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第二章 世界を書き換える力
第21話 民衆の声――王に対する批判
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中央広場から離れ、ルミナで唯一営業している酒場の前まで来た。
そこではなんと――――アルト批判を行う集団がいたのだ!
「アルト様は間違っている!!」
「そうだそうだ!!」
「間違ってる~!!」
彼らの声を聴いてアマネは立ち止まる。そして、不安げにイロハに尋ねた。
「いいの、アレ? 兵士が民衆の前で、堂々と王の批判をしてるみたいだけど? 普通なら警吏に連行されて、最悪縛り首よ」
「そうですね、普通は駄目ですけど……ある意味普通じゃない人たちの集まりなんで、仕方ないんです」
「普通じゃない? たしかに、兵士が王の批判なんて普通じゃないけど」
「そこではありません。聞いていればわかります」
そう促されてアマネは集団を注視した。
一人の兵士を中心に、複数の兵士と民衆が賛同の声を上げ続ける。
「アルト様は俺たちをなんだと思っているんだ!! 俺たちの命をなんだと思っているんだ!!」
「そうだそうだ、戦争を引き起こしてよ!!」
「まったくだぜ!」
再び、アマネがイロハに尋ねる。
「戦争批判? まぁ、こんな小国で帝国と戦うとなったらね。気持ちはわかるけど、兵士がそれを行っていいものなの? 彼をあとで処罰……」
――しかし、続く言葉でアマネは首を傾げた。
「アルト様は戦争を引き起こした。だからもっと、もっと、もっと! ――――俺たちの命を粗末に扱うべきなんだ!?」
「……へ? ん? んん?」
「俺たち死線へ追い落とせ! 俺たちを臓腑飛び散る戦場へ向かわせろ!!」
「そうだそうだ、敵を殺させろ! 剣を振るわせろ!」
「アルト様は優しすぎるんだ! 俺たちなんて襤褸雑巾のごとく使い捨てるべきなんだ!」
「その通りだ、よく言った! 俺たちを死地へ! 戦争~、バンザ~イ!」
「恋焦がれた帝国との戦いに、死と血の祝福を!!」
「「「祝福を!!」」」
中心に立つ兵士が音頭を取る。
「では皆さん、ていこ~く!!」
「「「KO・RO・SE! KO・RO・SE! KO・RO・SE! さっさとKO・RO・SE!!」
―――ルミナ城
「アレ、なに?」
アマネは執務室を蹴破る勢いで飛び込むなり、城下町を震える指でさしながらこう問いかけてきた。
だから私は、こう返す。
「見てしまったか……アレを」
「へ、変な人たちが、集まって……アレ、おかしいでしょう」
「わかる、わかるとも。わかりますとも。だが、どうしようもできないんだ」
「あんた王様でしょう。アレ、何とかした方がいいって!!」
アレ、という言葉で会話が成立している私たちを見ながら、ブルックとイロハがこそこそ耳打ちし合っている。
「随分と分かり合えておるな」
「案外、相性が良いのかもしれませんね」
二人のことはさておき、私は頭を抱えつつアマネに向き直る。
「アレの存在はともかく……ルミナは様々な種族が共存する、稀有な国家だということは理解してくれただろうか?」
「それについては正直驚いているけど……アレが全部持っていった。本当に何なの、アレ?」
「何と言ったらいいか。本来ルミナは牧歌的な土地柄で、のんびりとした時間が流れる国だったのだがなぁ」
「その欠片もないんだけど……」
「ブルックとイロハ曰く、この斜陽の国を見捨てず残った者たちは血気盛んな者ばかりで、結果としてアレが誕生してしまったそうだ」
「普通、国が傾いたら出ていくのは行動力のある人たちで、残るのはそうでない人やお年寄りじゃないの?」
「そうなんだが、ルミナは違ってな。なぜだろうか……?」
この国では、彼女の言う「普通」が通じなかった。
国を憂い、捨てきれなかった者たちが残り、私の決起を境にその情熱が暴走した――それが、アレだ。
なぜそうなったのか。
正直、私にもうまく理由付けができない。
私が思い悩む中、アマネはさらに疑問を重ねている。
「そもそもとして、どうして他種族との共存なんて成り立つの? 魔族と人間、ドワーフとエルフ、獣人族内の種族争い。相容れない対立が世界中にあるのに、どうしてこの国だけ?」
「私も正確な答えは返せないな。祖父である初代王リヴュレットが、今のルミナを生み出した。リヴュレットは己の理念と理想を、見事、体現したということなんだが……そこへ行きつく過程の資料が、三百年前の帝国との戦火で失われており、わからない部分が多い」
「そうなの? 一体どうやれば、いがみ合う種族をこうまで自然に……」
アマネは常識ではあり得ないと口元を押さえ、真剣な表情を見せている。
このルミナで育った私からすると、彼女がそこまで驚く理由がわからない。
だが、彼女が見せた魔族への憎しみ。疑問……それらを合わせ考えると、ルミナ以外の国は、種族による対立や差別が当然として横行する世界だということは理解できた。
しかし――
「アマネ、こうやって私と君は対話を行えている。戦場という場では叶わないが、こうした落ち着いた場であれば、魔族と人間であっても理解し合えるのではないか?」
「――え!? 言われてみれば、どうしてあんたなんかとこんなに馴れ馴れしく?」
ごく自然に私と会話を行っていた自分に驚き、アマネは目を見開いた。しかし、すぐに開いた目を細めて、町の方へと顔を向ける。
「アレのインパクト強すぎたせい……かも? アレのせいで、なんだかどうでもよくなっちゃった……かも?」
「そ、そうか……」
ルミナの印象を激しく誤解させかねない集団だが、妙なところで役に立つ。
私は自嘲気味に笑いを小さく浮かべ、再びアマネに話しかけようとした。
そこで、イロハの様子が妙なことに気づいた。
彼女はうつむき、小さく何かつぶやいている。
「リヴュレット様は……そのせいで…………私の……規約・契約……剣の奴隷……」
「イロハ?」
「は、はい!? 何か御用ですか、アルト様!!」
「いや、君の様子がおかしかったから。体調がすぐれないのか?」
「い、いえ、そういうわけではありません。お夕飯のことを考えてまして、今日はアマネさんのリクエストに応えて、お肉料理の予定なんですが、どういった料理にしようかと」
「肉か。普段はブルックの意向で魚が多いからな。たまには悪くない」
と言いつつ、ちらりとブルックを見る。
彼はやや不満げな顔を見せているが、客人のリクエストなので何も言わずに沈黙を保つ。
視線をアマネに戻し、話の軸を戻す。
「ともかく、この国が君の思い描いていたような、魔族至上主義国家ではないことは理解してもらえたと思う」
「それは、まぁ。だからと言って、カイリ国との同盟に協力するなんて――あ、でも、協力しないと私は捕虜としてずっとここに?」
「いや、協力するしないに関係なく、君をカイリ国へ届ける予定だ」
「いいの?」
「ま、君を届けたというだけで、人間側に恩が売れるからな」
「そういう計算って、私の前で口に出していいことじゃないでしょう?」
「まぁ、いいじゃないか、細かいことは」
「細かくはないと思うけど? 国家の大事でしょうに……」
「まぁまぁ、そんなことよりも、ここからが本題中の本題だ!」
私はドンっと、執務机を拳で叩いた。
その妙な気合の入りように、アマネは怪訝そうな顔を見せる。
「え、なに? 今のが本題じゃなかったの?」
「フッ、その通りだ」
ブルックは私の小さな笑みに苦虫を嚙み潰したよう顔を見せて、その顔を見たイロハが驚いた声を上げた。
「まさか!? ブルックさん、押し切られちゃったんですか?」
「陛下のこの上ない気合の入りように、このブルック、不覚を取ったわい」
「信じられません、ブルックさんが陛下に後れを取るなんて……一体、どうして?」
「それがのぅ、自分の話を通さなければ、ナメクジ化するぞと脅すものでな」
「……アルト様」
イロハが瞳から光を消して、すっごく冷めた表情で私を見つめてくる。
「そんな目で見るんじゃない」
「いいお年をして、駄々っ子の子どもですか……」
「うるさい、それだけ私は追い詰められているんだ」
「はぁ~、時々お子様になるんだから……」
イロハとブルックの冷たい視線がプスプスと刺さるが、気にしてはいけない。
場の奇妙な空気の意味がわからず、アマネは顔を左右に振ってから軽く両手を上げた。
「あのさ、話が見えないんだけど? 結局、本題って、何?」
ここはまず、探るように声を出す。
「ああ~、それなんだが。君を交渉の道具に使わないとなると、君は何もしないまま、このルミナでぶらぶらと過ごすことになる」
「ぶらぶらって、なんか嫌な言い方……」
ここで再び執務机を叩き、人差し指をビシッとアマネに突きつけた。
「そこでだ! カイリ国へ引き渡すまでの間、ルミナで働いてみないか!?」
「…………は?」
そこではなんと――――アルト批判を行う集団がいたのだ!
「アルト様は間違っている!!」
「そうだそうだ!!」
「間違ってる~!!」
彼らの声を聴いてアマネは立ち止まる。そして、不安げにイロハに尋ねた。
「いいの、アレ? 兵士が民衆の前で、堂々と王の批判をしてるみたいだけど? 普通なら警吏に連行されて、最悪縛り首よ」
「そうですね、普通は駄目ですけど……ある意味普通じゃない人たちの集まりなんで、仕方ないんです」
「普通じゃない? たしかに、兵士が王の批判なんて普通じゃないけど」
「そこではありません。聞いていればわかります」
そう促されてアマネは集団を注視した。
一人の兵士を中心に、複数の兵士と民衆が賛同の声を上げ続ける。
「アルト様は俺たちをなんだと思っているんだ!! 俺たちの命をなんだと思っているんだ!!」
「そうだそうだ、戦争を引き起こしてよ!!」
「まったくだぜ!」
再び、アマネがイロハに尋ねる。
「戦争批判? まぁ、こんな小国で帝国と戦うとなったらね。気持ちはわかるけど、兵士がそれを行っていいものなの? 彼をあとで処罰……」
――しかし、続く言葉でアマネは首を傾げた。
「アルト様は戦争を引き起こした。だからもっと、もっと、もっと! ――――俺たちの命を粗末に扱うべきなんだ!?」
「……へ? ん? んん?」
「俺たち死線へ追い落とせ! 俺たちを臓腑飛び散る戦場へ向かわせろ!!」
「そうだそうだ、敵を殺させろ! 剣を振るわせろ!」
「アルト様は優しすぎるんだ! 俺たちなんて襤褸雑巾のごとく使い捨てるべきなんだ!」
「その通りだ、よく言った! 俺たちを死地へ! 戦争~、バンザ~イ!」
「恋焦がれた帝国との戦いに、死と血の祝福を!!」
「「「祝福を!!」」」
中心に立つ兵士が音頭を取る。
「では皆さん、ていこ~く!!」
「「「KO・RO・SE! KO・RO・SE! KO・RO・SE! さっさとKO・RO・SE!!」
―――ルミナ城
「アレ、なに?」
アマネは執務室を蹴破る勢いで飛び込むなり、城下町を震える指でさしながらこう問いかけてきた。
だから私は、こう返す。
「見てしまったか……アレを」
「へ、変な人たちが、集まって……アレ、おかしいでしょう」
「わかる、わかるとも。わかりますとも。だが、どうしようもできないんだ」
「あんた王様でしょう。アレ、何とかした方がいいって!!」
アレ、という言葉で会話が成立している私たちを見ながら、ブルックとイロハがこそこそ耳打ちし合っている。
「随分と分かり合えておるな」
「案外、相性が良いのかもしれませんね」
二人のことはさておき、私は頭を抱えつつアマネに向き直る。
「アレの存在はともかく……ルミナは様々な種族が共存する、稀有な国家だということは理解してくれただろうか?」
「それについては正直驚いているけど……アレが全部持っていった。本当に何なの、アレ?」
「何と言ったらいいか。本来ルミナは牧歌的な土地柄で、のんびりとした時間が流れる国だったのだがなぁ」
「その欠片もないんだけど……」
「ブルックとイロハ曰く、この斜陽の国を見捨てず残った者たちは血気盛んな者ばかりで、結果としてアレが誕生してしまったそうだ」
「普通、国が傾いたら出ていくのは行動力のある人たちで、残るのはそうでない人やお年寄りじゃないの?」
「そうなんだが、ルミナは違ってな。なぜだろうか……?」
この国では、彼女の言う「普通」が通じなかった。
国を憂い、捨てきれなかった者たちが残り、私の決起を境にその情熱が暴走した――それが、アレだ。
なぜそうなったのか。
正直、私にもうまく理由付けができない。
私が思い悩む中、アマネはさらに疑問を重ねている。
「そもそもとして、どうして他種族との共存なんて成り立つの? 魔族と人間、ドワーフとエルフ、獣人族内の種族争い。相容れない対立が世界中にあるのに、どうしてこの国だけ?」
「私も正確な答えは返せないな。祖父である初代王リヴュレットが、今のルミナを生み出した。リヴュレットは己の理念と理想を、見事、体現したということなんだが……そこへ行きつく過程の資料が、三百年前の帝国との戦火で失われており、わからない部分が多い」
「そうなの? 一体どうやれば、いがみ合う種族をこうまで自然に……」
アマネは常識ではあり得ないと口元を押さえ、真剣な表情を見せている。
このルミナで育った私からすると、彼女がそこまで驚く理由がわからない。
だが、彼女が見せた魔族への憎しみ。疑問……それらを合わせ考えると、ルミナ以外の国は、種族による対立や差別が当然として横行する世界だということは理解できた。
しかし――
「アマネ、こうやって私と君は対話を行えている。戦場という場では叶わないが、こうした落ち着いた場であれば、魔族と人間であっても理解し合えるのではないか?」
「――え!? 言われてみれば、どうしてあんたなんかとこんなに馴れ馴れしく?」
ごく自然に私と会話を行っていた自分に驚き、アマネは目を見開いた。しかし、すぐに開いた目を細めて、町の方へと顔を向ける。
「アレのインパクト強すぎたせい……かも? アレのせいで、なんだかどうでもよくなっちゃった……かも?」
「そ、そうか……」
ルミナの印象を激しく誤解させかねない集団だが、妙なところで役に立つ。
私は自嘲気味に笑いを小さく浮かべ、再びアマネに話しかけようとした。
そこで、イロハの様子が妙なことに気づいた。
彼女はうつむき、小さく何かつぶやいている。
「リヴュレット様は……そのせいで…………私の……規約・契約……剣の奴隷……」
「イロハ?」
「は、はい!? 何か御用ですか、アルト様!!」
「いや、君の様子がおかしかったから。体調がすぐれないのか?」
「い、いえ、そういうわけではありません。お夕飯のことを考えてまして、今日はアマネさんのリクエストに応えて、お肉料理の予定なんですが、どういった料理にしようかと」
「肉か。普段はブルックの意向で魚が多いからな。たまには悪くない」
と言いつつ、ちらりとブルックを見る。
彼はやや不満げな顔を見せているが、客人のリクエストなので何も言わずに沈黙を保つ。
視線をアマネに戻し、話の軸を戻す。
「ともかく、この国が君の思い描いていたような、魔族至上主義国家ではないことは理解してもらえたと思う」
「それは、まぁ。だからと言って、カイリ国との同盟に協力するなんて――あ、でも、協力しないと私は捕虜としてずっとここに?」
「いや、協力するしないに関係なく、君をカイリ国へ届ける予定だ」
「いいの?」
「ま、君を届けたというだけで、人間側に恩が売れるからな」
「そういう計算って、私の前で口に出していいことじゃないでしょう?」
「まぁ、いいじゃないか、細かいことは」
「細かくはないと思うけど? 国家の大事でしょうに……」
「まぁまぁ、そんなことよりも、ここからが本題中の本題だ!」
私はドンっと、執務机を拳で叩いた。
その妙な気合の入りように、アマネは怪訝そうな顔を見せる。
「え、なに? 今のが本題じゃなかったの?」
「フッ、その通りだ」
ブルックは私の小さな笑みに苦虫を嚙み潰したよう顔を見せて、その顔を見たイロハが驚いた声を上げた。
「まさか!? ブルックさん、押し切られちゃったんですか?」
「陛下のこの上ない気合の入りように、このブルック、不覚を取ったわい」
「信じられません、ブルックさんが陛下に後れを取るなんて……一体、どうして?」
「それがのぅ、自分の話を通さなければ、ナメクジ化するぞと脅すものでな」
「……アルト様」
イロハが瞳から光を消して、すっごく冷めた表情で私を見つめてくる。
「そんな目で見るんじゃない」
「いいお年をして、駄々っ子の子どもですか……」
「うるさい、それだけ私は追い詰められているんだ」
「はぁ~、時々お子様になるんだから……」
イロハとブルックの冷たい視線がプスプスと刺さるが、気にしてはいけない。
場の奇妙な空気の意味がわからず、アマネは顔を左右に振ってから軽く両手を上げた。
「あのさ、話が見えないんだけど? 結局、本題って、何?」
ここはまず、探るように声を出す。
「ああ~、それなんだが。君を交渉の道具に使わないとなると、君は何もしないまま、このルミナでぶらぶらと過ごすことになる」
「ぶらぶらって、なんか嫌な言い方……」
ここで再び執務机を叩き、人差し指をビシッとアマネに突きつけた。
「そこでだ! カイリ国へ引き渡すまでの間、ルミナで働いてみないか!?」
「…………は?」
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