん坊だな」
「それは言わないでっ」
ぴしゃりと返ってくる言葉。
それにレイが笑い声を差し入れる。
「あははは、二人が揃うと楽し気でいいよ。荒れ地ではまともに会話をする余裕もなかったしね」
「荒れ地……君たちがここに居るということは、やはり……」
「うん、百合さんのナノマシンでね……でも、私たちの体内にあったナノマシンのおかげで、ここに来ることができた。こうやって、再び兄さんに会えることができた」
「ああ、そうだな。怪我の功名、という表現は少しおかしいが、おかげでゆっくり君たちと過ごせる」
「そりゃ、君たちはゆっくりできるだろうけどね!」
聞き覚えはあるが、あまり聞きたくない声が談笑を邪魔してきた。
声の主を瞳で追う。
「ネオ陛下?」
止まった瞳に映ったのは、ヴァンナス国王・ネオ=ベノー=マルレミ。
どういうわけか、彼は薄汚れた衣服を纏い、足元や衣服の端に汚物らしきものをつけていた。
彼の後ろには一人のシエラが立ち、同じく汚れた姿をしている。
「陛下がどうしてここへ? それにその格好は? シエラも」
「シエラも私もナノマシンを宿していたからだよ」
「え!?」
「私が老人でも若者みたいな肉体を持ってたのはそれのおかげだ。知らなかったのか?」
「ええ、全然。錬金術による成果だと聞いていましたが」
「ああ、そういや、私のことは機密事項だったな。私はヴァンナス王家に潜り込んだ地球人の末裔の一族だ。血が薄くなったため滅びのナノマシンの魔の手から逃れられ、不老という恩恵を受けられたってわけさ」
「ここにきて、驚きの事実ですよ! で、その汚らしい格好には何か意味が?」
この問いに陛下は苦虫を嚙み潰したような顔を見せて押し黙るが、代わりにセアが答えてくれた。
「彼は地球人の末裔でありながら、私たちを裏切った。だからその代償を払ってもらっているの」
「代償?」
「ここでは彼に家畜小屋の掃除を担当させることにしたのよ」
「ああ、それで汚物塗れに」
私は鼻をつまみながら陛下へ顔を向ける。
すると彼は頭から湯気を出す。
「わざとらしく鼻をつまむなよ! 嫌味かっ」
「詳しい事情はわかりませんが、同胞を裏切ったのでしょう。そうであるのにこの程度の罰と嫌味で済まされるなら御の字ではないでしょうか?」
「何が御の字だっ。この世界には時間が存在しないんだぞっ。永遠に家畜小屋の掃除! 永遠にな! まったく、情報世界なんだからどうにでも変容できるだろうに!」
陛下はこれでもかと毒を吐く。
それをセアはくすりと笑って、彼にこう伝える。
「あなたがちゃんと反省してくれた暁には、その作業から解放させてあげるわ」
この言葉にシエラが手を上げる。
「はいは~い、私は何にもしてないのに酷い目に遭うの納得いかな~い」
「ふむ、たしかにそうね。よろしい、悪いことせずに大人しくしているなら自由にしていいわ」
「やったねっ。ごめんね~、陛下~。お先~」
「ずるいぞっ! なぁ、セア!」
「な~に?」
「私、もう、すっごい反省してますから! ちょーマジで! だから、今すぐ開放して!」
「……誰か、彼を牛小屋に連れて行って。そこでげっぷの採集でもさせてちょうだい」
「はっ、なんだと? 反省してるって言ったのにっ。ってか、げっぷの採集ってなんだよ? 絶対しなくてもいい作業だろ。おいっ。えっ!?」
愚痴を漏らす陛下の両脇を屈強な男が持ち上げる。
「ちょっと待て。私をどこへ連れて行く気だ? やめろ、離せ! やめろぉぉぉぉぉ!」
陛下は男たちに引き摺られ姿を消した……。
身体に浮遊感を覚える。
周囲は真っ暗で何も見えない。
ここはどこだろうか?
そもそも私は一体、何者であったのであろうか?
それを心へ問い掛けると、心はこう返す。
――ケント=ハドリー
そうだ、これが私の名前。
父から貰った名前だ。
私は闇に蕩けている唇を動かし、自分の名を口にする。
「私は、ケント=ハドリー」
すると、闇が一気に光に飲み込まれて、私の視界を白に染めた。
「クッ!」
片手で目を閉ざし、ゆっくりと指の隙間を開けていく。
光が目に馴染んだところで、私は自分という存在を確認する。
両手があり、両足がある。
瞳を上に向けて、髪色を確認する――銀髪。
そう、私は銀の髪を持ち……稀有な銀眼を持つ男。
私は私を取り戻し、銀眼を使い周囲を見渡した。
銀の瞳に映るのは、見覚えのある牧歌的な村。
「ここは……テラか」
「当たりよ、ケント」
背後から女性の声。
私は微笑みを浮かべながら後ろを振り返った。
「久しぶりだな、セア」
「ええ、そうね」
私の前には、二十代には見えないとても可愛らしい黒髪の女性が立っていた。
私は彼女に尋ねる。
「一体、何がどうなったんだ? 百合さんのナノマシンを散布したと同時に意識が消えて、気がつけばここに」
「この世界はナノマシンを通じ、情報を収集している世界。あなたという情報が銀眼を通して、ここへやってきたのよ」
「そういうことか……そういえば、ふふ」
「どうしたの?」
「いや、少し下らぬことを思い出したんだ。無機物もまた情報を未来へ残そうとしている。そう、フィナに話したときのことをね。もしかしたらそれは、ナノマシンのことを指していたのかも、と思ってな」
「そうかもね。ナノマシンに意志があるかどうかはわからないけど、情報を収集し、蓄え、残そうとする特性があるから」
「ま、そいつに意思があろうとなかろうと、こうして再び君と会えてよかった」
「うん、私もよ」
「だが、ここに私が来たということは、私は――」
「お兄ちゃん!」
言葉の途中でとても聞き慣れた声が飛び込んできた。
私はすぐに顔を声へ向ける。
「ア、アイリ!? それにレイにみんなもっ!」
そこにはヴァンナスの七人の勇者であるアイリやレイたちがいた。
アイリは私へ向かってふわふわの銀髪を振り乱しつつ突進し、頭突きをかましてくる。
頭突きがボディに突き刺さる寸でのところで、私は彼女の頭を捕まえた。
「お兄ちゃ~ん!」
「っと! 危ないだろうが、アイリ!」
「いた、いたたた。お兄ちゃん、頭を締め付けないで、いろいろ漏れちゃうから」
「まったく、怪我をしたらどうする?」
私は彼女の頭に食い込ませていた指を離し、代わりに優しく頭を撫でる。
するとアイリは、くすぐったそうに声を漏らした。
「へへへ~、頭を撫でてもらった~」
「年上のくせに甘えん坊だな」
「それは言わないでっ」
ぴしゃりと返ってくる言葉。
それにレイが笑い声を差し入れる。
「あははは、二人が揃うと楽し気でいいよ。荒れ地ではまともに会話をする余裕もなかったしね」
「荒れ地……君たちがここに居るということは、やはり……」
「うん、百合さんのナノマシンでね……でも、私たちの体内にあったナノマシンのおかげで、ここに来ることができた。こうやって、再び兄さんに会えることができた」
「ああ、そうだな。怪我の功名、という表現は少しおかしいが、おかげでゆっくり君たちと過ごせる」
「そりゃ、君たちはゆっくりできるだろうけどね!」
聞き覚えはあるが、あまり聞きたくない声が談笑を邪魔してきた。
声の主を瞳で追う。
「ネオ陛下?」
止まった瞳に映ったのは、ヴァンナス国王・ネオ=ベノー=マルレミ。
どういうわけか、彼は薄汚れた衣服を纏い、足元や衣服の端に汚物らしきものをつけていた。
彼の後ろには一人のシエラが立ち、同じく汚れた姿をしている。
「陛下がどうしてここへ? それにその格好は? シエラも」
「シエラも私もナノマシンを宿していたからだよ」
「え!?」
「私が老人でも若者みたいな肉体を持ってたのはそれのおかげだ。知らなかったのか?」
「ええ、全然。錬金術による成果だと聞いていましたが」
「ああ、そういや、私のことは機密事項だったな。私はヴァンナス王家に潜り込んだ地球人の末裔の一族だ。血が薄くなったため滅びのナノマシンの魔の手から逃れられ、不老という恩恵を受けられたってわけさ」
「ここにきて、驚きの事実ですよ! で、その汚らしい格好には何か意味が?」
この問いに陛下は苦虫を嚙み潰したような顔を見せて押し黙るが、代わりにセアが答えてくれた。
「彼は地球人の末裔でありながら、私たちを裏切った。だからその代償を払ってもらっているの」
「代償?」
「ここでは彼に家畜小屋の掃除を担当させることにしたのよ」
「ああ、それで汚物塗れに」
私は鼻をつまみながら陛下へ顔を向ける。
すると彼は頭から湯気を出す。
「わざとらしく鼻をつまむなよ! 嫌味かっ」
「詳しい事情はわかりませんが、同胞を裏切ったのでしょう。そうであるのにこの程度の罰と嫌味で済まされるなら御の字ではないでしょうか?」
「何が御の字だっ。この世界には時間が存在しないんだぞっ。永遠に家畜小屋の掃除! 永遠にな! まったく、情報世界なんだからどうにでも変容できるだろうに!」
陛下はこれでもかと毒を吐く。
それをセアはくすりと笑って、彼にこう伝える。
「あなたがちゃんと反省してくれた暁には、その作業から解放させてあげるわ」
この言葉にシエラが手を上げる。
「はいは~い、私は何にもしてないのに酷い目に遭うの納得いかな~い」
「ふむ、たしかにそうね。よろしい、悪いことせずに大人しくしているなら自由にしていいわ」
「やったねっ。ごめんね~、陛下~。お先~」
「ずるいぞっ! なぁ、セア!」
「な~に?」
「私、もう、すっごい反省してますから! ちょーマジで! だから、今すぐ開放して!」
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「はっ、なんだと? 反省してるって言ったのにっ。ってか、げっぷの採集ってなんだよ? 絶対しなくてもいい作業だろ。おいっ。えっ!?」
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