銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
356 / 359
番外編 最良だったはずの世界

番外編10 冷たき弾丸

しおりを挟む
 少女の声が響く。

――顕在匪砲レゾンレイン――

 すると、戦艦の赤の球体が光を纏い、そこから一条の光が三度瞬く。
 一つはハルステッドに命中し、もう一つは新造艦。
 最後の一つはアグリスのシールド。


 アステはモニターを見つめ、彼には似合わぬ焦りを見せた。

「両艦共にシールドダウン! 武器システム停止! アグリスのシールドもダウンだと!? 同じく武器システムが動いていない! これは!?」


 アステは空を見上げ、突として現れた船を見つめ、言葉を失った。
 いや、彼だけではない。誰もが言葉を失った。

 一人を残して……。

 バルドゥルは言葉に怯え纏い、船の正体を口にする。


「ま、まさか、あれは、連邦のれい艦隊旗艦……アルミラーデルウォン。そしてこの声は……ミシャ評議長?」


――正解です――


 空を巨大なモニターとし、一人の少女が現れた。
 彼女はバルコニーにもまた、立体映像ホログラムとして現れる。

 彼女は腰丈まで届く長い銀髪を持つ十代前半の少女。
 黒の瞳は新緑の虹彩に覆われ、それはとろりと眠そうな瞳をしており、顔は幼くとても愛らしいが、将来、美女としての姿が約束された顔立ち。

 服装は青のボーダーが入った白色のスカートに黒タイツ。上着は青の薄手のベストの上に、紺色の長袖のブレザー。
 そのブレザーの胸元と右肩には、複数のメビウスの輪でかたどられた花の模様があり、首元には黒のリボンタイといったまるで学生服のような装い。


 ケントは彼女の姿に見覚えがあった。
「たしか、君は遺跡の立体映像ホログラムのデータにあった……」<第二十四章 人智を超えし数値>


 少女は瞳をケントへ寄せて、感情の籠らぬ声で淡々と言葉を発する。
「連邦・最高評議会議長ミシャ=ロールズ。そのナンバー9です」
「え?」

 ケントが疑問の声を上げるが、その声をバルドゥルの狂声きょうせいが掻き消した。

「一桁ナンバーだと!? いや、それ以前に、どうして連邦が存在して!?」
「バルドゥル所長。宇宙消失の責を問うため、あなたを連行します。他の者へ命じます。彼を引き渡しなさい。これは命令であり拒否権はありません。拒否すれば、星を消します」


 そう言って、彼女はちらりとケントを見た。
 この小さな動作で彼は知る――。

(もしや、フィナの使いか? ならば、今が好機!!)

 ケントは素早く銃を抜き、バルドゥルへ発砲しようとした――だが、それよりも早く、重々しい別の銃声が響く。

――ドンッ! ドンッ!――

「がはっ!」
「なっ!?」

 悲鳴を上げたのはバルドゥル。驚きの声はケント。
 銃声の出所は――アステ!?


 バルドゥルは口から血を零しながらアステへ問い掛ける。
「な、ぜ……?」
「愚問だな。連邦とは貴様たち地球人と相対し、勝利を収めた存在。そのような存在を敵に回すなどできん。しかしながら、生きてお前を引き渡し、屈辱を与えるは余りにも哀れ。故に、友としておくってやろう」

「ふざけ――」


――ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!――


 アステは無言のまま銃を撃ち続ける。
 身体に風穴を生み続けるバルドゥル。
 彼は幾度も着弾の衝撃に体を跳ねて、やがてはバルコニーの冷たい床に倒れた。

 白いバルコニーに広がる鮮血。
 
 それを目にしたバルドゥルを守っていた騎士がアステに声をぶつけた。
「アステ様!? あなたは!!」
「落ち着け。状況を見極めよ。アレを敵に回して、我々が勝てると思うか?」

 彼はふいっと空に顎を動かす。
 そこにあるのは連邦の巨大戦艦。
 一瞬にして、アグリスの二隻の戦艦と王都のシールドを沈黙させた船。

 アステは自分の傍に立つ騎士へ命じる。
「奴らを拘束して置け。下らぬ考えを起こさぬようにな。もちろん、バルドゥルにくみしようと考えていた他の連中も」
「はっ!」

 騎士たちが仲間である騎士を捕らえ、連行していく、
 ここでケントは、この世界のフィナのある言葉を思い出す。


――アグリス内にはアステ派とバルドゥル派がいるのよ。旗色はアステ派の方がまだまだ優勢だけど、アステが無視できないくらいの勢力ができつつある――


(そうか、父さんはこれを好機ととらえ、バルドゥルを粛清したんだ。バルドゥルを支持する者たちも)


 瞬時にして状況を見極め、冷酷な決断を下した父の姿に、ケントの背筋には冷たいものが走った。
 そのアステはミシャへ向かい、言葉を掛ける。

「守護騎士は去った。このバルコニーに居るのは私と……お前の世界の住人だけだ」
「え?」

 ケントの小さな声。
 それに答えるように、ミシャの姿が揺らぎ、見知った姿へと変わる。

「ふ~ん、あんたにはバレてたってわけか」

 彼女はフィナ。
 ケントの世界のフィナ。
 フィナはアステへ話しかける



「よくわかったね? あのバルドゥルの目さえも誤魔化せてたのに」
「フッ、少々覚えがあってな」
「ん?」
「こちらの話だ」
「そ。ま、いっか。ケント。ごめんね、ちょっと手間取っちゃった」


 小さく舌を出すフィナ。
 ケントは軽い混乱を見せる。
「えっと、つまり……どういうことだ?」
「簡単に言うとね、遺跡の資料から連邦の兵器顕在匪砲レゾンレインっての見つけたの。これがまたすごいのなんのって。だけど、完全再現が難しくて、これだとバルドゥルをビビらせるどころかフェイクってバレちゃう。だから――」


 ここでアステが言葉を奪う。

「連邦の最高評議会議長の振りをして、バルドゥルを一時混乱させたというわけか」
「ぴんぽ~ん、あたり~」
「そして、空に浮かぶ戦艦は精巧な立体映像ホログラムだな。武器は本物のようだが」
「ぴんぽ~ん、またまた大あたり~」

「はぁ、やることも態度も子供じみた真似だな……」
「だからこそ、頭がかっちかちの大人が引っ掛かるってわけじゃん」

 ニヤリと不敵な笑みを見せるフィナ。これにアステは軽く鼻息を飛ばし、ケントへ視線を送る。
「フッ、貴様の世界のフィナは曲者のようだな。ケント」
「ええ、まぁ」

「ちょっと、そこは否定しなさいよ!」
「否定できる材料がなくてな」
「このやろっ」

「そう怒るな。今のは誉め言葉だと思うぞ」
「どこが! で、これからどうすんの?」
「バルドゥルは死んだ。ここで、私たちの役目は終わりだが……」


 ケントはアステへ顔を向ける。
 彼は笑みを見せて、こう言葉を返す。
「フフ、こちらまだまだ戦いの余力が残っている。バルドゥルは無く、戦艦は無かろうとな」
「まだ、戦争を?」
「フッ……しかしだ、これ以上続ければ勝ちを得ても被害は甚大。よって、停戦を求める。停戦の条件はこちらが大幅に譲歩しよう。そう、向こうのフィナに伝えてくれるか、フィナよ」

「おっけ。あとはこっちの世界の問題だしね。それが伝え終えたら、帰ろっか、ケント」
「そうだな。だが、最後に……父さん」


「なんだ?」

「余計な世話だと重々承知ですが、言わせていただきます。どうか、人の心を見てください。私の父にはできた。だから、あなたにもできるはずだ」
「フン、下らん」
「ふ~、やれやれ、こちらの父さんは曲者ようだ」
「ぬっ」


 これにフィナが笑い声を挟み入れる。
「あはは、言われてやんの~」
「はぁ、お前たちの世界は気楽な世界のようだな」

「そうでもないよ~、バルドゥルとやり合って、別の世界のバルドゥルをコテンパンにして、数十万の魔族と戦って、ネオ陛下とジクマじいさんと数十人のシエラと同時に戦って、炎燕エンエンと真っ向勝負したんだから」

「それは……驚きの世界だ」

「同じ研究者として言うけどさ、何もかもを省みない研究なんて世界を狭くするだけよ。もっと余裕をもって道を歩まないと損だって」
「はっ、小娘にここまで好き勝手に言われるとはな……早く帰れ、ここはお前らには不似合いな世界だ」


 彼の言葉に、フィナは両手を軽く上げて肩を竦める。
 それにケントは笑い声を漏らし、アステは眉を顰めた。

「さて、こちらのフィナに報告を上げて、私たちの世界へ帰るとしよう。帰りは――」
「ミーニャに任せるニャ。フィナが空間の干渉波を緩和したおかげで、出入りが簡単ににゃったからニャ。フィナの方は遺跡のエネルギーの使い過ぎで、充填にしばらくかかるニャろ?」
「うん。無理やり起動したからね。じゃ、私はこっちで待ってるから、通信終了」


 フィナの姿が消える。
 同時に、空に浮かんでいた連邦の戦艦も姿を消した。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...