滅ぶ予定の魔王国ルミナ、実は全員が将軍級でした ~常識人の魔王アルト、血に飢えた国民に担がれて帝国を返り討ちにする~

雪野湯

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第二章 世界を書き換える力

最終話 運命へ立ち向かい、未来を歩む者たち

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――ルミナ王国


 母国へ戻り、私たちは幼い子どもたちに囲まれ、放置されて久しい古びた教会を見上げていた。

「古いが、手直しすれば十分に使える。どうだろうか……シスターメイ」

 紺色の修道服に身を包む老女。シスターメイが瞳を潤ませて、言葉を震わせる。
「十分すぎます……うう、これでもう、子どもたちを失わずに……済みます」

 私は彼女の涙に微笑みを浮かべ、女王ミカガミとの約定を思い起こす。


――
「孤児たちを引き取りたい……ですか?」
「ええ、あなたが女王となり、もうあの子たちの心配はないでしょうが、政治犯の子どもという不名誉は払拭されていない。たとえあなたが名誉回復の声明を出したとしても、国家反逆の事実は消えず、国民の間にはしこりが残る。それは、あの子たちを不幸にする」

「……そうでしょうね」
「ですので、ルミナが引き取りたい。時が経ち、罪の記憶が薄れ……そう、あの子たちが大人になる頃には、再び故郷であるカイリに戻ることが可能となりましょう。それまでは、私があの子たちの未来を預かろう」


――――
 女王との約定――それは子どもたちの未来を守ること。
 そのために、あのあばら家同然だった孤児院から立派な……まぁ、人手が足りず手入れがおざなりで、とても立派とは言えないが十分孤児院として機能する、この古い教会を新たな学び舎としてシスターメイに託すことにしたのだ。



 一人の女の子が、私に駆け寄ってくる。
「ねぇねぇ、アルト様。お絵描きしてもいいの?」
「うん? ああ、いくらでもするといい。しかし、なぜわざわざ聞くのだ?」
「だって、男の子たちが……」

 女の子がちっちゃな指を教会に向けると、無地の外壁に男の子たちが集まり、クレヨンで盛大に落書きを始めていた。
 それを見たシスターメイが慌てて止めに入る。

「こらっ! あなたたち、落書きは駄目ですよ!!」

 男の子たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。それを追いかけるシスター。
 何気ない日常、騒がしい日常。それをついに、シスターと子どもたちは手に入れることができたのだ。


 そこにブルックの声が響いてきた。
「陛下、ここでしたか!」
「どうした、ブルック?」
「朗報ですぞ。ルミナの変革を知った元住民たちが、続々と国に戻ってきているのです!」
「なんと!? そうか……そうか……そうか……」

 私はどこまでも青く、透き通る空を見つめた。
(父が守っていた、母が愛したあのルミナが――だが、まだまだだ。まだ遠い。私はまだ、父と母の背中にすら届いてない)

 私は手のひらを見つめ、ぐっと握り締めた。
(ルミナを守り、育て、父と母が愛したルミナを――いや、父だけではない! 始祖王リヴュレットが生み出した、この数多の種族が共存できる理想郷を超えて、ルミナを大きく羽ばたかせて見せる!)



―――ルミナ


 アルトは西を見据え、三百万の兵をようする帝国を睨みつけた。
 脅威が去ったわけではない。帝国の吐息一つで吹き消されてしまう小国。
 
 だが――もう一人ではない。

 カイリという巨大な同盟を得て、帝国を交渉のテーブルまで引きずり出せるところまで来た。

(それでは足りぬ。もっと、もっと、先を見据え、歩まねば)

 その行く末に何があるのか?
 ルミナの発展? 帝国との融和? あるいは――。


 いまだ先は暗闇に閉ざされ、何も見えない。
 だが、歩む背中を支える者たちがいる。

 ブルック、イロハ、メール。ルミナの百兵士に国民。シスターメイと子どもたち。
 そして、大使という肩書きで居座るアマネと、仇討ちという名目でルミナに留まるギドラ。

 孤独な王アルトの後ろには彼らがいる。
 しかし、彼らが歩む道は必ずしも、アルトと同じ道とは限らない。


――ブルック

 彼は優し気な笑みと厳しさの宿る琥珀色の瞳に、空を見上げ続ける王を映す。
(まだまだですぞ、陛下。これからが本番。帝国という巨大な力の前に膝を屈せぬよう、ワシがあなたを支え続けます……たまには、千尋の谷に突き落とすこともありますがな)


――メール

 覚悟を宿した黄金の瞳は太陽のような熱い輝きを見せる。
(私はこの旅で知った。守る、アルト様を。あの禁忌の力を封じて、アルト様を解放する。そう、これこそが私が歩むべき道!)

 
――ギドラ

 両手を固く組み締める彼は、殺意を瞳に宿す。
(もはや、私人の恨み憎しみを考えている状況ではない。アルト、道踏み外さば、討つ! ……だが、願わくは、そのような日が訪れぬことを……フフ、望んでしまっている。貴様は仇であるというのにな)


――アマネ

 彼女はアルトの双剣――そして、アルトの姿に恐れを抱く。
(剣の破壊は最優先。でも、それが無理なら、無理なら……やめよう、まだこれを考えるのは早い、早すぎる。それに……)
 
 アマネは広げた自身の両手をじっと見つめる。
(今の私じゃ、全然届かない。もっともっと強くなって、磨き、研ぎ澄まし――そして、勇者として世界を救う! 犠牲は出したくない。でもね、アルト! 必要であれば、あなたの敵に回るわ!!)


――イロハ

 イロハはアマネたちを熱のない瞳で見つめていた。
(破壊を意識していますが、それ以上にアルト様へ危機を与えようとしている節がありますね。ふぅ~、心の機微とはどうにも難しい。危険な存在を前へ出せば、それに対処するかと思いきや、術者を狙いますか。もっとも、剣がある限り、それは不可能なのですが……)

 双剣へ殺意をもって睨みつける。すると、まるで針が刺す痛みが瞳の奥で広がっているかのような感覚を覚えた。
(――クッ! 私ではどうにもできない。剣は己を扱うことのできる術者を守ろうとする。結局はあの剣を破壊しない限り、意味はない。いずれは皆さんもそれに気づき、そこへ終着するでしょう。でも……)


「足りない。もっと手駒を増やさないと。三人では足りない。そう、もっと有用な駒を……アルト様を、お救いするために。それが、私がタイド様とプラヤ様に頼まれた、決して破ることのない――約束」


 皆がそれぞれの想いを胸に、蒼い空を見つめていた。
 そこには何もなく、心が描く模様が浮かぶばかり。


 ルミナの前途は波乱であろう。
 帝国という巨大な敵がいる。
 カイリもまた魔族との同盟により、人間諸国と敵対。戦乱の火種はすぐそこまで迫っている。
 
 
 『世界を書き換える力』を知った者たちは、その不条理に抗おうと必死に立ち向かう。

 それが可能なのか。正解などどこにもない。



 わからない。わからないこそが世界。

 運命とは――運命さだめられた終着点を指す言葉ではない。

 多くが歩み、時には傷つき、讃え合い、艱難辛苦の果てに到達した先を虚飾する言葉に過ぎない。

 
 押しつけられた『じつ』を伴う運命に立ち向かい、『きょ』へと追い返す。
 波乱であり、先が見えない。だからこそ――

 アルトは、静かに独りちた。

「先は見えぬが……それこそが、生きる醍醐味なのかもしれぬな」

 と……。
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