18 / 54
第二章 世界を書き換える力
第18話 王の表の思惑
しおりを挟む
アマネは状況が理解できず、隣で呆れた顔をして立っているイロハに短く疑問を尋ねた。
「ナメクジ化?」
「はぁ~……アルト様はやる気を失うと、あのようにダメダメ魔族になっちゃうんです。せっかく、久しぶりにやる気を見せて、王らしい王になっていたのに。どうしてくれるんですか、アマネ様」
「え、え……私が悪いの?」
イロハは人差し指をピンっと立て、ちょっぴり怒った声を出す。そこからジワリと湧き出る迫力に、アマネは完全に呑まれてしまった。
「いいですか、アマネ様。魔族や人間といった関係を一旦わきに置いて、よく考えてみてください」
「え、う、うん」
「アマネ様は命を救われ、手当を受けて、手厚く保護されたわけですよね。いわば、アルト様は恩人です。そのような方に対して出会うなり、蛆虫はいくらなんでもあんまりでしょう」
「そ、それは……で、でも、相手は魔族! 何か企んでいるのに決まって――――」
「そう思いたいならそれで結構ですが、それを含めてもアルト様の母……プラヤ様の形見のドレスを侮辱するのはさすがに……」
思わずアマネはドレスの表面をサッと撫で、慌てたように身をすくめる。
「このドレスって……あいつの、ママの……そうなの?」
「はい。アマネ様に合う女性服がメイド服ぐらいしかなく、それでは非礼だろうと、アルト様が大切に保管されていた形見のドレスを提供なさったのです」
事情を深く知ったアマネは、バツが悪そうに頬を小さく掻く。
「え、え~っと、そ、それはちょっと悪いことしたかなあ~って思うけど。で、でもさ、魔族がどうして人間の私を厚遇する必要があるの? そんなの不気味で――――」
「アマネ様!」
イロハは声に明確な怒りを乗せた。それにたじろぎ、一歩、足を後ろに下げるアマネ。
「な、なに……?」
「どんな不満や不穏な思いがあろうと、他者を傷つけることを肯定してはいけません!」
「いや、そう、そうだけど……」
「その迷い――アマネ様ご自身も、どこかでわかっているのでは? その迷いにこそ、心を傾けてください。いいですね……」
「は、はい!」
イロハが私のために怒っている。その様子をとろけた瞳で見つめていると、ブルックが厳しい言葉を投げつけてきた。
「魔族と人間の溝の深さは知らぬ陛下にとって、アマネの言葉や態度は衝撃的なものだったのでしょう――ですが! あの程度の誹謗で為政者がやる気を失うとはなんたることか! だらけてないでシャキっとなされい!」
「そ、そうは言うがな、ブルック。ただでさえ書類整理で参っていたところに、これだぞ。年端もいかぬ少女から、ああまで言われるとなぁ」
「大きな事を起こした以上、陛下はこれから先、老若男女問わずに批判の声に晒されるのですぞ!」
「それはそうなんだがなぁ……はぁ、こんな気分で、書類の軍団に立ち向かうとなると」
「陛下!」
「はいはい、やりますよ。やればいいんだろう。私は王だからな!」
愚痴りながらも仕方なしに、無理やりやる気を奮い立たせ、両手で机を押して背筋をピンと張ろうとした。
すると、書類が一枚、さらりと机から滑り落ちて、アマネの足元で止まった。
彼女はそれを拾い上げて、軽く目を通す
「ん? 俸給支払いの書類? なんでこんなものを、王がわざわざ?」
「――――っ!? 少し見ただけで、内容がわかるのか、君には?」
「え? そりゃこの程度。本来の役職は事務方だし……パパが戦場に立つことを許してくれなかったから」
ムスッと何やら不機嫌そうだが、そんなことよりも聞き捨てならないフレーズがあった。
「ほっほ~、君は事務方だったのかぁ」
すぐさまブルックの声が飛んでくる。
「陛下、駄目ですぞ」
「まだ何も言ってはいないではないか!」
「わかりますよ、何を企んでいるのか。いいですか、機密も含まれているのですぞ」
「大した機密などないだろう。それに今知られたところで痛くもかゆくもないものばかりだし」
「そういった規範意識の低さが、後々大きな問題に――」
ここで、私たちのやり取りに疑心を抱いたアマネの声が割り込んでくる。
「ちょっとあんたたち、何を言い合っているの? 企む? やっぱり、私を何かに利用しようとして……」
「それについては……そうだな、もとより、そのつもりは多少あった」
「――っ!? だから、魔族は――」
「だが、君にそれを強制するつもりはない。そう決めている」
「はぁっ?」
「まずはその内容について話す前に、君に尋ねたい。君はルミナのことをどれほど知っている?」
問いかけにアマネは眉を顰め、不承不承の態度を見せるが、答えは素直に返してくる。
「ほとんど知らない。帝国の端にある国で、イロハの話では他種族が共存している国とか。その程度よ」
「それで十分だ。このルミナは人間と敵対していない。そのため、君と敵対する理由もなく、また粗雑に扱う理由もない。よって、賓客としてもてなしている。その上で、君が懸念する企みについてだが……」
「やっぱり、何かあるのね?」
私は彼女の問いに対して、一拍置き、アマネの瞳をまっすぐと見つめ、声音に重みを乗せた。
「このルミナは、帝国と対立するつもりだ」
「――えっ?」
「だが、ルミナ一国では帝国と構えることができない。そのため――――人間の国、カイリ国との同盟を望んでいる」
この言葉に、アマネは目を見開いたまま固まった。
「ナメクジ化?」
「はぁ~……アルト様はやる気を失うと、あのようにダメダメ魔族になっちゃうんです。せっかく、久しぶりにやる気を見せて、王らしい王になっていたのに。どうしてくれるんですか、アマネ様」
「え、え……私が悪いの?」
イロハは人差し指をピンっと立て、ちょっぴり怒った声を出す。そこからジワリと湧き出る迫力に、アマネは完全に呑まれてしまった。
「いいですか、アマネ様。魔族や人間といった関係を一旦わきに置いて、よく考えてみてください」
「え、う、うん」
「アマネ様は命を救われ、手当を受けて、手厚く保護されたわけですよね。いわば、アルト様は恩人です。そのような方に対して出会うなり、蛆虫はいくらなんでもあんまりでしょう」
「そ、それは……で、でも、相手は魔族! 何か企んでいるのに決まって――――」
「そう思いたいならそれで結構ですが、それを含めてもアルト様の母……プラヤ様の形見のドレスを侮辱するのはさすがに……」
思わずアマネはドレスの表面をサッと撫で、慌てたように身をすくめる。
「このドレスって……あいつの、ママの……そうなの?」
「はい。アマネ様に合う女性服がメイド服ぐらいしかなく、それでは非礼だろうと、アルト様が大切に保管されていた形見のドレスを提供なさったのです」
事情を深く知ったアマネは、バツが悪そうに頬を小さく掻く。
「え、え~っと、そ、それはちょっと悪いことしたかなあ~って思うけど。で、でもさ、魔族がどうして人間の私を厚遇する必要があるの? そんなの不気味で――――」
「アマネ様!」
イロハは声に明確な怒りを乗せた。それにたじろぎ、一歩、足を後ろに下げるアマネ。
「な、なに……?」
「どんな不満や不穏な思いがあろうと、他者を傷つけることを肯定してはいけません!」
「いや、そう、そうだけど……」
「その迷い――アマネ様ご自身も、どこかでわかっているのでは? その迷いにこそ、心を傾けてください。いいですね……」
「は、はい!」
イロハが私のために怒っている。その様子をとろけた瞳で見つめていると、ブルックが厳しい言葉を投げつけてきた。
「魔族と人間の溝の深さは知らぬ陛下にとって、アマネの言葉や態度は衝撃的なものだったのでしょう――ですが! あの程度の誹謗で為政者がやる気を失うとはなんたることか! だらけてないでシャキっとなされい!」
「そ、そうは言うがな、ブルック。ただでさえ書類整理で参っていたところに、これだぞ。年端もいかぬ少女から、ああまで言われるとなぁ」
「大きな事を起こした以上、陛下はこれから先、老若男女問わずに批判の声に晒されるのですぞ!」
「それはそうなんだがなぁ……はぁ、こんな気分で、書類の軍団に立ち向かうとなると」
「陛下!」
「はいはい、やりますよ。やればいいんだろう。私は王だからな!」
愚痴りながらも仕方なしに、無理やりやる気を奮い立たせ、両手で机を押して背筋をピンと張ろうとした。
すると、書類が一枚、さらりと机から滑り落ちて、アマネの足元で止まった。
彼女はそれを拾い上げて、軽く目を通す
「ん? 俸給支払いの書類? なんでこんなものを、王がわざわざ?」
「――――っ!? 少し見ただけで、内容がわかるのか、君には?」
「え? そりゃこの程度。本来の役職は事務方だし……パパが戦場に立つことを許してくれなかったから」
ムスッと何やら不機嫌そうだが、そんなことよりも聞き捨てならないフレーズがあった。
「ほっほ~、君は事務方だったのかぁ」
すぐさまブルックの声が飛んでくる。
「陛下、駄目ですぞ」
「まだ何も言ってはいないではないか!」
「わかりますよ、何を企んでいるのか。いいですか、機密も含まれているのですぞ」
「大した機密などないだろう。それに今知られたところで痛くもかゆくもないものばかりだし」
「そういった規範意識の低さが、後々大きな問題に――」
ここで、私たちのやり取りに疑心を抱いたアマネの声が割り込んでくる。
「ちょっとあんたたち、何を言い合っているの? 企む? やっぱり、私を何かに利用しようとして……」
「それについては……そうだな、もとより、そのつもりは多少あった」
「――っ!? だから、魔族は――」
「だが、君にそれを強制するつもりはない。そう決めている」
「はぁっ?」
「まずはその内容について話す前に、君に尋ねたい。君はルミナのことをどれほど知っている?」
問いかけにアマネは眉を顰め、不承不承の態度を見せるが、答えは素直に返してくる。
「ほとんど知らない。帝国の端にある国で、イロハの話では他種族が共存している国とか。その程度よ」
「それで十分だ。このルミナは人間と敵対していない。そのため、君と敵対する理由もなく、また粗雑に扱う理由もない。よって、賓客としてもてなしている。その上で、君が懸念する企みについてだが……」
「やっぱり、何かあるのね?」
私は彼女の問いに対して、一拍置き、アマネの瞳をまっすぐと見つめ、声音に重みを乗せた。
「このルミナは、帝国と対立するつもりだ」
「――えっ?」
「だが、ルミナ一国では帝国と構えることができない。そのため――――人間の国、カイリ国との同盟を望んでいる」
この言葉に、アマネは目を見開いたまま固まった。
1
あなたにおすすめの小説
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。
【完結】魅了の魔法にかけられて全てを失った俺は、最強の魔法剣士になり時を巻き戻す
金峯蓮華
ファンタジー
戦に負け、国が滅び、俺ひとりだけ生き残った。愛する女を失い、俺は死に場所を求め、傭兵となり各地を漂っていた。そんな時、ある男に声をかけられた。
「よぉ、にいちゃん。お前、魅了魔法がかかってるぜ。それも強烈に強いヤツだ。解いてやろうか?」
魅了魔法? なんだそれは?
その男との出会いが俺の人生を変えた。俺は時間をもどし、未来を変える。
R15は死のシーンがあるための保険です。
独自の異世界の物語です。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる