マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

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第一章 追放

狭間に降り立った新種

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(うう、どうなった?)
 頭がぼーっとする。思考が鈍っている。
 周囲を見回すが、辺りは闇が広がるだけの何もない世界。
 自分が目を開けているのか閉じているのかすらわからない。

(明かりが、明かりが欲しい……)

 そう願うと、人魂のように青白い炎が目の前に現れた。
 俺は明かりに吸い寄せられるように、右手を伸ばす。
 そう、手を伸ばしたはず……。

「え、手が……ない……?」

 意識はたしかに、人魂に手を伸ばせと命じた。
 しかし、肘から下はスライムのようにぐにょぐにょとした液体に変わっている。

「え、なに、これ? 手がっ、あ!?」

 意識を人魂から手に移した途端に、人魂は消えてなくなってしまった。
 慌てて、もう一度光を求める。

「ちょっと、明かりっ。明かり、プリーズっ! 困るから、消えたら困るからっ!」

 人魂が浮かんでいたはずの闇の部分を注視しながら、明かりを求める。
 すると、再び人魂が現れた。

「ほっ、なんだかよくわからんが、よかった」

 明かりが戻り安堵したところで、スライム状になってしまった右手に目を向けた。
 ぐにょりと蠢く右手は、人魂の光に照らし出されて怪しく光っている。


「一体、なにがって、あっ?」

 またもや、人魂が消えてしまった。
 驚き、人魂があった場所を見ながら明かりを求めると、人魂はふわりと現れる。
「また、願ったら現れた…………もしかして」

 俺は人魂の隣に、もう一つの人魂が出てくるように願う。
 そうすると、思った通り二つ目の人魂が現れた。
 二つの人魂が仲良く浮かんでいる光景を目にして、なんとなくこの場所のルールがわかってきた。

「たぶん、俺のイメージが反映している、のかな? じゃあ」
  
 人魂の明かりが消えないように意識しつつ、右手を見つめて、腕と手、指先をイメージする。
 すると、スライム状だった肘から下の腕は音もなくスーッと普通の腕に戻っていった。

「やっぱり、イメージが反映するのか。となると、かなり困った事態だぞ」

 イメージさえすれば簡単に反映してくれるのはいいけど、これを持続しようとすると、相当な精神力が必要な気がする。
 ここで、おっさんが言っていた言葉が頭によぎる。


『次元の狭間に捨てられ、やがては消えてなくなる刑だ』


「つまり、いずれは自分をイメージすることに疲れ、闇に溶け込んでしまうってわけかっ。くそ!」

 拳を握り締めて、何もない場所を殴る。
 ゴンっという音が響く……痛い。
 無意識に壁をイメージしたらしいが、何も痛みまでイメージしなくても……。

「はぁ、冗談やってる場合じゃないな。一体、どうすりゃいいんだ?」

 人魂の明かりを頼りに周囲を見渡すが、明かりは一寸先の闇に吸い込まれてしまい、先には何も見えない。

 周囲を観察することを諦め、右手に三度みたび視線を送る。
 とにかく今は、自分をイメージし続けることしかできない。
 じ~っと、右手を見る……しかし、腕をイメージして見ているだけというのは、実につらい。
 何か飽きずにイメージし続ける方法はないだろうか?
 その方法を考えていると、ちょいとばかり遊び心がうずいた。

「イメージすれば、右手以外のものにも変わったりするのかなぁ?」

 右手を見つつ、木の棒をイメージ……樹木の精霊トレントの腕みたいになった。
 右手を見つつ、鮭をイメージ……鮭がびちびちと元気よく跳ねている。

「ほほぉ、結構面白いな。右手だけじゃなくても、イメージすれば全身を変化できたりして? うん、全身? ほっほ~、全身かぁ」

 
 全身をイメージするとなると相当大変な気がするが、こんな面白そうなこと試さずにはいられない。
 そんなわけで、さっそく何かイメージしてみよう。

「何がいいかなぁ? 熊? いや、鮭から離れよう。ここは~、やっぱり……女かな」

 何ゆえに、女なのか?
 別に、俺に女装癖などない。
 しかし、せっかくの機会だし、違う性別に変わるのも面白いのではないかと。
 知的好奇心的な、学術的興味のような…………胸とかセルフで揉み放題だしね。

「よっしっ、イメージするぞ。俺の想像力よ、無辺の広がりを見せろ!」

 イメージするっ。
 今、正直に告白する。俺は童貞だ。
 しかしっ! ネットという知識の海より、女体の神秘は脳漿へとしっかり焼きつけている。
 行くぞっ、乳、尻、太もも!
 
 女体変化三大要素を思い浮かべて、俺は新しく生まれ変わる!

「こい、どりゃあぁ!」

 真っ白な煙が全身を包む。
 おそらく、この煙も俺の変身に対するイメージ。
 煙が晴れたところで、すぐさま全身を見回した。

「おおおぅ、うまくいった!」

 すらりと伸びる足に、真っ白で柔らかそうな太もも。
 お尻はきゅんと跳ね上げ、男だった時には想像できない官能的なくびれ。
 
「いいね、いいねぇ。顔はどんな感じだろ。鏡が欲しいな。鏡よ、出てこい」
 
 前を見て鏡をイメージするが、何故かぼやけた靄のようなものが現れるだけで、肝心の鏡が出てこない。
 何度か鏡をイメージしたが、結局鏡は出てこなかった。

「おっかしいなぁ。イメージ力不足か、ゲームでいうMP不足みたいな。まぁ、仕方がない。姿は諦めて……本題に移ろうか、でゅふふ」

 視線を下に移す。
 そこにあるのは、乙女の柔らかな双丘。
 大きすぎず、小さすぎず、両手でそっと包むと、僅かにはみ出す程度の程よい感じ。
 では、いただきます。

 グイっと両手で胸を掴み、揉む。

「これが、この感触がっ、って、あれ、なんか固い?」

 グニグニと胸を揉みしだくが、ゴムまりのような感触が両手に空しく伝わってくる。

「え、なんでだ……はっ!? そうか、そういうことかっ!」

 俺は知識として女がどんな体をしているか知っている。
 しかし、知識は所詮、知識に過ぎない。
 俺は、生乳なまちちがどんな感触なのかをまったくもって知らない。
 生まれて十四年と十一か月、女性とお付き合いしたことがないもので……。

「くっ、こんな落とし穴が。いや、諦めるのはまだ早い。代用できるイメージを浮かべればいい」
 
 俺が知っている肉体は、男性の肉体のみ。
 そこから、女性の胸の柔らかさに匹敵しそうな部位を探す。

「男で一番柔らかい場所といえば……あの、股からぶら下がっている貯蔵庫か」

 そんなものを胸の代用品としてイメージするのは抵抗があるが、背に腹は変えられない。
 何としても、俺には胸を揉む義務がある。学術的知的な好奇心のためにっ。

 
 スーッと息を吸って、代用品の胸の柔らかさをイメージする。
 
「変わった、はず。揉んでみるか」
 
 右手で胸をつつく。柔らかい。
 左手でそっと胸を包む。ふにょりとした感触。とても柔らかい。

「イケたっぽい?」
 

 両手で胸を揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。揉む。
 

「す、素晴らしい。女はこんな素晴らしいものを胸にぶら下げているんだ。これはもう少し味わわないと、知的好奇心は満たされないな」

 女性特有の柔肌の虜となり、ひたすらに胸を揉みしだく。
「おお~、やわらけぇ……うん、なんだこれ?」
 胸の内部に、何かコリコリとしたものがある。それは左右の胸にあった。

「そんなに固くないけど、形は球体? うん……二つの球体……たま、たま。ひぃ、コレ胸じゃない!?」

 慌てて胸から手を放して、元のゴムまりに戻るように念じた。

「はぁ~、びっくりした~。俺は胸からなんてものぶら下げてるんだよ。とんだクリーチャーを生み出すところだった」

 胸から意識を逸らし、大きくため息を交えながら闇を見つめる。
 今はまだ、馬鹿をやっている余裕はあるが、どこまでそれがもつかわからない。
 闇を睨みつけ、これからのことを考える。
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